日本財団 図書館


9. 犯罪の種別・様態別状況
 兇悪犯の増加、中でも強盗(又は強盗傷人)は13年の数字でみると、検挙件数検挙人員とも前年比で大幅に増加した。例えばピッキング用具、新手のサムターン回しを使用した犯人が侵入盗をなし、家人に発見され居直り強盗に変身したという例。金のありそうな家を物色し或いは情報を得て侵入、家人を粘着テープで目、口、手足を緊縛し、金員を強奪するという例。などが兇悪犯として挙げられる。中にはクロロホルムを用いて殺人に及び被害者の口封じをしたものもある。犯罪の兇悪化は特に強盗について著しい。10年前のそれに比較して検挙件数だけでも5倍に増加している。その手口もサバイバルナイフ等の兇器、バール等や粘着テープを使用するものが多い。
10. 発生地域別の状況
 発生地域別にみるとどうか。平成3年頃は東京、神奈川等の大都市における犯罪が多発するのが目立ったが、8年になると他の大都市の周辺や地方にも及んでこれが次第に顕著となる。年を追って全国地方都市にも拡散する傾向が更に進んでいることが明らかになっている。特に東京近郊の中小都市への拡散、拡大が急激に進んできている。更に試みに検挙件数を10年前とで比較すると東京では2、3倍の増加であるのに比し、中部地方で20倍、四国地方で32倍全国平均で約6倍である。拡散化はまぎれもない事象といってよかろう。
 先にも少し触れたが、項を改めて国際犯罪組織の活動の状況を理解しなければならない。国際犯罪組織が日本に進出浸透し、日本の暴力団、犯罪組織と手を結ぶという例である。又来日外国人は日本人に比べ多人数で犯罪を行う傾向が強い。群れをなしたがるという傾向があるかともおもわれるが、異国での犯罪情報も十分でなく大勢で仲間を形成し、その不安を解消するというのもその一因であろう。相互扶助というか助け合いの精神も軽視出来ないところであろう。ここで再び「蛇頭」のことに言及しておかねばならない。誰も核心に迫ったものがいないので闇の中の存在であろう。しかし、「蛇頭」は国際的な密航請負組織で、中国で密航者の勧誘、引率、搬送、船舶や偽装旅券の調達、日本での密航者の受け入れ、隠匿もなりわいとしている手強い集団である。日本で犯罪を犯した中国人を密かに帰国させるルートを確立しているともいわれている。定かではないが中国人に対する検挙率が低下しているのはこれが一因とも解される。わが国に不法滞在している中国人を集め受け入れ組織を構築するのみならず、広域的に活動し入国はおろか出国にも手を貸していることになる。
11. 不法入国、不法在留の問題点
 バブルがはじけて多年景気が低迷して日本経済は閉塞状態にあり、したがって生き残りをかけてのリストラが行われ、企業の倒産、賃金の低劣化が進んでいる。このような厳しい雇用状況にかかわらず、就労を目的として来日する外国人は知って知らずか少なくない。不法就労も多く(おそらく殆どが不法滞在者であろう。)これらの点が外国人犯罪の温床となり平成13年の一カ年をとってみても外国人の兇悪犯の403人中180人が不法滞在者であるとの報告があることでもそのことが知れる。50%近い高率を占めているといってよい。平成13年でみると検挙した不法入国者等の数は2499人とされるが、地域別にみると中国、イラン、タイの順番と統計上示されている。入国の手段は航空機しかも偽装旅券を用いたものが頻発し、この方法による不法入国者中、中国人が343人と過半数を占めているのが特徴的である。
 集団密航が背景にあるというか、蛇頭の存在を看過できないというべきか、この点が重要であろう。福建省にその本拠を持つというこの組織の実体を知るものがないのは、情報漏れがない故なのであろう。今や新宿界隈を根城とし勢力拡大をねらい、治外法権地域と化しているところもあるやに聞知する。日本人としては堪え難いものといわねばならない。
12. 日本人の介在問題
 11.と裏腹の問題といえると思われるが、不法就労を助言する日本人の存在することも看過出来ない。外国人を安く雇おうとする者や、就労を斡旋する賃金をピンハネするブローカーの介在があるのである。一部には暴力団が仕切るものもあり、低賃金で酷使しようとする雇主もいる。搾取をした残りの低賃金を交付されても訴え出る者はなく、反面外国人労働者は真面目に働き、容易なことでは働くのをやめず定着性を有する者のいることが問題を一層複雑なものにしている。中には不法就労者の住居としてアパートの一室を借り上げてやったり(一室に何十人と泊める例もある。)、仕事を絶え間なく与えることに注意を払う雇主もいたりする。又、日本人を配偶者として持つと在留資格を得ることができるため偽装結婚をなす者も少なくない。その上で犯罪を遂行せんとするのである。
