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第3章 離島保全の基本と現状の問題点
1. 離島保全の基本
(1)離島の地位・役割
 四面環海のわが国にあって、保全上の観点から外周に在る離島は「国境を形成する最前線に位置」するとともに、「広大な水域を包含する拠点」としての地位を有し、国家及び国民に対して以下の役割を果たすことになる。
ア. わが国の主権、領域の擁護の最前線
 
図3-1 わが国の領域の形成並びにEEZ
 
 図3-1に見られるように、わが国の国境線の大半は、離島により形成される。
 国境線は、国家主権すなわち統治行為が行われる領域の最先端であり、領域外からの不法な行為を排除する線であり、国家主権の保護や領域保全のため必要な手段を講じることができるが、以遠については国の支配権は及ばない。必要な手段とは、情報収集活動、監視・警戒線網の構成、防衛上必要とされる陣地の構築あるいは拠点の配置である。
 国境を形成する離島及びその周辺は、隣接する国との国益の交接点でもあり、第2章で考察したように、外国船による不法漁業・資源調査活動等の非軍事的活動やゲリラによる島の不法占拠、また正規軍による軍事的占拠等多様な事態の生起が予想される。離島は、これらの事態に対応する手段を直接的、間接的に行使できる場所として機能させることにより、当該離島の保全に加え、わが国の主権保護、領域の安全が可能となる。
イ. バッファーゾーン(緩衝地帯)の形成
 小笠原諸島および周辺島嶼群は、日本領域最東端の南鳥島並びに最南端の沖ノ鳥島から本土との間に2,000kmに近い領域の縦深を、また南西諸島および周辺島嶼群は最西端の与那国島から琉球・薩南諸島を経て本土との間に1,000kmを超える領域の縦深を構成する。他方、本土及び大陸と接近している北日本及び日本海に所在する島嶼群は、本土との間は500km以下と比較的浅い縦深を構成する。これらの本土との間に形成される距離的空間は、本士の保全にとっての緩衝地帯(バッファーゾーン)として機能している。すなわち、本土への危機の接近を前方、早期に解明し、対応の時間的余裕を得て、危機事態の速やかな収拾を可能にする。
ウ. 事態への第一義的対応拠点
 わが国の広大な水域内にある離島は、その位置的特性から保全活動拠点としての役割を果たす。
 期待される主要な役割には、次のようなものがあげられる。
 
(1)遠隔海域で発生する海難事件の救援活動拠点
(2)海上交通路の保護援護拠点
(3)半島または台湾海峡紛争時に予想される大量避難民へ応拠点
(4)周辺事態法に基づく後方支援地域の拠点
 
 離島を核として形成されるEEZにはエネルギー資源を含め生物・非生物資源が存在し、また日本周辺の海域には国土の1.7倍に相当する数十兆円の鉱物資源が埋蔵されている(1)とみられる大陸棚があり、離島はこれらの資源の保護及び開発の拠点としての役割を果たすことができる。
 
(2)離島保全の目標と危機対処の基本
ア. 目標
 離島の特性である隔絶性、環海性、狭小性は、安全保障面からいえば「脆弱」であることを意味する。本来、保全とは、「保護して安全であるようにすること(広辞苑)」と解されるが、保護のためには「内なる充実」が必要であり、安全のためには的確な「外への対応」が不可欠である。
 「内なる充実」は、(1)島民の生活基盤の安定、(2)島の歴史、伝統、文化並びに自然の保護育成、更に(3)住民の愛島精神の涵養などを指すが、その多くは国全総・離島振興法に掲げられる振興策の具現により達成することができる。
 「外への対応」は、外部からの危機事態を抑止、防護、排除し、島の安全を確保することであり、(1)離島の直接保全と(2)わが国の領域全般の保全、により達成する。
 その目標としては、(1)島民の生命及び生活基盤を脅かす危機の排除、(2)領域(EEZを含む)における国家主権の擁護であり、(1)危機対応インフラの整備(情報通信連絡、備蓄、避難対策等)、(2)警察・海保・自衛隊による治安の維持並びに抑止・排除・回復、により達成する。
イ. 危機対応の基本
 離島に生起する危機事態への対応は、情報優越、即応性、早期収拾の3点を基本とする。
(ア)情報優越
 離島の特性からくる不利点を克服し危機事態を事前に偵知し、事態発生後も継続して適切な対応を行うためには、早期に正確な情報を取得することが必要である。情報活動には、一般的に情報資料の収集、処理、伝達の過程があるが、先行的に必要とする収集項目を選定し、収集努力を焦点に指向できる情報収集手段を保有し、収集した情報資料を速やかに処理する機能並びに処理した情報を必要とする部署に伝達できる組織が必要となる。これにより主導的に対応出来る体制の保持が可能となる。離島の特性は、これらの情報活動を困難にしがちであるが、宇宙空間から地上監視に至るまで情報収集手段を組織化して連続的に情報の獲得を図らなければならない。この際、関係機関との連携、地元島民の協力が極めて重要となる。
(イ)即応性(Readiness)
 情報優越ととともに、広域に分散して所在する離島に発生する危機事態に対して即応性ある対応が必要となる。このためには、危機事態に応じ速やかに対応できる意思決定システムと対応する実動組織の整備が重要となる。
 即応性ある行動には、昼夜を問わず長距離を速やかに現場に進出できる高機動性に富む能力と情報・通信手段の確保、また、これらを速やかに受け入れことが出来る島側の体制、施設等の整備が必要となる。
(ウ)早期収拾
 離島の保全にあたっては、危機事態を生起させないことに万全の体制をとる必要があるが、事態が生起した場合速やかにこれを解決し、相手側に既成事実を作らせないことが緊要となる。
 このためには、平時からの危機管理体制が重要となるが、広域に点在する離島へ事前に対応勢力を準備するには限界があるので、情報活動と連携し、事態が小規模のうちに必要な手段を迅速に展開し排除できる体制の確立が必要となる。この際、事態収拾行動の準拠を明確にし、必要な権限を対応組織毎に委譲しておくことも必要である。
 
