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はしがき
 
 本報告書は、日本財団補助事業として平成11年度から5年計画で、日本造船研究協会RR-S7安全評価部会(平成11年〜13年度はRR49)で実施した「船舶の総合的安全評価に関する調査研究」の成果をとりまとめたものである。
 
「RR-S7安全評価部会」委員名簿(敬称略、順不同)
 
委員長 大和 裕幸 東京大学 (平成11〜15年度)
委員   浦 環 東京大学 (平成11〜15年度)
     篠田 岳思 九州大学 (平成11〜15年度)
     今津 隼馬 東京海洋大学 (平成11〜15年度)
     高橋 勝 海上保安大学校 (平成12〜15年度)
     吉澤 和彦 高等海難審判庁 (平成14年度)
     雲林院信行 高等海難審判庁 (平成15年度)
     渡邉 巌 海上技術安全研究所 (平成11〜12年度)
     宮本 武 海上技術安全研究所 (平成11〜15年度)
     吉田 公一 海上技術安全研究所 (平成14〜15年度)
      同上 船舶艤装品研究所 (平成11〜13年度)
     伊藤 康義 海上技術安全研究所 (平成11年度)
     松岡 猛 海上技術安全研究所 (平成11〜15年度)
     金湖富士夫 海上技術安全研究所 (平成11〜15年度)
     太田 進 海上技術安全研究所 (平成11〜15年度)
     福戸 淳司 海上技術安全研究所 (平成11〜13年度)
     三友 信夫 海上技術安全研究所 (平成11、14〜15年度)
     伊藤 博子 海上技術安全研究所 (平成14年度)
     梶浦 充成 運輸施設整備事業団 (平成13〜14年度)
     津田 直美 鉄道建設・運輸施設整備支援機構 (平成15年度)
     有馬 俊朗 日本海事協会 (平成11〜15年度)
     菅野 瑞夫 日本海難防止協会 (平成11〜12年度)
     児林 秀雄 日本海難防止協会 (平成13年度)
     松永 敬典 日本海難防止協会 (平成14〜15年度)
     村山 雅己 製品安全評価センター (平成14〜15年度)
     瀬谷崎裕之 三菱総合研究所 (平成11〜12年度)
     林 和男 ユニバーサル造船 (平成11〜14年度)
     中峰 正則 ユニバーサル造船 (平成14〜15年度)
     平井 忠 三菱重工業 (平成14年度)
     大竹 和彦 三菱重工業 (平成14〜15年度)
     原田 朋宏 アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (平成14〜15年度)
     石岡 靖 日本海洋科学 (平成11〜12年度)
     安田 克 日本海洋科学 (平成13年度)
     川瀬雅勇己 日本海洋科学 (平成14年度)
     原 大地 日本海洋科学 (平成15年度)
     的場 正明 RITAコンサルティング (平成11〜15年度)
     在田 正義 RITAコンサルティング (平成12〜14年度)
 
関係官庁 三谷 泰久 海事局安全基準課 (平成11〜13年度)
      梶田 雅紀 海上技術安全局安全基準課 (平成11年度)
      加藤 光一 海上技術安全局安全基準課 (平成11年度)
      阿部 真嗣 海上技術安全局安全基準課 (平成11〜12年度)
      植村 忠之 海事局安全基準課 (平成11〜15年度)
      田口 昭門 海上技術安全局安全基準課 (平成11〜12年度)
      山田 浩之 海事局安全基準課 (平成11〜13年度)
      大西 泰史 海事局安全基準課 (平成11〜13年度)
      市川 政文 海事局安全基準課 (平成13年度)
      安藤 昇 海事局安全基準課 (平成14〜15年度)
      石原 典雄 海事局安全基準課 (平成14〜15年度)
      丹羽 康之 海事局安全基準課 (平成14年度)
      伊藤 康敏 海事局安全基準課 (平成14年度)
      永井 啓文 海事局安全基準課 (平成14年度)
      小久保佐恵喜 海事局船員労働環境課 (平成14〜15年度)
      長濱 克史 海事局海技資格課 (平成14年度)
      吉田 晶子 海事局海技資格課 (平成15年度)
      河野 優 海上保安庁 (平成11年度)
      村瀬 克史 海上保安庁 (平成11年度)
      稲田 健二 海上保安庁 (平成12〜13年度)
      福田 幸二 海上保安庁 (平成12〜14年度)
      遠山 良和 海上保安庁 (平成14年度)
      池田 紀道 海上保安庁 (平成14年度)
      林田 保宏 海上保安庁 (平成15年度)
      川俣 従道 高等海難審判庁 (平成11〜12年度)
      吉澤 和彦 高等海難審判庁 (平成13年度)
 
