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2.2 サイドスキャンソナーデータを用いて底質分類の検討
2.2.1 分類技術に関する資料収集及び整理
 水中音波及びレーダによって得られた画像の分類手法並びにSeaBat8101ANKOUのソナー方程式のパラメータに関する資料を収集し、本研究で実施する分類手法の方向性を示す。
 
2.2.1.1 水中音波による底質分類技術に関する資料の収集及び整理
 音波を用いて海底底質を推定する代表的な手法として以下の3つがある。
1. 後方散乱強度値から画像処理によって分類する方法
2. 波形データから分類する方法
3. 後方散乱強度分布モデルから海底面の凹凸と底質を推定する方法
 1及び2の分類法は、対象データをなんらかの値によって特徴づけることにより、等質な部分を他の部分から分割する処理(グルーピング)が実施されている。一方、3の分類法は、音波の散乱強度分布を入射補角の関数として与えられるモデルに当てはめ、シミュレーションによって、密度や音速値などの底質に関する情報と凹凸値を算出するものである。
 2の波形データから分類する方法は、ハイドロフォンアレーで受信した後方散乱波の波形データを収録し、多変量解析などの周波数分析によって特徴量を算出し、分類する手法であるが、本研究で使用するSeaBat8101及びANKOUで収録される音響画像データは、波形データではなく、既に強度値に変換されているため、本手法による分類は不可能である。したがって、1と3の二つの手法についての論文及び資料の収集を実施した。
 
1. Reed,T.B.:Digital Image Processing Techniques for Enhancement and Classification of SeaMARCII Side Scan Sonar Imagery,JGR Vol.94, 7469-7490, 1989
 
2. 竹内倶佳、ヒラリ・メレーズ、月岡哲、永井豊、マルチナロー音響測深器による海底の底質とroughnessに関するパラメータの推定、海洋調査技術、Vol.4(2)、19-27、1992
 
3. Dziak,R.P., C.G.Fox, and T.Lau, Application of the Kirchhoff Approximation to Sea Beam Acoustic Returns, EOS Trans. Am. Geophys. Union 70(43), 1305, 1989
 
4. Dziak,R.P., C.G.Fox, Distribution of Sea Beam Acoustic Backscatter Characteristics within the Physiographic Provinces of the Northeast Pacific Ocean, EOS Trans. Am. Geophys. Union 71(43), 1624, 1990
 
5. Dziak,R.P., H.Matsumoto, and C. G. Fox, Estimation of Seafloor Roughness Spectral Parameters from Multi-Beam Sonar Acoustic Backscatter Data : Axial Seamount, Juan DeFuca Ridge, Geophysical Research Letters, 20(17), 1863-1866,1993
 
6. Matsumoto, H. and Dziak R.P., Christopher, G.F., Estimation of seafloor microtopographic roughness through modeling of acoustic backscatter data recorded by multibeam sonar systems, J.Acoust.Soc.Am., 94(5), 2776-2787, 1993
 
7. Jackson, D.R., D.P.Winebrenner, and A.Ishimaru, Application of the Composite Roughness Model to High Frequency Bottom Backscattering, J.Acoust.Soc.Am., 79(5), 1410-1421.1986
 
8. Mourad, P.D. and D.R. Jackson, High-frequency sonar equation models for bottom backscatter and forward loss, in Proc. OCEANS '89, vol.4, Sept.,1168-1175, 1989
 
9. Jackson, D.R., K.B. Briggs, High-Frequency bottom backscattering : Roughness versus sediment volume scattering,J.Acoust.Soc.Am.,92(2),9 62-977, 1992
 
10. Jackson, D.R., K.R. Briggs, K.L. Williams, and M.D. Richardson. Tests of Models for High-Frequency Seafloor Backscatter,J.Acoust.Soc.Am., 21(4), 458-470, 1996
 
11. Williams K.L., D.R. Jackson, E.I. Thorsos, D.Tang, and K.B. Briggs, Acoustic Backscattering Experiments in a Well Characterized Sand Sediment: DATA/Model Comparisons Using Sediment Fluid and Biot Model,IEEE J.Ocean. Eng., 27(3), 376-387, 2002
 
12. HAMPTON, L.D., Acoustic Properties of Sediments. J.Acoust.Soc.Am., 42(4), 882-890, 1967
 
13. 相根政幸、大谷隆彦、音響管法による海底堆積物内の音速と減衰の測定、海洋音響学会誌、20(4)、217-227、1993
 
14. 木村正雄、川島さゆり、Biot-Stoll 海底堆積物モデルの物理パラメータについての考察、海洋音響学会誌、22(1)、54-63、1995
 
15. 相根政幸、大谷隆彦、音響管法による海底堆積物内の音速と減衰の測定、海洋音響学会誌、24(1)、21-24、1997
 
16. 春原洋平、竹内倶佳、コアサンプルを利用した海底堆積物中の音速と減衰の測定、海洋調査技術学会、第11回研究成果発表会、1999
 
(1)後方散乱強度値から画像処理によって分類する方法
 NO.1の論文では、SeaMARCIIの音響画像を用いたテクスチャ解析による底質分類を紹介している。テクスチャとは画像中の画素の濃度パターンを表したものであり、濃度のみの一次元である音響画像から、画素の濃度の配置具合をテクスチャ特徴量として求めることにより、情報量を増やすことができる。図40(a)の原画像からテクスチャ特徴量を抽出し、3グループに分類した結果を図40(b)に示す。このようなテクスチャ特徴量の抽出は、陸上のリモートセンシング画像処理において、一般的に使用されており、面的な分布図の作成に有効である。またグランドトルスデータを用いることにより、これらのグループの底質を識別することも可能である。
 
