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自然と文化 73号

 事業名 観光資源の保護思想の普及高揚
 団体名 日本ナショナルトラスト  


IV 多い古典歌舞伎の演し物
 帝劇では大半の戯作は歌舞伎の古典と現代作品が圧倒的に多かった。杉浦善三『帝劇十年史』は帝国劇場十年の演し物は右田寅彦と益田太郎冠者によみものが多いと述べている。私の手許には大正七年頃から昭和五年頃までの筋書集が主としてある。たしかに筋書集では四分の三くらいが古典歌舞伎の台本によって構成されている。新古典的な作品として幸田露伴、岡村柿紅、福地桜痴(みだれ焼)、高安月郊、三遊亭円朝、武者小路実篤、永井荷風(「旅姿思掛稲」)。
 永井荷風の帝国劇場への作品「旅姿思掛稲」は珍しいといえば珍しいものなので紹介しておこう。
 
大正一四年五月一日発行『絵本筋書』からの益田太郎冠者作「ドッチヤダンネ」。薄拙太郎舞台装置が見える
[筆者蔵]
 
 四代目市村竹之丞は至極の美男で、伎倆も頗る上手であったが、幼児より仏道に心を寄せ、密かに出家の情願(ねがい)を懐いているので遂に二十五歳の時、市村座における西行法師発心(ほっしん)の狂言を名残に、剃髪して仏心と名を改め舞台より直ちに行脚の途を上り、京都叡山で勤学して、天晴れ知識となった。一年江戸へ帰るさい、旅路を重ねて六郷辺りに辿りつき、長途の疲れを休める中、忽然とした旅姿の若い女性が現れた。彼女は江戸に下る途中、供にはぐれて困るから次の宿まで送ってくれという。が、其れは出家には迷惑至極、供の者を待ち合わすがよいと云う伝心の詞を機(しお)に、狎れ(なれ)狎れしく彼に言い寄り、己が素性と出家の来を語って迷いを覚まそうとする彼の言葉を聴き入れず、執念深く纏って来るので、さては変化の仕業かと、数珠押揉んで(もんで)つめよった法力に娘は是非なく白狐の化身で、伝心の姿に恋想したことを打ち明け、果ては野獣の形相を表して飛び掛ったが、伝心の多年修行の法力に打ち負けて、何処ともなく姿を隠した。後に入相の鐘一しきり、心耳に徹して、響いて来る。
 という訳で当時として見れば、決して珍しい作品ではなかったが、やや一世紀も経って見る時、帝劇の建物が機能を失ったとすると荷風の作品は、同時代のモダンを否定したものだけに却って現在では新しく見ることも不可能ではないという感じがする。
 但し大正十四年九月の舞台は趣きを異にしている。第一が「吉田御殿」一幕、第二は新時代劇「伊勢音頭恋寝刃」二幕となり、第三はソレリタス新作「高速度喜劇」五種、女史洋楽部員、第四ジニショウン西洋舞踊数種。
 「時は金なり」令嬢桜子の居間、野村一が就職したので花束を持ち、柄になく自動車で訪問。意中で語り出す度に、下女の取次ぎで運転手が自動車賃を催促。鍛幕(がま)口を忘れた野村は自動車を待たせる。時は金なり。賃金はどんどん高くなる、運転手は怒鳴るので、野村は自分の恋を桜子に打明けたまま、自動車賃が心配なので令嬢の返事も待たず帰る。
 セレリタスというのは益田太郎冠者のペンネームであろう。薄拙太郎という舞台装置も並んでいるのがおかしい。太郎冠者の込めた皮肉であったのかも知れない。
・・・〈文化人類学〉
 