事務局 板倉 輝幸 日本造船研究協会 IMO担当 (平成14年度)
    小磯 康   日本造船研究協会 IMO担当 (平成14〜15年度)
    柳瀬 啓   日本造船研究協会 IMO担当 (平成15年度)
    田島 裕   日本造船研究協会 (平成12〜13年度)
    西村 新次 日本造船研究協会 (平成12〜13年度)
    前中 浩   日本造船研究協会 (平成13年度)
    斉藤 清一 日本造船研究協会 (平成14年度)
    山岸 進   日本造船研究協会 (平成14〜15年度)
 
註:社名変更があった場合、最新社名を記した。
 
 
 本調査研究部会では、平成11年度から平成15年度までの5年間に亘って第49基準研究部会「船舶の総合的安全評価に関する調査研究」(平成15年度はRR S7基準調査部会)を実施してきた。
 1993年に英国からIMO MSC62にFSA(Formal Safety Assessment)が提案され10年を経過した。その後、1997年5月のMSC68において「FSAの暫定ガイドライン」をIMOの規則改正の手続きとして導入することが採択され、各国でこのガイドラインの試適用が開始され問題点の抽出が行われた。その後、2001年5月のMSC74において暫定ガイドラインが改正されて「FSAガイドライン」として採択された。
 この間、バルクキャリアの海難事故対策が緊急課題との認識から、FSAによる安全対策の検討が、英国、及び日本を中心に1999年から開始された。我が国では、1999年から3年計画で第74基準研究部会「ばら積み貨物船の安全対策に関する調査研究」(RR74バルクキャリアWG、現在はS702分科会)がその作業を行い、バルクキャリアのダブルハル化等の安全対策を提案した。これは、IMOにおいて初めて規則改正に適用された事例であり、記憶に新しいところである。
 FSAの提案以後、我が国では、第42基準研究部会「船舶の確率論的安全評価方法に関する調査研究」(平成7〜11年度)によりFSAに関する基礎的検討が行われ、これに引き続き本基準研究部会が設置され、IMOにおけるFSAの動向の把握や問題点の検討、FSAに囚われない安全評価手法に関する調査、安全評価のためのデータベースの整備を目標に調査研究が行われてきた。
 尚、本基準研究部会では、安全・環境に関する社会的規制について、その透明性の確保と説明責任を果たすため、安全・環境レベルを維持しつつ、社会的コストを最小化し得る船舶の総合的安全評価システムの基盤を確立することを目標として調査研究を実施してきた。将来広く利用され得る安全評価のインフラ整備を行うもので、個別の具体的な安全評価は個々の基準部会にて実施することとされた。
 本部会は、大学、船社、造船所、海難審判庁、海上保安庁、各研究機関など各分野の委員により構成され、船舶の安全確保について広範囲の意見を反映するようにした。
 本報告書は、5年間の主な成果を取りまとめたものである。
 
 
2.1 調査研究の背景と目的
 国際的な経済・社会の変化を背景として、既存の制度見直しが求められている。これは、運輸分野においても例外ではなく、経済活動の活性化、国際的な経済活動に対応するために様々な規制緩和が求められている。
 規制緩和により新規事業や経済の効率化の追求により、さらなる経済発展が期待される一方、事業者は競争力を維持向上させるためにコストの見直し・削減に向かうことは必至であり、これまでの安全・環境対策コストもその範疇にある。しかし、安全を無視した作業効率化は事故発生の危険性を孕んでおり、慎重な対応が必要である。規制する側の行政は、安全対策の必要性を明確にする責任があり、規制される側の国民や事業者に対して規制根拠の説明責任を果たすことが重要となりつつある。
 平成10年に出された運輸技術審議会の第22号答申「経済社会状況の変化を踏まえた運輸技術施策の基本的な在り方について」の中でも、今後の技術規制の在り方として、ユーザーとメーカー間の安全等に関する情報格差の是正や規制の評価制度の充実、さらに仕様基準から性能基準への見直しの重要性等が指摘されている。
 一方、国際的にも、IMOにおいて、FSAのような規則作成過程の手続きが一般化されることとなりつつある。FSAは、船舶の安全性を確保するために、従来の規制が事後的(reactive)な安全対策であったのと異なり、包括的・組織的にproactive(予測的)な安全対策の立案を可能にするもので、step 1〜step 5までの、ハザードの同定、リスクを評価し、費用対効果をみて対策を勧告する構造となっている。安全規則の策定過程を明確にし、評価は客観的なデータに基づき、その透明性と説明責任を果たすことを目指すものである。
 このような背景から、本研究部会では、
・安全・環境に関する社会的規制について、その透明性の確保と説明責任を果たすため、安全・環境レベルを維持しつつ、社会的コストを最小化し得る船舶の総合的安全評価システムの基盤を確立すること
・IMOにおけるFSAの開発・運用に対して我が国意見を的確に反映すること
・総合的安全評価に基づく合理的な安全・環境対策の立案方法を示すこと
を目的として実施してきた。
 なお、本研究部会は、将来広く利用され得る安全評価のいわばインフラ整備を行うもので、個別の具体的なニーズにより実施される安全評価は個々の基準部会にて実施することとした。
 
