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4)こんなグループができるといいね
 
 とにかく声を上げて「なかまのグループ」がスタートします。こんなグループだといいなということで、ここではグループを運営する際のポイントをまとめます。
 
1. 自主的な活動であること
 活動の前提として自主的・自発的な活動でありたいですね。強制されていやいや参加するのでは何にもなりません。だからこそ「楽しみ」の活動であることが第1の条件になるのです。より各人が自主的に参加、グループを運営するために、話し合いや投票などによって活動内容をなかまのみんなで計画するという民主的な方法を取り入れることもひとつの方法です。
2. その人にとっての楽しみは?
 メンバー1人ひとりの「その人にとっての楽しみは何か」を大切にしたいものです。個別化と呼びます。個別化と言っても、それぞれがばらばらに活動をするという意味ではなく、1人ひとりの好きなことや得意なことに注目をし、方法について1人ひとりに配慮をしてプログラムをたてるということです。
3. スケジュール
 活動を行うときには視覚的なスケジュールを用意すること。高機能自閉症やアスペルガー症候群の人たちにももちろん視覚優位の人たちがたくさんいます。また、グループ活動の始まりと終わりには、例えば歌を歌う、あるいは決まったあいさつ(あるいはかけ声など)をするというように、毎回決まったことをするようにして楽しいなじみ(ルーティン)の活動になるように工夫をしてみてください。始まりと終わりがより明確になります。
4. レクリエーションだけではなく
 グループの活動内容は、先に書いたように楽しいレクリエーションからスタートすることが多いかもしれません。でも、いつまでも楽しいだけのレクリエーションでは物足りなくなることがあります。もう一度「意義」に立ち返ってください。
 せっかくですから、グループ活動を通じて「ほかの人」を知ったり「自分のこと」について知ったり、自閉症(アスペルガー症候群)という自分自身の障害について理解をしたり、社会的な活動を身につけたり、いろいろな要素を活動に組み入れていくことも徐々に考えられると、一層グループの活動に深みができます。そのために、前にも書いたように専門家の支援・アイデアを入れることをおすすめするのです。
5. 楽しく続ける
 とはいえ何度も書くように「楽しみ」な活動であることがとても大事です。がんばり過ぎないことも。お勉強会や訓練ではないのです。負担になってしまっては何にもなりません。いやになってしまったらしばらく休むことも大切です。それくらいの気持ちでいいのではないですか。
6. 地域の人への社会的な啓発
 できるだけ「なかまのグループ」の活動が、地域や一般社会の中での活動となるように意識したいものです。お店や交通機関、博物館その他、いろいろな場所で自然と触れ合う人たちへの啓発ということも、長い目で見れば大きな意味合いを持ちます。
7. お互いを認め合い、尊重できること
 せっかくの「なかまのグループ」です。お互いを認め合い、尊重できるようなグループを、メンバーのそれぞれ、支援者のすべてが意識することを心がけてください。
 
5)グループで気をつけたいこと
 
 「なかまのグループ」をつくったとき、少なからずトラブルを抱えてしまうのは仕方のないことかもしれません。ただし先にも書いたように「お互いを認め合い、尊重しあう」ことを大事にするということは、何らかのトラブルが起こる可能性を低くしてくれるはずですし、解決の糸口も見つかるはずです。
 ただしグループをつくるときにタブーはあります。基本的なルールとして、以下のことについてはお互いが気をつけておく必要があるでしょう。
 
1. 考えを押し付けない、上下関係や支配関係をつくらない
 人に自分の話を聞いてもらいたいと思っているところに、一方的に話を聞かされたり、説教されたり、考えを押し付けられたりして気持ちのいい人はいません。また、グループの中での上下関係や支配する関係というのも極力排除したいものです。リーダーを決めても、その人はメンバーの中で偉いわけでも上に立つ人でもないはずです。また、専門家などの支援者も、なかまのメンバーより偉いわけでも上の人でもないはずです。全員が上下関係のない公平・平等な関係であること。専門家に対してよく使われる「先生」という呼び方はやめてはどうでしょうか。例えばキャンプではそのために(上下関係をつくらないために)、お互いをニックネームで呼び合うという工夫をよくします。
2. 営利企業や特定の個人との特別な関係に注意する
 金銭的援助をしてくれるような営利企業や個人のスポンサーが現れると、グループにとってはとてもありがたいことです。ただし活動が企業の宣伝に使われたり、利害関係が生じたりするとグループの運営がいびつになりやすくなります。グループの運営でもっとも大事なポイントのひとつ「自主的な活動」に制約がかかることが大いにありえます。
3. 政治、宗教、商売を持ち込まない
 グループはいったい何をするために集まったのかをしっかり持てていればそんなこともないのでしょうが、人が集まっているところに入り込んでくる可能性があるのがこの種の勧誘の類です。人に考えを押し付けるどころか、特定の政党を応援したり、宗教への勧誘をしたり、あるいは何らかの商品の購入を持ちかけたりということは避けるべきです。
 「なかまのグループ」の中に、あるいはグループを通じての政治、宗教、商売(商品の勧誘)という行いや話題はタブーです。
 
