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平成15年度 新マイクロ波標識の開発に関する調査研究中間報告書

 事業名 新マイクロ波標識の開発に関する調査研究
 団体名 日本航路標識協会  


II 調査研究結果
第1章 新方式レーダーの国内外の技術動向
1.1 レーダーに関する規格等の動向
 
 レーダーや通信機器などの電波機器の普及に伴い、電波干渉の問題が重要になっている。特に、不要電波発射(スプリアス)の規制に対する国際的な関心が高まり、国際連合の専門機関である国際電気連合無線通信部門ITU-Rを中心に電波利用改善のための取組と、その調整が進められた。一方、国内では総務省の電気通信審議会が主体となり、国内法整備の準備段階にある。
 
(1)国際動向
A. 国際電気通信連合:ITU
 
 国際電気通信連合無線部門ITU-Rは、タスクグループTG1/3を設けて、それまで明確にされていなかったスプリアス発射の許容限度に関して検討を進めてきた。その結果、1997年10月ジュネーブで開催された世界無線通信会議WRC-97に於いて無線通信規則RR付録S3号[文献1]として改訂され、スプリアス発射の新たな規制値、及び、その適用時期などが決定された。
 この改訂ではレーダーのスプリアス発射の許容し得る電力レベルは-43-10Log(P) or -60dBとなり、実質-60dBの確保が必要となった。適用の時期については、新たに設置する無線設備については2003年1月1日より、現存の無線設備については2012年1月1日より適用されることになった。また、中心周波数から必要周波数帯幅の±250%離れた周波数までを帯域外発射領域OOBと規定し、それ以上離れた周波数領域波をスプリアス領域と規定した。
 
 しかし、その基準となる必要周波数帯幅や、スプリアス発射の境界である中心周波数から必要帯域幅の±250%の位置の定義については明確にされなかった。このため、ITU-Rに所属する第1研究部会SG1にタスクグループTG1/5を置き、スプリアスと帯域外発射の境界を検討し、また、第8研究部会SG8の作業部会WP8Bにおいて不要発射の測定方法の検討を進めた。
 第1研究委員会SG1のタスクグループTG1/5では、スプリアスと帯域外発射の境界の検討を行った。その中で、無線測位などの1次レーダーの場合は、必要周波数帯幅Bnの250%とする一般的な境界の概念を適用することは困難なこと、更に、その境界はα×2.5 Bnにより定義され、システム修正要素αの値は1〜10、あるいは、それ以上にわたることが示された。
 第8研究委員会SG8の海上移動業務、航空移動業務及び無線評定業務(気象レーダー)に関する研究を行う作業部会WP8Bでは、レーダーのスプリアス発射の測定法を検討し、勧告ITU-R M.1177の改定案を作成した。この改定案は直接法と間接法による測定方法を勧告しているが、測定に膨大な時間を要するなどの問題点が指摘された。
 
 2000年5月にイスタンブールで開催された世界無線会議WRC-2000においては、上記の問題が提起され、継続して審議されることになった。
 
 2000年10月にジュネーブで行われた第7回ITU-R SG1 TG1/5の会合は、最終回であり、関連する国と機関からの寄与文書の審議を行った。この中で、帯域外領域における不要発射については新勧告案ITU-R SM.[OOB]、隣接する分配周波数への帯域外領域の不要発射に関しては新勧告案ITU-R SM.[OAB]、帯域外領域とスプリアス領域の境界の変動に関しては勧告案ITU-R SM.[BOUNDARY]などが作成された。
 タスクグループTG1/5の審議の結果、一次レーダー及び船舶用レーダーの不要放射に関する規制値はスプリアスマスクとして新勧告案ITI-R SM.[OOB][文献2]のANNEX8に明記された。重要な項目を纏めると以下の様になる。
・必要周波数帯幅Bn: 必要な情報を求められる条件で送るのに必要な帯域幅
Bn = 1.79/√(t・tr) 又は 6.36/t の何れか小さい方
ここで、t: 50%パルス幅、tr: パルス立上り時間
・40dB帯域幅B−40:送信バンド幅のピークから-40dB下がった点の帯域幅
B-40 = 7.6/√(t・tr) 又は 64/tの何れか小さい方
(一次レーダーの帯域外制限値は-40dB帯域幅が基本となる)
・帯域外領域OOBマスク:-40dB帯域幅の点から-20dB/decadeで-60dBに達する線
・不要発射の測定法は勧告ITU-R M.1177[文献3]によること
・設計目標:上記OOBマスクの-20dB/decadeを-40dB/decadeに改善することを2006年までの設計目標とする
 
