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はじめに
 モータリゼーションの進展に伴って、運輸部門からの二酸化炭素排出量が増加の一途をたどっております。こうした現状を改善するには車両の環境負荷低減対策だけでなく、マイカーに過度に依存したライフスタイルを変え、環境に配慮した地域交通を形成する必要があります。
 また交通は、モビリティを確保するための手段だけでなく、まちづくりをはじめ、地域住民のくらしや地域のあり方を左右する重要な社会の基盤であることを考えると、環境に配慮した交通を機軸としながらも、移動のしやすさ等、他の要素とも調和のとれた交通の実現を今後進めていかなければなりません。このような地域交通づくりを進めていくには、地方公共団体と住民が主体となり、地域のニーズ・特性にあった交通施策を立案し、実施していける仕組みをつくることが必要であります。
 しかしながら地方公共団体や市民団体等では、交通施策の企画・立案などができる専門家の育成が十分に進んでいないことや、関係団体や交通事業者、住民との連携不足等のため、プロジェクトの具体化ができないところもあると考えられます。
 そこで交通エコロジー・モビリティ財団では、平成14年度から日本財団からの助成金を受け、地方公共団体や市民団体等の3団体と住民参加型の委員会の設置・運営を通じて、よりよい地域交通の実現を3、4年かけて、協働して目指すこととしました。平成15年度も引き続き支援を行うと共に、大阪府和泉市の交通環境教育については、他の地域がこれらをモデルケースとして活用するためのノウハウをとりまとめ、その取り組みの普及を開始いたしました。
 本事業の実施にあたっては、プロジェクトごとに地方公共団体と住民が主体となり、学識経験者、関係団体、交通事業者、関係行政機関の方々からなる「推進委員会」を設けるとともに、それらの支援を行うため、学識経験者、市民団体、関係行政機関の方々からなる「住民主体の環境に配慮した地域交通づくりの推進 中央支援委員会」を設け、指導・助言を得ながら推進しました。杉山中央支援委員会委員長をはじめ関係委員会委員の方々、ならびにご協力をいただいた多くの皆様に深く感謝を申し上げる次第であります。
 
平成16年3月
交通エコロジー・モビリティ財団
会長代行
(理事長) 淡路 均
 
 
I 事業の概要
1. 本事業の背景と目的
 地球温暖化の問題が深刻化しており、運輸部門の二酸化炭素排出量の抑制が重要な課題の一つとなっている。平成12年の運輸部門の二酸化炭素排出量はわが国全体の排出量の20.7%を占め、そのうち自家用乗用車の排出量の割合は57.9%となっている。その原因には、車に過度に依存したライフスタイル化の進展が車の走行量増加を招いたことが要因として挙げられる。
 また、交通は単なる「移動手段」にとどまらず、まちづくりをはじめ、地域住民のくらしや地域のあり方を左右する重要な社会の基盤であることを考えると、環境に配慮しながらも、移動のしやすさ等、他の要素とも調和のとれた交通の実現を今後進めていかなければならない。この環境負荷が少なく他の要素とも調和のとれた地域交通づくりを進めていくには、地方公共団体と住民が主体となり、地域のニーズ・特性にあった交通施策を立案し、実施していける仕組みをつくることが必要である。
 地方公共団体や市民団体等がこのような視点から、地域交通づくりに取り組んでいる所も少なくないが、「企画・立案等ができる専門家の育成が十分に進んでいない」、「大学等の研究団体、事業者等との関係が十分でない」、「住民や事業者、関係団体間の合意が得られない」等の様々な問題のためにプロジェクトが具体化できないケースもあると考えられる。
 以上のような状況を踏まえ、平成14年度から交通エコロジー・モビリティ財団では日本財団からの助成金を受け、3団体(2自治体、1市民団体)と3、4年かけて協働し、よりよい地域交通の実現を目指すこととした。平成15年度も引き続き3団体と協働し、各プロジェクトの住民参加型委員会を運営し推進するとともに、大阪府和泉市の交通環境教育については、他の地域がこれらをモデルケースとして活用するために、平成14年度の取り組みで得られたノウハウを取りまとめ、その普及を開始した。
2. 事業内容
(1)平成14年度実施概要
1)推進プロジェクトの発掘・選定
 本事業ではまず、地方公共団体が主体となり、住民参画を前提として実施するプロジェクトや、市民団体等が自主的に行うプロジェクトについて、交通エコロジー・モビリティ財団と協働してプロジェクトを進めることのできる団体の発掘をアンケート調査及びヒアリングを行い、その結果に基づいた8プロジェクト(7団体)に対して、支援申請書の作成を要請した。
 支援申請書をもとに中央支援委員会において審議を行い、支援対象となるプロジェクト3件を選定した(表I-2-1)。
 
表I-2-1 協働先の3団体とプロジェクト内容
団体名 プロジェクト名 プロジェクト内容
和泉市(大阪府) 「総合的な学習における」交通・環境教育プログラム 市、学校(教員)、PTAが協力して、小学5年生の「総合的な学習の時間」を活用し、交通環境知識の習得と交通利用体験を通して環境負荷の少ない交通行動への変革に結びつけることを目指し、平成16年度までに汎用性のある交通環境教育の教材やプログラムを確立する。
滝沢村(岩手県) 村のバス事業見直しや新駅開設に伴う公共交通網の再編 公共交通機関の利用促進と村の交通課題(道路渋滞、高齢者の足の確保等)の解決を図るため、平成17年度までに村の公共交通総合計画を作成し、実現を目指す。
広島のみちの使い方を考える研究会(広島市) わかりやすく使いやすい公共交通の実現 マイカーから公共交通への利用転換を促進するため、平成16年度までに、5つのバス事業者が独自に作成していたバス停表示の統一化案とダイヤ調整等による乗り継ぎの容易化を図る。
 
2)各プロジェクトの推進
 (1)で選定した各プロジェクトの実現を目指すために、平成14年度にプロジェクトごとに委員長となる学識経験者の選定や事業者への参加呼びかけを行い、「住民参画型推進委員会」(以下、推進委員会)を設置し、協働に着手した。
 
(2)平成15年度実施内容
1)各プロジェクトの推進
 平成14年度に引き続き、3団体のプロジェクトを継続して支援し、推進を行った。各プロジェクトの15年度実施概要は以下の通りである。
・和泉市
 平成14年度に試行した教材や実践プログラムについて、先生や子どもたち、保護者等の意見を踏まえ改良を行った。また平成14年度に「かしこいクルマの使い方」プログラムを学習した子どもたちとその保護者にアンケート調査を実施し、「かしこいクルマの使い方」に対する意識の持続性についての評価を行った。
 
・滝沢村
 平成14年度に実施した「バス交通等に関するアンケート調査」に基づき、利用状況、意識、ニーズ等の詳細分析を行うとともに、新駅利用の促進施策案を検討するため、地域を絞った訪問聴き取り調査等を実施し、課題や施策案を取りまとめた中間報告を作成した。
 
・広島のみちの使い方を考える研究会
 広島市内の一部区間を対象として、平成14年度に検討を行った統一時刻表のデザイン(案)を用いて、その有用性と課題を抽出するための試行調査を一ヶ月間実施した。さらにその結果を反映した統一時刻表の改善案についての検討を行った。
 
2)大阪府和泉市のプロジェクトの普及
 大阪府和泉市の交通環境教育に関しては、他の地域がモデルケースとして活用するために、平成14年度の取り組み内容をとりまとめ、その普及を開始した。







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