図40. SeaMARCIIの海底音響画像とテクスチャ解析による分類例
 
(a)原画像
 
(b)分類結果
 
(2)後方散乱強度分布モデルによる海底面の凹凸と底質の推定
 後方散乱強度分布モデルによる海底底質の推定は、数多くの論文で試みられている。音響画像データの散乱強度は、海底面の凹凸、堆積物の密度や音速、音波の海底面への入射補角によって変化する。音波の散乱強度分布を入射角度の関数として与えられるモデルは、Jackson等によって図41のように求められている。
 
図41. 後方散乱モデルを用いた海底底質の判別
 
 図中のKirchhoff理論は、波動方程式を利用して、境界面における波動伝搬現象をモデル化したものである。Jackson等は、この理論に加えて堆積層からの散乱を考慮した後方散乱強度分布モデルを提案している。このモデルには、送受波器のビームパターンの指向性によって数種類のモデルがある。
 図は入射角度が80度以上ではKirchhoffモデルで十分であり、SEA BEAMのような入射角度が70度以上では、Kirchhoff+volumeモデルが観測値に合うことを示している。
 SeaBat8101ANKOUは、入射補角が送受波器直下(入射角度90度)から探査幅の外側(入射角度20度)前後と広いため、堆積層内からの散乱を考慮したComposite roughness+volumeモデルが適していることを示す。
 このモデルによると、SeaBat8101ANKOUで得られた音響画像データの散乱強度分布(観測値)は、海底面の底質に関するパラメータ(ρ、v)と凹凸に関するパラメータ(β、γ)で表すことができる。底質に関するパラメータρ、vは、それぞれ堆積物の密度、音速を示す。凹凸に関するパラメータβ、γは、凹凸の周波数成分と振幅成分を表す。後方散乱強度分布モデルには、以下の関係がある。
(a)底質の密度と音速は、音響インピーダンスの支配因子であり、これらの値は散乱強度の全体的な特性を支配するが、曲線の傾きとは無関係である。
(b)海底面の粗さは、散乱強度の全体的な特性を支配する傾向にあるが、むしろ曲線の勾配を支配する傾向にある。
 この分類法の特徴は、SeaBat8101ANKOUで収録された音響画像データの散乱強度分布(観測値)に合うように、モデルの各パラメータをシミュレーションによって算出するため、海底面の凹凸と堆積物の密度や音速値の推定ができることである。
 
(1)SEA BEAMの収録データを用いた例
 後方散乱強度分布モデルによる海底面の凹凸と底質の推定は、SEABEAMで得られたデータを用いて早くから行われている。NO.2の論文では、平坦な3つの海域において、SEABEAMの16個の後方散乱波をデジタルレコーダーに収録し、モデルへの当てはめを実施している。いずれの海域も音波の走波レベルは一定であるが、水深に伴うTVGやゲインが異なるため、これらの補正を実施している。また観測データはバラついているので、20ピングを平均している。このような平均化処理は、後述するNO.5及びNO.6の論文においても、20ピングの平均化処理が行われている。
 
図42. 3つの海域で収録されたSEA BEAMの後方散乱強度分布
 
 本論文では、SEABEAMの入射角度が左舷右舷共に68.72〜90度であるため、Kirchhoff+volumeモデルを使用している。図42は、平均化処理後の後方散乱強度分布である。いずれも平坦な海域で収録したため、図の分布の違いは、底質と凹凸によるものと考えられ、Kirchhoff+volumeモデルを用いて、以下のように底質と凹凸値を算出している。
A: siltuy sand: 2.4cm
B: silt: 2.2cm
C: silty clay: 2.9cm
 ここで海底を覆う物質の表面の粗さは、その表面での音波の散乱に強い影響を及ぼす。このモデルでは、陸上のリモートセンシングと同じように、地形と凹凸を明確に区別している。地形の起伏は、海底を巨視的に見たときの状態で、目に見えるような勾配を指す。また凹凸とは、表面のランダムな高低であり、正規分布していると考えられ、海底の堆積物を構成する土などの粒子で構成される。これらが持つ性質と後方散乱の関係は、前者がより支配的である。したがって凹凸とはcm単位であり、砂利、砂、泥といった表面を覆う物質の垂直方向の高さ及び水平方向の出現距離で特徴づけられる。反対に地形の起伏は、何mとか何百mとかの単位である。本論文では、求めた底質と凹凸のパラメータが、グランドトルスデータとして使用した深海カメラの映像との一致が見られ、Kirchhoff+volumeモデルの有効性を明らかにしている。
 
 NO.5とNO.6の論文では、平坦な海域ではなく、カルデラ地形において、同じくSEABEAMの後方散乱波データを収集し、モデルに当てはめた例を紹介している。本論文で収集したデータは、起伏に富んだ海域で得られたものであるため、地形による入射補角の補正を施している。図43は、地形補正前と補正後の後方散乱強度分布の違いを示している。地形補正後の後方散乱強度分布から底質を分類した結果が図44である。
 
図43. 地形補正前と補正後の後方散乱強度分布
実線:地形捕正後
点線:地形補正前
 
図44. 底質分類結果
 
 本論文ではカルデラを形成する底質について、モデルから算出した底質に関するパラメータを397段階のスコアに分け、SeaMARCI及びSeaMARCIIの海底音響画像をグランドトルスデータとして、3つの底質(グレー:smooth lavas、白:large pillow lava flows、黒:post-erupting faulting and volcanic scarp)に分類している。後方散乱強度分布モデルを用いた底質の判定を紹介する論文の中で、分布マップを作成している数少ない例である。この図が本研究で求める図の一つである。
 このように、本研究で使用するSeaBat8101においても、入射角度が90度(直下)〜20度(外側ビーム)までと広いため、後方散乱強度分布作成においては、地形による音波の入射角度の補正が必要不可欠である。







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