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新規範発見塾 レクチャー・メモ vol.14

 事業名 先駆的情報の創出・発信事業
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


紛争の続くコーカサス三国
 最初、私はグルジアに参りました。グルジアに行くにはまずイスタンブールからアゼルバイジャンの首都バクーに行き、そこからグルジアに行くのですが、この辺はまだまだ内戦が続いています。だから飛行機も危ないし、車はもっと危ない。国境の近くに行くと強盗が出るそうです。夜行列車は睡眠薬強盗が出ます。さあ、困ったと思ったら、いい列車が一つあるという話でした。これがアメリカンエクスプレス、アメックスという名前なのです。バクーからトビリシまでたった五七〇キロで近いのですが、そこを一二時間かけて走る夜行列車です。しかも往復四七〇ドルと高い。しかし絶対安全だというので、それにしました。東京−大阪が片道五五〇キロですから、新幹線より高いのですが、確かに安全が売り物で、ピストルを持った護衛官が三人乗っていました。
 
 
 これが、石油の町アゼルバイジャンの首都バクーから、昔、帝政ロシアのコーカサス総督府があったグルジア共和国の首都トビリシまで、一日一往復あるのです。
 私もワールドカップが気になってしようがなかったのですが、その日はたまたま、時差の関係から言うと、昼過ぎごろからサッカーがありました。ところが、その日はいろいろスケジュールがあって、日本対ロシア戦を見ることができませんでした。結果を知りたくてしようがなかったのですが、もう夜行列車へ乗ってしまった。乗ったら一つの車両にコンパートメント(個室)が一五ついています。そして個室にちゃんとテレビが一台ずつついていたので驚いたのです。ところがそれは車内のビデオを放映するためのTV受像機で、いつも同じ男と女が踊って歌っている。
 結果がわからないまま、私はトビリシに着きました。
 そして、日本がロシアに一対〇で勝ったと、トビリシに行ってからわかったのです。トビリシで、英語とグルジア語の通訳を雇いました。イリーナさんという三十歳ぐらいの女性ですが、ものすごくよく英語ができる人で、トビリシの国立大英語科の先生をやっている人です。
 今、グルジアを旅行する日本人はほとんどいないそうです。治安が悪いし、それにロシアからの観光ルートが途絶えてしまったからです。ですから、共産主義時代のほうがグルジアへ行っている日本人が結構いるのです。
 その共産主義時代から日本人にとってグルジアとは何かというと、三つぐらい有名なことがあります。一つは、スターリンの生まれたところです。もう一つは、ワインの美味しいところ。旧約聖書に出てくるぐらいですから、いいものが穫れる。三つ目は、長生き国なんです。そういえば百二十何歳がいたという話を思い出して、イリーナさんに、「ずいぶん長寿国だそうだね、気候もいいし、景色もいいし、食べ物もおいしいから」と言ったら、「最近そうじゃない」という返事です。ちょっと寿命が短くなっている。どうしてかというと、「内戦があります、難民が多いです、テロもあります、心配ごとが多くて、少し寿命が縮まっています」と言っていました。
 先ほど申し上げましたけれども、コーカサスの三国はどの国も紛争を抱えております。アゼルバイジャンには、ナゴルノ・カラバフ問題というのがあります。ナゴルノ・カラバフとは、十八世紀から十九世紀にかけてトルコがアルメニアを弾圧して大虐殺をしました。するとアルメニア人が北上し、アゼルバイジャンの真ん中辺まで行ってしまいました。そこがカラバフというところです。カラバフというのは、日本にたとえれば京都や奈良みたいなところで、すごくいいところでした。トルコに追われたアルメニア人がここに行って住みついてしまったわけです。要するに、京都に異民族が来て住んでしまったようなものでしょう。そして、アゼルバイジャン人はアルメニア人に押し出されてさらに右のほう、つまりバクーのほうにどんどん移動していったという歴史があります。
 ところが、ゴルバチョフの時代、アフガニスタンからソ連は撤退しました。国民に対する撤退の負の印象を消すために、ソ連国民にもう一つ別のものを見せなければいけません。それが外に問題をつくるという常套手段で、ゴルバチョフもやったのです。ナゴルノ・カラバフのアルメニア人に武器と金をやって、アゼルバイジャンからの独立運動をさせたのです。と同時に、大戦争になって、アルメニアのほうがかなり旗色悪かったのですが、ゴルバチョフは戦車を先頭に赤軍をバクーに派遣しました。それで相当殺しています。そのようなややこしい地政学的経緯から発生した内戦をアゼルバイジャンは持っています。
 
