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(6)台湾における日本語普及の促進
 世界でもっとも普及している言語は英語であろうが、世界語としての英語の現状は、大英帝国とパクス・アメリカーナの結果というばかりではなく、英国がいわば国策として推進してきた言語戦略の賜物でもある。英国は意図的に英語を世界語にする政策をとっており、今日でもそのための努力を継続している。
 日本人は、国際化社会に対応するために、英語をはじめとする各種外国語の学習、普及に努力しているが、日本語の流通範囲の拡大、普及程度の向上により日本人が日本語で容易に国際コミュニケーションをとれるようにする施策を国策として積極的に展開しているとは言いがたい。
 日本が、外交政策の一環として日本語の普及策を積極的に実施する場合、その受け入れが容易で、比較的に効果を期待できる国の一つが台湾であることは間違いない。台湾には、すでに「哈日族(日本大好き族)」と呼ばれる若者がいて、日本の流行を取り入れることに抵抗感が少ないばかりでなく、大学教育での第二外国語として、また高等学校教育で学べる外国語として、日本語が定着しつつある。
 こうした傾向を積極的に支援し、台湾における日本語学習熱のさらなる高まりを作り出すことは、日本にとって好ましい結果をもたらすものと期待できる。このため、公的資金で設立された日台文化交流センターが、台湾での日本語教育の向上と普及のための短期、中期、長期の戦略をたて、相当の予算をつぎ込んで日本語のさらなる普及を図るべきである。これもまた、台湾における対日関心の高まりを実現し、日台交流の基礎を確立する施策でもある。
 たとえば、台湾には菊池寛賞を受賞した故・呉建堂氏が中心となって活動していた和歌の会「台北歌壇」があるが、会員には高齢者が多く、若者の参加は多くはない。ぜひ、ビジネスのための日本語学習を超えたこうした和歌などの活動への支援を行うべきであろう。また、中国語と日本語対訳の書籍や雑誌の発刊についても、積極的な支援が必要である。
 
(7)修学旅行の交換と地理・歴史教育の見直し
 今日の日本では高等学校、さらには中学校レベルでの海外修学旅行の実施は珍しくなくなった。その訪問先として、台湾は最もふさわしい地域の一つである。対日感情が悪く、反日教育が行われている国への修学旅行では、参加した生徒が祖国日本に嫌悪感を抱く可能性があり、逆に現地での反日・嫌日感情に直面して、相手国に反感を抱いて帰国してくる危険性もある。
 その点、近隣国のなかで対日感情が最もよい台湾では、そうした懸念が少ない。また、近代における日台関係と、両国の交流の史跡をたどることで日本の近代史を改めて学ぶ契機とすることができる。経済的・身体的負担も比較的軽いので、異文化理解、国際交流体験普及の面から、台湾への修学旅行の派遣促進は望ましい。また同時に、台湾から日本への修学旅行受入れの促進も検討すべきである。修学旅行を通して、台湾の若者の間における皮相でない日本への関心を高める契機にすることもできるだろう。
 しかしながら、教育を通じての相互理解としては、むしろ地理・歴史教科書こそが基礎になる。この点、台湾で李登輝政権末期から始まった中学校社会科の「認識台湾」のテキストは、日本統治時代の台湾の社会状況をまことに客観的、冷静に記述している。植民地支配による台湾人差別の現実を、感情的になることなく指摘しながら、殖産興業、衛生管理、時間厳守、法治主義の普及など肯定的側面をも紹介している。この点、同様に日本による支配を受けた近隣国の反日教育との差は余りにも大きい。台湾人の親日感情の淵源が教育にあることが痛感されるのである。
 一方、日本の学校教育において、台湾について語られる部分は非常に小さく、日本との交流の密接さに見合った時間とスペースを台湾のために割いているとは言いがたい。明治以後の日台関係はもちろんであるが、漢民族として台湾に最初に政権を立てた鄭成功の母が日本人であるなど、17世紀にさかのぼって、相互の密接な交流について、日本の歴史教育で紹介すべきであろう。
 教育現場における相互理解促進のためには、日台双方の教育者交流の促進・強化も必要になる。この点、日台教育交流会がすでに長年にわたって日本から台湾への教育者の訪問団を組織し、台湾において毎年定期的に、初等・中等教育に携わる現場の教育者間の合同研究会を実施していることは注目に値する。そこでは、社会科教育における台湾理解の促進といった狭い範囲の交流ではなく、一般の教科教育についての情報交換や教科教育法の実践例の紹介など、実質的な教育者交流が続けられている。こうした機会は民間で継続されることも必要だが、公的支援の下にさらに拡大・強化されるべきであろう。
 