長浜の鉄道文化遺産に感動・・・小林晋
 「北陸線電化記念館」が長浜市の旧長浜駅舎北側に完成し、平成十五年六月十四日、竣工式が行われた。同電化記念館は(財)日本ナショナルトラストが、日本宝くじ協会の助成を受けて建設したもので、当財団としては七番目のヘリテージセンターである。
 展示車両はD51型蒸気機関車と西日本旅客鉄道(株)の御好意で整備寄贈されたED70型交流電気機関車である。
 私は竣工式に出席し、その二両の機関車と対面した時、二両共化粧直しされて光り輝いていた。共に引退後約三十年を経過しているにもかかわらず屋根付きの展示場に活力が与えられて今にも走り出しそうな姿をしていた。
 なんと幸運な機関車ではないか。私はいくつもの感動を覚えた。
 まず当財団の一員として、このような好環境の下で鉄道の近代化遺産が保護・保存され後世に継承されることは誠に喜ばしく、この記念館が旧長浜駅舎、長浜鉄道文化館とからなる「鉄道スクエア」として長浜市の新しい時代の町づくりに貢献できることを確信している。
 次に国鉄OBとしては、この二両を誇りとしてよいもので、D51型蒸気機関車は昭和十七年(一九四二)から昭和四十五年(一九七〇)まで主に貨物輸送に従事し、特に昭和二十年代の戦後復興期に活躍している。ED70型交流電気機関車は昭和三十二年(一九五七)から昭和四十七年(一九七二)まで北陸線の交流電化に伴い十九両製造、使用されたが現存しているのはこの1号機のみである。その当時を代表する二両の機関車が並んで保存されているのは極めて珍しい。
 さらに、この蒸気機関車と対面した時、少年時代を思い出した。私の両親の故郷が福井県福井市の近郊にあるため、小学校時代の夏休みは米原駅を経由して北陸線に乗り換え福井へ向った。当時の旅行はSLの旅であった。
 今庄駅まではトンネルが多く、汽笛に合わせて窓の開閉を繰り返し、福井駅に着く頃には煤煙で顔や手がすすけていた。それでも「福井への旅」は小学校時代の最も楽しい思い出として残っている。
 同記念館は、平成十五年七月十七日開館し、皆様の御来場をお待ち申し上げております。
長浜鉄道スクエア
所在地・・・滋賀県長浜市北船町一ノ四一
・・・〈(財)日本ナショナルトラスト専務理事〉
 
 
 
永石秀彦写真集
芝居小屋八千代座
 江戸時代の本格的歌舞伎小屋の様式を今に伝える熊本県山鹿市の八千代座は、明治四十三年(帝劇開場一年前)に建てられた国指定重要文化財である。九五年から四年半の大修理から片岡仁左衛門の柿落としを撮り続けた写真集である。当時の町の人々が芝居小屋を支えた息吹を伝える個性的なアングルを収録。
海鳥社 TEL092-771-0132 本体3,500円
 
編集雑記
 近代国家建設の総仕上げとして帝国劇場を開場したわけだが、なにを日本の伝統的芸能として上演するのか、国家のプログラムとして難しいところであった。ところが帝国劇場の屋上正面には翁の立像が置かれていて、さらにプロセニアム・アーチ中央には翁のレリーフ[テラコッタ]が掲げられていたことを考えると、能楽が国家の第一の芸能と考えられていたのだろう。しかし調べてみると能楽は帝国劇場ではほとんど上演されていない。ただ開場のご祝儀に「式三番」が演じられた。ここに登場するのは三翁の祝祷の舞で、翁の立像やレリーフは能楽の翁ではなく翁猿楽の翁だったにちがいない。だが、よく見ると、立像は胞衣をかぶり、レリーフは畏敬の形相でルネサンス風フランス様式の建物とは不釣合いである。さらにこの翁、最近の中沢新一著『精霊の王』によれば、民衆に根強く信仰されていた芸能の守護神である宿神ではないかと最近発見された金春禅竹の『明宿集』の資料に基づいて論説している。さらにその神はもともと「古層の神」であり、「力の源泉」である「世界の王」ではなかったのかと。それは「野生の思考」によって生み出されたと。
 帝劇に立つていた翁は、まさに偽の主権者による近代国家の完成を見届けたのであろうが、誰がどのような意図で帝劇の象徴としたのであろうか。国家に邪悪であり続けた神秘的な翁像を見ると、中沢新一氏が九十余年に亘り、我々に埋葬され、隠された王の存在を送り続けていたのではないかと思えてくる。
[眞島]
 
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74―帝国劇場 04年・・・800円
 
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