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図3.1.1 簡易計算結果(全ての船舶のデータを表示)
 
 
図3.1.2 簡易計算結果と詳細計算結果の比較
 
 今回詳細計算にて分割計算を行ったのは、No.1 COTとNo.5 COT、Slopタンクのみ、且つ船側損傷のケースのみであるが、図3.1.2に示すように詳細計算を行うことによって全ての船舶がBLG6クライテリアを満足した。
 
 
 次に、簡易計算による誤差量の評価を行った。詳細計算は、本部会の検討結果より、十分な区画分割数を与えれば真の値に近い値を与えることがわかっており(2章参照)、本検討では詳細計算の結果を真として取り扱っている。検討結果を図3.2.1に示す。図3.2.1において、縦軸は詳細計算結果と簡易計算結果の比を表している。本図より、スエズマックスおよびアフラマックスの2列タンク配置を持つ船舶での詳細計算結果と簡易計算結果の比の平均は0.945とほぼ1に等しい。つまり、簡易計算の結果は真の値に近く、誤差が少ない。一方、3列タンク配置を持つVLCCでの平均は0.722であり、簡易計算での誤差が大きいことがわかる。
 
図3.2.1 簡易計算結果と詳細計算結果との誤差量の比較
 
 この結果より、3列タンク配列を持つ船舶に簡易計算を適用した場合の誤差を2列タンク配列を持つ船舶程度に修正する目的で、3列タンク配列船に適用する以下の係数C3を求めた。
C3=(3 tank配列船の誤差平均)/(2 tank配列船の誤差平均)=0.764
 この係数を、船側からの仮想流出量を求める下記式に用いることをBLG7(平成14年6月)でのWGにて提案した。
 
C3 = 0.77 for vessels where the block coefficient is less than 0.85 and having two longitudinal bulkheads inside the cargo tanks provided that those bulkheads are located uniformly in her entire cargo area.
C3 = 1.0 for the other vessels
 
 ここで、C3の定義において、この係数C3は一般的な3列タンク配列を持つ船(Cb<0.85)を対象としていること、それ以外はC=1.0とする旨の但し書きを加えている。
 
 
4.1 詳細計算方法
 
 暫定ガイドラインで規定されている損傷確率計算方法をベースにした新たな詳細計算手法(2.2参照)を提案した。本案は改正規則の、Explanatory Noteに含められることで合意され、我が国がその草案を担当した。
 
 
 3列貨物油タンクを持つタンカーに対して、船側損傷による仮想流出量OMSの簡易計算と詳細計算での顕著な差を修正する為の係数C3 (=0.77) の導入を提案した。この顕著な差の理由として、以下の説明を行った。
 船側外板と貨物タンク囲壁との距離の問題に加え、3列タンクの場合のセンタータンクの容量は前端・後端のタンクになってもほとんどmidship部タンクの値と変わらない。一方、外板の痩せによって、外板とタンク隔壁間の距離は小さくなるのでOMSの値が非常に大きくなる。2列タンクの場合は、外板の痩せに従って貨物油タンクの容量が小さくなるのでこの問題は小さい。
 WGにおいて、C3を採用する場合、詳細計算方法は不要ではないかとの指摘があったが、C3の導入は簡易計算の計算値を詳細計算手法によって得られる値に近づけることを目的とするものであり、真の値を求めたい場合、また通常と異なる船型又はタンク配置に対する計算のために詳細計算手法を存続させておく必要がある旨を回答した。ただし、詳細計算を適用する場合は、C3=1.0にすべきであることを補足した。
 また、Cbを0.85で分けている根拠に対する説明を求められ、全くの箱型(Cb=1.0)であればC3は1.0となるはずであるが、C3=0.77を採用する場合、ほとんどのVLCCはCbが0.85未満なので、0.85を制限値としたと回答した。審議の上、実際のタンカーのCbが一般的には0.85未満であることから、Cbの規定は不要との結論となった。
 以上の議論を踏まえ、C3の定義の記述からCbの規定を削除すること、及び詳細計算をする場合には3列貨物油タンクの場合でもC3=1.0とする修正がなされた。この結果、第21規則第6節の船側損傷による油流出量計算式の記述を変更し、3列貨物タンク船については係数C3=0.77、その他の船及び詳細計算の場合については係数C3=1.0とすることが決定され、改正規則に盛り込まれた。
 
 
 主として下記の点についての解説を作成し、Explanatory Noteに採用されている。
(1)詳細計算方法の説明(資料2)
(2)簡易計算方法の例(VLCCを用いた計算例、ステップbyステップの解説)(資料3)
(3)C3係数の説明(資料4)
 また上記以外にも、Explanatory Note全般に亘ってその作成に携わっている。
 
 
 本油仮想流出分科会は、IMO BLGが行ったMARPOL付属書I改正に伴う油仮想流出量計算手法の改正に対応すべく設立され、計算手法の提案から妥当性の検討、Explanatory Noteの作成に至るまで、我が国の対処方針を決定し、IMO関係会合に的確な提案を行うことを目的として活動してきた。
 本部会では、実船データを用いた検討により、簡易計算手法およびクライテリアの妥当性の確認を行うと共に、詳細計算手法の開発を行った。我が国の提案は、理論的整合性は勿論の事、この実船データの裏付けと共に提案されたことが評価され、改正規則案にその成果が色濃く反映されることとなった。
 今回のMARPOL付属書Iの改正は、度重なる改正によって複雑化した規則をユーザーフレンドリーな規則とすることを主眼とし、規則条文表現、配列の改正を主とし、規則強化となるような改正は原則行わない方針にて行われた。従って、本油流出量計算においても規則算式自体は変更となっても、現存船舶を排除するような規則・クライテリアとしないこととしており、本部会でも実船を用いた試計算により、現在国内造船所にて建造されている船型が改正規則によって排除されることが無いことを確認している。
 さらに、本文中には掲載していないが、本部会では油仮想流出量規則改正に対する検討だけではなく、付属書I改正全般に亘り検証を行い、前述の「規則強化としない」と言う前提条件に反した改正条文となっていないか、我が国にとって不利となるような改正となっていないかのチェックを行い、適切な提案をIMOに行っている。
 油仮想流出量規則(第21規則)及びそのExplanatory Noteを含む付属書Iの改正については、BLG8(平成15年3月)にて承認されており、今後MEPCの承認、採択を経て2007年1月1日施行予定となっている。
 最後に、国土交通省の方々をはじめ日本財団、日本造船研究協会、さらにRR E202油仮想流出分科会委員の方々のご尽力に対し、深く感謝申し上げます。







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