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(2)南西諸島及び周辺島嶼群
 台湾は、南西諸島特に尖閣諸島について、「釣魚台列島を掌握すればわが国の領海を広げることができ、台湾の海上防衛線が拡張され、国防上大きなプラスとなる。戦略的意義については、釣魚台列島は国際航路に近く、西太平洋諸島につながり、南西諸島と台湾を結ぶ重要地点にあり、また日本および沖縄よりも、台湾および中国大陸に近いため、ここを掌握することは、わが国の海洋権および太平洋への進出にも大きな影響を与える。よって、国防全体を視野に入れた防衛的価値から見ても、海洋権発展の戦略的意義から見ても、欠くことのできない非常に重要な地域である。」(5)と評価している。また米国は、「沖縄に駐留することは、輸送時間が大幅に短くなり、朝鮮半島や台湾海峡にもすばやく到達できる。例えば、沖縄から韓半島に航空機により2時間で移動できるのに対し、グアムからは5時間、ハワイからは11時間、米国本土からは16時間かかる。また、米西海岸からこの地域に船で移動すると21日間もかかる」(6)と北東アジアの安全保障上の要的存在と認識している。
 
ア. 1,000km以上にわたる島嶼線に並行する南西シーレーンの存在
 南西シーレーンとは、マラッカ海峡からバシー海峡を経て南西諸島近傍を通過して日本本土に至る経路で、わが国にとって中東地域からの石油輸送の大動脈である。
 
イ. 中国及び台湾との接近性
(1)中国の「三次元の戦略国境の追求」構想(注1-6)の直接的影響を受けるおそれがある。
(2)中台紛争が生起した場合、大量の難民が来島する外、沖縄本島以南の各島嶼は軍事的影響を受けやすく、また上記のシーレーンの利用は困難となる。更に、周辺事態法の発動に伴い米軍に対する支援活動の拠点としての役割が増大する。
(3)大陸棚や尖閣諸島を巡る係争(注1-7)は、漁業、海底資源あるいはシーレーン利用などわが国の安全保障上多大の影響を及ぼし、また各島嶼の生活基盤を脅かすことになる。
 
ウ. 多数の活火山離島の存在
 西日本火山帯の琉球弧であり、火山フロントは霧島火山から南西側に延び沖縄鳥島付近まで存在している。フロント直下の深発地震面の深さは約100kmである。
 
(注1-6)中国の「三次元の戦略国境の追求」構想(7)
 
図1-2 中国が主張する第1及び第2島嶼線
 
 『解放軍報』に掲載された論文によると、「戦略国境は国家と民族の生存空間であり、戦略国境を追求することは国家の安全と発展を保証する上で極めて重要である。また、国境は総合的国力の変化にともない戦略的国境線の範囲は変動するものであり、陸地、海洋、宇宙空間から深海に至るこれら三次元的空間は安全空間、生存空間、科学技術空間、経済活動空間として中国の安全と順調な発展を保証する戦略的国境の広がりを示すもので、国益はその拡張された勢力圏の前線まで拡大されており、戦略的には国境線の拡大を意味する」として図1-2のような島嶼線を表明した。すなわち、第1島嶼線は中国の近海の外縁、第2島嶼線は中国軍が外洋に進出する場合の目標線として設定した。
 
(注1-7)尖閣諸島を巡る係争(8)
 尖閣諸島は東シナ海に浮かぶ我が国固有の領土で魚釣島、久場島、大正島、北小島、南小島等の島々からなる。一番大きな魚釣島から石垣島までの距離は170km、沖縄本島まで410km、台湾までは石垣島と同じく170kmで中国大陸までは330kmである。
 尖閣諸島は、1885年以降政府が再三にわたり現地調査を行ない、これが無人島であり、かつ清国の支配が及んでいないことを確認の上、1895年に正式にわが国の領土に編入した。なお、サンフランシスコ平和条約においても、尖閣諸島はわが国が放棄した領土には含まれていない。
 しかし、中国政府及び台湾当局は、1970年後半東シナ海大陸棚の石油開発の動きが表面化するに及びはじめて尖閣諸島の領有権を問題とするに至った。1978年、日中平和友好条約締結の交渉中、突然約100隻の中国漁船が尖閣諸島に接近し、領海侵犯、領海内不法操業を行うという事件が発生した。また、1990年には尖閣諸島の領有権を主張するために、台湾船2隻が領海内に侵入するという事件が発生した。1996年以降、台湾・香港等で「保釣活動」と呼ばれる領有権主張の活動が活発化した。1997年には30隻の台湾抗議船等が尖閣諸島に接近、そのうち3隻が警告を無視して領海内に侵入した。1998年には、香港及び台湾の抗議船等6隻が尖閣諸島領海付近に接近した。
 
