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東京財団研究報告書2004-8 電子自治体における情報活用-地方自治体における介護情報を事例に-

 事業名 相互交流による国際ネットワークの形成及び政策課題研究等
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


 東京財団研究推進部は、社会、経済、政治、国際関係等の分野における国や社会の根本に係る諸課題について問題の本質に迫り、その解決のための方策を提示するために研究プロジェクトを実施しています。
 
 「東京財団研究報告書」は、そうした研究活動の成果をとりまとめ周知・広報(ディセミネート)することにより、広く国民や政策担当者に問いかけ、政策論議を喚起して、日本の政策研究の深化・発展に寄与するために発表するものです。
 
 本報告書は、「電子自治体における情報活用―地方自治体における介護情報を事例に―」(2003年7月〜2003年12月)の研究成果をまとめたものです。ただし、報告書の内容や意見は、すべて執筆者個人に属し、東京財団の公式見解を示すものではありません。報告書に対するご意見・ご質問は、執筆者までお寄せください。
 
2004年7月
東京財団 研究推進部
 
序文
 近年、「地域の情報化」や「電子自治体」は、住民基本台帳ネットワークの稼動に伴い、現実的な課題として取り上げられるようになった。実際、さまざまな文献や著作で「情報化と行政サービス」から生じるメリットとして、(1)情報化にともなう行政コストの削減、(2)議会や予算情報の参照、(3)行政への意見提出、(4)道路工事情報、(5)医療機関の診療時間案内、(6)公共施設の予約、(7)図書館の蔵書検索、(8)各種証明書発行の容易さ、などが挙げられている。それらのことが明確に実現すれば、同じコストでよりよい行政サービスの実現が現実味を帯びてくるであろう。
 しかしながら、その多くの内容は現在、自治体の情報公開活動のなかで実現できるものも多く含まれる。また、各種証明書を取りに行く機会を考えても、その利便性の向上が直ちに住民の満足度を押し上げる効果があるとはいい難い。行政コストの削減に関しても、具体的に年間どれくらいの削減になるのか、それが住民へどのような形で還元されるのかが非常にあいまいである。
 実際、2003年度1月から3月にかけて、新潟県の2つの自治体(市レベル)を訪問し、これまでの情報化で実現したことやこれからの情報化で可能になる点に関するヒアリングを行ったが、どれもこれまでの行政サービスの電子化に留まり、より住民の満足度を高めるための情報活用にまで意識が回っていないのが現状である。志のある、非常に問題意識の高い方たちが尽力して情報システムを作り上げて居られるにも関わらず、個人のプライバシー保護と申請主義に力点を置く余り、行政の不作為を引き起こし兼ねない事態が生じている。技術的には何ら問題がなくても、上述の理由によって効率的な「情報流」にストッパーがかけられているのである。例えば、介護情報は利用する際に必要な情報流をより利便性が高くなるように整備すれば大いなるコスト削減が見込め、行政のだけでなく利用者である被介護者とサービスを提供する業者の三者それぞれに利点があるにもかかわらず、情報流は分断されたままである。すなわち、情報技術が高度に進展し利便性を高める潜在性が益々高まっているのに、その恩恵が受けられないのである。
 一方で、自治体レベルで情報化を推し進めている国がたくさん存在している。これらの自治体の情報活用に関する方針や施策を検討し、今の日本に何が必要か、どのような改革を行うべきかを検討することは緊急の課題であると考える。特に、住民基本台帳に関して自治体レベルでの効果や利用に関して疑問を抱き、参加しない選択をとるところもでてきている。巨額の資金を投じて作ったシステムでもあるし、行政サービスの質を保ちながら効率化を促していくためにも、情報(データ)利用をする際に明確な利用制限を設けたり、情報(データ)利用を行なった際のアクセスログを公開したりするなどの情報保護に関するアカウンタビリティを確保した上で、大いに活用することが肝要である。更にいえば、公債依存度が44.5%を超え、2003年度末には地方自治体を含めた長期債務残高が680兆円を超える日本において、改革は待ったなしの検討課題である1。そのために、今回の研究を推進し、21世紀の行政サービスのあり方も含めて検討することは、大変有意義である。
 本稿では、個人情報の利用に焦点をあてて、情報流の効率的確保の必要性を論じる。そして、IT先進国であり、高い水準の高齢者福祉を実現している国としても名高いスェーデンの介護の実情と情報流を調査した結果を示している。現在の日本の状況を鑑みるに、総人口が少なく、効率的な行政サービスの実施のために個人情報も含めて情報を有効利用しているスェーデンの事例は、非常に示唆に富んだものである。日本で実際に取り組まれている先進的な事例も紹介している。最後に、自治体における個人情報を利用した情報流の構築に関する提言を行っている。
 今回、資料収集やヒアリング調査で直接赴いた際に、地方自治体の担当者の方々や介護の第一線で活躍されている方々から賜ったご協力に対して、改めて心から感謝申し上げたい。また、海外における調査でも、長年に渡って市政に携わっている(市会議員)方やストックホルム市でIT業務を管轄されている行政担当者の方々、さらに実際に介護現場で管轄をされている方々など、立場を異にする方たちにご協力いただいた。さらに、本報告書を作成するために行った調査は、東京財団の委託研究によって実現の運びとなった。その御協力・ご支援に対して、この場を借りて厚くお礼を申し上げたい。
 
