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 金融機関から鉄道を見ると、基本的に設備投資が大きくて、投資回収が長期で、先々輸送人員というのは減ってくる訳ですから、そうすると、うーん、と悩んでしまう、ということになってしまう。で、しかも、高齢者を顧客に取り込もうとした時に、バリアフリーとか、ユニバーサルサービス、こういうものは避けて通れない。逆にそれをキラーコンテンツにしていかなければいけないわけですけれども、収益を生まない事業について、じゃあ財務資金をどうやって調達するかというのが課題になってこようかと思います。
 で、私が地方鉄道事業の再生に携わった時に、いくつか理解をすることができました。ひとつは交通事業に対する地域の目というのは思ったより厳しい、我々は交通事業というのは公益的な事業だから、地域である程度は支えてもらえないかなという議論をしたんですけれども、必ずしもそういう議論になりにくいというのが、この時の例でございます。市は基本的に県の言うとおり、県はなかなか一企業のためにということで、都合のいい時は株式会社だからという論理が出てくるんですね。交通だからという論理は、なかなか通用しないんだということを認識しました。この時に、運輸局さんが間に入ってくれたからこそ、事業者と自治体を同じテーブルにつけることができたかなと認識をしています。
 それともうひとつ、どういうふうにお客さんを増やそうかと真剣に考えたわけですね。そうしますと、これまでの経営データ、輸送の実績ですとか、定期を持ってらっしゃる方がどこに住んでるかとか、そういうデータが全然、とれてないということに気付いたわけです。
 つまり、企画部門の方というのは真っ先にリストラされていますので、現場の方は当然切れないですけれども、企画だとか経営企画をやる方がほとんど会社に残ってないというのが、その裏にあると思います。
 全国のバス事業者さんとかに聞いたところ、いわゆる情報データを合理的に分析している会社というのは、今まであまりお目にかかったことがありません。小売でしたら重要ですよね。雨が降った日何人来るか、温度が高い日何が売れるか、これのデータの積みあげが小売の基本的なビジネスモデルでございますが、交通というのは果たしてそれができるのかどうかということでございます。
 では一方で、政策として何ができるかということですが、よく交通の世界では上下分離という議論がでます。これはやはり上下の考え方を逆に考えるべきなのかなというふうに考えています(図9)。地方公共交通の場合、一番難しいのは、輸送需要を確保できないということで、下の資本が集まらないというのは、あまり直接的な原因じゃないと思います。先々、輸送人員が確保できますか、キャッシュフローが確保できますか、というのが一番大きな企業リスクでございます。
 
図9 地方鉄道事業における政策支援の可能性
 
  問題の本質 処方箋 政策支援の可能性
〔輸送需要の確保〕

〔Cash Flowの維持〕
 ‐ 内部補助の活用
 ‐ 欠損補助
 ‐ 運行委託・PFI化
 ×
 △
 × (業法の制約)
〔設備投資の維持〕

〔安全対策問題〕
 ‐ 近代化補助
 ‐ 自治体保有
 ‐ 基金積み立て
 ‐ PFI化
 ‐ Qualityの維持
 ○ (赤字要件?)
 ○ (時間軸?)
 ○ (運用益?)
 △ (実例なし)
 △ (技術評価)
 
 
 で、「下」の部分ですが、これは国の近代化補助とか、自治体さんが持っておられたりと、いろんなやり方があるのでここは何とかクリアできるんです。ただ、「上」については政策支援できないんですね。例えば交通事業者が内部補助の源泉として計画をしたとしても不動産事業に対して補助して下さい、といっても、これは補助できるわけありませんから、政策支援はできないんですね。つまり経営上は「上」の部分をどうするかというのがポイントになる訳です。
 ちなみに、イギリスのドックランド鉄道延伸では、民間が資金調達をして「下」を整備し、公共が「上」の輸送需要リスクをもつという、日本と逆の上下分離になっています。
 公共交通の意義というのはあるんだろうと私は思っております。例えばということでバスの取り組みをご紹介いたしますと(図10)、コミュニティバス、パークアンドライド、バスレーン。これらは、自動車と比較した時に多少便利にしましょうということですね。だいたい、こういうことをやってらっしゃる。従ってこれらは基本的にマーケティングを意識した試みということになります。潜在需要を掘り起こす、ライバルに対する競争力、優位性を増すということになります。
 鉄道の場合はどうかというと、なかなかやりにくいのが実態でございまして・利用者利便の向上というのはある程度鉄道でもできるわけでございますが、最大のライバルである自動車に対して鉄道がいいよというふうには、なかなか決め手がないというのが実態でございます。
 
図10 バス事業における新たな試み
 
 運賃について申し上げますと、鉄道の場合は総括原価主義で運賃を決めて、上限認可ということでございますけれども、鉄道の場合、平均乗車キロが10kmというふうに言われています。だいたい10km車で移動すると、ガソリン換算すれば1リットルですからだいたい100円でございます。つまり10kmの移動だったら100円というのがコストの相場ということです。それに対しまして、10kmを鉄道で移動しますと、だいたい200円超でございましょうから、不便な上に倍額払えというのが今の鉄道の運賃の設定の仕方です。
 大都市みたいに、車を使う時間コストとか他のコストがかさんでくる、あるいは都心の駐車場が月々に3万円もする、ということになりますと、高くても鉄道を使うという反応をします。総合コストで考えるということですが、地方圏にいきますと総合コストで考えても車の方が圧倒的に有利だということになります。
 あともうひとつは心理的な費用の負担感。これ、首都圏ではパスネット(=関東圏の地下鉄・私鉄21社局が切符を買わずに利用できる共通乗車カード)とか、いろいろカードがございますが、この部分が結構多うございます。週休2日が定着したころ、回数券のほうが割安になる場合が増えましたので、定期券をやめて回数券に随分流れました。それがパスネットが入ってからパスネットに戻ってきたという現象が起きたんです。
 パスネットというのは割引ゼロでございますけれども、なぜパスネットに戻ったかというと、利便性でございます。例えばバスで190円払えと、これはぴったり持ってるとしても小銭の数が多いですよね。それをいちいち払わなくてはいけない。電車に乗るにしても、例えば買い物だとしますと、定期なんて持っていませんから、その都度お金がいりますね、200円、300円と必ずコストを払ってるという意識をする。自動車の場合は、給油の頻度はヘビーユーザーで月に2回ぐらい、使わない方だと、月に1回ぐらいで済むわけです。キャッシュに触るというのが月に1回で済むわけですね。そうしますと明らかに心理的な費用負担感は違います。先ほどのパスネットが使われる理由はこれですね。忘れたころに残額がなくなったな、じゃあまた、3000円券買おうか。3000円だけは負担感を感じますけれども、その後使う時はほとんど負担感を感じません。そうすると、結構、人間行動心理学的には使用頻度が増えるんですね。こういうようなお話でございます。
 







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