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新規範発見塾 レクチャー・メモ vol.17

 事業名 先駆的情報の創出・発信事業
 団体名 東京財団 注目度注目度5


◎「新規範発見塾」特別編・ロサンゼルス講演
第86回 マンガ・アニメが日本精神の伝道者
 編集部注・本稿は九月二十九日(現地時間)、ロサンゼルスのホテル・ニュー・オータニにおいて行われた「時事通信トップセミナー」における講演を収録した。
 
 七、八年ぶりでロサンゼルスに来ました。
 一週間ほどいますが、UCLA大学で日本のマンガとアニメーションの話をします。それから日米協会でアメリカ人相手に話をしたりしますが、今日はみなさん日本人ばかりですから、ここで話をするのが一番楽ですね(笑)。
 なぜアメリカ人に話すのが大変かというと、通訳付きですから、英語の苦労ではないのです。私の話がなかなか伝わらないことにくたびれるのです。というのは、やはり根本的に文明が違う、文化が違う、思想が違う。どうやら潜在意識のところまでも違うらしい。その中でアメリカ人にわかることだけを言うとなると、ものすごく程度が下がってしまう(笑)。本当にそうなんですよ。そうしないと話が進まない。
 すると、我々はよほど賢いということになるわけで(笑)、実際ボキャブラリーは日本語のほうが良い。優れた表現がたくさんあります。しかし、英語は非常に少ない。
 一例を挙げましょう。ブッシュとゴアが大統領選挙で争って、裁判所まで行くということがありましたね。そんなことをするのは民主主義の恥、アメリカの恥であって、「どちらか潔くしたらどうか」と外務省の元アメリカ大使がいるところで話しました。すると「私もそう思っている。ただし、アメリカには『潔く』という英語がない。アドバイスしてあげたいが、してあげることができない」と言われたので、苦笑したことがあります。
 そこで日本語ができる外国人、あるいは日本人の英語教授の顔を見るたびに、「潔くという英語はありますか」と聞くと、やはりみんな「ない」と言いますね。
 上智大学の渡部昇一名誉教授が「マンリーという言葉が古い英語にある。それが近い」と教えてくれました。だからヨーロッパには「潔く」という感覚があるのでしょう。千年も二千年も戦いを繰り返すと、そういうものが生まれてきます。
 アメリカはまだ二三〇年しか歴史がありませんから、負けた者は負けた者。退場するだけであって、それを飾る言葉がない。言葉がないということは、概念がないということです。しかし、それが日本人にはある。ついでながら、「マンリー」はアメリカでは性差別になってしまうから使えないですね。女性はどうなっているのかと言われる(笑)。
 それは冗談としても、「ダンディー」「マンリー」「フェア」といったいくつかの言葉を混ぜて、ようやく「潔く」に近くなってくる。
 すると、たった一言で表現する言葉をもっている我々の精神生活のほうが深いと言えますね。
 こんなことを言うと、日本人は慎み深いのでとても驚きますが、しかし論理的に詰めていくとそうなるのです。
 なぜ日本のほうが深いのか。谷沢永一さんが『Voice』十月号に書いていたことを援用すれば、次のようになります。「思想」はそもそもどこから生まれてくるか。思想はまず聖典があって、孔子の教え、仏教の教え、イエス・キリストの教え、それをあとに続く人たちがみんなで議論する。そうするといろいろな分派ができるわけです。立派な師がたくさん出て、混ぜているうちに何かが生まれてくる。これが社会思想である。
 
