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4. 今後の課題
 今回、日本の各所で活躍する臨床家・自閉症研究者によって、自閉症・広汎性発達障害のチェックリスト(仮称;PARS; PDD(Pervasive Development Disorders)ASJ(Autism Society Japan) produced Rating Scale)が作成された。PARSは58項目からなるチェックリストで、幼児期、児童期、思春期(以降)の3つの年齢段階ごとで、3段階評価で臨床家や行政担当者が評定することを想定して作成された。0から2の3段階評定とした。
 作成の第1のステップとして、十分な内容妥当性をもつように、自閉症の専門家が集まり、広汎性発達障害についての項目の選び出しにおいて、精選を重ね、コンセンサスの得られた項目を57項目選び出した。
 第2のステップとして、評定者間信頼性(評定者間一致度)が得られるかどうかを比較的少数例で実施し、十分な値が得られる項目を残した。その結果、十分な信頼性をもった項目群が選ばれた。
 第3のステップとして、大規模調査として、国内の各所で、調査を行い、聴き取り調査によって、大規模サンプルでの実施を行なった。
 その結果、PARSは、内的整合性(Cronbachのα係数)で幼児期0.93、児童期0.91、思春期(以降)0.89いう十分な値を示した。また、広汎性発達障害以外の群(非PDD群)との比較で、項目ごとで問題になる項目はなく、全体としても、有意にPDD群が高い値を示した。試行的にだが、総合計点として、10点を仮のカットオフ得点とすることができると仮定している。現在、さらにより詳細な分析を行なっているが、十分な鑑別を行なうことのできるチェックリストであると評価してよいと思われる。一方で、機能(知的能力)についても比較を行い、幼児期においてのみ知的障害を合併する群で有意差が見られ、知的障害合併群の方が高い値を示した。こうした観点での分析などは、今後さらに詳細にしていくべく研究を続行中である。
 
 今後の課題として、実際に今回作成されたチェックリスト(PARS)が、行政的にも活用可能な高い有用性をもつかどうかをさらに検討していくためには、単に学術的な検討のみならず、実際に一般の臨床家や行政担当者が利用できるかどうか、チェックリストの評定の仕方も含めて、チェックリストの評価のための講習を全国各地で行なう必要性がある。従来の尺度作成の研究が尺度を作るだけで終わり、行政的な活用が難しかったのは、この次のステップを行なうという、非常に重要で、不可欠の段階を踏まなかったからだと言っても過言ではなく。今回の日本財団からの研究助成を本当に有意義なものにしていくために、次の段階では、是非とも実際の講習をしながら、自閉症・広汎性発達障害について正しい理解をもっていただくように取り組んでいきたいと、関係者一同として切に願っている。
 
(1) 候補となった項目
 
幼児期
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