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LD・ADHD・高機能自閉症の児童生徒への教育的支援体制の構築
文部科学省 初等中等教育局 特別支援教育課
柘植雅義
 
はじめに
 文部科学省が設置した「特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議」が、平成15年3月に、「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」を取りまとめた。その中で、LD・ADHD・高機能自閉症のある児童生徒への教育的対応は「緊急かつ重要な課題」であると示された。
 
1. 最終報告の提言の概要
・特殊教育から特別支援教育への転換:「障害の程度等に応じ特別の場で指導を行う「特殊教育」から障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて適切な教育的支援を行う「特別支援教育」への転換を図る。」
・特別支援教育とは:「従来の特殊教育の対象の障害だけでなく、LD、ADHD、高機能自閉症を含めて障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けて、その一人一人の教育的ニーズを把握して、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するために、適切な教育や指導を通じて必要な支援を行うものである。」
・基本的な考え:「個別の教育支援計画」「特別支援教育コーディネーター」「広域特別支援連携協議会」
・学校の在り方:「小中学校における特殊学級から学校としての全体的・総合的な支援へ」「盲・聾・養護学校から特別支援学校へ」
・特別支援教育体制を支える専門性の強化:
 
2. 全国実態調査の結果
・目的:LD・ADHD・高機能自閉症等、通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒の実態を明らかにし、今後の施策の在り方や教育の在り方の検討の基礎資料とする。
・方法:小中学校における通常の学級の担任教師による質問紙調査
・結果:知的発達に遅れはないものの学習面や行動面で著しい困難を示すと担任教師が回答した児童生徒の割合は6.3%であることが明らかになった。これは、担任教師による回答に基づくもので、専門家チームによる判断ではなく、医師による診断によるものでもない。
 
3. モデル事業の展開
・趣旨:推進地域内のすべての小中学校における支援体制の構築を目指す
・推進地域の指定:各都道府県が一定規模の地域を指定(全体の10%強の学校が指定)
・支援体制の構築:校内委員会・専門家チーム・巡回相談の整備、特別支援教育コーディネーターの指名と養成研修、その他
・平成16年度の方向:新規に、「「特別支援連携協議会」の設置」「「個別の教育支援計画」策定検討員会の設置」「盲・聾・養護学校におけるセンター的機能」が追加される予定
 
4. モニター調査の結果
・目的:全国の小中学校におけるLD・ADHD・高機能自閉症の児童生徒への特別支援教育の体制整備の実施状況を明らかにする。
・方法:全国47都道府県・13政令指定都市に対する調査
・調査結果:校内委員会の設置状況(57%)、特別コーディネーターの指名状況(19%)、個別の指導計画の作成状況(13%)、巡回相談員の活用状況(34%)、専門家チームの活用状況(12%)、他
 
5. 全国の先進的な取り組み
・都道府県レベル:校内委員会の全校設置に向けて、全校をカバーする専門家チームの設置、特別支援教育コーディネーターの指名と養成、巡回相談のシステムの構築、その他
 
6. ガイドラインの策定と活用
・策定の背景:障害者基本計画の重点施策5か年計画に盛り込まれた(平成15年12月)
・ガイドラインの構造:
第1部:概論(導入編)
第2部:教育行政担当者用
第3部:学校用(学校長用、特別支援教育コーディネーター用、教員用)
第4部:専門家用(巡回相談員用、専門家チーム用)
第5部:保護者・本人用(保護者用、本人用)
・活用:国内すべての公立小中学校で活用
・策定のスケジュール:試案(Ver.1)の活用状況から必要な修正を加えて、平成16年度中に修正版を作成(Ver.2)。
 
おわりに
 「より質の高い特別支援教育をより早く実現するために」
 
文献
 文部科学省(2004)小・中学校におけるLD(学習障害)・ADHD(注意欠陥/多動性障害)・高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)。
 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課(2004)季刊:特別支援教育「特集:特別支援教育コーディネーター」。東洋館出版社。
 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課(2003)特別支援教育推進基礎資料。
 特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議(2003)今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)。
 文部科学省(2003)学習障害(LD)への教育的対応−続・全国モデル事業の実際−。ぎょうせい。
 文部科学省(2002)学習障害(LD)への教育的対応−全国モデル事業の実際−。ぎょうせい。
 学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指導方法に関する調査研究協力者会議(1999)学習障害児に対する指導について(報告)
 
※上記の資料のいくつかについては、文部科学省ホームページ:http://www.mext.go.jp/でもご覧いただけます。(特別支援教育課:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/index.htm)
 