 2003年6月のジュネーブで開催された世界無線会議WRC-03では、境界に関する見直しが行われ、250%の例外事項に関しては勧告ITU-R SM.1539に、帯域外発射マスクに関しては勧告ITU-R SM.1541に纏められた。
 しかし、-40dB帯域幅B−40の算出式は、理想的な矩形波あるいは台形波に基づいて計算された式であり、実際のレーダー波形とは異なるため大きな誤差を持つことが明らかになった。この問題は日本から提起され、国際電気通信連合ITUの中での話題として取上げられ、引続き検討されている。
 
 この様に、スプリアス規格は測定方法や必要帯域幅の定義に関し明確になっていない点があるにも関らず、国際的な電波利用効率の推進の観点からスプリアス規制はますます厳しくなる傾向にある。現在の設計目標とされた-40dB/decadeは、2006年以降に見直しが予定されているが、何れは勧告や無線通信規則として明文化されることが予想される。
 
B. 国際海事機関:IMO
 
 国際海事機関IMOは海上船舶の安全確保と船舶による海洋汚染の防止に努める国際機関であり、海上における人命の安全のためのSOLAS条約(The International Convention for the Safety of Life at Sea)を採択し、船舶用レーダーの性能基準などを規定している。
 
 IMOではスプリアス規制に伴う新レーダー方式に関し目立った動きはなかったが、2003年にドイツ、英国、ノルウェーから次の項目を含む共同提案が行われた。[文献4]
・レーダーのスプリアスに関してはITUの中での審議を継続すること
・レーダーが現行のレーダービーコンやSARTに反応すべき義務は性能要件から外すべきとの要望
 この提案に関する検討は、国際電気標準会議IECと一体となって進められている。
 
C. 国際電気標準会議:IEC
 
 国際電気標準会議IECは、各国の電気技術に関する標準について各国間の調整と統一化を進める国際機関であり、電気機器に対する規格制定の活動を行っている。SOLAS条約により、船舶に搭載が義務化されている船舶用レーダーについてのIMO性能基準に基づき、その試験方法と要求試験結果を規定するための規格がIEC規格であり、作業グループWG1で規格を検討し、技術委員会TC80で審議される。
 
 2001年には、スプリアスに関する新規格に対応するレーダーの試験方法を検討し、規格IEC60936-1[文献5]として採択した。これにより、2003年1月1日以降IMO規格準拠のレーダーはITU-Rのスプリアス規格を満足しないと、レーダー検定(国内検定を除く)に合格できない状況となった。
 
 2003年にドイツ、英国、ノルウェーから新IMOレーダー性能基準改定のドラフトの検討依頼(文献4と同じ内容)が作業グループWG1に持ち込まれ、IEC規格のベースとなるIMO性能基準の検討を行った。新IMO性能基準(案)は航行安全小委員会NAV49に提案され、更に各国のエキスパートとIECメンバーによるコレスポンデンスグループが結成され継続審議することが決定された。
 
D. 国際航路標識協会:IALA
 
 国際航路標識協会IALAは、スプリアスの規制強化により船舶用レーダーが今後大きく改革され、レーダー航路標識(レーダービーコン、レーダーターゲットエンハンサ、レーダーリフレクタ)の将来に影響を与えることが予想されたため、電波航法委員会RNAVを設置しその動向を調査してきた。
 
 電波航法委員会RNAVが提案した下記の内容は、IALA理事会で承認された。[文献6]
・船舶用レーダーで使用される3GHz帯を擁護する
・船舶自動識別装置AIS等の別の方式による、レーダー航法援助装置の置換を研究する
・要求がある限り、レーダー航法援助装置の有効性を維持する
・SARTやレーダービーコンに反応しないレーダー搭載船の危険性の注意を促す
 
 更に、今後のレーダービーコンが取得る対応は次の3つの何れかになるとの考えを示した。
・レーダービーコンを廃止し、船舶自動識別装置AISへの置換え
・新しいレーダー方式に反応できる新しいレーダービーコンの開発の奨励
・現状のレーダービーコンは新しいレーダーには反応しないことの容認
 