「時事通信トップセミナー」にて
 
 そう言われてみると、アメリカには聖典として今までのところキリスト教の聖書しかない。批判の自由もあまりない。
 日本は聖徳太子の時、西暦六〇四年に十七条憲法ができました。来年(二〇〇四)がちょうど一四〇〇周年ですが、言い換えればその前に日本はだいたい統一していたということです。軍事的に統一し、中国とも距離をおいて精神的に独立しようというとき、十七条憲法をつくりました。
 そのとき聖徳太子はインドの仏教を全部知っていた。解釈書として『三経義疏』という著書がありますからね。それから中国の儒教も、道教も知っている。キリスト教もローマの景教という形で教えは知っています。全部知っていて、かつその時の日本には批判の自由があった。みんなで批判して良いところだけをとって、それを日本の神道の上にのせて、日本精神を創ったのです。それが十七条憲法です。
 おもしろいことに、この十七条憲法はまだ廃止されていません。明治憲法をつくった時に廃止しませんでしたから、今でも十七条憲法は有効なのです。国家公務員をしている私の後輩に読ませますと、「いいことが書いてある。我々はこのとおりやろうと心がけている。ただ、実行していない人がいて、彼らが新聞を賑わしてしまう」などと言っていましたが、要するに今日でも通ずるレベルの高い内容なのです。
 これが日本国民共通の潜在意識の中にある。「和をもって貴しとする」から始まって、「独断専行、一人で決めてはいけない。集団合議せよ」と書いてある。民間にたかってご馳走になってはいけない、ということも書いてある。あるいは民間を使うには時をもってせよ。民間の都合を考えて、農繁期に労働を言いつけてはいけないとか、なるほどと思うようなことがたくさん書いてあります。
 そして面白いことに、精神規定がない。「三宝を敬え」というのはあります。つまり仏と法律と坊主ですね。それから天皇から命令されたときには謹んで引き受けよとも書いてある。しかし、必ずやれ、とは書いていない。態度だけを言っているわけで、ヨーロッパのように「自分の言うとおりやれ、やらないと死刑だ」とはまったく書いていない。極めて民主主義的であり、また極めて知的な決め方だと思います。
 こういうものが、我々の骨肉となっている。それを一四〇〇年前から続けてきた。しかもその間、外国に支配されたことはない。異民族、異文化を強制されたことはない。だから今日本にあるものは、インドのものにせよ、中国のものにせよ、ヨーロッパ、あるいはアメリカのものにせよ、全部好きで採用したものばかりです。
 イヤなものは採用しませんから。自主的かつ独立的に好きなものだけを集めて、それを積み重ねたものが現代の日本精神になっていると思うのです。
 そのような話をUCLA大学でしたのですが、質疑応答に入ると一番多かった質問は、「日本のマンガには暴力とセックスが多い。深い日本精神がその奥にあるというのなら、それは何か教えろ」という質問でした。
 この質問はよく受けるのです。皆さんは安易に「イエス、日本のマンガには暴力とセックスが多くて問題だ」などと答えないでくださいね。
 私の答は、アニメーションは日本では一年間に四〇〇〇本もつくられています。その中にはほのぼのとした物語から、暴力やセックスまで全部ある。ところがアメリカは、その両極端の暴力とセックスだけ買っていく。真ん中は買っていかない。だから日本人は暴力、セックスが大好きだと言うが、とんでもない。全部まんべんなくつくっています。それは日本のレンタルショップに行けばすぐにわかることです。その中から暴力、セックスばかり買っていくことが問題なのです。
 数年前パリで日本のマンガ・アニメ祭をやったとき、暴力とセックス以外のものを紹介したら、ある人が「全部あったのか、知らなかった。我々が偏って輸入し、そういうものだけ見ているのか。悪いのは自分たちだった。よくわかった」と言ったことがあります。そのような現象がアメリカでも起きています。すぐにイエスと言ってはいけません。
 それからもう一つは、日本人に限らずどこの国でも、ショッキングなもの、刺激的なものが娯楽になって出てくるのであって、それはもちろん日常生活ではない。外国人は日本というと、すぐ「サムライ」と言うが、この一五〇年間サムライは一人もいないし(笑)、そもそも江戸時代でも人口の七パーセントしかいなかったのです。







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