石油を狙うアメリカ
 グルジアの今の大統領はシュワルナゼですが、彼はゴルバチョフの盟友でした。ゴルバチョフはエリツィンに政争で破れましたが、その雰囲気をいち早く察知して、シュワルナゼは自分の故郷のグルジアに戻って大統領に立候補した。そのシュワルナゼの前の大統領はもっと自由派だったのです。典型的な西側接近の作家出身の大統領でした。彼を失脚させるためにゴルバチョフがアブハジアというところの、これは民族と言えるかどうかわかりませんが、ここの部族にお金と武器を与えて独立運動をさせたのです。
 それからアブハジアの下に、オセチアンというところがありますが、ロシアはここでもオセチアン族にお金と武器を与えて内戦をやらせています。それがまだ続いている状況で、そういう中に入っていったのです。
 九・一一事件があり、その後アメリカ軍があそこへ入ったでしょう。これはシュワルナゼとアメリカが手を結んだのです。アメリカが欲しいのは石油です。カスピ海の石油をアゼルバイジャン、グルジア、トルコに持っていき、それでトルコの地中海側におろすのです。そのような新しいパイプラインをつくる、そのためのルートをアメリカが押さえたわけです。これまでのバクーの石油というのは、ロシアがつくったパイプラインでロシア領を通って上へ行きます。だから西側に来ない。今度はそうではなく、アゼルバイジャン、グルジア、そしてトルコに持ってくる。トルコも黒海ではだめで、地中海におろさなければいけないのです。黒海は大きなタンカーが絶対通れませんからね。
 どうしても地中海におろす、そういうルートをつくる。アメリカは、それを押さえるために兵隊を派遣しているわけです。九・一一以降、アルカイーダ、タリバンの一味がいるかどうかは知りませんが、この辺でも活動しているということにしています。それでアメリカは行ったのです。
 シュワルナゼがなぜアメリカと組んだかといえば、アメリカと組むことによって国内の統一を図りたい。そういう計算があるのでしょう。そうすると、おもしろくないのはプーチン大統領です。チェチェンの民族問題にロシアは大変苦労していますが、同時にそこにタリバンも入っているという説もありますので、プーチンとしても表向き反対できません。ということで、私の泊まったシェラトンホテルにはアメリカの将校が一〇〇人泊まっていました。グルジアはそういう国です。
 
グルジア人の「ジャポン」「ルシア」「フットボール」
 その中で私はサッカーをテレビで見て、サッカーのもつ政治的意味を考えたのです。首都トビリシから一〇〇キロ近く行ったところに、ゴリというスターリンの生まれたところがあるのですが、そこの帰りに中世の古い城がありました。グルジア人がトルコの侵略と戦った砦もあるところですが、古い城のほとりの川辺につながれた船上レストランでちょっとしたハプニングがありました。隣のテーブルに一ダースぐらいの黒装束のでっかい男たちが座ってビールを飲んでワンワン大騒ぎしているのです。
 みんなピストルを持っている。中には、ケースに入れないで裸のまま、ベルトに差している者もいるのです。通訳の彼女に「マフィアか」と小さな声で聞いたら、「話の内容を聞いていると、どうもポリスらしい」。でも、正体不明だった。とりあえず、どうかぶっ放さないでほしいと思っていたわけです。
 するとその中のリーダー格の大きな男が突然立って、私のほうを向いて日本語で「カンパーイ」と言ったのです。立ち上がったときはびっくりしました。向こうはものすごく酔っぱらっていますから。
 それで、何か言っているのです。私の聞き取れたグルジア語は三つです。「ジャポン」「ルシア」「フットボール」。これでわかりました。ああ、彼らはロシア嫌いだから、日本がロシアをやっつけたので喜んでいるのだ。案の定、そうでした。彼は私に「ジャポン、先生、山下」と言ったんです。それで、握手して、抱きついてきました。「山下」は柔道の山下選手です。
 通訳の彼女に「何を言ってるの」と聞くと、要するに「侍の国日本は、よくぞにっくきロシアをやっつけてくれました」と。一度は戦争で帝政ロシアをやっつけてくれた。今回はフットボールでロシア共和国をやっつけてくれた。私は、日本の柔道を知っている。オリンピックに出た山下先生を私たちも尊敬しているんだという話です。
 写真を一緒に撮ることになり、別れ際にシャンパンを二本もらいました。その人たちはシュワルナゼのテロ対策に関係がある、特殊なシークレットサービス、特殊な護衛官たちなのです。オランダの護衛官のプロを雇って、いろいろ教わった後の送別会でした。







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