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8. いろいろな外来生物
小樽のコウガイビル
 昨年の夏、博物館に奇妙な生き物(写真)がたてつづけに持ち込まれました。まるで、うどんのように細長く柔らかい体、黄土色に3本のストライプの入った目立つ色彩、扇のように広がる頭、ゆっくりと伸び縮みする動き、とにかく何ともいいようのない、不思議な生き物です。
 図鑑で調べたところ、どうやらコウガイビルという生き物の一種だということがわかりました。さらに、この生き物の専門家である川勝正治博士(元・藤女子大学教授)に写真による同定をお願いしたところ、オオミスジコウガイビルという種類の可能性が高いことを教えていただくことができました。
 世界最大のコウガイビル、オオミスジコウガイビルは中国南部原産の外来種です。大きい個体では、全長1メートルにも達します。日本にどのような経緯で入ってきたのかは不明ですが、1968年に東京の皇居の庭で初めて見つかり、その後、本州各地(秋田県から山口県まで)、四国(高知県、香川県)、九州(長崎県)で発見されています。北海道ではまだ報告がなく、オオミスジコウガイビルだとすれば、今回が北海道ではじめての記録になります。
 小樽で、これまでにコウガイビルが見つかっている場所は、緑町や入船町、奥沢町など天狗山の山麓の住宅地に集中しています。見つかるのは、民家の庭や、道路脇の溝の中など、土の露出した場所や湿気の多いところです。また、街から離れた山の中などでは発見されていません。
 聞き取り調査によると、小樽ではかなり前から見かけられていたようで、一番古い情報は今から15年くらい前のものでした。ただ、よく似た種類もあるので、その情報がオオミスジコウガイビルのものとはいいきれません。
 コウガイビルは扁形動物というグループに属する生き物です。同じグループには生物の教科書によく登場するプラナリア(淡水プラナリア)という生き物がいます(コウガイビルは英語では陸上のプラナリア「ランド・プラナリア」と呼ばれます)。淡水のプラナリアはその強力な再生能力で有名な生き物で、体が二つに切れるとそれぞれが再生し、2匹になります。4つに切ると4匹になります。そして、コウガイビルもまた、強い再生能力を持つ種類があります。オオミスジコウガイビルは再生力が強く、ちぎれた分裂片が植木鉢などに紛れて各地へ運ばれ、そこで再生して分布域を拡大したのではないかと考えられています。
 「ヒル」という名前が使われていますが、動物の血を吸うヒルとは全く別な生き物です(ヒルはミミズなどに近い環形動物)。人間の生活にはほとんど関係なく生きている動物ですが、こうした生き物が、知らず知らずの間に各地に運ばれて定着してしまうところが、外来種問題の本当に難しいところなのかも知れません。
 また、琉球列島や小笠原諸島では、近いなかまの陸産プラナリアの一種、ニューギニアヤリガタウズムシが最近侵入し、貴重な固有の陸産貝類を食べてしまうことが心配されています。
 
小樽で見つかったコウガイビル
奥沢4丁目で採集
 
頭部の形が日本髪に飾る笄(こうがい)に似ていることからこの名前があります。
 
 
小樽市内でコウガイビルが見つかった地点
(小樽市博物館調査より)
 
 
オオミスジコウガイビルの分布記録
(川勝ほか、1998より改変)







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