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3. 放射線防護計画モデルの作成
 IAEAのTS-R-1は、危険物輸送に関する国連モデル規則に反映され、海上輸送については国連の海上輸送モード機関であるIMOのIMDGコードに取り込まれている。我が国では同コードの規定は危規則等に遅滞なく反映し、放射性物質海外輸送の安全確保と国際協調を図っている。一方、同コードは従来、勧告であったが、2004年1月以降はSOLAS条約加盟国はそれぞれの国内規則に取り入れて強制施行することとなり、我が国でも2004年1月より最新のIMDGコードを取り入れた危規則を改正・施行することとなった。
 改正危規則の新たな規定として放射線防護計画策定の義務付けがあげられるが、従来にない輸送管理の規定であることから、我が国への導入にあたって問題が生じないものであることを確認しておく必要があった。このため、IAEAが発行する放射線防護計画策定のためのガイド文書を調査検討するとともに、ガイド文書をベースとして我が国の放射性物質海上輸送の実態に基づく放射線防護計画のモデルを作成することにより課題の検討を行い、新規定の円滑な導入に資することとした。
 
3.1 IAEA暫定ガイドの検討
 
 TS-R-1では放射性物質輸送における放射線防護計画の策定を規定しており、そのためのガイド文書「放射性物質輸送のための放射線防護計画(RPP)」を準備中である。暫定ガイド「Draft Provisional Safety Standards Document “Radiation Protection Programmes for Transport of Radioactive Materia1”」が2002年5月に発行され、各国のコメント等を反映して2004年春にTS-G-1.5として正式発行される予定である。
 この検討では暫定ガイドの対訳を作成し、要求事項を整理するとともに我が国への導入にあたっての課題を摘出した。暫定ガイドでは、「放射線防護計画において用いられる管理手段の種類と範囲は、放射線被ばくの大きさと見込み値に関係付けられるべき」であるとし、被ばく線量をTS-R-1の第306項にあわせて表1の3つに分類して分類ごとに異なる管理レベル(表1のモニタリングの要求の有無)が定められている。
 
表1 被ばく量による管理レベルとモニタリング要求
分類 被ばく量 モニタリング 線量制限/拘束値/最適化
作業員 作業場所
(1) 〜1mSv/年 不要 不要 基本的な最適化は必要
(2) 1〜6mSv/年 作業員又は作業場所に対して必要 必要
(3) 6mSv/年〜 必須 必要
 
 暫定ガイドを我が国の放射性物質輸送に適用するにあたっての課題としては、以下が摘出された。
 
1)役割及び責任
(1)「輸送業務従事者」の法的な位置付け:我が国の「輸送業務従事者」は潜在的に一般公衆より放射線被ばくの機会が多いにもかかわらず、一般公衆並の被ばく量となるよう管理することが要求されている。しかしながら、放射線防護計画構築の前提条件である当該作業者の被ばく量を評価する際、潜在被ばくの考慮を要求された場合には「輸送業務従事者」であっても被ばく量は1mSv/年を超えることが考えられる。
(2)「荷役作業者」の被ばく管理方法:岸壁での荷役作業では「荷役作業者」が船内に立ち入って作業を行う必要があるが、危規則では「船長」が「船内にある者」として被ばく管理を行う責任を有することになる。被ばく管理は基本的には作業者が所属する会社ごとに行うものであり、立入り者の被ばく管理を船長が有効に行えるかどうかの問題がある。
 
2)運用に関する課題
(1)元請会社と委託会社間の放射線防護計画の規定方法:放射性物質の海上輸送は、原子力事業者から輸送業務の元請会社、さらにそこから運航会社、船舶会社、荷役会社等へ委託して行われるのが一般的である。これら元請会社と関係各社における放射線防護計画の適用範囲に関する責任分担、放射線被ばくとの関連付けの方法を明確にする必要がある。
(2)小規模な組織に対する放射線防護計画構築の要求:放射性物質輸送に関係する小規模な会社、特に荷役会社等は、法的に作業者に対する被ばく管理の責任を負わされていない。このような会社に輸送関連業務を委託する場合にも、規制上、放射線防護計画の構築を要求するのか、委託元が委託先会社を組み入れた放射線防護計画を構築すればよいのかを明確にする必要がある。
 