(8)台湾での日本の学術研究に対する評価を引き上げる
 あまり知られていないが、現在の日台間の学術交流で、大きな課題、障害となっていることに、台湾において、社会科学分野における日本の学術研究水準に対する不当に低い評価がある。
 すなわち、両国の交流は主として中国語を専門的に学習した日本人学者と、日本語を専門的に学習した台湾の学者が担うものとなっているが、このことが台湾における日本の学術研究に対する評価を低く抑える原因となっている。このため、経済交流、日系企業への就職のために日本語学習を志す台湾の人々は少なくないが、研究者を目指す台湾の若手エリートの中で日本語を学習する人材は多くないのである。一部の科学技術分野を除けば、真剣に学術研究を志す台湾の若者は日本よりは圧倒的に米国を志向している。
 実際、日本に来ている台湾からの留学生は、経済的に余裕のある者の遊学であるか、日本文化や日本語・日本文学の勉強を志す者に限られ、日本でその他の社会科学研究を志す者は多くない。こうして、日本留学の分野が限定され、日本との人的交流を持つ人材が限定される結果として、さらに日本と台湾の学術交流の窓口が狭まるという悪循環に陥っているのである。
 国際的な学術研究としては、英語による発表が一般的であるため、台湾でも学術研究のエリートは日本語ではなく英語運用能力の習得を目指す。その結果、台湾で人気の留学先は、米国、英国、カナダ、オーストラリアとなっている。
 このため、台湾の学界では米国留学経験者の比率が圧倒的に高く、日本研究の学者でさえ学術研究用語として英語を使えるかどうかが、就職の機会を左右する結果になっている。先輩と同じ大学に留学していた者や、同じ指導教授に師事した経験がある者が、後輩として大学界に就職をする機会が多くなるため、台湾の学術界では、時とともにますます米国留学組の影響力が大きくなる。
 また、台湾は政界と学会の交流が頻繁で、学者が特別行政職につくことは珍しくなく、その後また学術界へ戻ることが容易であるため、米国留学組が支配的になる傾向は学術界にとどまらず、行政、立法の領域でも一般的になっている。
 したがって、日台関係の緊密化実現のためには、台湾のエリート層における日本への関心、学術界における日本評価を高める努力が必要である。
 台湾の学術界における対日評価を高めさせるためには、短期的には、台湾で開催される学術会議に、中国語の能力を問わずに優秀な日本人学者を派遣し、これに日本側の負担で能力の高い通訳を随伴させることが必要である。本プロジェクトが設置を提言する「日台文化交流センター」では、こうした高度な専門用語に対応できる通訳を養成し、かつ派遣する経費負担を担うことが期待される。
 また、日本での研究成果が日本語でしか発表されなければ、日本語を学ばない台湾の学者、学生が日本の学術研究水準に注目するチャンスがほとんどないことは当然である。このことが、台湾で最優秀の若者の日本に留学する機会が少なくなる一因でもある。したがって、日本は公的支援の下に日本の最高水準の学術研究を中国語に翻訳して台湾でも出版される機会を増やし、台湾の優秀な学者、若者たちがもっと日本に関心を持つ機会を作らなければならない。そうすることで、優秀な台湾の学者、学生の日本へ留学する機会は自ずと増大するだろう。
 
(9)日台学術共同研究の推進と留学支援の拡大
 これとは別に、両国が共通に抱える課題である、少子高齢化、地方分権改革、環境問題などのテーマで、日本台湾双方の学者を含む常設の学会や研究会を増設して、共同で課題解決にあたることも有益である。日本の側でも、日本語の運用能力の如何に無関係に、台湾の優秀な研究者を日本に招いて、必要があれば通訳を介して、共同研究を推進するように積極的な働きかけをすべきである。そのためにも、「日台文化交流センター」は必要な支援を提供できるはずである。
 こうした共同研究にふさわしいテーマの一例として、日本統治時代の史跡の研究を挙げることができる。文献的には日本の図書館、関連施設に資料がある一方で、現地の調査が必須であることから、共同研究の必然性が高い。また、日本統治時代の歴史は、台湾史の不可欠の要素であるとともに、日本にとっても国史の一部をなす分野である以上、ハイレベルでの学術研究の成果が望まれるところである。したがって、「日台文化交流センター」はこうした共同研究への積極支援も図るべきだろう。
 すでに活躍している、あるいはこれから活躍しようとしている台湾における日本研究者、日本留学の学者、学生に対する日本からの支援を拡大することも喫緊の課題である。すなわち、すでに日本に関心を持ち、実績を作りつつある彼らに学術研究で活躍の機会を与え、台湾社会において日本留学組、日本研究者が活躍できる素地を作る支援を日本がすべきである。台湾の学会では、米国留学組が支配的であるため、日本留学組は不利な状況に置かれている。したがって、台湾の各大学の日本研究所や日本研究者への資金援助、資料提供で研究レベルの向上を図り、寄附講座で活躍のチャンスも拡大して、日本留学組にさらなる意欲を高めるように支援すべきである。
 現状では、日本の対台湾交流の窓口となっている交流協会が台湾からの留学生に供与する奨学金は、実質的に国公立大学への留学に限定している。このため、台湾からの留学生が、研究分野や指導教授などの理由で私立大学での研究を望んでも、希望の大学で研究する機会が与えられていない。したがって、同奨学金に私立大学枠を設置するなどして、台湾からの日本留学生の支援強化を図る必要がある。また、台湾からの留学生を対象とした安価で多様な各種研修を実施して、日本滞在中にさまざまな研究、体験ができる体制を作ることも必要である。既存の制度の変更が困難であるとすれば、この点も「日台文化交流センター」が支援することができる。
 
(10)高等教育機関の相互乗り入れと日台学生会議の設置
 また、教育における日台相互交流としては、台湾の高等教育機関を日本に開設、日本の教育機関を台湾に進出させることも考えられる。特に少子高齢化のなかで、日本では、経営難の大学、短大が増大する傾向にある。これを台湾資本でてこ入れして魅力ある高等教育機関にすることは日本の教育界にとってプラスであるし、さらにはそうした教育機関を、日本における台湾研究、日台学術交流の拠点とすることが考えられる。
 逆に、日本の高等学校もしくは大学の一部の課程を台湾で開設し、日本で当該高等学校、大学を卒業させる方式も国際経験を持つ若者を増大させ、グローバル化する時代にふさわしい教育環境を充実させるうえで有意義である。
 これらとは別に、日台学生会議を設立して、国際問題、時事的課題などをテーマに、日台双方から学生30〜40名募集し、日台を相互訪問して研究・討論、見学する会議を定期開催することも実現性が高く、それほど大きな組織や人員、予算を用いなくても大きな効果が期待できる。







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