2. 離島及び周辺領域保全の現状の問題点
(1)法制整備の状況
ア. 国際法による権限と国内法の整備状況
(ア)国際法の権限
 国際法上の国家の要件は、一般に(1)領域、(2)永続的住民、(3)政府(統治機構)及び(4)他国との国際関係を行う能力、の四つが必要とされる。
 国家の領域は領土、領海、領空からなり、国家は領域保全の義務を持ち、その領域内で人・物・事実に対して排他的に統治を行うことができる。これらは、領域保全の義務と領域保全に対する相互尊重義務、国際連盟規約第10条、国連憲章第2条4項に明記されている。
 領海については、国連海洋法条約(2条)において、沿岸国の主権が及ぶ範囲と行使の準拠が明示されている。また同条約には「排他的経済水域」並びに「大陸棚」に関する沿岸国の権利も規定され、「排他的経済水域」における不審船・外国の海洋調査船への取り締りには沿岸国の法律が適用できる。
 領空については、国際民間航空条約第1条において各国の領域上の空間における完全かつ排他な主権な主権を認めている。ただし、領空の上限については、定説がない。
 国際海峡の存在と通過通航制度は、公海または排他的経済水域の相互の部分を結ぶ国際海峡は沿岸国の主権の下に立つが、通航面に限っては、継続的、迅速な通過のためにのみ行われる航行と上空飛行の自由を内容とする通過通行権の制度(2)が認められた。
 以上を要約したのが、表3-1「国際海洋法に基づく沿岸国の権限」である。
 
表3-1 国際海洋法に基づく沿岸国の権限
 
(イ)国内法の整備状況
 わが国は、国連海洋法条約を批准するため、1977年に領海法を改正し、接続水域を設け、「領海及び接続水域に関する法律」と改称し、96年7月21日から施行した。この際、特定海峡については、従来どおり領海の幅を3カイリとされた。次いで、「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」、「排他的経済水域における漁業等に関する法律」及び「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」が制定された。
 平時における「領海警備」は、一義的には海上保安庁の担当とされ、海上保安庁法により海上の安全及び治安の確保を任務とすることが定められている。海上保安庁が行っている「領海警備」は、「わが国領海内において主権を確保するために行われるものであり、領海内における外国船舶の無害でない通航や不法行為の監視取り締りを任務とする警察活動」とされている。(3)
 自衛隊法は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の任務を定め、自衛隊の行動として防衛出動、治安出動(要請を含む)、海上における警護行動、災害派遣(地震防災、原子力防災を含む)、領空侵犯に対する措置を規定している。
 有事法制関係として武力攻撃事態対処法が平成15年6月成立、国民保護のための法制を2年以内に整備することとし、平成15年11月に国民保護法制の「要旨」が政府から示された。離島島民の保護上の特性がどの様に反映されるかが注目されるところである。
 災害関係の法整備は、一般法としての災害対策基本法のほか、個々の必要に応じて制定された多くの災害関係の法がある。ただし、離島を個別対象とした災害関係法はない。(4)
 離島振興法は、法の目的としてわが国の領域、排他的経済水域等の保全、海洋資源の利用、自然環境の整備等に重要な役割を担う離島の役割を評価し、離島の振興措置を図っている。なお、奄美群島・小笠原群島・沖縄については、特別措置法により振興が推進されることになっている。







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