新潟大学経済学部 助教授
大串葉子
 

1 日本経済新聞記事より:2003年12月20日
 
 企業の繁栄を約束するものが顧客満足度の向上であるとすれば、政府は国民、地方自治体にとっては自らの自治体に住む地域住民の満足度を向上させることが重要になってくる。近年、ニューパブリック・マネジメント思考の導入によって従来の行政のやり方を変革しよう、住民の行政や地域への積極的参加を呼び込むことによって市・町・村を活性化させようという機運も盛り上がってきている。
 さらに、地方分権が推進されようとしている昨今、自立・自律性のある地方分権の確立が急務になっている。コンピュータやネットワーク接続が容易になったこともあって、これまでよりも膨大な情報収集が可能となり、住民による自治体の評価も厳しくなる傾向にある。さらに、住民一人ひとりの情報リテラシィ(情報利用能力)の向上と家庭でも安価に利用できるDSL(Digital Subscriber Line)や光ファイバーといった情報インフラストラクチャの整備が急速に進みつつある現在1、市町村による行政サービスの地域格差はすぐに住民に知られるところとなる。今、まさに、新しい地方行政、住民との新しい関係が始まろうとしているのであり、財政事情がなかなか好転しない中で、住民からの質の高いサービス提供の要求に応えなければならない時代が到来してきているのである。
 情報技術(IT: Information Technology:情報技術)先進国であり、「ワン・ストップ・サービス」ポータルサイトの構築にも熱心なアメリカでは、例えば、カリフォルニア州では道路使用許可申請、宝くじの購入、税申告、税証明書発行申請、自動車登録、免許証更新予約、看護婦資格更新から助成金の申請に至るまで、ホームページを通じて様々なサービスを市民に提供している2。さらに、メリーランド州やバージニア州では、Web上でのクレジットカード決済による税金(所得税、法人税、それに自動車税など)の支払いが可能である。3
 
 翻って、日本ではどうか。アクセンチュアが2003年4月10日に公表した第4回電子政府進捗度調査の結果、日本は15位であった。日本でも電子政府構想(e-Japan)を掲げ、これまでは役所を訪れないとできなかったような届出等は徐々に電子化されて住民の利便性を向上させてはいる。しかしながら、国民の満足度(オンラインサービスの幅広さや洗練度)の視点からの評価は余り高くない。地方レベルでは、まだ地方分権の枠組みが明確でないことや法整備の不備などが原因で、もう一歩踏み込めないでいるのが現状である。さらに、内部の情報システムに関しては情報の共有が必ずしも進んでいるとは言えず、まだ一箇所の窓口でさまざまなサービスが提供される「ワン・ストップ・サービス」や、地域に住む住民が必要としている情報の十分な提供が行なわれていないケースも多々存在している。
 日本でも住民基本台帳ネットワークが本格的に可動し始めたこともあり、今後、自治体の情報化とその有効活用は様々な可能性を秘めている。自治体業務のアウトソーシング化を推進していくことも、重要な選択肢の1つであろう。それには情報の「官」と「民」の情報の共有化がひとつの鍵になる。同時に、住民基本台帳ネットワークに対するプライバシー漏洩の不安が指摘されているのも事実である。こうした不安を乗り越えて、電子政府・電子自治体を成功へと導いていくためには、既存の概念やサービスのありかたに囚われない「住民志向のサービス」が肝要である。世界的にも急速な整備が進められている電子政府・電子自治体であるが、日本の現状はどのレベルに達しているのであろうか。電子政府・電子自治体の発展の到達レベルを図る指標はいくつかあるが、ガートナー(Gartner)社の4段階分類に照らしても、日本はやっと第2段階のレベルに到達したところであろう(図表1-1)4
 
