表現からの関わりを学ぶ
■ビデオプロジェクト
クレイアニメーションを作ろう!!
1. クレイアニメーションとは?
クレイアニメーションとは、クレイ(粘土)でつくったものを少しずつ動かし、コマ撮りすることにより1つの動画を生み出していくアニメーションのことである。粘土で作ったキャラクター(人形)を1コマずつ動かし、微調整をしながら「撮影⇒キャラクターの移動⇒撮影」をくり返し、アニメーションを完成させていく。
2. ストーリーとキャラクターの作成
参加した子どもたちは2チームに分かれて2つの作品を制作することに決めた。目標は15秒の作品。
クレイアニメーションの制作過程は(1)ストーリーの考案(2)粘土を使ってのキャラクターの作成(3)撮影(4)編集に分けられる。
まず各班ともリーダーを決めてから物語の案を出し合う。それぞれのストーリーの絵コンテを描きながら、キャラクターの細かな動作を設定していく。
1つめの作品は誰もいない台所で食器や食材から手足が生えて意思を持って動き出す『だいどころ』という作品。かわいらしく作られたフォークやスプーンがカチャカチャと歩き出し、冷蔵庫にある食材も仲間に入って行進する。そして家主が帰宅すると慌てて元に戻るというものである。人形のひとつひとつに表情があり、笑ったり驚いたり喜怒哀楽がちゃんと表現されている。
もうひとつの作品は『正義のバイクと大王のたたかい』。これは独特の世界観で表現された物語である。魚たちが平和に暮らす「魚の世界」に、雷を操り魚たちをいじめる大王が現れる。その大王をバイクに乗った主人公が倒し、ふたたび平和を取り戻す物語である。この物語では魚や主人公のバイクは空中を飛んでいる。また一見、近代的ではない世界観にバイクに乗った主人公がミサイルで大王を倒してしまう。そのギャップ、ファンタジックで自由な発想に驚く。
次は実際に人形たちを作っていく。子どもたちは配色や形に気をつけながら、次々とキャラクターを生みだしていく。純粋に粘土だけでかたちを作るのは弱い部分があったため、自分たちで竹ぐしを使って工夫をしながら、作業をおこなっていた。
3. 撮影と編集
ストーリーとキヤラクターが完成すると、次は撮影である。初めてのクレイアニメーションということで1秒間に約10枚程度のコマ数で行うことにした。そしてカメラの固定や位置、照明等を説明し撮影を開始した。ボランティアを含めても1チーム5人。各チーム、撮影する役、人形を動かす役、全体を指揮する役と役割分担を決めて約4時間の撮影をおこなった。絵コンテを通りに撮影を着々と進めていく。全体で約150枚程度の絵が必要なため、1シーンには最低何枚必要かと逆算し、1シーン1シーンを確実に撮影していく。ここまでが1日目の作業となった。
2日目は撮影の続きを行ったあと、編集作業を行った。編集はパソコンで行ったため、初めに子どもたちにアプリケーションの使用方法を説明した。ほんの少しの説明で、子どもたちは次々と撮影した映像をつなぎ合わせて行く。編集は単純な作業なので集中力を欠く時もあったが、完成するまで作業を行っていた。次に、映像に入れる音やセリフを録音し作品に入れていく。徐々にひとつの作品にでき上がっていく過程を実感しているようだった。
最後にスタッフも合わせて全員で鑑賞会を行い、作品や制作に対する感想を出しあった。子どもたちの感想は全員「疲れた・・・」の一言だった。それでも作品を完成させた満足感は大きいようで、夏には2時間ものの超大作を作ってみたいという意見も出ていた。
4. クレイアニメーション制作を終えて
今回、2つのクレイアニメーションを制作したが、原案から撮影、編集そして完成までの一連の作業に粘り強く、しかも妥協せず最後まで取り組んだことは、子どもたちにとっても大きな自信になったのではないだろうか。
表現からの関わりを学ぶ
■ものづくりプロジェクト
ものづくりプロジェクトは、楽しく「もの」をつくり、からだで、心で考え、自分を表現し、かつ他者との関係性をつくることを目的に行なった。メニューは子ども自身が考えるものづくりと、講師が考えるものづくりを毎回交互に行うことにした。
作りたいものを作る
子どもが自分で作りたいと思うもの、それに必要な材料や道具を事前に考え原則自分で用意する。当日は講師による技術的なアドバイス以外は行なわず、自主的に作業を進めるようにした。
提案テーマによるものづくり
ここではまず子どもが自然に自己表現することができるように、固定概念からの解放や価値観の多様性に気づくことから始めた。
このプロジェクトでの約束ごと
・人の真似をしない
・人のからだやこころを傷つけない
・最後まで粘って完成させる
自己の解放
(1)凹が凸になるおもしろさ
第1回は石膏を使ったものづくりを行なった。コンクリートの地面の上にシートを敷き、その上に大量の砂を山のように積み上げておいた。子どもたちはその砂山に自分の創りたい形と「逆」の形をかたどった。次にその穴に溶かした石膏を流し込み、少しずつ固まるのを待った。石膏が固まると砂から掘り出し完成。掘った時に見えていた形と全く逆の形が作品になる、創りながらイメージを反転させる作業に子どもたちは夢中になっていた。
(2)叫ぶ〜ぎゃーの顔
ぎゃーっと叫ぶのはどんな時か?うれしいとき、悲しいとき、驚いたとき。いろんなぎゃーを考え、そのようすを絵に描いた。叫ぶ表情を描いていくうちに、子どもたちの心はどんどん解放されていった。
(3)自分以外のものに変身
仮面は元々自分(人間)以外の何かに立場を置き換え、表現するための道具であった。今回は子どもたちに「変身したいと思うのはどんな時?何に変身したい?」という質問を投げかけ、その時に変身したいものの姿を仮面で表現してみることになった。自分の顔くらいの大きさに丸めた新聞紙の上にビニール袋をかぶせ、落し紙を水のり・木工用ボンドと混ぜて作った紙粘土で仮面を作り、そのうえに彩色するという作業を2回に分けて行なった。
他者の立場に立ってみよう
(1)カンディンスキーになろう
空に飛んでいるものは、何がある?空に浮かんでいるものは?こんな質問からプログラムはスタートした。子どもたちは必死に考え、鳥、飛行機、雲など口々に挙げる。次に実際には空を飛べないけれど、飛ばせてあげたいものは何かを考える。鳥なのに飛べないペンギン・恐竜`キャンディなど思いつくままたくさん出てきた。それを画用紙に描いて切り抜き、大人がすっぽり隠れるぐらいの空をイメージした大きな模造紙に貼り出した。次から次にいろんな作品を創る子どももいれば、じっくり時間をかけてひとつの作品を創る子もいる。このころから多様牲があたりまえに感じられるようになったように思う。
(2)誰かのためのものづくり
表現することへの抵抗も薄れ、自分だけのオリジナリティを少しずつ発揮しだした子どもたちに、最後に提案したテーマは「何かで困っている誰かのためのものづくり」他者の立場を理解し、それを表現する、いわばこのプロジェクトの集大成である。作品で意外に多かったのが家庭に関するもの。食事の準備が大変と、困っている両親のための「自動調理機能付き自動車」や「自動調理マシーン」、母の作った手作りのぬいぐるみのための「春夏秋冬対応めがね」などが生み出された。
今後に向けて
1年の活動を通して、最初は既成概念でなかなか自己表現できなかった子どもたちが、自分のイメージや作りたいものを表現し、人に伝えることができるようになった。しかし第3の誰か、つまり社会への関わりという意味ではまだまだこれから発展の余地が残されているように思う。
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