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第2章 研究の内容
2.1 マルチビーム音響測深機データの地形歪みの除去技術の確立
2.1.1 地形歪み除去技術に関する資料の収集及び整理
 マルチナロービーム測深機やサイドスキャンソナーで得られた海底面画像データ(音響画像データ)の地形歪み除去技術に関する国内外の論文・資料を収集し、整理する。また収集した資料の検討及び地形歪み除去処理プログラムの開発を行う。
(1)地形歪み除去技術に関する論文・資料の収集及び整理
 サイドスキャンソナーは、1912年の豪華客船タイタニック号の沈没後、水平方向の氷山を捉えるためのソナーの開発が急がれていた頃、音波の発信角度を鉛直方向に下げ、反射の強度を時間の関数として連続的に記録することによって、海底面上の反射イメージを作成することができるようになったのが最初とされている。その後、対潜水艦探知機として応用された。船底取り付け型のサイドスキャンソナーは、送受波器近傍で発生する船舶の多くの雑音や、動揺の影響を大きく受けたことから、1960年代の後半に入って開発された高周波(100-500kHz)のサイドスキャンソナーは、船舶の後方を曳航する曳航式システムとなった。サイドスキャンソナーは今日に至るまで、海底面探査に広く利用され、その画像が数多くの論文で紹介されている。
 地形歪みは、サイドスキャンソナーのように横方向から海底面を捉えた揚合、地形によりターゲットが距離方向(航跡に直交する方向)に移動する現象である。本章では、地形歪みを行った論文だけではなく、地形歪みに触れている論文や関係する論文を収集した。 
 
1. Blackinton, J. G., Bathymetric Mapping with SeaMARCII, An Elevation-Angle Measuring Side-Scan Sonar System, Ph. D. Dissertation, University of Hawaii at Manoa:Honlulu, 1986
 
2. Blackinton, J. G., D.M. Hussong, and j. Kosalos, First results from a combination side scan sonar and seafloor mapping system (SeaMARCII), Offshore Technology Conference, OTC 4478:307-11, 1983
 
3. Reed, T. B., D. M. Hussong, DIGITAL IMAGE PROCESSING TECHNIQUES FOR ENHANCEMENT AND CLASSIFICATION OF SeaMARCII SIDE SCAN SONAR IMAGERY, JGR, Vol94, NO.B6,7469-7490, June 10,1989
 
4. Christlan M., P. F. Lonsdale and A. N. Shor, Simultaneous Operation of the Sea Beam Multibeam Echo-Sounder and the SeaMARCII Bathymetric Sidescan Sonar System, IEEE J. Oceanic Eng., Vol.15, NO.2, 84-94, 1990
 
5. Johnson, H. P., The Geological Interpretation of Side Scan Sonar, Review of Geophysics, Vol.28, 357-380, 1990
 
6. Daniel T. Cobra, Alan V. Oppenheim and Jules S. Jaffe, Geometric Distortions in Side-Scan Sonar Images : A Procedure for Their Estimation and Correction, IEEE J. Oceanic Eng.,. Vol. 17, No. 3, 1992.
 
7. Reed, T. B., DIGITAL IMAGE PROCESSING TECHNIQUES FOR ENHANCEMENT AND CLASSIFICATION OF SEAFLOOR BATHYMETRY AND SIDE SCAN SONAR IMAGERY, JGR, Vol.91, 91-98, 1992
 
8. Timothy P. Le Bas, Michael L. Somers, Jon M. Campbell, and Russell Beale, Swath Bathymetry with GLORIA, IEEE J. Oceanic Eng., Vol.21, No.4, 545-553, 1996
 
9. 日本水路協会:海底面広域探査技術の研究その1、技術研究資料、33、1-123、1983
 
10. 日本水路協会:海底面広域探査技術の研究その2、技術研究資料、33、1-72、1984
 
11. USEA研究会:海底面探査に関する研究、USEA、17、1-48、1986
 
12. 石原丈実、藤井直之、SeaMARCII による海底調査、最近の海底調査―その4―、シンポジウム資料―4、79-86、1988
 
13. 土屋利雄、「対馬丸」探索プロジェクトチーム、様々な音響機器を使った深海での沈船の探索、海洋音響学会講演論文集、51-54、1998
 
14. 浅田昭、マルチビーム音響測深の原理、水路部技報、Vol.15、73-93、1997
 
15. 浅田昭、マルチビームソナーによる海底地形の可視化、日本音響学会雑誌55巻10号、717-722、1999
 
16. 北高穂、岡村健、太田賢治、水中土木構造物の出来形管理における音響画像データの利用、海洋調査技術学会第14回研究成果発表会講演要旨集、46-47、2002
 
17. Philippe Blondel and Bramley J. Murton, HANDBOOK OF SEAFLOOR SONAR IMAGERY, WILEY
 
 NO.1は、インターフェロメトリック・サイドスキャンソナーであるSeaMARCII及びANKOUを開発したBlackinton氏の博士論文である。本論文中において、サイドスキャンソナーの原理上、図1に示すように、収録される音響画像データに、地形による歪みが含まれていることが述べられている。
 
