日本財団 図書館


Lorin Maazel
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 クラシック音楽を「生きた芸術」として広めようとする日本音楽財団の活動に対し、私は、楽器貸与委員会の委員長として最大の賞賛を贈りたいと思います。
 財団が所有する弦楽器名器は、さまざまな国や文化を背景にした若い演奏家の才能溢れる手にゆだねられ、美しい音色が世界各地で多くの人の耳に届いています。演奏家の若いエネルギーと真摯な姿勢はクラシック音楽の分野に新しい息吹をもたらし、その結果、至高の芸術としてのクラシック音楽は、今や現代社会の中で以前よりも重要な地位を占めつつあると考えています。
 日本音楽財団のような志をもつ組織の努力と活動があってこそ、クラシック音楽は次世代へと確実に引き継がれ発展していくのです。
 日本音楽財団へのお礼と感謝の気持ちをこめて。
 
ロリン・マゼール
指揮者、ニューヨーク・フィルハーモニック音楽監督
 
 The contribution of the Nippon Music Foundation to the vitality and promulgation of Music as a Performing Art is awesome.
 
 The highest quality string instruments bought by the Foundation have been placed in the precious hands of major young artists from many countries and cultures who in turn have performed hundreds of concerts on these fabulous instruments of tonal beauty.
 
 Great music thus enhanced flows more meaningfully than ever into the mainstream of contemporary life. The artists' youth and commitment to music bring renewed intensity to an art form ever in need of renewal.
 
 With an organization at work such as the Nippon Music Foundation, classical music need never fear crisis or loss of following. If classical music continues to thrive, it will be thanks to this kind of effort.
 
 My thanks and gratitude to the Nippon Music Foundation!
 
Lorin Maazel
 
楽器貸与委員会
委員長 ロリン・マゼール:指揮者
委員 ヤーノシュ・シュタルケル:チェリスト、インディアナ大学音楽学部教授
ジャン・ピエール・デ・ラオノア:ベルギー・エリザベート王妃国際音楽コンクール理事長
チョン・キョンファ:ヴァィオリニスト
海老澤敏:(財)新国立劇場運営財団副理事長
塩見和子:(財)日本音楽財団理事長
 
2003年7月26日にコロラド州のヴェールにて行われた第9回楽器貸与委員会。左奥から手前にヤーノシュ・シュタルケル、ロリン・マゼール、チョン・キョンファ、右奥から手前に海老澤敏、塩見和子の各氏
 
 
 
ストラディヴァリウス図鑑
文 横山進一◎写真家・ストラディヴァリ研究家・日本アートプラザ代表
text by Shinichi Yokoyama
 
 アントニオ・ストラディヴァリの創作意欲は終生衰えることなく、なんと93歳の時の作品が残されている。現在、世界中に残されている作品は約600本と言われているが、彼が生み出していった名器たちには、なんとも素敵な名前を持つものも多い。
 
ヴァイオリン
SUNRISE
サンライズ
1677年製作
 33歳の時の作品で、師のアマティの影響が見られる。やや細身で、全体が輝くようなオレンジのニスで覆われていて、そのニスの色調と美しくのびやかな音からこの名が付けられたと思われる。表板、裏板は2重のパーフリングの間を丸とダイヤモンドにかたどられた象牙で飾られ、スクロール及び側板はアラベスク文様で装飾されている。米国のスミソニアン博物館所有。
 
HELLIER
ヘリエ
1679年製作
 35歳の頃の作品。装飾されたヴァイオリンで、彼のヴァイオリンの中でも、最も大型の楽器。1734年、英国のサミュエル・ヘリエ卿が直接ストラディヴァリから購入したといわれている。スミソニアン博物館の所有。
 
METROPOLITAN
メトロポリタン
1699年製作
 いわゆるロングパターンと呼ばれているタイプを代表する1本。胴中央部より下部が通常より長く、全体にやや細身の楽器。ネックや指板、弦長などが製作当時の状態に戻され、年に数回演奏会にも使用されている。ニューヨーク・メトロポリタン美術館の所有。
 
