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5 意見の概要
 当研究会では地域伝統芸術等保存事業や、地方公共団体の取組状況、文化による地域再生に関する事例等について、委員による意見交換を行った。主な意見の概要は以下のとおりである。
 
(地域伝統芸術等保存事業について)
○地域でがんばっている伝統芸能団体に、全国的なイベントへの出演をお願いすることは、埋もれていた地域伝統芸能等を再現していくことにもつながり、これも一つの地域活性化であろう。地域伝統芸能まつりはそういった役割を大きく果たしている。東京のNHKホールで上演でき、多くの人々の注目を浴びることは、地方で地道にやっている団体の方々には、大変に励みになる。
 
○地域伝統芸能で一番大切なのは演じている人の気持ち・魂である。そういうものをいかに駆り立てていくかということが必要である。
 
○全国イベントは、都道府県レベルのイベントに出演したものの中から非常に優秀なものを選ぶこととすれば、地方とのつながりももっと出てくるかもしれない。
 
○市町村内には記録すべき民俗行事がまだたくさんあり、それを逐次映像記録していきたいという希望を持っている市町村も多い。
 
○映像記録保存事業のビデオライブラリーもさらに続けていけば、民俗芸能行事の貴重なデータベースができるのではないか。
 
○地域伝統芸能を保存する際、従来はビデオテープによる保存が多いが、これからはDVD化をしていくことも考えてはどうか。DVD化すれば、子供たちに見せる短いものや教育部分、また、伝承のための詳細な資料もすべて一枚に収まり、必要に応じて使い分けが可能になる。また、外部への発信ということを考えるとインターネットを活用することも検討してもよいのではないか。
 
(地方公共団体の取組状況について)
○市町村合併は、ある程度の団体の規模で文化行政も含めたしっかりした行政をやっていくというためは基本的に必要である。ただ、市町村の規模が大きくなると、周辺部に位置するところの地域文化を大事にしていくことができるかどうかという心配がないわけではない。だからこそ地域が一体となって地域伝統芸能等の保存・継承等に取り組んでいく必要がある。
 
○地域づくりについては、成功例を他の地域が共有できるようアピールしていってほしいと思うと同時に、失敗している例がいろいろとあると思うが、他の地域での成功例と失敗例の両方をきちんと見ていき、その次へつなげていってほしい。また、地域伝統芸能の保存・継承も含めた情報を、地域間でネットワーク化していってもおもしろいと思う。
 
○地方公共団体は、自分の地域の伝統文化を基礎にしたまちづくりをしてほしいと思う。
 
(文化を基調とした地域おこし等について)
○学校の授業で伝統文化全般について教えた上で、例えば歌舞伎などの個別の伝統芸能についての講義を行うと、理解の度合いが全然違うと思う。伝統文化全体に対する学校での教育はやはり足りないのではないか。
 
○教育の方法論としては、例えば世界史にしても日本史にしても、我々の実感から非常に遠いところから教え始めることが多い。本当は、もうすこし身近なところから教え始めていって、それが全体にどういうふうに伝わっているかという教え方をしたほうが、本当の意味の歴史としても身につくというところはあるんじゃないかなと。学校教育の在り方が、もうちょっと地域に密着した形であるべきではないかと思う。
 
○文化をテーマにしたサミットは割と多い。例えば猿田彦神社の猿田彦サミットみたいなものをやろうとして、猿田彦ゆかりの神社の宮司さんに来てもらったりとか、例えば熊野だったら、八咫烏サミットが開催されたことがある。熊野神宮で、八咫烏を奉っているいろいろな神社とか、地域の人たちに来てもらって交流を行っている。こういったものはいろいろあって、かなりいい交流を行っている。今後も地域活性化への力になるかなという気はしている。
 
○「おもしろい」、「楽しい」というのは、村おこしのキーワードになると思う。最近の若者を見ても、一緒になって動かそうとしたら、楽しいものでなければ来ない。ただ歩くだけでなく、太鼓を持って行ったり、笛を持って行ったりして、そういうものを打ち鳴らしながら歩いて行くとか。そういう様々な催しに対する楽しさの感覚みたいなものを、どこかできちんとつくり上げないと、なかなか入ってこないし、続かない。そこは、村おこしにしても何にしても、続けていくためのキーポイントだと思う。
 
○地域おこしも企画・運営力が非常に問われてくると思う。成功している地域は、企画力やアイデアをイベントなどにうまく組み立てていくノウハウがあるからだと思う。これは伝統芸能ばかりでなく、地域活性化にも関わってくる。例えば鳥取砂丘でも砂丘保安官というボランティアガイドをつくって、観光客等への案内、解説を行っているなど、いろいろプログラムや仕掛けをつくるプロデューサー的な人がいる。小鹿野町なども、歌舞伎はやらないんだけれども、歌舞伎の衣装とお化粧だけをして、一緒に写真を撮ってくれるような若い人がいたりとか。そのようなことを思いつく人がやっぱりいるのだと思う。
 
○ホールで地域伝統芸能が行われることは、とても良いことだと思う。最初はホールでいろいろな祭りを一堂に集めて実施することにより、興味を持ってもらうことができ、普及にもつながる。その後地元に帰って、上演すると地元でも盛り上がるし、外部の人にも見に来てもらえる。例えば秩父の神社の境内でやった歌舞伎の上演があったが、ホールから発展してまた地元に戻っていくような形がよいのではないかと思う。
 
○地域伝統芸能の保存・継承のためには、情報を発信していく力も必要になる。そういった観点からは、地域の人のたちの身近な生活、たとえば普段は何をしているかなどの庶民の生活と祭の位置づけみたいなものを、もう少しきちっととらえるべきかもしれない。
 
○最近、「YOSAKOIソーラン祭り」など昔からの伝統芸能に現在の新しい感覚を取り入れたものが全国的にはやっており、各地で大きなイベントとして定着しているが、なぜ成功したかを検証する必要がある。
 
○伝統文化を活用した地域おこしについては市町村が中心となっていく必要があると思う。市町村レベルへの取り組みでの支援を検討する必要がある。
 
6 中間報告としての提言
 今年度の調査研究を踏まえ、地域伝統芸能の保存・継承による地域振興について中間報告としての提言をまとめると以下のとおりである。今後さらに、具体的事例の調査研究を進め、地域伝統文化を活用した地域再生のあり方とその手法について検討を深め、地方公共団体への提言をしていく予定である。
 
○ 市町村を中心とした企画・運営力の強化
 
○ 地域伝統芸能の保存・継承における「楽しさ」、「おもしろさ」の重視
 
○ 小中学校における地域伝統芸能の教育の充実
 
○ 伝統芸能を基礎としつつ、現代的な新しい感覚の導入
 
○ 地域住民、民間企業等を巻き込んだ財政基盤の強化
 
○ 地域伝統芸能の地域間ネットワークの拡充







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