 これに対して、不法就労を助言する者や入管法その他関係法令を駆使して悪徳を働く暴力団や搾取をする雇主を厳しく取り締まる必要があるであろう。かつて高度成長期にチープレーバーを求めて入国管理の手法を緩和した時期があったやに聞知するが、数十年たった今日そのつけが回ってきたとも文化史的にはいえるのかも知れない。厳しい取締りは悪、ゆるやかな入管体制こそ公正な入国管理と考える風潮があり、そう考える財界人や知識人がいたことも事実であった。と同時に問題の根っこを根絶しなければなるまい。飲食店等のサービス業で外国人女性をホステスや売春婦として雇うことが出できないよう常に眼を光らせる必要があり、その方面へ外国人が送り込まれないよう捜査、調査、検査等をねばり強く行う努力をしなければならない。このように風俗店でホステス、売春婦として働く外国人女性の中には中国人、タイ人、フィリピン人等東南アジアの貧困層から出稼ぎに来た者、或いは欺されて連れてこられた者も多くブローカーや背景にいる暴力団、風俗営業経営者らに諸々の費用がかかったとして、故なき借金を背負わされパスポートを取り上げられて帰るに帰れぬ仕儀となっている者もいることも忘れてはなるまい。弱い者を喰い物にする悪辣な者や組織については監視の目と証拠の収集を怠ってはなるまい。更に注意を要するのはいわゆるリピーターの襲来である。わが国で何らかの犯罪を犯し、強制送還されても又偽装旅券を持ち名前を変えて再び来日する者も少なくない。どうもある国々では簡単に他人になりすますことができるようである。氏名や身分を偽って入ってくる者も少なからずいる。
13. 銃器、薬物関係
 押収された多数の拳銃の殆どはロシア、フィリピン、アメリカ等から密輸入された外国製のものである。小さく分解されて個別に輸入されるのが多いため、発見押収が困難となりつつあることに留意する必要があろう。密輸の手口が巧妙化し多様化しているとされるが、わが警察に有効な対抗手段はありうるのか疑問なしとしない。外国の捜査機関等、関係機関相互で情報収集が正確迅速に行われること。これが完徹されて水際作戦が成功することが肝要であろう。
14. 蛇頭
 文献に乏しく又我々が密入国の中国人に蛇頭のことを尋ねても、誰一人話す者はいない。僅かな資料をたどって説明を試みてみる。
 蛇頭は一般的には中国からの密入国全般の請負人という意味に用いられているらしい。密出国を請負う一人のブローカーの呼称で、これらの者が集まってグループを形成するが、組織の名称ということでは必ずしもないらしい。先述した福建省に2ないし3あるといわれている。
 蛇頭のトップは金持ちしかなれないとされる。顔や名前は詳らかでない。トップには中国人はいないという。密航者を集める蛇頭は下っ端の人間でトップのことは知る由もない。日本に密航者を連れてくる蛇頭は比較的上位にいる人でトップ代行と直接連絡を取るといわれている。「蛇頭」には勧誘蛇頭、取立て蛇頭、引率蛇頭、出迎え蛇頭、パート蛇頭等があり、その他に各セクションを監視する監視蛇頭がいるといわれている。その名のとおりの役割分担をなす。パート蛇頭というのはいささかわかり難いという人もいるだろうから説明すると、出迎え蛇頭の手が足りないときに臨時に雇われる者をいう。ちなみに蛇頭が勧誘する対象は比較的豊かな暮らしをしている家族の子弟であるという。密航料を取立て難い貧困な家には声をかけないのであろう。このごろのターゲットは海老の養殖で豊かになった漁業者、比較的裕福な近郊農業であるといわれる。
15. 国籍別と犯罪種別
 警察庁刑事局刑事企画課の統計資料によると、平成14年度における来日外国人(定着居住者、永住居住権を有する者等在日米軍関係者及び在留資格不明以外の者をここではいう。)による重要犯罪(殺人、強盗、放火、強姦、略取誘拐及び強制わいせつをいう。)、重要窃盗犯(侵入盗、自動車盗、ひったくり及びすりをいう。)検挙数の総数は1322名(ちなみに前年は1415名)である。これをまず国籍別に多い順に挙げると中国(672)、ブラジル(251)、韓国、朝鮮(79)、ベトナム(29)、フィリピン(20)、スリランカ(11)等の事実が指摘できる。犯罪種別にみると重要犯罪についていえば、殺人の総数41、強盗280、放火7、強姦25、略取誘拐18、強制わいせつ30が挙げられる。殺人、強盗が最も多い国はいずれも中国(台湾、香港を含む)である。特に強盗が多発していることには一驚させられる。社会生活のうえで最もこれらの危険にさらされているのはタクシーの運転手である。筆者はできるかぎりの体験や実感をタクシーに乗るつど彼らに尋ねている。多くは言葉のわからぬ東南アジア系の複数人に乗られると降車するまでヒヤヒヤものである、乗り逃げもしばしばですねという。シートベルトをはずし、いつでも逃げられるようにして運転するということをいう運転手もいた。新聞等には出ないけれど、東京都内ではタクシー強盗は日常茶飯事と化しているという。若干オーバーとしても一日一件は少なくとも報告があるという。業界では事件が発生すると、いち早く無線で連絡されるが、「大きな荷物」を忘れた人がいるという表現で伝えられる。皆協力して何はさておいても不審者の発見、被害者保護に努力するという。非常にビビットな話であるが強盗を大きな荷物という表現を面白く感じるなどといったことで笑っては済まされない深刻な事態であるといえよう。先の件数はいずれも検挙人員をいうもので、発生件数はこれを大きく上回っていることは想像に難くない。検挙率の低下が影響している。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION