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(1)散乱強度が極めて高いAについては、サンプルデータ抽出点を正しく分類しているが、濃度値が高い他の領域もグルーピングされている。
(2)海底表面の凹凸が著しいBは、精度良く分類できている。
(3)前処理が不十分であったため、画像の上部、送受波器直下付近及び探査幅の外側において、航跡方向に誤分類が認められる。
 
図87. 分類結果
 
サンプルデータ抽出地点
 
分類結果
 
(5)まとめ
 テクスチャ解析による海底音響画像の分類は、原画像作成時において、十分な前処理が行なわれなかったため、誤分類が生じた部分が見られた。しかしながら、特に散乱強度の低いDの領域については、平均値や分散では区別できなかった情報を一様性によって補うことができることを確認した。ただしテクスチャ特徴量については、解析を重ねることにより、物理的な意味について議論する必要がある。また散乱強度が低いDは明らかに地形傾斜による影響が原画像に含まれているため、この分類結果は底質及び凹凸の違いのみを分類したものではなく、地形による影響も含まれている。地形による音波の入射補角の補正を実施して初めて、底質及び凹凸の変化の違いを分類した結果となる。
 リモートセンシング画像の最終的な目標は、画像に含まれている対象を人間が行うのと同定度以上の精度で、客観的に認識することである。本研究で実施した分類精度の判断基準は人の目に頼っており、また分類精度の評価については、定量化が課題である。
 分類及び識別精度向上のためには、音響画像データとグランドトルスデータや地形データ等と比較し、基礎データを蓄積することにより、分類精度の向上並びに自動判別につながると考えられる。
 
第3章 まとめと今後の課題
 平成14年度及び15年度の研究成果として、以下にまとめと今後の課題を示す。
(1)マルチビーム音響測深機データの地形歪みの除去技術の確立
 本研究は、従来の地形歪みのある海底音響画像から、音響画像データに含まれる地形歪みを除去することにより、位置精度の高い海底音響画像を作成し、地形歪み補正方法を確立することである。本研究では、以下の開発研究を実施した。
(1)データの収集及び取得データの評価
 シミュレーションによる水深データ及び音響画像データの照射覆域、探査幅の関係を検討した上で、本研究の目標値を設定した。また名古屋港において、既知のターゲットを海底面に設置し、データ収集を実施した。
(2)海底音響画像処理技術の開発
 斜距離補正、放射量補正などの前処理の手法及び送受波器の姿勢データを用いた幾何学的補正方法を検討し、海底音響画像作成のための画像処理技術を確立した。
(3)水深データの補間方法の検討及びプログラム開発
 3つの手法による水深データの補間処理を実施し、地形歪み除去の観点から補間結果を検証した。
(4)地形歪み除去に関する資料の収集と地形歪み除去プログラム開発
 地形歪み除去に関する国内外の論文・資料を収集した上で、地形歪み除去プログラムの開発を実施した。
(5)地形歪み除去精度の検証及び評価
 名古屋港実験で収録されたデータを用いて、地形歪み除去画像の作成と評価を実施した。
 
 ターゲットを用いたこれらの研究開発により、地形歪み除去画像と地形図とを比較、検証した結果、入射補角が20度から40度以内の範囲において、垂直方向については水深の2%以上、水平方向については水深データの照射覆域以上の範囲で、十分に除去が可能と判断した。ただし、これらの垂直及び水平方向の除去精度を確保するためには、名古屋港実験で実施した収録システムによるデータ収集が必要不可欠である。今後の展望として、以下が挙げられる。
(1)地形歪み除去精度は、GPS Latencyを含む測位精度、SeaBat8101のサンプリング間隔や方位・姿勢センサーの精度、収録装置の時計精度等に影響されるため、システム全体として精度向上に努める必要がある。今回のターゲットを設置した海域は、水深10m以浅であったが、地形歪み除去精度は、斜距離が長くなる水深が深くなるにつれて、これらの機器の精度の影響が大きく表われるため、深海への適用についても議論が必要と思われる。
(2)SeaBat8101またはサイドスキャンソナーは、横方向からターゲットを捉えるため、測量海域において斜交または直交するような複数測線のデータを収集することが必要である。
 
 以上の結果よりSeaBat8101の音響画像データに含まれる地形歪みの除去技術を確立した。
 
(2)サイドスキャンソナーデータを用いて底質分類の検討
 本研究はSeaBat8101ANKOUの音響画像データから、海底底質の分類の可能性について検討するものであり、後方散乱強度値から画像処理による分類及び後方散乱強度分布モデルから海底面の凹凸と底質を推定する方法の二つの分類法による底質分類を試みる。本年度は、以下の開発研究を実施した。
(1)底質分類に関する資料の収集
 音波による海底底質の分類技術に関する国内外の論文を収集した。また衛星による地表探査と画像データの分類方法についてまとめた。
(2)データ収集及び整理
 瀬戸内海伊予灘においてデータ収集を実施し、水深及び音響画像データの処理により、地形図と海底音響画像を作成した。
(3)テクスチャ解析によるSeaBat8101海底音響画像の分類
 陸上のリモートセンシング画像処理で広く使用されているテクスチャ解析の濃度共起行列による特徴量から、SeaBat8101の海底音響画像の分類を実施した。その結果、分類精度はテクスチャ領域のサイズや前処理の結果に依存するものの、濃度共起行列によって求めた特徴量が、画像の濃度値だけでは表すことのできない情報量を持つことが確認された。ただし、分類精度の定量化が今後の課題である。
 またANKOU及びSeaBat8101のソナー方程式に関する資料収集を実施した結果、SeaBat8101で得られなかったパラメータがあったため、平成16年度は、ANKOUの音響画像データを用いて、後方散乱強度分布モデルから海底面の凹凸及び底質の推定を行う。対象海域は、現在までに実施された測量海域において、グランドトルスデータの有無を確認した上で決定する。
 
 SeaBat8101システムには、ハードウェア及び収録ソフトウェアのデータフローにまだまだ不透明な部分があり、メーカーからの情報が得られない以上、今後のデータ収録と地道なデータ解析によって、明らかにしていかなくてはならない。
 前述のように、陸上のリモートセンシングでは、収録データとグランドトルスデータとの比較が容易であるため、電磁波に対する地表の物理特性の基礎データが蓄積されている。またシステムのデータフローが明らかにされているため、収録データの物理量は明確な意味をもっており、処理データも幾つもの処理ステップに分けて公開されている。
 一方、海洋で使用されている音響システムは、システムの特性が明らかにされていないことが多いため、収録データはあくまでも相対的なものとなり、絶対値とは言えない。今後、システムの特性が明らかにされれば、地形歪み除去精度や海底底質の分類精度の向上にもつながるであろう。
 
参考文献
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コンピュータ画像処理入門、総研出版、1985
計算幾何学と地理情報処理、共立出版、1986
画像解析ハンドブック、東京大学出版会、1991
SARデータの処理と応用、日本写真測量学会、1991
認識工学―パターン認識とその応用―、コロナ社、1991
合成開口レーダ画像ハンドブック、朝倉書店、1998
リモートセンシングの画像処理、森北出版株式会社、2003







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