 平成15年3月の「特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議」の「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」においては、小・中学校においてLD、ADHD、高機能自閉症の児童生徒への教育的支援を行うための総合的な体制を早急に確立することが必要と提言されました。
 また、平成14年12月24日に閣議決定された「障害者基本計画」の基本方針においては、「学習障害、注意欠陥/多動性障害、自閉症などについて教育的支援を行うなど教育・療育に特別のニーズのある子どもについて適切に対応する」ことが盛り込まれるとともに、それに基づき決定された「重点施策実施5か年計画」においては、「小・中学校における学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)等の児童生徒への教育支援を行う体制を整備するためのガイドラインを平成16年度までに策定する」ことが示されました。
 文部科学省では、これらを受けて、平成15年度から総合的な支援体制の整備を図るためのモデル事業を実施するとともに、平成15年8月から小・中学校におけるLD、ADHD、高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドラインの作成に着手し検討を重ね、このたび、ガイドライン(試案)としてとりまとめるに至りました。
 各都道府県や各市町村の教育委員会や特殊教育センター等の担当者、各小・中学校の校長・特別支援教育コーディネーター・教員、専門家チームの構成員や巡回相談員、保護者や本人におかれては、これを参考として活用し、総合的な支援体制の整備に努めていただくことを期待します。
 特に、関係各位におかれましては、特別支援教育への意識の転換、学校や地域における連携協力体制の構築、Plan-Do-Seeのプロセスを通じた支援の改善に、できるところから漸進的に取り組んでいただくことをお願いします。
 本ガイドライン(試案)は、今後、全国各地での実践を通して、その有効性や課題等を検証しつつ、更に活用しやすいものとなるよう必要な改善を加えていきたいと考えています。
 作成に当たっては、策定協力者の方々、本人用の資料提供者の方々、厚生労働省障害保健福祉部の関係官及び独立行政法人国立特殊教育総合研究所の研究メンバーの方々から多大な御協力を得ました。御協力くださった各位に対し、心から感謝の意を表します。
 
平成16年1月
文部科学省初等中等教育局特別支援教育課長
上月正博
 
 小・中学校におけるLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)、高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案) (平成15年1月)
 
目次
第1部 概論(導入)
1. ガイドライン策定の趣旨・・・2
2. ガイドラインの構成と使い方・・・3
3. 特別支援教育とは・・・5
4. LD、ADHD、高機能自閉症の定義と判断基準(試案)等・・・8
5. 特別支援教育の体制の整備・・・9
 
第2部 教育行政担当者用(都道府県・市町村教育委員会等)
1. 特別支援連携協議会の設置・・・12
2. 相談支援と情報提供・・・14
3. 研修と調査研究・・・15
4. 特別支援教育体制の整備状況の把握・・・16
 
第3部 学校用(小・中学校)
○校長用
1. 特別支援教育を視野に入れた学校経営・・・18
2. 校内委員会の設置・・・20
3. 特別支援教育コーディネーターの指名と校務分掌への位置付け・・・22
4. 校内の教職員の理解推進と専門性の向上・・・23
5. 保護者との連携の推進・・・24
6. 専門機関との連携の推進・・・25
 
○特別支援教育コーディネーター用
1. 校内の関係者や関係機関との連絡調整・・・26
2. 保護者に対する相談窓口・・・27
3. 担任への支援・・・28
4. 巡回相談や専門家チームとの連携・・・29
5. 校内委員会での推進役・・・30
6. 校内での連絡調整の例(様々な対応のヒントとして)・・・33
 
○教員用
1. 気付きと理解・・・34
2. 個別の指導計画の活用・・・36
3. 支援の実際(学級担任や教科担任としての配慮や支援)・・・38
4. 支援の実際(担任の配慮や支援を支える仕組み)・・・40
5. 保護者との連携・・・41
6. 通級指導教室及び特殊学級の担当者の役割・・・43
 
第4部 専門家用
○巡回相談員用
1. 巡回相談の目的と役割・・・46
2. 学校への支援・・・47
3. 専門家チームとの連携・・・48
 
○専門家チーム用
1. 専門家チームの目的と役割・・・49
2. LD、ADHD、高機能自閉症の判断・・・50
3. 判断と助言のまとめ方・・・51
 
第5部 保護者・本人用
○保護者用
1. 子どもの理解と保護者の心構え・・・54
2. 家庭でできること・・・56
3. 学校との連携・・・58
4. 学校外の支援・・・60
 
○本人用
1. 自分のことを知るために・・・62
2. 学習面や行動面・生活面で気をつけること・・・65
3. サポートを受ける(その1)(お母さんやお父さん、友だちから)・・・68
4. サポートを受ける(その2)(学校の先生、学校以外の専門家から)・・・71
 
参考資料
資料1:LD、ADHD、高機能自閉症の判断基準(試案)、実態把握のための観点(試案)、指導方法・・・76
資料2:「特別支援教育推進体制モデル事業」の概要・・・85
資料3:特別支援教育コーディネーター養成研修について・・・87
〜その役割、資質・技能、及び養成研修の内容例〜
資料4:教育センターにおける研修プログラムの例・・・91
資料5:個別の指導計画の様式例・・・93
資料6:専門家チーム報告書の作成例・・・105
 
策定協力者及び資料提供者名簿
索引
 
 
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*数値は各都道府県の全公立学校に占める推進地域内の学校の割合(%)を示す(指定都市を含む)。
*下線は、上記の割合が10%を超える都道府県を示す。二重下線は、100%の都道府県を示す。
*△は二年次に推進地域を拡大する予定がある都道府県(ただし、学校数は不明)。
*学校数は、本校とは別に分校の数もカウントしている。
*全国の公立学校に占める推進地域内の学校の割合(%)は、小・中学校とも11.2%であった(推進市域内学校数/全国公立学校数=小学校2631/23560:中学校1165/10392)。







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