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 この調査研究は、競艇公益資金による日本財団の事業助成金を受けて実施したものである。
 
まえがき
 日本海は極めて浅い4海峡(対馬・津軽・宗谷・タタール海峡)を通してのみ外洋とつながっており、その表層を除くと、孤立した海になっています。日本海の深層水は、アムール川を起源とする低塩分水に対馬海流を起源とする高塩の海水が北部海域で混じり合い、冬季の激しい海面での冷却による沈降によって活発に生成されており、その更新の時間スケールは100年程度と考えられています。しかし、最近の観測結果によると、冬季が異常に低温な年を除いて、その生成はほとんど止まってしまったのではないかと危惧されています。このように、日本海は現在問題となっている地球温暖化の影響が、他の海洋に先駆けて起こるものと考えられており、気候変動の研究において、世界の海洋のモデルとなる海域として注目を浴びつつあります。また、ロシア原子力潜水艦の廃棄に伴う放射能汚染やナホトカ号の沈没に伴う油汚染など各種の汚染が、日本海の中・深層に及んでいるという報告があります。そのため、近年数多くの国際的な共同観測・調査研究も行われてきております。しかし、日・露・韓に囲まれた日本海の調査研究には数々の制約があり、日本海での過去のデータの発掘と利用、これまでに得られた知識の整理と活用、およびこれらに基づく緻密で精度の高い情報・データの獲得に対する要求は高まりを見せつつあります。
 このような背景の下で、当協会では日本財団の助成金を受けて、平成14年度から3カ年計画で、「日本海の環境変動に関する調査研究」を実施してきております。この事業の目的は、現在までに行われた観測や研究に関する情報、報告書や論文等の文献、各種のプロジェクトについて調査し、未公開の資料を含めてデータ・情報の収集・整理・分析を行うことです。公開されていないものについては、所在情報を中心に収集します。このことにより、各方面からのニーズに応えられる体制を整えるとともに、これにより最近までの日本海の環境を把握し、今後の海洋環境の保全・海難防止等に寄与することを目指しております。
 平成15年度においては、初年度から行ってきた資料収集・整理の活動を継続し、対象範囲を日本海側沿岸域にまで拡大しました。そうして、収集した資料について属性情報を整理・付加する作業を行いました。また、初年度に行ったデータベースの基本設計に従って、データベースの構築を行いました。本報告書が各位におかれまして、ご参考になれば幸甚であります。
 最後に、本調査研究のご指導を賜った川邉正樹委員長・尹宗煥委員、を初めとする委員の皆様方、共同研究として一端を担っていただいた海洋情報部の担当の方々、及び調査研究の実施を担当していただきました三洋テクノマリン(株)の方々に厚くお礼を申し上げます。また、本調査研究のために貴重な情報・データを提供していただきました各機関・各研究者の方々に、心から感謝いたします。
 
平成16年3月
財団法人 日本水路協会
 
1.1 研究の目的
 日本海では、特異な現象である深層水生成が最近殆んど行われなくなった。一方、海洋汚染が中深層まで及んでいるとの指摘もあり、国内及び国際的にも関心がもたれ、海水流動、諸種の汚染物質、生物現象等について活発な観測・研究が行われているものの新しく得られた情報・データは、研究者が個別に或いは各種プロジェクト別に、保有されたままになっているのが現状である。
 そこで、本研究では過去数十年間に及ぶ情報・データを収集・整理・分析して提供することにより日本海の環境変動を明らかにし、今後の環境保全・海難防止に資することを目的とする。
 
 本調査研究は、3ヶ年計画で過去約50年間に行われた日本海についての国内外の観測・研究報告書、文献等の所在情報調査と現在までの情報・データ及び属性情報の収集・整理をした後、日本海の海域特性、経年変化など海況、環境変動を把握するための基本的な統計解析、各種図表化処理を施す。一方、元データと関連事項等との相互参照が可能かつ容易なデータベースを設計構築して組み込む。また、オンラインデータ検索表示システムを設計開発して各分野のユーザー等からの広範囲な利用、活用を図る。
 第2年次である平成15年度は、下記項目について研究を実施した。
(1)観測資料の収集・整理
 平成14年度の補足及び国・地方自治体が行った日本海沿岸域の海洋観測や環境調査に関する報告書、関連論文及びデータを収集し、整理・分類する。
(2)属性情報の整理・付加
 収集した資料に対する属性情報を整理・付加する。
(3)データベース構築
 平成14年度の基本設計に従い、収集したデータ・資料及び付属情報のデータベースを構築する。
 本年度の位置づけと研究フローを図1.1に示す。
 
図1.1 本年度の研究のフロー
 
 下記の方々により構成し、ご審議、ご指導をいただきました。(敬称略、順序不同)
委員長   川邉 正樹 東京大学 海洋研究所 教授
委員     尹 宗煥   九州大学 応用力学研究所 教授
関係官庁  柴山 信行 海上保安庁海洋情報部 海洋情報課長
佐藤 敏   海上保安庁海洋情報部 海洋情報課 上席海洋情報官
谷 幸男   海上保安庁海洋情報部 海洋情報課 主任海洋情報官
下平 保直 海上保安庁海洋情報部 環境調査課 主任環境調査官
中村 啓美 海上保安庁海洋情報部 技術・国際課 海洋研究室 上席研究官
(作業部会)
佐藤 敏   海上保安庁海洋情報部 海洋情報課 上席海洋情報官
谷 幸男   海上保安庁海洋情報部 海洋情報課 主任海洋情報官
下平 保直 海上保安庁海洋情報部 環境調査課 主任環境調査官
中村 啓美 海上保安庁海洋情報部 技術・国際課 海洋研究室 上席研究官
工藤 宏之 海上保安庁海洋情報部 技術・国際課 海洋研究室 研究官
松本 敬三 海上保安庁海洋情報部 環境調査課 海洋汚染調査室 環境調査官
事務局   我如古康弘 (財)日本水路協会 常務理事
○永田 豊   (財)日本水路協会 技術顧問
○友定 彰   (財)日本水路協会 海洋情報研究センター 所長
○鈴木 亨   (財)日本水路協会 海洋情報研究センター 研究開発部長
岡 克二郎  (財)日本水路協会 海洋情報研究センター 業務企画部長
委託先   渡辺 秀俊 三洋テクノマリン(株) 環境調査部 部長
鹿内 光   三洋テクノマリン(株) 環境調査部 係長
 
○印は研究指導
 
平成15年7月7日  第1回研究委員会 事業計画の了承、事業実施計画書の審議・承認
平成15年12月2日  第2回研究委員会 事業の中間報告の審議・承認
平成16年3月7日  第3回研究委員会 事業の最終報告及び総括、報告書(案)の審議・承認
 
 この他、平成15年6月3日、10月6日、11月25日
 平成16年2月25日
 計4回の作業部会を開催し、細目細部の整理・検討等を行った。







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