CIRCLE
サークル
1701年製作
 ストラディヴァリのヴァイオリンの中で、最もユニークな名前。スクロールと裏板にコンパスのマークが数カ所残っているからとされる。美しいオレンジブラウンのニスに覆われている。
 
BETTS
ベッツ
1704年製作
 ストラディヴァリの最高傑作の一つとして知られていて、英国の著名ディーラー、ジョン・ベッツよりその名が付けられている。全体が美しいオレンジ色のニスで覆われていて保存状態も素晴らしい楽器。ワシントンの国会図書館の所有。
 
CATHEDRALE
カテドラル
1707年製作
 言い伝えによると、ナポレオン軍の兵士がイタリアで入手した楽器で、その良く響く音からこの名が付けられたと言われている。その後、ドイツから英国へと渡り、最近ではナイジェル・ケネディがこれでヴィヴァルディの「四季」をレコーディングしている。現在は米国にあり、川久保賜紀もこの楽器を貸与されている。
 
RUBY
ルビー
1708年製作
 楽器全体を履う深紅のニスの色からその名が付けられた。サラサーテもこの楽器の美しさを絶賛している。近年、アメリカのストラディヴァリ・ソサエティを通じて、竹澤恭子やヴァディム・レーピンなど、若手演奏家に貸与されている。
 
KING MAXIMILIAN
キング・マキシミリアン
1709年製作
 バイエルン大公、ヨーゼフ・マキシミリアンが1806年から所有していて、裏板上部のボタンの下に彼のロゴ J.M.の焼き印がある。後にベルリンの銀行家がこれを所有、ベルリン・フィルの名コンサートマスターとして知られた故ミッシェル・シュヴァルベによって長く演奏されていた。珍しくネックもオリジナルで、内外部ともに素晴らしい保存状態。現在は米国にあり、プライベートコレクションとなっている。
 
DOLPHIN
ドルフィン
1714年製作
 黄金期を代表する逸品。英国の著名ディーラー、ジョージ・ハートが19世紀に、その優美な美しい虹色に輝く姿から「ドルフィン」と名付けた。20世紀を代表する名ヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツの愛器となり、現在は日本音楽財団の所有、諏訪内晶子に貸与されている。
 
ALARD
アラード
1715年製作
 黄金期の素晴らしく保存状態の良い楽器で、全体がどっしりと力強い線と赤みを帯びたアンズ色。力強いスクロールとともに、ネックもオリジナルのまま。フランスのサラサーテの師でもあったヴァイオリニスト、デルフィン・アラードの名が与えられている。
 
TITIAN
ティティアン
1715年製作
 イタリア・ルネッサンス期のヴェネツィア派の画家、ティティアン(1477〜1567)が好んで使用した赤褐色(=ティティアンレッド)のニスで覆われていたことからこの名が付けられている。アルテュール・グリュミオーが若い頃、この楽器を貸与されていた。
 
EMPEROR
エンペラー
1715年製作
 71歳の時の作品で、数多くのヴァイオリンの中でも最大級の賛辞を受ける楽器。初めはスチールペン製造者として知られているジョセフ・ジロットのコレクションとして知られていたが、指揮者ラファエル・クーベリックの父であるヤン・クーベリックの愛器となり、あのヨーゼフ・ヨアヒムが、“ヴァイオリンの皇帝”という意味で命名、世界中で有名になる。かつて塩川悠子が貸与されていた。
 
MESSIE
メシア
1716年製作
 全てのストラディヴァリの作品の中でもオリジナリティ、保存状態においても傑出した楽器。ストラディヴァリ自身生涯これを手元に置いていたといわれている。アントニオの死後、息子のパオロから、コレクターであったイタリアのサラブエ伯爵の手に渡り、伯爵の死後、ヴァイオリンハンターとして名を馳せたコレクターのルイジ・タリシオ、フランスの製作家のジャン・バティスト・ヴィヨーム、イギリスのヒル商会を経て、英国のオックスフォードにあるアシュモリアン博物館に、「ヒル・コレクション」の一つとして収蔵されている。
 