3)線量の評価と最適化
 放射線防護計画の策定においては、想定する輸送計画に基づいて被ばく線量の見込み付けを行い、被ばく線量レベルに対応する管理を行う必要がある。暫定ガイドでは、この被ばく線量評価では潜在被ばくを考慮することを求めており、保守的には法定限度の線量の輸送物を扱う前提とならざるを得ない。実際の輸送物の線量は法定限度値に比べて極めて低く、かつ、幅を持って分布していることから、法定限度に基づく評価は最大線量を与える、ものの、ほとんどの場合に過剰な管理を行わざるを得ないこととなる。現実的で容易に実行可能な放射線防護計画の策定のためには、これまでの被ばく線量実績や年間被ばく線量の発生頻度を考慮するなど、潜在被ばくに関する評価ガイダンスが必要である。
 
4)緊急時対応、訓練、品質保証
 これらについて、従来から放射線物質輸送に関与している会社は既存のマニュアル等を有していると考えられ、それらが放射線防護計画の観点から適切であるかどうかを評価し、必要に応じて整備、充実を行う必要がある。また、従来、被ばく管理の実績のない小規模な組織等については、2)(2)で述べたように元請会社との関係の法的位置付けを明確にする必要がある。
 
3.2 日本の海上輸送におけるモデルケースの構築
 
 我が国の放射性物質海上輸送に放射線防護計画を導入するにあたっては、IAEAの暫定ガイドをベースとし我が国における輸送の実態を反映した放射線防護計画モデルを構築することが有益である。これにより課題解決の見通しも得られると考えられる。このような観点から、我が国の放射性物質海上輸送を代表するものとして専用運搬船による使用済燃料の輸送及び外航コンテナ船による核原料物質等の輸送の2ケースを対象とした放射線防護計画モデルを作成した。
 
(1)専用運搬船による使用済燃料の輸送
 核燃料サイクルバックエンドの海上輸送の代表ケースとしては、国内原子力発電所から青森県六ヶ所村むつ小川原港への使用済燃料輸送物専用運搬船による輸送を対象とした。
 被ばく線量評価の結果では、現実的ではないが輸送物線量が法定限度値とした場合、計算上、船員の被ばく量は1mSv/年を超えることはないが、放射線管理員及び荷役作業員は1mSv/年を超える。一方、実際の輸送物の線量は法定限度値に比べて極めて小さいため、実績ではこれまでの被ばく線量は1mSv/年を十分に下回っている。このような実績を踏まえ、管理レベルを表1の分類(1)として線量管理目標値を0.8mSv/年以下、線量限度値を1mSv/年とするものの、船員及び作業員の線量モニタリングを行うことによりこれら線量限度を超えない管理を行う放射線防護計画とした。現状の輸送条件での実績によればこれら線量限度を超えることはないが、将来、輸送量が増えた場合には危規則に定められる国土交通大臣への申請を行って管理レベルを表1の分類(2)とすることが考えられる。
 緊急時対応、訓練及び品質保証については、既存の関連マニュアルを引用することとした。
 
(2)外航コンテナ船による核原料物質等の輸送
 フロントエンドの海上輸送の代表ケースとしては、北米及び欧州から国内一般港への六フッ化ウラン、酸化ウラン粉末等の核原料物質の外航コンテナ船による輸送を対象とした。
 被ばく線量評価の結果では、現実的ではないが輸送物線量が法定限度値とした場合でも、船員、放射線管理員及び荷役作業員の被ばく量は1mSv/年を超えることはない。したがって、線量管理目標値を0.8mSv/年以下、線量限度値を1mSv/年とし、船員及び作業員の線量モニタリングは行わない放射線防護計画とした。
 緊急時対応、訓練及び品質保証については、既存の関連マニュアルを引用することとした。
 
 これらの検討結果に基づく放射線防護計画モデルケースの記載内容を表2にまとめる。モデルとした以外の放射性物質の輸送についても、IAEAの暫定ガイド及び表2を参考とすることで放射線防護計画が策定できるものと考えられる。
 また、モデルケースの検討結果として、輸送作業者の被ばく量は実態として1mSv/年を超えないであろうこと、既存の緊急時対応、訓練及び品質保証のマニュアルで対応できる見込みが得られたことから、3.1項であげた課題についても輸送元請会社と委託会社が密に情報交換することにより解決できると考えられる。







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