図表1-1 電子政府・自治体の発展段階(ガートナー社)
発展段階局面名 各発展段階の特徴
段階1
プレゼンス
(Presence)
インターネット上にサイトがただ存在すればよいというレベル。パンフレット棚をオンライン化しただけに近いもの。ウェブという舞台への登場のレベル。
段階2
インタラクション
(Interaction、双方向)
申請書等様式をダウンロードできるようにしたもの。様式に記入後郵送・ファックス送信。他サイトへのリンク等。単純双方向。
段階3
トランザクション
(Transaction、取引処理)
各種手続きがオンラインでできる。所得税申告、納税、各種免許更新、各種許可申請・認可等。完全な取引処理が可能。
段階4
トランスフォーメーション
(Transformation、変身)
ほとんどの国や地方自治体が長期的に目指している到達点。住民との接点を一点に絞り、政府サービスの提供方法を再編し、政府組織が住民に透明になる。
出典:『電子自治体入門』情報化推進国民会議事務局編 p.33
 
 住民基本台帳ネットワーク稼動に対する反対の声に代表されるような、国や地方自治体の情報管理に関する国民や住民の不安の多くは、管理されている情報がどのように利用されるかよくわからないという不信感に基づくものである5。誰がどういう目的で情報を利用したのかを示すアクセスログの開示も、ようやく始まったばかりである。いまだに開示の指針すらない自治体もある。ところが、プライバシーの漏洩を心配する人でも、例えば百貨店などの顧客カード作成のために抵抗無く個人情報を開示し、その情報を活用することを許諾することが多い。それは、買い物した際に受けられる割引制度や優待制度など、個人情報の開示によって得られるメリットが明確かつ具体的であり、さらには、開示された情報を利用する側がその情報を他で利用しないだろうという信頼があるからだと考えられる。こうした現状を踏まえて、行政側が、住民の情報を管理する際の指針(公共の利益のためにこれらの情報を利用する際の具体的な例など)を示し、情報を開示・利用することで生じるメリットをきちんと明確に示すことができれば、住民の情報を有効に活用したサービスの充実を図ることが可能になり、住民の理解を得られやすい。その結果、情報システムを用いた、より効率的で効果的な行政サービスが可能になり、これからの電子政府・自治体にとって非常に有益である。従って、情報を管理・運営する上で、どこまで情報を開示するとどういうメリット・デメリットが存在するのかを検討したうえで住民に開示し、指針を決めることは非常に重要であり、住民満足度を大きく左右する要因になるのである。
 上述したように、情報インフラの普及や住民の情報リテラシィの向上は急速に進展してきており、自治体の情報化とその有効活用はさまざまな可能性を有している。さらに、インターネットによる情報公開や情報提供に加えて定型サービス業務の効率化を行うことが可能になれば、人員増を行うことなく有能な人材をさらなる住民満足度向上のために登用することも可能になる。
 本研究では、自治体の行政サービスにおける情報の有効活用、特に介護保険における情報流に焦点を当てて、高度化していく情報システムを用いた「住民満足度」向上の方法を検討する。そこで、第2章では、自治体の情報活用を阻む要因を考察したうえで、特に、介護保険における情報流が現在抱えている問題点を指摘する。第3章では、調査で訪れたスェーデンの首都ストックホルム市における、介護に関する情報流の現状を報告する。そして、第4章では、先進事例をもとに、第2章で指摘した問題点を克服するために行われている自治体の様々な試みを紹介する。最後に、第5章においてITを用いた住民満足度向上の方法に関する提言を行う。
 

1 NTT東日本のDSL料金は、1999年12月に6,100円(最大1.5Mbps)だったのが、2002年12月には3,450円に下落している。家庭で利用できる光ファイバー(FTTH: Fiver To The Home)も2000年12月から2002年12月の2年間の間に約4分の1の価格になっており、ブロードバンドの国際普及状況においても2002年末の段階で、日本はアメリカ、韓国についで世界3位である(『平成15年度版 情報通信白書』総務省、p10-11)。
3 例えば、メリーランド州のホームページによると、オンラインでの税金の支払いの際に利用可能なクレジットカードとして、マスターカードやアメリカンエキスプレスなどが明示されている。
4 ガートナー社のほかに、国連(UNPAN)の「世界電子政府調査」(5段階)、ギガ・インフォメーショングループ(Giga Information Group)(5段階)、デロイト(Deloitte)社(6段階)などが指標を出しているが、段階の分類の際に重視されている視点がそれぞれ異なる。
5 インターネットリサーチの株式会社マクロミルが2002年8月に行なった「住民基本台帳ネットワークシステム」に関する調査によると、住基ネットの認知度は、「内容まで知っている」17%、「内容はある程度知っている」65%と比較的高いものであったが、不支持56%と支持9%を大幅に上回り、「情報漏えい」「情報の目的外利用」に不安集中していることが示された(詳しくは http://www.macromill.com/client/r_data/20020819jyumin/index.html を参照されたい)。







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