NIGHTINGALE
ナイチンゲール
1717年製作
 春の夕方から夜更けまで美しい声で鳴くといわれるナイチンゲールから付けられた名前で、米国のフィラデルフィアにあるカーティス音楽院が所有、地元のフィラデルフィア管弦楽団の歴代コンサートマスターもこの楽器を使用して演奏していた。
 
FIRE BIRD
ファイアーバード
1718年製作
 楽器全体に残る、美しい赤いニスの色と裏板の杢目が鳥の羽のように見えることから、この名が付いたといわれる。以前、「星の王子様」で知られる作家のサン・テグジュペリがこの楽器を所有していたこともあり、現在はヴァイオリニストのサルバトーレ・アッカルドが所有している。
 
VENUS
ヴィーナス
1727年製作
 完壁といっても良いくらいの素晴らしい保存状態で、美しいレッディッシュブラウン(赤みを帯びた茶色)のニスで覆われている。その完壁に近い美しさゆえに、ヴィーナスと名が付けられた。以前はアメリカのホッティンジャー・コレクションの中にあったが、現在は日本の音楽学校が所有している。
 
RECMIER
レカミエ
ELMAN
エルマン
1727年製作
 ナポレオンがレカミエ夫人に贈ったと言われているもの。数人の所有者を経て、ミッシャ・エルマンによって長く演奏された。エルマンはこれ以外に、1721年製のストラディヴァリも所有していた。この楽器のように、複数の名前を持つこともある。逆に同じ名前を持つ複数の楽器もある(例えば、「パガニーニ」という名前の楽器は、1680、1690、1721、1722、1723、1724、1727、1731、1732、1736といくつもある)。
 
SWAN
スワン
1737年製作
 93歳、最後の作品。「白鳥は死の直前に美しい歌を唄う」という伝説により名付けられた。現在、同じ年に製作されたヴァイオリンはスワンを含め3本確認されている。
 
ヴィオラ
MEDICI
メディチ
1690年製作
 ストラディヴァリが直接、当時トスカーナ大公でもあったメディチ家より注文を受けて製作したクヮルテットの作品として現存している。特に、現在確認できるストラディヴァリのヴィオラ(ボディの長さは約42cm)18挺の中でも、大型のテノール・ヴィオラ(ボディの長さは約48cm)として現存する、世界で唯一の1本。チェロとともに指板とテールピースには、メディチ家の紋章(エンブレム)と天使の象嵌が残されている。
 
チェロ
DUPORT
デュポアー
1711年製作
 19世紀、ナポレオンの時代に人気の高かったチェリストの名に由来する楽器。ストラディヴァリのチェロの中では小型(現在は世界中で標準とされているサイズ)の代表的傑作で、胴のふくらみもあまり高くなく、美しいオレンジ色に輝く楽器。現在、ムスティスラフ・ロストロポーヴィッチの愛器となっている。
 
SERVAIS
セルヴェ
1701年製作
 オリジナルの大型のサイズのまま保存されているストラディヴァリのチェロの傑作の一つ。美しいダークレッディッシュブラウン(暗い赤みを帯びた茶色)のニスに覆われている。19世紀の著名なチェリスト、アドリアン・セルヴェに由来して付けられた名前。ワシントン・スミソニアン博物館所有。
 
クヮルテット
SPANISH QUARTET
スパニッシュクヮルテット
1709年製作 スパニッシュ×2
1696年製作 スパニッシュ
1694年製作 スパニッシュ
※4本のニックネームは全て「スパニッシュ」
 ストラディヴァリが生きていた時代に直接スペイン王室に渡ったと信じられていたこのクヮルテットは、最近の調査の結果、1772年にアントニオの息子パオロから譲渡されたことが確認されている。現在も、まるで時間が止まったように素晴らしい状態で保存されており、年に数回、王宮内でコンサートが開かれている。ストラディヴァリの時代から、所有者が一度も変わってないのは、このクヮルテット以外にはない。







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