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◎母語の獲得
 
 次は、「母語の獲得」というテーマで、言葉の発達についてまとめてみました。聴こえる子供が言葉を覚える上で、喃語が出ると思うのですが、ろうの場合も同じで、手話がちゃんと形になっていなかったりするのです。何年か研究して分かってきたのですが、それが成長していくと、ちゃんとした形になってきます。大人はそれを正しく読み取る必要があります。絵本も手話で読み聞かせをしています。こうして手話という言語を自然に獲得していくのですね。それから、子供たちに人気のあるグーチョキパー遊びというのがありまして、手の動きのリズム感を養ったり、みんなで同時にやるということで、音がなくても動きでとても楽しんでいます。
 こちらは赤ちゃんなのですが、いま、スクリーニングで早いうちから「ろう」が分かる場合があります。しかし、そういった受け皿がまだできていなくて、たまたま本やインターネット等で調べて龍の子学園へやってこられた方もいらっしゃいます。彼女は、生まれて2カ月のときに分かりまして、龍の子へ来ていま1歳になりました。手をムニュムニュやっていますが、あれは反応しているのです。赤ちゃん言葉を出しています。それで、年上のお兄ちゃんが、赤ちゃんをあやしています。子供たちと乳児のクラスはこういう形で進められています。あと親ですが、ろう児の90%の親が聴こえる親なのです。新生児1,000人に1.5人聴覚障害をもつ子供が生まれまして、そのうちの90%が聴こえる親なんですね。ですから私の家の場合のように、いきなりろう児が出てくるわけです。そういったときに親が手話を覚えなければいけないということで、こういうところでろう者と接する中で手話やろう児の育て方を学ぶことができるのです。
 
◎龍の子学園の学び舎
 
 こちらが、幼稚部の学び舎といいます。いま豊島区の千川小学校を借りて活動をしています。日にちとか、自分の名前とか、そういったものはみんな当然読めて分かりますし、「誰々が好きだから、この子にあげる」といった感情的なものもちゃんと分かっています。壁には、指文字という「あいうえお」を表す言葉を、子ども自身の写真で作って貼っています。いまは自分の名前を書いたり、友達の名前を書いたりしているのですが、ここで見ていただきたいのが、先ほどのダーレンの名前を書いているところです。なかなか書けないのですが、ようやく書けてきた段階でみんなが応援しています。子供同士でこういった応援をしながら、褒めながら学んでいくという様子が見られます。それで、やはり幼稚部でも、絵本の読み聞かせはたくさんやっています。日本手話で説明をしますので、書いてある日本語とは当然違う言語なのですが、意味は同じことを伝えています。なおかつ表情豊かにいろいろな説明をしていますので、子供たちも大変に集中しています。
 こちらのお子さんは、まるで中学生のような絵を描くのですが、じつはまだ幼稚園の2年ということで、子供というのはとんでもない能力をもっているんだなと分かると思います。それからこちらのお子さんは、横浜のほうから毎日通ってくるので、駅の名前をすべて覚えてしまいました。文字で全部覚えています。自分で書いていますね。また、こちらの様子は、狭い部屋の中でグループに分かれて、子供たちがやりたいことをやるという時間です。この例でいいますと、こちらのお子さんが「間違えた」といったら、お姉ちゃんが見ていて教えているんですね。「こうでしょ、こうでしょ」と説明をしながら教えている。この年代の聴児と同じように育っていると私は思います。それで、字や数字などの概念を理解するのは、逆にろう児のほうが早いですね。こちらのお子さんは、部屋にたまたまあった英字の本を持ち出してきて、真似して書いているところです。「これも何か意味があるんだよね」とか思いながら書いているのでしょうが、日本語に限らず、英字まで興味をもってやっているのです。1人がやっていると、みんな真似して自分たちもやりたいことをやります。そうすると子供同士の関わりで、どんどん深いところまで学んでいくということになります。
 
