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剣詩舞の研究
石川健次郎
 
特集・幼少年の剣詩舞を考える
(おことわり)
 今月号は、先月に引き継いで「’05剣詩舞の研究」を掲載する予定でしたが、現在“指定吟題”全体の選考に鋭意検討を致しております。
 そこで、その間に今話題を呼んで居ります“小・中学生の邦楽教育”に関連して、幼少年の剣詩舞についてもその本質を考えてみることに致しました。
 
子供の将来を豊かにするもの
 戦後50年、我が国の子供の情操教育であった“稽古ごと”の様子ががらりと変りました。現代の教育と云えば学校が中心になって、小学校、中学、高校、大学の一貫した学歴社会の路線が優先して、子供の人格を豊かにするために家庭がかかわった教育が次第に疎遠になってきました。
 その最も大きなものが“稽古ごと”だと云えるでしょう。
 人間が成長するために必要な知識や経験は既に幼少年期から始まっています。とは云っても、まだ自分で将来に対する判断力のない子供にとっては、保護者が適切なアドバイスをして、そして次第に子供に選択させることが大切です。その最初は親が自信を持って子供に何を与えるべきかを考えなければなりません。
 その答えは勿論一つではなく、色々なものが考えられますが、例えば「精神性」「芸術性」「体力作り」などの中から、それらが単独ではなく、からみ合った複合性を発揮するものが必要です。
 いまここで“稽古ごと”としての「吟剣詩舞」を考えて見ましょう。
 まず「精神性」について云えば、日本の古典芸能に共通した芸事として、習う者が指導者(師)に対する礼儀を大切に心がけ、また同僚には親しみの心を養います。
 そして最も有益なことは、日本(東洋)の精神文化である、漢詩を始め、多くの詩文学に接することで「芸術性」は勿論、知識としての教養を深めることで、身近なことから深淵なものまで、習ったことが大きな財産となって本人に還元されます。
 一方、剣舞、詩舞の舞踊的習練では、体力作りと共に、正しい姿勢で日常の立居振舞いが美しくなり、更に体全体で表現すると云った、従来の日本人には欠けていた豊かな自己表現の効果が開発されます。
 
幼少年に課題した剣詩舞
 日本吟剣詩舞振興会では昭和53年に第一回「全国剣詩舞コンクール」を実施してから、昨年の平成15年度まで26年間の実績を積み重ねてきました。
 その間に幼少年に対して課せられた「指定吟題」は、最初の4年間は、剣舞・詩舞とも各部門(少年、青年、一般一部、同二部)は共通の五吟題が指定されました。しかし昭和57年度からは「幼・少年の部」には三吟題、「青年、一般一部、同二部」には五吟題と、二通りに分けた指定吟題が選ばれるようになり、つまりは幼少年に相応しい選曲が行われることになりました。
 さて、それではどの様な作品が幼・少年向きの吟題なのであろうか・・・。これにはいろいろな意見がありますが、この問題の分析は後にして、次に今迄の26年間の実績から三回以上重複して指定された曲目を、剣舞、詩舞に分けて列挙しました。(選曲は昭和53〜56年度分も含めました。)
 まず『剣舞』作品では、
(1)不識庵機山を撃つの図に題す(頼山陽)、(2)城山(西道僊)、(3)日本刀を詠ず(徳川光圀)、(4)九月十三夜陣中の作(上杉謙信)、(5)大楠公(徳川景山)、(6)日本刀(大鳥圭介)、(7)将に東遊せんとして壁に題す(釈月性)、(8)八幡公(頼山陽)、(9)金剛山(山岡鉄舟)、(10)偶成(大鳥圭介)、(11)爾霊山(乃木希典)、(12)西南の役陣中の作(佐々友房)、(13)家兄に寄せて志を言う(広瀬武夫)、(14)楠公子に訣るるの図に題す(頼山陽)、(15)泉岳寺(坂井虎山)、(16)白虎隊―抜粋(佐原盛純)、などが挙げられます。
 
剣舞幼年優勝「豪雄義経」神尾 龍
 
剣舞少年優勝「豪雄義経」長坂理絵
 
 剣舞の場合は、刀を扱った演技が中心になる関係で、作品も有名な武将による、よく知られた曲が選ばれることが多い。従って子供が主役になるものとしては、「白虎隊」とか、「楠公子に訣るるの図に題す」の正行の部分などです。また最近の指定吟題では「鞍馬の牛若」(松口月城)が幼少年向作品として取上げられました。
 次に『詩舞』作品では
(1)富士山(石川丈山)、(2)弘道館に梅花を賞す(徳川景山)、(3)山行(杜牧)、(4)江南の春(杜牧)、(5)太田道灌蓑を借るの図に題す(不詳)などがあり、続く二回の重複では、(6)宝船(藤野君山)、(7)九月十日(菅原道真)、(8)寒梅(新島襄)、(9)楓橋夜泊(張継)、(10)峨眉山月の歌(李白)、(11)折楊柳(楊巨源)、(12)春日山懐古(大槻磐渓)、(13)青葉の笛(松口月城)、(14)富嶽(乃木希典)、(15)九段の桜(本宮三香)、(16)春暁(孟浩然)、(17)松竹梅(松口月城)、(18)舟中子規を聞く(城野静軒)、(19)親を夢む(細井平洲)、(20)夜墨水を下る(服部南郭)、(21)太平洋上作有り(安達漢城)、(22)武野の晴月(林羅山)、(23)和歌・ほろほろと(行基)、(24)春日家に還る(正岡子規)、(25)胡隠君を尋ぬ(高啓)、などが挙げられました。
 詩舞の場合は作品の構成内容が剣舞と異なり、風景詩でも教訓的なものでも、又物語り性のあるものでも、本来は作者(成人)が基本になって詠まれたものなのに、作品の観点を成人から子供へと移して舞踊構成することが割合い可能です。勿論こうした場合は構成に十分な配慮と研究が必要です。
 舞踊作品の本質を考えれば、当然もっと幼少年向作品が欲しいわけで、例えばサンプルに取上げた「春日家に還る」や「ほろほろと」の様な作品は積極的に発掘したいものです。
 さて、以上挙げた吟題が、それぞれ幼・少年向きの剣舞や詩舞として具体的な舞踊作品として評価されるには、それ相当の構成、振付、演技指導が必要となります。
(以下次号)
「参考写真は平成15年度決勝大会より」
 
詩舞幼年優勝「胡隠君を尋ぬ」服部怜海
 
詩舞少年優勝「胡隠君を尋ぬ」尾嶋美紀







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