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(3)危機管理(緊急対応)
 これらについては、宇部興産海運(株)による船舶管理テキストに詳述されているのでここでは項目を列挙し、一部について考察する。
 
事故防止
作業基準整備(荷役作業、離接岸時、ハッチカバー開閉、構内歩行)
火災・爆発事故防止
作業基準(喫煙・裸火管理、化学繊維衣服着用、電気器具・動力工具使用)
積荷保全
作業基準整備(荷役開始前の点検、荷役時、航海中及び避難時)
港内操船安全及び海水汚染防止
作業基準整備(入港、着岸、補油、船舶塗装)
管理船舶の上記基準確認・改正
安全教育*、フェイルセーフ
緊急支援体制確立
海難事故・海洋汚染事故対応
事故発生時の対応(閉鎖区域における人命救助、火災発生時の措置、消火訓練、貨物の船外流出事故対応、緊急退船)
提携ドックとの連携、人員派遣または工事委託
油防除会社との契約
部品等供給
緊急資材手配、入渠先への配送
 
船舶関連保険
 中小造船業においては、船舶製造修理のほか、損害保険等の代理店事業を行っているケースが多い。顧客船舶の保険手配・手続き代行により便宜を提供し、あるいは取り扱い船舶隻数が増加すれば簡易な団体保険制度を立ち上げ、保険料率の低減を図ることが可能と思われる。主たる保険科目には次のものが考えられる。
○船舶保険
○貨物保険
○PI保険
○船客障害賠償責任保険(船主協会団体保険)
 
(4)法務管理(法令対応、認証対応)
(1)保守協定締結
 管理対象船舶の船主と造船所の間で締結する技術コンサルタント協定については、巻末に例文を提示してある。ただし、個別企業毎に条項の最適化、及びもし補償を取り入れるなら内容を検討されたい。
(2)標準契約書
 社団法人日本海運集会所では、内航船舶向けに裸傭船契約書、運航委託契約書、船舶売買契約書、救助契約書、曳航契約書等の各種和文標準書式を1部千円前後で販売しているので、これを参考として利用するのが容易で確実であろう。これらは同会のウェブサイト上でも「契約書式」の項でサンプルを確認できる。
 社団法人日本海運集会所ウェブサイト:http://www.jseinc.org/
(3)税務管理
 海洋運輸業、沿岸運輸業、内航船舶貸渡業は、「中小企業投資促進税制」の対象業種に指定されている。また、内航海運業及び内航船舶貸渡業の用に供される船舶は、同制度において対象資産とされている。
 青色申告書を提出する個人または法人がこれら船舶を取得した場合、取得年度に30%特別償却または7%税額控除の適用が受けられる(ただし、取得価額の75%が対象となる)。税額控除の適用は個人または資本金3千万円以下の法人に限られ、かつ、供用年度の所得税額・法人税額の20%までを限度とされるが、税額控除、特別償却とも1年間の繰り越しが認められている。
 対象船舶以外でも、1台または1基の取得価額が160万円以上(リースの場合はリース総額210万円以上)の機械装置については上記と同様の措置が適用されるので、リニューアル等の際に換装した機器類も本制度の対象となる。
減価償却
船舶関連特別措置等の活用
○船舶の特別償却
○買い換え資産の圧縮記帳
諸経費支出記録
○船舶毎の帳票類・記録整備
資機材購入経費記録
○船舶毎の帳票類・記録整備
 
海事関係法規
 対応すべき主要な法令・規則を列挙する。これら法令の改正等を周知徹底し、規則に対応した船舶改造・設備搭載を提言することも今後の課題となる。
○内航海運業法
○内航海運組合法
○海上運送法
○船員法
○船舶職員法
○海上交通安全法
○海上衝突予防法
○港則法
○海洋汚染防止法
○船責法
○油濁損害賠償保障法
○海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律
海事法令上の諸手続き代行(船員法等)
ISM認証取得・維持の支援
 詳細は保守管理テキストの通りである。しかしながら、認証を取得することは比較的容易だが、それを長期間にわたり維持管理していくためには多くの労力を要する。特に最小限の人員配置で航行する内航船においては、保守管理の効率化の観点から、アウトソーシングの活用、自動化の推進及びそれに必要な各種計測機器の取付け、船−陸間通信による業務の陸上への移管等は喫緊の課題である。それも、経済性を損なわずに実行しなければならない。国土交通省の実施する「海のITS」には大きな期待を寄せるところである。
(5)本事業分野外の項目
 船員の雇用・教育等については、適切なアウトソーシング先と提携し実施するのが効率的と思われる。主たる項目は下記の通りである。ただし、外部船員の教育を委託できる企業はごく限られたものとなる。
安全教育
船上教育(オンジョブトレーニング)
航海・通信技術指導
機関運転・保守技術指導
情報提供(航海・機関)
乗船前ブリーフィング
待機船員教育
 集荷業務については、基本的には個別船主とオペレータ・荷主との取引関係・経済行為であり、造船業には代行困難なものであるが、管理船舶の隻数が増加すれば、既存のオペレータ等と関係構築を行うことにより実施に到る可能性もある。
 
 中小型造船業が船舶管理業務への進出を研究するにあたっては、いかに顧客(海運会社、船主)の立場に立って効率化を考えるか、これが一番の重要事項であると考えられる。
 幸い、内航船の船舶管理に関して先進企業である宇部興産海運(株)殿には、テキストの作成、研修計画の策定及び研修実施を受託いただき、参加者にとっては得難い経験を積むことができたものと考えている。
 本事業の成果を基礎として、中小型造船業が新たなビジネスモデルを構築し、保守管理の徹底を通じて内航船舶の航行安全性の向上につながるよう切望している。
 また、本事業実施の付帯的な成果として、洋上の船舶において機関不具合時の診断を行い、その結果を関係先へ連絡し迅速な対応を図るための簡易ツールとして、「遠隔診断カルテ標準フォーム」を作成した。普及説明会を開催したところ関係各方面の反応も上々で、こちらも今後広く普及に努める所存である。
 最後に、本事業実施にあたりご支援・ご指導・ご協力を賜りました日本財団、国土交通省海事局、(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構、日本内航海運組合総連合会、国内主要船舶機関メーカーの各位に対し厚く御礼申し上げます。
 
平成16年3月
社団法人日本中小型造船工業会
常務理事 東 伊一郎
 
内航ジャーナル刊「内航海運の実務入門」片岡 法典著
日本造船学会刊「テクノマリン2003・9月号」
 
巻末資料
座学研修用講義資料
IT化による船舶安全管理
船舶保守管理に係る技術コンサルタント協定書例文







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