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3. 日台の経済関係から見た損得
《日中台の経済三角関係》
 経済的な側面で見ると、台湾と日本の関係は深い。2002年の貿易総額は約393億ドル。台湾にとって日本は最大の輸入相手国であり、153億ドル程度の赤字である。これに対し、台湾と大陸間は同年、約374億ドルの貿易総額で、台湾が215億ドル程度の黒字になっている(台湾政府経済部・大陸委員会発表資料)。すなわち、台湾の対日本赤字額はそのまま対大陸貿易黒字額で埋め合わせている勘定だ。日本の対中国貿易が赤字である現状からすると、台湾貿易の黒字は大きな意味のある数字である。
 台湾企業は植民地時代からの意識で日本製品への信頼度が高い。その結果、台湾企業は電気、自動車などのパーツ、化粧品、薬品などを日本から輸入しており、これらが台湾の対日赤字の原因になっている。しかし今後は、大陸製品への依存度が高まり、日本からの製品、商品輸入を減らす可能性もある。
 そうなれば、日本にとって台湾から稼ぐ黒字分が大陸に行ってしまうことになる。台湾企業の大陸志向を抑制する上でも、台湾人の日本への信頼度を高め、日本製品につなぎとめる行動に出なくてはならない。そのためには、貿易の垣根を低くする日台のFTA構築がぜひとも必要になってくる。
 
《ASEANに伸びる中国の食指》
 中国は、経済力を背景にASEAN、インド、オーストラリアとFTA(自由貿易協定)締結に向けて交渉を始める構えである。特にASEANとは2000年に早くも首脳会議の席でFTAを提唱、翌年には、「今後10年以内に中国ASEAN地域を構築する」との方向で合意を取り付けた。2003年のASEANバリ会議では、経済的な結びつきから集団安保まで視野に入れている。メキシコ・カンクンでのWTO(世界貿易機関)新多角的通商交渉が決裂した現在、地域ごとのFTAが今後、大きなウエートを占めてくるだろう。
 ところが、こうした中国のアジアFTA構想の中で、台湾は一切無視されている。台湾は日本、米国とともに、ASEANとFTA交渉に入ることを望んでいるが、中国は政治的な理由から妨害に出ている。石広生対外経済貿易部長は「中国と国交がある国が台湾との経済貿易関係を結ぶ場合、すべて『一つの中国』の原則を守らなければならない。これらの国々が台湾とFTAを締結すれば、政治的な矛盾は避けられない」と脅している。
 しかし、そうした脅しがあっても、台湾はASEANとのFTAを考慮しないわけにはいかない。中国が韓国、日本とともにASEANを引き入れ、台湾抜きの「東アジア共同市場」を構築してしまったら、疎外感はいっそう強まるし、生存にもかかわる。その前に、なんとしてもASEANとの関係を強めておく必要性を感じていることだろう。
 また、民進党政府は経済安保の観点から、国内企業がこれ以上大陸に進出することを望んでいない。そのためには、FTAによって企業の進出先、資本の流出先を広げたいとの意図がある。陳水扁総統自身が、投資のリスク分散とグローバル化の早期実現に向け、ASEAN諸国とのFTA締結を主張し、政府各部門に企業と協力して東南アジアへの投資を拡大するよう指示している。
 
《悪くない台湾とASEANの関係》
 幸い、台湾とASEANとの経済関係は悪くない。2000年にはすでに貿易総額が360億ドル、ASEANへの投資総額も400億ドルに達し、中国のASEANに対するそれらの数値は台湾には遠く及ばない。ASEAN側も台湾の存在を無視できないのである。中国の現代国際研究所論文も、台湾の東南アジアにおける経済的プレゼンスについて、「注目に値するものがある」と指摘。その理由として、(1)中国より早く東南アジアに進出し、台湾ビジネスマンのネットワークがある、(2)金融、航空のネットワークがある、(3)二重課税防止の取り決めなど投資の保証ネットワークがある−を挙げている。
 米国のブッシュ大統領は2002年10月に、ロス・カボスでのAPEC首脳会議でASEAN各国首脳と会い、「経済改革や自由市場の開放などに積極的に取り組むことを条件に、米国はASEAN各国との間で個別にFTAを締結したい」との構想を発表した。米国がASEANとの関係を強める機会に乗じる形で、台湾は、ASEANとの関係を強めていくことも考えられる。
 他方、台湾は2003年8月、中米の外交関係樹立国であるパナマとFTAを締結(2004年1月発効)した。この先、米国とのFTA構築に向け努力を集中してゆくに違いない。陳水扁総統は2002年4月に、米国のアルドナス商務次官と会見した際、「中国への過度な傾斜を避けるため、台湾は米国、日本とFTAを締結するのが望ましい。そうすれば、三国の共同利益が守られ、アジア太平洋地域の安全とバランスが保たれる」と強調、米国とのFTAに強い意欲を示している。
 2003年秋、民進党の陳総統がパナマ訪問の途中、国民党の蒋介石元総統の妻で民進党嫌いの故宋美齢女史への弔問を理由に、わざわざ米国に立ち寄ったのは、米国側へのFTA根回しの意味もあったからだろう。米国は中国との関係から、台湾との経済関係強化に多少戸惑いを見せているだけに、陳総統の米国での攻勢は少なからず成果をもたらしたことは確かである。
 台湾は当面、米国とのFTA構築を望み動いているが、これは、米国が同意すれば、日本も追随するだろうとの読みがあるからである。米国、日本を引き込んだら、さらにはリー・クアンユー上級相がいるシンガポールをASEANのFTA構築第一号とすべく攻勢をかけるだろう。そして最終的にはASEAN全体との、いや、WTOのアジア版というべき中国を含めた東アジア全体の共同市場への参入を目指すであろう。
 日本は、台湾企業がさらに中国大陸へ進出し、両岸の経済関係がこれ以上強まると日本の国益に反するとの認識を深めて、もっと台湾とのFTA構築に熱心になるべきである。幸い、日本と台湾との貿易産品は電子・機械部品、化学、プラスチック・ゴム製品、加工食料品などが主であり、問題を起こしやすい一次産品は少ないので、FTA締結に向けたハードルはクリアされやすい。
 WTOの規定では、いかなる加盟国も一定の条件がクリアされれば、区域貿易協定、関税同盟を締結できるとしている。したがって、台湾がWTOに加盟している現実を踏まえれば、日本とのFTA締結に対し、中国がなんら文句を差し挟む理由も根拠もない。日本は米国と共同して、台湾とのFTA構築が「一つの中国」に抵触するものでなく、純粋に経済活動である点を正々堂々と主張し、それに向けて動き出せるはずである。
 