 平成11年度から5ケ年に亘り実施した研究の経過の概要を以下に述べる。なお、調査研究項目および成果の詳細を表2.1に示す。
 本研究部会の調査研究項目を以下に示す。
1)IMOにおけるFSAの審議動向の把握と我が国の対応(平成11〜15年度)
2)海上安全分野で広く活用できる評価システムを確立するための調査(平成11〜15年度)
3)安全評価の基礎となる事故事例等のデータベースの整備(平成11年度〜15年度)
4)具体的な事故データ解析し、総合的安全評価システムによる合理的な安全・環境対策の立案(平成12年度〜15年度)
 
表2.1 RR49およびRR-S7の実施項目と成果
 
  RCT(Risk Contribution Tree)の作成・・・ハザード発生―事故発生―最終結果に至るシーケンスの構造化および定量化 FSA評価試行 データベース関連 IMO、安全評価手法調査、ヒューマンファクター、その他
ET解析 衝突・乗揚回避失敗確率推定      
H11 ・危険因子の同定
・事故シナリ才(衝突、座礁、浸水、火災)の基礎的検討
  ・先行事例の調査(原油タンカー、小型船舶等へのFSAの適用事例) ・諸分野の安全評価関連データベースの調査(オイルリグ、化学プロセス、労働災害、人間信頼性、船舶信頼性、裁決録等) ・安全評価手法の基礎的調査
(建築基準法改正、SOLAS防火規則における性能基準、GO-FLOW、RR42・RR34の成果、ISSC、化学物質の安全性評価等)
・諸分野でのヒューマンエラー分析法の調査(石油化学)
H12 ・衝突ET作成
・衝突ETの分岐確率推定のためのFT作成
・衝突ETの分岐確率推定のための専門家意見のアンケート
・FT定量化による衝突ETの分岐確率推定(A1)
・専門家意見による衝突ETの分岐確率推定(B1)
・A1、B1および外部資料に基づく調整による衝突ETの分岐確率推定
・衝突ETを用いたRCOの効果の推定
・衝突事例の思考作業毎時系列データ(C)による衝突ETの分岐確率の推定 ・日本船舶のリスクマトリクス作成 ・裁決録データベース(H2-10)より、衝突事例の思考作業毎時系列データ(C)の作成
・日本船舶明細書データベースの紹介および導入
・航行安全関係設備関連データ調査
・データベースシステムの検討
・ISSCにおけるリスクアセスメント(オフショアリグ関連)の調査
・SOLASII-2章関連
・建築分野の火災安全評価手法の調査
H13 ・座礁・単衝突ET作成
・座礁・単衝突ETの分岐確率推定のためのFT作成
・座礁・単衝突ETの分岐確率推定のための専門家意見のアンケート
・外部資料に基づくFT定量化による座礁・単衝突ETの一部分岐確率推定
・専門家意見による座礁・単衝突ETの分岐確率推定
・座礁・単衝突ETを用いたRCOの効果の推定
・東京湾における航跡データに基づく衝突危険発生頻度、衝突回避失敗確率の推定
・東京湾における航跡データ、水深データおよび海岸線データに基づく乗揚危険発生頻度、乗揚回避失敗確率の推定
・衝突事例の思考作業毎時系列データ(C)による衝突ETの分岐確率の推定(続)
・機関室火災のFull FSA評価 ・裁決録データベース(H2-10)より、衝突事例の思考作業毎時系列データ(C)の作成(続)
・裁決録データベース(H2-10)より、乗揚事例の思考作業毎時系列データの作成
・船舶明細書データ(2001、2002版)の導入
・東京湾、瀬戸内海の水深データの導入
・東京湾の航跡データの導入
・FSAガイドライン
・バルクキャリアのFSA
・高速船のFSA(英国)
・HLAのFSA(ノルウエー)
・携帯電話のETに基づく有効性評価
・救命胴衣着用義務化による死者数減少効果の評価
H14 ・浸水・転覆・沈没ET作成
・浸水・転覆・沈没ETの分岐確率推定のための専門家意見のアンケート
・専門家意見による浸水・転覆・沈没ETの分岐確率推定
・長期予測手法による海水打込み確率の推定
・明石海峡における航跡データに基づく衝突危険発生頻度、衝突回避失敗確率の推定
・明石海峡における航跡データ、水深データおよび海岸線データに基づく乗揚危険発生頻度、乗揚回避失敗確率の推定
・機関室火災のFull FSA評価(改訂) ・裁決録データベース(H2-10)のWEBによる公開
・明石海峡の航跡データの導入
・諸分野のリスクアセスメント
・ヒューマンファクター研究手法の調査
・インシデントデータ収集の検討
H15 ・衝突ETの分岐確率の逆解析による決定
・衝突ETの不確実さ解析
・衝突ETの感度解析
  ・具体的RCOの選定   ・複数RCO効果の推定手法
・SOLASII-1、III章の検討







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