図1. 仮想海底面と実海底面
 
 SeaMARCIIは、時間でサンプリングする音響画像データに対して、位相データの収集・測定は、同じ送受波器で行われているにも関わらず、処理は別々のハードウェア及びソフトウェアで行われていた。これはSeaBat8101と同様であり、時間でサンプリングされている音響画像データには、結果的に地形歪みが含まれている。
 
 インターフェロメトリック機能を搭載したSeaMARCIIが登場した1980年代は、NO.2及び3の論文でそのハードウェアが紹介されており、サイドスキャンソナーの原理上、図1に示すように、収録される音響画像データに、地形歪みが含まれていることが記述されている。
 
 NO.4の論文は、船底装備のマルチナロービーム測深機と曳航式サイドスキャンソナーの同時観測の例を紹介している。10年前までは、複数の異なる調査機器を異なる期間で使用した場合、両者の測位精度が大きな問題となっていた。すなわち両者の精度を考えると、二つのデータセットを同時に収録する重要性が指摘されていたためである。本論文では図2に示すように、船底装備のSEA BEAM(12kHz、ビーム数16本)とSeaMARCII(11/12kHz)の音波の干渉を防ぐため、SeaMARCIIとSea BEAMの受信時間帯がオーバーラップしないように、SEA BEAMの発信間隔を制御し、両者の同時観測を実施した例である。
 
図2. SeaMARCIIとSEA BEAMの同時観測
Fig. 1. Geometry of a dual Sea Beam-SeaMARC II operation.
 
 曳航式であるSeaMARCII曳航体の位置は、曳航ケーブルの繰り出し長及び角度から、船尾からの水平距離に換算したものであるが、当時の測位精度である数百mよりは、位置計測誤差は小さいことになる。
 現在では、GPSの精度を意図的に下げていたSelective Availability(SA)が廃止され、更に、高精度のモーションセンサーにより、送受波器の動揺を加味した補正が可能となったため、複数の船底装備のシステムを異なる時期に使用しても、大きな問題とはならなくなっている。ただし、異なる深海曳航式のシステムで音響測位による曳航体の位置計測を行う場合は、両者の測位精度の問題が生じる。
 
 SeaMARCIIが開発されて10年後に初めて、地形歪み除去を試みた論文が登場している。NO.7で紹介されている図3は、SeaMARCIIの水深データを用いて地形歪み除去を行った結果である。片側1,024個の音響画像データの地形歪みによる移動変位を算出するため、隣り合う水深点間において、線形補間処理を施している。地形歪み除去後の画像は、除去前の画像と大きく異なるが、本論文では、除去後の画像が地形図に表れている海底谷のトレンドと一致しており、地形歪みの補正が適切に行われたと結論付けている。また地形歪み補正により、仮想海底面よりも探査幅の外側にかけて水深が浅くなる場合は、設定した探査幅よりも広く、反対に仮想海底面よりも水深が深くなる場合は、設定した探査幅よりも狭くなっていることが分かる。このように海底面は平坦ではないため、設定した探査幅通りに海底面を画像化しているわけではなく、その起伏によって探査幅が変化している様子を読み取ることができる。これらの結果から、音響画像データから正確な位置及びリニアメントの方向性などの情報を抽出するためには、地形歪み除去が不可欠である。
 
図3. SeaMARCIIの地形歪み除去画像の例
(上:除去前の画像、中:除去後の画像、下:SeaMARCII地形図)
 
 No.5の論文は、図4に示す海底音響画像が紹介されている。図はワシントン湖、水深27mに沈むPB4Y型飛行機を捉えたものである。曳航体に近い飛行機の右翼は、湖底から5m上がっているため、右翼とその影の位置が大きくずれて描画されている。これは地形(この場合は湖底からの翼の高さ)による歪みのためである。ちなみに左翼のエンジンから先は、部分的に堆積物中に埋まっている。
 この論文中では図5を用いて、仮想海底面と実海底面の違いによる地形歪みを説明している。図に示したように、左舷から右舷にかけて浅くなっている場合は、右舷側のターゲットが深くなる方(送受波器の直下の方向)へ移動することが説明されている。しかし、この図には誤りがある。図は送受波器直下のB点の深さを仮想海底面としているが、仮想海底面は送受波器に最も近い点であり、この図では海底面と直角となる位置、すなわちA点と同じ斜距離の位置となる。したがって、仮想海底面は図の位置よりも浅くなる。
 
図4. ワシントン湖に沈むPB4Y型飛行機
 
図5. 地形歪概念図







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