(3)小笠原諸島及び周辺島嶼群
 我が国の排他的経済水域の約3分の1を確保し、同諸島周辺海域を航行する船舶にとって緊急時の重要な寄港地であることなどの国家的役割がある。伊豆諸島の海域は約2万km、わが国の領海の約6.5%、排他的経済水域は約51.9万km、全体の約13.5%を占めている。小笠原諸島の海域も含めると、領海の約11.6%、排他的経済水域の約45.0%という広大な海域となる。そこにはわが国屈指の好漁場が形成され、地元漁船だけではなく全国の多くの漁船が操業している。さらに、水産資源はもとより大陸棚諸資源及び各種エネルギーの開発・利用など、多くの可能性を有している。外国と直に接するこれらの島々は、そこに人が居住することにより、密航・密輸等犯罪の防止機能をも担っている。(9)
ア. 約1,000kmにわたる島嶼線に並行して南東シーレーンの存在
 南東シーレーンとは、スンダ及びマカッサル海峡を経由し、また状況が極めて悪化した場合にやむを得ず採用するオーストラリア南部を迂回して日本本土に至る経路であり、何れも小笠原諸島及び周辺島嶼群の近傍を通過する。
イ. 大陸棚の存在
 小笠原諸島の東側や沖ノ鳥島の南側など6つの地域で計約65万平方kmの大陸棚が存在している。大陸棚には、コバルト、合金に使われるマンガン、銅やニッケルといった鉱物が現在の国内消費量の数百年分が、また石油に代わる燃料として期待されている「メタンハイドレート」という化合物も大量に確認されている。(10)
 しかし、数年来中国により数回にわたり海底資源調査活動が行われ、また中国の第2島嶼線に位置している。
ウ. 多数の活火山離島の存在
 東日本火山帯の伊豆−小笠原弧であり、太平洋プレートが沈み込み深さ100〜110kmの深発地震面の上には火山フロントがある。
 
第一章 脚注
(1)(財)日本離島センター編 「離島振興ハンドブック」平成8年3月
(2)国土審議会第1回離島振興対策分科会配布資料4「離島の果たす多面的な役割」、
http://www.mlit.go.jp/singikai/kokudosin/ritou/1/ritou_shiryou.html
(3)北海道公式ホームページ:「北方領土の基礎知識」から抜粋
(4)「我が子に伝える誇りある近代史」第4章「戦後以降」
第4話 北方および南方の領土問題 3. 竹島問題:
http://wwwi.netwave.or.jp/~mot-take/kindaishi.htm#4_5
(5)http://www.roc-taiwan.or.jp/news/diao/index.html
「公平に釣魚台列島問題を論ずるために」から抜粋
(6)「世界日報」2002年01月10日「沖縄のページ」から抜粋
(7)「解放軍報」(1987年4月3日)に掲載された徐光裕による「合理的な三次元的戦略国境を追求する」の論文を紹介した(財)平和・安全保障研究所の研究資料(2001年3月)から抜粋
(8)外務省「尖閣諸島の領有権についての基本見解」
(9)東京都「小笠原諸島振興開発審議会」資料「離島振興の基本的考え方」から抜粋:http://www.soumu.metro.tokyo.jp/05gyousei/
(10)朝日新聞(2003.06.06)
「大陸棚の拡張ピンチ、地質調査が条約の期限に間に合わず」から抜粋







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