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■悪所を作る免罪符[大典記念]
 では、町の人々の情熱と経済的負担によって誕生した芝居小屋が、こうした劇場を取り巻くナショナリズムと無縁であったかといえば、そうではなかった。
 内子座を経営する株式会社の名称は「大典紀念株式会社内子座」であった。この「大典」とは大正天皇の即位の儀礼であり、それを紀念するという形で、成立しているのである。大正天皇の即位儀礼は、全国各地でおこなわれ、また、それを名目にした会社の結成も珍しくなかった。
 しかし、ことが劇場となるとやや事情を異にする。先にも述べた、国立劇場の設立が挫折したことに象徴されるように、劇場は現在の文化会館の如くオーソライズされたものではなかった。それは二〇世紀の劇場が大衆化した時代でも同様で、「河原乞食」という言葉が依然としてリアリティを持っていたし、「悪所」との認識も継続していたのである。こうした空気のなかで、劇場建設に「大典」を持ち出す所以は、何処にあるのか。
 
付属技芸学校の先生と一期生たち
[清島利典提供]
 
帝国劇場大正三年四月興行時代劇
(鏡山旧錦絵)奥殿草履打の場
 
同上広書院試合の場
[上の写真とも高畠華宵大正ロマン館提供]







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