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3. わが国における検討
 
 バルクキャリアの安全をFSAを使って再検討するとのIMOでの合意を受けて、RR-S702(RR74)の中にFSA検討WGを設置してバルクキャリアのFSAを実施した。尚、最終報告書はMSC75に提出された(MSC75/5/2)ほか、国土交通省のWeb Pageで公開された。
 
3.1.1 概要
 本FSA StudyではFSAの基本であるHolistic Approachを採用したが、プロジェクトの実施期間や予算を勘案して、最終的にはスコープを現実的な範囲に絞り込んだ。例えば、バルクキャリアの定義としては「乾貨物を運ぶ船舶」といったより一般的な定義も議論されていたが、バルクキャリアの種類ごとのフリート分析を実施した結果、最終的にはビルジホッパータンクとトップサイドタンクを有する典型的なばら積貨物船に限定した。
 日本のBC FSA Studyでは文献調査およびブレーンストーミングによりハザードの同定作業を実施し、主にLMIS(Lloyd's Maritime Information Service、現在のLloyd's Register Fairplay社(略称LRF))の海難データベースを使った事故事例分析の結果と併せて重要な事故シナリオを抽出した(図3.1.1.1参照)。例えば、事故シナリオ1は、(1)船側損傷のような船体構造損傷による浸水、(2)各種閉鎖装置等の甲板付き部品の損傷による船首部浸水、あるいは(3)貨物倉口蓋の損傷またはその締付装置の不具合による浸水といった初期損傷/浸水を考え、その後のProgressive floodingが起こり事故拡大するものと考えた。
 リスク解析はEvent tree、Fault treeを構築して検討を行った。統計的かつ定量的なリスクデータを得るために、ばら積み貨物船の各年度・各サイズ毎の船腹量(母集団)の調査、事故データに基づいたリスク寄与系統図(Event tree、Fault tree)の構築、専門家判断を加えた事故データの分析、事故データに基づくばら積み貨物船のリスクの算出・評価を行った。
 事故データだけに基づくリスク評価結果には、海上人命安全条約(SOLAS)のXII章のように導入されて日の浅い対策の効果が反映されない。従って、新しいRCOのリスク低減量を推定するのと同様にその効果を推定し、現在のリスクレベルを予測評価した。その結果、現在のバルクキャリアのリスクの大きさはSOLAS XII章の効果の予測シミュレーション等により、ALARP領域にあると判断された。
 RCOについては、文献調査およびブレーンストーミングにより出来るだけ多くのRCOを抽出するように努め、結果を取り纏めた。これら数多くのRCOの中から専門化によるブレーンストーミング等を経て、詳細に検討すべきRCOは絞り込んだ。詳細に検討する対象となったリスク制御措置(RCO: Risk Control Option)は以下のものである。
 
・RCO11: Extended application of SOLAS Chapter XII to new bulk carriers (<150m in length).
・RCO15: Double side skin (all C/Hs)
・RCO16: Corrosion control of hold frames (Increase of corrosion margin)
・RCO51: Corrosion control of hold frames (Severely control of paint condition)
・RCO52: Corrosion control of hold frames (Application of enhanced corrosion allowance)
・RCO21: Extended application of SOLAS Chapter XII to existing bulk carriers (<150m in length).
・RCO23: Application of UR S21 to existing ships
・RCO25A: Application of double side skin construction for existing ships (all C/Hs)
・RCO25B: Application of double side skin construction for existing ships (Nos. 1&2 C/Hs)
 
 最終勧告の中で推奨すべきRCOを選択する為に、RCOの費用対効果を検討した。この際、「死者一人を防ぐための換算総コスト或いは純コスト」(GCAF或いはNCAF)という指標による評価を行った。
 
 
 ここに、
△C: リスク制御オプションの適用にかかる費用
△B: リスク制御オプションの適用による経済的利益
△R: リスク制御オプションの適用によるリスク低減量
 
 RCOをGCAFの値でランキングして検討し、例えば、以下のような最終的な勧告案を導き出した。
・近年導入されたESPやSOLAS XII章によりバルクキャリアのリスクレベルは相当程度改善された。
・150m未満のバルクキャリアのリスクに対する対策の必要性は相対的に大きい。
・150m以上のバルクキャリアについてもALARP(As Low as Reasonably Practicable)にすべく、費用対効果の高いRCOがあれば導入すべきである。
・費用対効果の高いRCOとしては、船側構造損傷防止を目的とした予防的なRCOが推奨される。
 
図3.1.1.1 Risk Contribution Tree
 
3.1.2 問題設定など
3.1.2.1 問題設定
 日本のFSA研究の主要な目的は、バルクキャリアの安全に関してIMOで議論されてきた事項に対応して以下を実施し、IMOでのバルクキャリアの安全に関する議論の基礎を提供することである。特に、MSC72/INF.7で報告したように本研究を開始する契機となった事項について重点を置いている。
■バルクキャリアの安全レベルを調査し、
■バルクキャリアのハザード及びリスクを調査し、
■バルクキャリアの安全性向上につながる更なる対策の必要性を検討し、
■必要性が確認された場合、バルクキャリアの安全性を向上させる対策を追及することにある。
 このために、IMOで開発されたFSA暫定ガイドライン(MSC/Circ.829&MEPC/Circ.335)に従って、バルクキャリアに特有と思われる全てのハザードとリスクを対象に調査検討を行い、リスクが高いと判断されたものについては必要なリスク制御手段の検討を行った。尚、他の船種にも共通するハザードやリスクについては検討対象から外した。
 
3.1.2.2 一般化モデルの定義
 Generic Modelについては、まず、バルクキャリアの定義を初め、出来るだけ広範囲に調査・検討を行い、バルクキャリア固有であること、リスクが大きいことをパラメータに絞り込んだ結果、最終勧告の対象となるバルクキャリアは以下のように整理された。
 
バルクキャリアの定義 :SOLAS IX章の定義
断面形状         :図3.1.2.1
大きさによる分類     :表3.1.2.2
 
図3.1.2.1 
Midship section of ordinary type bulk carrier
 
表3.1.2.2 バルクキャリアの大きさの分類とLF、DWTの関係
  Lf (m) GT DWT (ton) (DWT*)
(Mini) 100-130 5K-14K 10K-23K 10K-35K
Small-Handy 130-150
Handy 150-200 14K-30K 23K-55K 35K-50K
Panamax 200-230 30K-45K 55K-80K 50K-80K
Cape size 230-270 45K- 80K- 80K-
(VL) 270-
Note:* 
For the reference, these values are cited from the report of Bulk Carrier Report, An analysis of vessel losses and fatalities Statistics for 1999 and ten years of losses 1990-1999.
 







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