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はしがき
 地方分権の進展に応じ、地方団体がより自主的・自立的な行財政運営が行えるよう、国と地方の役割分担の見直しや、市町村合併を含む地方の行政体制整備等の改革が進められつつあるが、なかでも地方税財源の充実確保は、地方分権を支える重要な課題である。
 このような状況で、いわゆる三位一体の改革の一環として、国庫補助負担金の改革、地方交付税の改革と併せ、税源移譲を含む国と地方の税源配分の見直しを進めることとされているが、歳出・歳入面における地方の自己決定権を拡充するためには、国庫補助負担金の廃止等により国の関与を縮減していくとともに、地方の歳入に占める地方税の割合を高めていくことが極めて重要である。
 このような観点に立って、地方分権時代にふさわしい地方税制のあり方について、幅広い観点から検討することを目的として、本研究会を設置することとし、平成15年度においては、諸外国の地方税制についての基礎的研究を行うことを中心に、4回の研究会を開催するとともに、海外調査を実施したところである。
 本報告書は、その成果をとりまとめたものであり、我が国の地方税制を考える上での一助となれば幸いである。
 今回、この調査研究を実施するに当たって、御多忙のところ御協力を賜った関係者の方々に対して、心から感謝申し上げるとともに、本調査研究は、競艇の交付金による日本財団の助成金を受けて実施したものであり、ここに深く謝意を表する次第である。
 
平成16年3月
 
地方分権時代にふさわしい地方税制の在り方に関する研究会
委員長 林 健久
財団法人自治総合センター
理事長 松本英昭
 
地方分権時代にふさわしい地方税制のあり方に関する研究会 委員名簿
〜 諸外国の地方税制との比較を中心に 〜
委員長
林 健久  東京大学名誉教授
委員
青木 宗明 神奈川大学経営学部教授
飯野 靖四 慶應義塾大学経済学部教授
池上 岳彦 立教大学経済学部教授
工藤 裕子 早稲田大学教育学部助教授
半谷 俊彦 和光大学経済学部助教授
星野 泉  明治大学政治経済学部教授
前田 高志 名古屋市立大学経済学部教授
三橋 昇  東京都主税局税制部長
辻 弘昭  横浜市財政局主税部長
板倉 敏和 総務省自治税務局長
小室 裕一 総務省税務担当審議官
岡崎 浩巳 総務省自治税務局企画課長
 
[スウェーデンの地方財政]
慶應義塾大学 飯野 靖四
1. 中央政府と地方政府
1)公的部門の構成
 中央政府と地方政府に分かれ、地方政府は県と市町村と呼称されているが、Landsting(県)は日本の県とは異なり、医療専門の仕事を行っており、スウェーデンの医者の95%はLandstingに所属する医者である。また、Kommun(市町村)は基礎的自治体であり、一般的な仕事を行っている。
 
2)地方団体の歳出と歳入
○Landstingの歳出と歳入(図1)
 歳出はその8割が医療関係(プライマリーケア、専門医療等)への支出であり、その他は教育(医療・看護師教育)、交通・インフラ等への支出である。
 また、歳入は税収が7割で、その他は国庫補助金が交付されている。また、医療費のほとんどが税金でまかなわれているために、診察料収入は歳入の3%のみである。
 
○Kommunの歳出と歳入(図2)
 歳出は児童保育13%、教育32%と老人介護等31%が主な支出であり、その他はインフラ等が7%、余暇・文化が5%等である。
 また、歳入は税収が約7割で、その他は国庫補助金、料金収入等である。
 
○国の歳出と歳入(図3)
 歳出の7割が年金等の移転支出であり、その内訳は、半分が年金・児童手当等への支出、3割がKommun、1割が企業への補助金である(図4)。それに対し、国が自ら消費しているのは、歳出の約20%である(地方は6割〜7割が消費支出)ため、国は、実質的には所得の移転機構になっている。
 また、歳入は税収が約5割で、所得課税(Direkta skatter)と酒税、たばこ税等の物品課税、付加価値税等の間接税(Indirekta skatter)、資産課税がある。その他は社会保険料収入等である。
 
 国、地方、社会保険部門の間で、それぞれ移転支出が行われており、財政が非常に複雑な仕組みとなっている。そのため、公共部門だけの流れでみると、歳入が全体で1兆2,840億Krであり、そのうちの税収(直接税・間接税)が6割、あと社会保険料、利息収入、その他となっている。そのうち、直接税に見合う額が、移転支出として民間部門に流れている。
 
○国と地方の仕事役割分担
 全国的なインフラの整備は国の仕事であり、地方におけるインフラの整備はそれぞれの地方が行っている。例えば、地方の市内の道路の補修や、雪が降ったときの雪除けをやるのは地方の仕事であり、高速道路を作るのは国の仕事である。
 国と地方の仕事分担は相談で決められるが、地方が国にお金をもらって仕事を行おうとすると、いろんな条件を付されるため、国と地方の間で争いとなる。ただ、特定補助金はほぼ医療等に限られ、それ以外の部分は一般補助金であるため、地方自治体は比較的自由に支出ができるようになっている。
 
