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民族服と呪術・・・住田イサミ
 ヤミ族の民族服には、男性のtalili(タリリ)(袖無し上衣)とkekjit(ククジツ)(褌)、女性のayob(アユブ)(袈裟衣)とkekjit(ククジツ)(腰巻き)がある。これらの民族服は、ヤミ族の女性たちが自紡の麻糸や木綿糸で自作の腰帯機を使って、独自の技術と方法を用いて織った布で製作している。その布は遠目には単純な縞文様に見えるが、よく観察すると、糸の色を変えるという色彩だけの縞ではなく、それぞれの縞は織紋になっており、しかも一種類ではなく、何種類もの織紋が組み合わされた白と黒および紺の縞文様に織り出されている。この布で作る民族服にかかわる呪術mipaspaspas(ミパスパスパス)について述べるものであるが、それに先立ち衣の通過儀礼を紹介しょう。
衣の通過儀礼
 
(1)タリリ(袖無し上衣)
 
(2)アユブ(袈裟衣)
 
(3)アノコ繊維を抜く
 
(4)麻繊維を績む
 
(5)麻糸の紡錘
 
(6)機織り
 
 ヤミ族は子供が男女とも満一歳になったころに、着初め式を行う。そのとき男児は、トルコブルーのガラス玉(mazaponai(マラポナイ))を麻の縒り糸に通した首飾りをかける。女児は瑪瑙玉(olo(オロ))、煉瓦色のガラス玉(molag(モラグ))、赤いガラス玉(savong(サボン))を麻の縒り糸に通した首飾りをかけ、さらに麻の紐を下腹に巻いて結ぶ。この紐をtaed(タウル)と呼ぶが、将来、腰巻きを着けるための紐で、これ以後、生涯つけたままになる大切なものである。
 やがて成長して五〜六歳になると、男児は母親が織った褌を締め、女児は腰巻きをまく。このとき母親は呪文として、「私はあなたを助けて褌(あるいは腰巻き)を着せてあげます。あなたが長生きして成功するよう願っています。」と祈る。
 いよいよ成人すると、母親は男女それぞれにタリリ((1))やアユブ((2))を着せることになる。男性には飛び魚漁の大船組員になるとき、母親がタリリを織って着せる。女性には結婚(初婚)するとき、母親が織ったアユブを贈る。
 これらの儀礼に使う民族服はanokoe(アノコ)(異子麻)で織ったものがもっともふさわしいといわれている。その理由はアノコという発音は「めでたい」という吉祥語に通じるからであるといわれる。とはいえ、アノコの麻布は堅いので着心地がよくないため特に子供には不向きである。それにもかかわらず、我慢させてまで着せるのは、吉祥にあやかろうとする親心からであろう((3)(4)(5)(6))。







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