◎バイリンガルろう教育の実践
 
 次が4月から毎日行っています幼稚部の年長クラスのバイリンガル教室の様子です。この部屋のレイアウトを見ていただきたいのですが、ひとつの教室にコーナーをいくつか作っています。ものの名前を貼ったりしている日本語のコーナー、数を勉強するさんすうコーナー、時計や100までの数字とか、そういったものを壁に貼っています。
 こちらは手話のコーナーですね。手話も基本型とかいろいろな手形があります。動物の手話から、手の形の仲間とか、同じ手形を使う単語とか、そういったものがこちらのほうの壁に貼ってあります。少し珍しいのが、時計の文字ですが、表と裏で、同じ時間を数字と時計の文字盤になっていたりするんですね。同じ意味を違う表示で、表と裏を使って活用している教材があります。
 こちらの様子は、このお子さんが紙を落としたんですね。そうしますと普通、先生がついつい「早く拾いなさい」とかいってしまうのですが、そうではなくて、理由を説明するのです。「なぜ拾わないの? 紙が落ちたままだと、だれかが滑って転んで痛い思いをするから、拾ったほうがいいよ」という言い方をしているのです。このような接し方は親としても非常に参考になっています。
 こちらは、ろう者の挨拶の仕方、ろうの社会の文化をこういった場で教えています。ろう者の先生からすべて視覚言語として、手話として、交流の中から自然に身についていくという形です。
 これは、幼稚部の年長さんですが、日付や曜日といった時間に関するものも理解しています。こういった黒板に書くのも、「形がなんか下が末広がりになっているね」とかって言って、先生も「とってもうまいね」というやりとり返して、子どものやる気を盛り立てています。それと、これは天気の話をしているのですが、「今日の天気は雨だよね、雨っていう字を書いてみようか」ということで、絶えず手話と書記日本語を自然な会話の中からバイリンガルで教えています。
 
◎コミュニティの必要性
 
 続きまして、コミュニティの必要性についてお話したいと思います。これは先ほどお話しました代表の竹内なのですが、昨年の5月から60日間ぐらいかけて、アメリカのロサンゼルスからワシントンDCのギャローデッド大学までの間を、ろう者の若者だけで自転車で横断をしました。アジアのろうの子どもたちのための寄付金を集めるというチャリティイベントです。
 彼らは2カ月間同じ釜の飯を食べながら、アメリカ人、カナダ人、日本人、そういった仲間で助け合いながら自転車を2カ月間かかり到達しました。代表の竹内は龍の子の子どもたちにろう者であっても何でもできるということを自ら示す目的で参加しました。これがゴールシーンなんですが、日本からも大勢駆けつけて、万歳とか胴上げをしています。
 先ほども出ていましたダーレンは、このときの仲間だったんです。ゴールしてすぐの竹内へのインタビューです。「1日100kmぐらいですね。キャンプをしたり、消防署や教会に寝泊まりしたこともあるんです。それで1週間前にワシントンDCの少し手前まで着きました。だんだんゴールが近づいて、だんだん緊張して、でも、もう少しだと思って辛抱してやってきて、それで今日やっとここへ着きました。これは皆さんの支援のおかげです。ありがとうございます。また次回やると思いますが、今度は皆さんも是非やってみて下さい」と。
 この数日あとのことですが、日本の龍の子の子どもたちも、MDO(Mini Deaf Olympic)というものに参加しました。この様子は日本の手話ポエムを披露しているところです。子どもたちの中には最初、すべてアメリカ手話なので日本手話と違いますから、ホームシックにかかった子供たちもいたんですが、最終的にはアメリカのろうのお友達と仲良くなり非常に盛り上がって別れを惜しんで帰国の途につきました。こういった海外の遠征も、すべて自費ですが、龍の子のメンバーとして積極的にやっています。今年はMDOがなかったものですから、これは去年のものです。このMDOは、全米のろうの学生のためのオリンピックで、アメリカ人だけなんですね。去年は20周年ということで、うちのスタッフがずっとボランティアでお手伝いをしていた縁で、今度は子供たちも呼んだらどうかということで、特別に去年だけ招待をいただいたので参加できたわけです。







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