3)スウェーデンの地方税制
○地方所得税
 LandstingもKommunも直接税である地方所得税のみ課税権を持っている。(以前は法人税もあったが、1985年から税制の簡素化を理由にして国に委譲された。)スウェーデンの所得税は、地方の所得税が主であり、国の所得税は後から地方税を補完する形でできた。スウェーデンはとにかく増税の歴史で、所得税を減税したのは環境税を入れるときにその見返りに下げたというときがあったのみである。
 地方所得税は同一自治体内では単一の税率(30%程度)をとることとされており、ほとんど全ての人に課税される。ただし、自治体に税率設定権があるため、自治体間では税率が異なる。一方、国の所得税は、年金計算の際に用いられる基礎額の何倍か以上の人に限って課税されるため、高所得者しか課税されない。さらに、所得に応じて20%か25%の2つの税率設定がなされている。すなわち、地方の所得税が基礎的な部分になっていて、一定の所得を超えた人にのみ国の所得税が加算されるため、地方税と国税を合わせて初めて累進課税になる仕組みである。
 控除については、日本と異なり種類が非常に少なく、基礎控除、年金積み立て控除、交通費控除の3種類のみである。日本では交通費は非課税であるが、スウェーデンでは交通費という給与費目がないため、交通費分を税金の控除対象としている。また、日本では基礎控除は最低生活費にかけない税金だという認識があるが、スウェーデンの場合は大まかな解釈で、基礎控除は単に税収を調節するだけの控除項目とされており、税収の多寡によって基礎控除を設けたり設けなかったりしている。
※教区税について
 2000年までは教区があり、ルーテル派のキリスト教が国教のために、教区税が徴収されていた。しかし、教会に通わない人が増えてきて、宗派が違うのに、なぜ教区税を取られるのだという議論が出てきたため、ルーテル派の人は教区税を、それから、それ以外の宗派の人は、教会が住民登録を行っていたため、住民登録の事務費ということで教区税を徴収していた。
 しかし、ユーゴが崩壊し、イスラム信者が多数流入してきて、それらの人が教会での住民登録は信教の自由に反するということを言ったため、教会での住民登録をやめ、税務署で住民登録を行い、国民番号をもらうという仕組みとした。
 これにより、教区を今まで地方自治体に加えていたが外してしまったため、地方税としてはKommunとLandstingの2つの税金となり、地方税の平均税率は2001年から少し下がっているが、それは教区税が地方税でなくなっただけのことである。(実際には安くなったわけではなく、埋葬税という形で教区税は相変わらず徴収されている)。
 
※エーデル改革の影響
 2000年ごろにKommunの税率が上がりLandstingの税率が下がっているが、それはエーデル改革の影響である。従来は、老人の医療もLandstingが行っていたが、その老人の医療をKommunに譲ったためその分だけKommunに税源移譲が行われた。
 
○固定資産税が存在しない理由
 スウェーデンにおいては、国税として財産税や家屋税等が課せられているが地方税として固定資産税に類する税は課税されていない。世界中で、地方団体において固定資産税(およびそれに類する税)を徴収しないのは希有な例である。
 過去においては、帰属家賃を所得として算入していたが、帰属家賃を所得に算入すると、対象固定資産のローンの分を控除しなければならず、その結果、住民が用もないのに家を買い、ローン控除を活用した結果、かえって税収が減るという事態となったため、所得への算入を止めた経緯がある。
 また、スウェーデンは土地が安く(日本は家一軒の3分の2が土地代であるのに対して、スウェーデンでは3分の1以下である)、また家屋も非常に安い。さらに、スウェーデン人は土地に対する財産意識が非常に薄<、自然保護の観点から、土地所有に対する規制も多い。そのため固定資産税を徴収しようとしても、よほど税率を高くしないと効果がないため、現在は課税を行っていない。
○賦課徴収の形態
 国税と地方税とで徴収は一元化されており、地方は徴税機構を持っていない。地方は税率決定のみを行い、徴収は国が行う。
 地方税の税率は、財源不足分を考慮して決定されている。ただし、裕福な市町村は平衡化補助金を拠出しなければならないため、それがなければより税率を安くできると考えている。ただし、税率設定権が自由であるといえども、行うべき仕事は決まっているため、実際にはそこまで勝手に税率を設定しているということはない。
 
○国民負担率の高さに対する国民の意識
 実質、税金が高いという意識はいま一つ持っていない。その理由として、今までは社会保険料は全額雇い主負担だったことで、実質所得税だけしか負担してこなかったこと、また、付加価値税が25%だが、内税のため、物価が高いという意識はあるが、税金が高いという意識はいま一つないことがあげられる。
 ただ、税負担が高いため国民に貯蓄をする余裕はあまりない。そのため、いろいろな経済政策が効果的である。特に、手当関係は全部郵便局に振り込まれ、国民に見える形であるため、効果が大きい。
(例:子供生んだら児童手当がふえると言ったら、直ちに出生率に影響が出てくる、等)







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