 AISへの置換えは、多くの機能を持ち低コストであることから魅力的ではあるが、その位置情報はGPSに頼っており、レーダーの持つ自立的位置特定能力を失うことになる。このことから、新しいレーダーが実用になれば、新しいレーダー方式に対するレーダービーコンが開発されるだろうし、国際航路標識協会IALAもこの開発を推進する姿勢を示している。
 
 この様に、新たなスプリアス規格は既に2003年1月1日より発効しており、現に英国を始めヨーロッパ諸国ではIEC規格に準拠した船舶用レーダーの型式検定が求められ、そのためのデータが取得されている。更に、電波の有効利用のためにスプリアス発射はますます厳しく規制される方向にある。このため、今後の国際動向を注意深く見守るとともに、船舶用レーダーで世界の8割から9割の市場占有率を持つ我が国としては、積極的に関与していく必要がある。
 
(2)国内動向
 わが国における船舶用レーダーのスプリアス発射強度の規格は、電波法の規定において基本周波数の平均電力より-40dB以下とされてきた。1997年の世界無線会議WRC-97でレーダーのスプリアス発射強度が-60dB以下に低減される決定を受け、総務省(旧 郵政省)は財団法人海上無線振興協会に海上船舶レーダーのスプリアス低減技術の調査検討を依託した。この検討は3ヵ年に及び2001年3月に“海上船舶用レーダーのスプリアス低減技術の調査報告書”[文献7、8、9]にまとめられ報告された。
 
 更に、2002年3月に情報通信審議会は “無線設備のスプリアス発射の強度の許容値についての技術的条件見直し”に関して総務大臣の諮問を受け(諮問第2007号)、スプリアス委員会に検討を依頼した。
 スプリアス委員会は同年6月、情報通信審議会 第12回情報通信技術分科会に中間報告として、スプリアス規制及びその測定法に関する国際動向の報告を行った。[文献10]
 この会議では、欧米主要国においてもITU-Rのスプリアス規定をそのまま国内法に導入しておらず今度も改訂が予想されるため、2003年開催の世界無線通信会議WRC-03の結果を踏まえて国内法規を見直しするのが適切として、答申時期は延期された。
 
 “海上船舶用レーダーのスプリアス低減技術の調査報告書”の測定結果に示された様に、当時の船舶用レーダーのスプリアス発射強度は-60dBのスプリアス規格を満たせるものは少なかった。その結果を受け、国内メーカはマグネトロンの改良とフィルターの開発を行い、2003年1月の新基準発効時には-60dBのスプリアス規格を満足するに至った。
 
 しかし、今後、ますますスプリアス規制が厳しくなると考えられ、固体化レーダーによる低スプリアスレーダーの開発を進める必要がある。また、新しいレーダー方式に対応できる新しいレーダービーコンの調査検討も行う必要がある。
 また、欧州では既に新スプリアス規格を取入れたIEC規格によるレーダーの型式検定が実施されており、この国際情勢の流れに沿い、わが国においても国内法の整備を進めている。
 
引用文献
 
[文献1]“Table of Maximum Permitted Spurious Emission Power Levels”
ITU-R RR APPENDIX S3 (無線通信規則RR付録S3号)
 
[文献2]“Unwanted Emission in the Out-Of-Band Domain”
DRAFT NEW RECOMMENDATION ITU-R SM.[OOB](勧告ITU-R SM.[OOB])
 
[文献3]“Techniques for Measurement of Spurious Emissions of Radar Systems”
RCOMMENDATION ITU-R M.1177-2(勧告ITU-R M.1177-2)
 
[文献 4]ドイツ、英国、ノルウェー共同提案“レーダー装置の性能基準検討”
IMO入力文書案 NAV49 RADAR P.S. M.Katayama訳
 
[文献 5] INTERNATONAL STANDARD IEC60936-1(2002年8月)
“Maritime navigation and radio communication equipment and systems -Radar Part1: Shipborne radar - Performance requirements - Methods of testing and required test results”
 
[文献 6]“レーダー航路標識の将来” IALA RNAV18/2003.3
 
[文献 7]海上船舶用レーダーのスプリアス低減技術の調査報告
平成11年3月 財団法人 海上無線振興協会
 
[文献 8]海上船舶用レーダーのスプリアス低減技術の調査報告
平成12年3月 財団法人 海上無線振興協会
 
[文献 9]海上船舶用レーダーのスプリアス低減技術の調査報告
平成13年3月 財団法人 海上無線振興協会
 
[文献10]“不要発射とその測定法に関する国際動向”
平成14年6月 スプリアス委員会(中間)報告書







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