4. 日台関係緊密化と中国の対抗措置
《中国指導部も戦後派の時代に》
 日台が関係を今より緊密化したら、中国は日本にどういう対抗措置のカードが切れるのだろうか。もちろん、その緊密化の程度にもよろうが、少なくとも台湾独立支持などと言わず、日本の植民地時代からの情緒的な対台湾関係などをことさら強調しない限り、中国が激しく反発してくる可能性は低い。したがって、対抗措置も限られていよう。
 対抗措置を推測する前に、今後10年間ぐらいのスパンで見た場合、中国の国情はどうなるかを見通してみたい。2002年秋の党大会で、建国後に学齢を迎えた胡錦濤総書記を中心とする第4世代が党中央指導部を形成し、党内民主を目指した政治改革を進めている。胡錦濤総書記中心の指導部が今後10年は続けば、党権力のあり方も随分変わってくるはずである。
 なぜなら、新指導部はこれまでと違って、だれかが一声かけるとすべて動くような“一言堂”的な支配体制ではない。党内民主が進むとますます冒険的な政治手法は敬遠されてくるだろうし、経済的に成熟国家になればなるほど国際協調を無視できなくなるであろう。まして、中国は2008年に北京オリンピック、2010年に上海万国博覧会を控えており、今後5年くらいは対外的に事を構える状況にない。
 経済的に中国はすでに大国であり、軍事的冒険は自国の損害を免れ得ないことを自覚しているはずである。特に日本は最大の貿易相手国であり、両国の貿易総額はほぼ右肩上がりで増え続けている。2002年の貿易総額は約1015億4000万ドルで初めて1000億ドルの大台を突破した。
 内訳は、日本側の輸出が398億7000万ドル、輸入が616億7000万ドルで、日本側が218億ドルの赤字である。中国にとって米国、日本が1、2位の輸入相手国。一方、日本にとっては中国からの輸入量は米国からの量を抜き、最大の輸入相手国となった。それだけ、日中両国の経済関係は緊密化している。
 日台がその政治的関係を段階的にレベルアップしたからといって、すぐにこの対日経済関係を損なうようなドラスチックな対応を中国が取るとは考えにくい。まして日本に対しての政治的なオプションは限りなく制限される。
 
《中国は対日軍事手段を使えない》
 また日本政府が、WHO(世界保健機関)など政治色が薄い国連関係機関への台湾加盟を支持したとしても、中国側が明確な報復に出ることは考えにくい。反対に、日本のそうした行動が台湾の日本への信頼感を深めることは確かである。
 もちろん、中国の日本に対する軍事的オプションも考えにくい。あるとすれば、直接台湾に向けてであろうが、1995、96年にあったような基隆、高雄周辺海域へのミサイル発射実験という強圧的な姿勢は、胡錦濤新政権下では取りにくいと想像される。
 日本への報復があるとすれば、民間を装った形が考えられる。1978年に日中平和友好条約が結ばれた際、中国側は尖閣諸島(中国名釣魚台)の領有権を内外に主張するために、民間の漁船を繰り出す形で尖閣諸島への示威活動を活発化させた過去がある。今回も、毒ガス処理など戦後処理、尖閣諸島関係に絡めてそうした民間の対日賠償団体、反日活動家を使う可能性はある。
 それよりも報復で一番考えられるのは貿易上、投資上の経済的なものではなかろうか。例えば、関税査察の徹底、セーフガードの発動、輸入検査の厳密化などである。ただ、こうした経済上の対抗措置も、WTO紛争委員会への提訴、自国への報復措置へ発展する恐れがあることを予測すると、やはり困難さが伴う。
 軍事的なオプションを取り得るのは、米国のような超大国か、命の値段が安い発展途上国か、国民の生活など眼中にない独裁国だけである。中国はすでに経済大国になっているため、国際社会の中ではますます理性的に振る舞う必要性を感じ、軍事上のオプションなど選択しにくいと理解しているに違いない。







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