6)まずは親の「なかまのグループ」をつくろう
 
 これまで書いてきた「なかまのグループ」は、高機能自閉症やアスペルガー症候群の本人たちのためのグループをイメージしています。ただ実際問題としてグループを立ち上げたいと思っている、あるいはグループをつくることがいいと分かっている多くの彼らの親たちは、そうは言ってもなかなか踏み出せないでいるのが現実でしょう。周囲にそのような資源もなかまも見当たらず、親自身が孤立しているかもしれません。
 親にとっての「なかまのグループ」ももちろん、強い味方になることは間違いありません。同じ体験を持つ人たち同士がグループをつくり、悩みや苦しいことを分かち合うことはピアカウンセリングという当事者同士のカウンセリングの原型でしょうし、さらに自分たちの子どもが参加できる「なかまのグループ」をつくるという活動へと発展することも考えられます。「なかまのグループ」をつくる意義は、すでに書いたようにご本人たちのなかまのグループの意義と共通です。
 いずれにせよ、母親、父親を問わず、まずは声をあげてみてください。「なかまのグループをつくりたい」と。親の「なかまのグループ」をつくる方法も、基本的に大事にしたいことは同じです。おさらいの意味も込めてもう一度簡単に見ておきます。
 
1. 自主的な活動であること
 「言われたから仕方なく」ではなく、自ら自主的・自発的に参加し、活動することが大切です。共通の体験を持つ人たちがなかまとなってグループをつくることは自分たちにとっても子どもたちにとっても大きな力になるはずです。
2. なかまを集めよう
 まずは2〜3人からでも。すでに「なかまのグループ」の始まりです。日本自閉症協会にまだ入会なさっていなければ、なかまを見つけるきっかけになるかもしれません。近隣の療育機関、相談センター、クリニック、あるいはインターネット。いろいろな方法が考えられます。「なかまが欲しい」と声をあげること、動いてみることです。
3. 決まった場所と決まった時間
 場所と日にち、時間を固定します。最初はゆっくりと。しばらくすると、すぐに回数を増やしたくなります。でも、往々にして途中で息切れしてしまい、逆に徐々にメンバーが抜けて行ってしまうということも多いのです。焦らず、ゆっくりと始めるのがいいですね。
4. がんばらない
 同じく、合いことばは、できるだけ「がんばらない」。
5. 楽しく続けよう
 親の「なかまのグループ」だって楽しみながらできたほうがいいに決まっています。親だから楽しんではいけないなんてことはもちろんありません。できるだけ楽しくできたほうが長続きもします。たまには食事会でおいしいものをなどと、本人たちと同じく活動に「食べること」を入れるのもこつですね。
6. なかまを増やす
 楽しい活動ができていれば、多くの人に声をかけることもできます。市の広報や協会の印刷物、ネットなどなど、協力してくれるところや利用できるものはたくさんあります。それらを使えば、さらになかまが増えて大きな力になっていくかもしれません。
 
7)おわりに
 
 これまでに自閉症関連の仕事を数多く手がけてきました。また同様に、自閉症だけではなく、その他の障害や高齢者、子どもたちのための事業、震災の救援、キャンプなどなど、さまざまな事業に携わってきました。例えば、LDの親の会や、ひきこもりの人たちの本人や親の集まり、障害高齢者のレクリエーションを支えるネットワークなど、ここにあげたような「なかまのグループ」の立ち上げや運営のお手伝いをする機会が少なからずありました。さらに、さまざまな子どもたちのためのキャンプはグループ活動を中心に行うもので、グループワークという手法を使ってグループの運営を行い、グループの成り立ち・成長・発展とつぶさに見ることができます。
 今回、それらの経験をもとに、できるだけ分かりやすく「なかまのグループのすすめ」なるものをまとめてみました。
 高機能自閉症やアスペルガー症候群の人たちとその親、かかわる多くの人たちの活動の一助になれば幸いです。







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