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5. 結言
 
 本分科会では, 洋上でのバラスト水交換に伴って発生すると考えられるいくつかの問題について, 平成12年〜15年の4年間に渡って調査研究を実施した。この調査研究により得られた成果を纏めて, 以下に示す。
 
(1)バラスト水処理方法の調査
 バラスト水を処理する方法について調査した。その結果, 処理方法には(1)航行中のバラスト水交換, (2)バラスト水の陸揚げ, (3)バラスト水の含まれる水棲生物の殺滅があることを確認すると共に, 本分科会では(1)の洋上交換を対象として, Sequential MethodおよびFlow-through Methodそれぞれの問題点を調査して明らかにした。
 
(2)バラスト水交換海域およびその海域の海象調査
 バラスト水交換海域を特定するために, 具体的に航路を設定して, その海域の海象を文献および既存のデータにより調査した。すなわち, 海洋観測衛星GEOSATを通じて収集された長期波浪統計データを利用して, 9月の日本〜オーストラリア航路, 2月の日本〜北米航路における波浪の統計的性質を推算し, 航行中に出会う波の超過確率ごとの有義波高の変化及び有義波高の平均値の変化を明らかにした。その結果, 日本〜オーストラリア航路において実際にバラスト水交換が実施されているニューギニア近海は, 本航路上最も平穏な海象の海域であることが確認された。
 
(3)バラスト水交換の手順並びに交換に伴う船舶の安全性に関する検討
 Sequential Methodに関しては, 縦強度, 復原性, 船首喫水, トリム, 船橋視界, プロペラ没水の6項目について, タンカー, バルクキャリア, コンテナ船を対象として検討し, バラスト水交換に際してこれらの条件が満足されるか否かについて調査検討した。その結果, 基本的にはこれらすべてを満足して交換を行うことは, 既存船では難しい事例が多いとの結論を得た。
 そこで, これらの条件を満足できるタンク配置と船橋高さについて検討した。その結果, 種々の要件を満足するためにはバラスト水交換中の船の状態変化を少なくする必要があり, そのためには, タンクを細かく分割するなどの必要が生じることが明らかになった。また, プロペラ没水を確保するための船尾トリム状態に起因する船橋視界の悪化を防ぐためには, 船橋を高くする必要があることが明らかになった。
 一方, Flow-through Methodに関しては, タンクの付加水頭の検討, 過圧による事故事例の調査を実施した。
 
(4)スラミング発生海象の特定
 スラミングの発生を避けつつSequential Methodを適用してバラスト水交換を実施できる海象条件を推定するために, 有義波高, 平均波周期, 船速, 出会い角をパラメータとして変化させ, ストリップ法を適用した一連の船体運動解析を実施して, 一定確率でスラミングが発生する海象と運行条件の関係を明らかにした。対象船は, バルクキャリア, タンカーおよびコンテナ船である。解析結果に基づいて, 船首喫水とスラミングが発生する有義波高の限界値の関係を明らかにし, チャートの形で結果を表示すると同時に, 簡易算式を導いた。
 
(5)スロッシングに関する調査・検討
 まず, Sequential Methodによるバラスト水交換中のスロッシングに関連して, 事故事例を調査した。
 続いて, スロッシングによって発生するホールド壁への圧力計算を実施した。具体的には, バルクキャリアのバラストホールドを対象として, Sequential Methodによりバラスト水交換を実施中のスロッシング圧を時系列解析で計算した。その結果, 縦揺れに際してのスロッシングは液面が比較的低い時点で発生し, スロッシング圧は低いことが明らかになった。一方, 横揺れに対しては顕著なスロッシング現象が発生する可能性があることが確認され, 特にタンク幅が広いケープサイズ・バルクキャリアの場合にスロッシングに注意する必要があること, 幅/高さ比が大きく, ポンプ容量の関係で排水時間が長くなるハンディサイズ・バルクキャリアでスロッシング応答が高くなる可能性があることなどが明らかになった。
 また, 横揺れによるスロッシングを対象として, スロッシング圧に対するトップサイドタンク底板の構造応答解析を実施し, 崩壊挙動および強度を明らかにした。解析は, ハンディ・サイズ, パナマックス・サイズおよびケープ・サイズ各1隻のトップサイドタンクを想定して行われたが, 計算されたスロッシング圧のもとで, パネルあるいは防撓パネルとしての座屈・塑性崩壊は発生しないことが明らかになった。
 さらに, 計算結果を船級協会規則の算式によるスロッシング圧と比較し, 算式の適用性についても検討し, DNVおよびABSの算式を適用すると, バラスト水交換中のホールド壁に作用するスロッシング圧を安全側に評価できることが確認された。また, 無次元化された船体横揺れ角と横揺れ周期を座標軸としたスロッシング圧の等高線図を作成した。
 
 上記の調査・研究の成果に基づき, 標準的な「洋上におけるバラスト水交換マニュアル(案)」を作成した。このマニュアルに従って安全性に関する配慮を行いつつバラスト水交換を実施すれば, バラスト交換を安全に実施することができる。
 2004年2月に開催されたIMOの場で, MEPC49で作成された「船舶のバラスト水および沈殿物の規制および管理のための国際条約」が採択された。この条約では, バラスト水排出は基本的には海棲生物の殺滅を行った後で実施することが定められている。しかしながら, 現在確実に海棲生物を殺滅できる装置が開発されていないために, バラスト水の洋上交換が, 暫定的なバラスト水管理方法として認められている。この観点から, 本ワーキンググループで得られた調査・研究成果は, 貴重であると考える。
 
 
1. 条約の目的
 
 船舶のバラスト水および沈殿物の規制および管理を通じて, 有害な水生生物及び病原体の移動により生じる環境, 人間の健康, 財産及び資源への危険を防ぎ, 最小化し, および最終的に除去すること, 管理から生じる望ましくない影響を避けることおよび関連する知識および技術の発達を促進することを目的としている。
 
2. 条約の適用船舶
 
 他国の管轄する水域への航海に従事する船舶(ただし, バラスト水を積載しない船舶, 軍艦などを除く。)
 
3. 船舶に対する主な規制内容
 
(1)バラスト水管理の実施の義務
 船舶は, 「バラスト水管理」を実施しなければならない。「バラスト水管理」の内容は, 船舶の建造日及びバラスト水を積載することのできるタンク容量により4つのカテゴリーに分けられる
(1)2009年以前に建造され, かつ, バラスト水を積載することのできるタンク容量が1,500m3〜5,000m3の船舶:2014年までは「バラスト水交換基準」又は「バラスト水性能基準」のいずれかを満足し, 2014年以降の中間検査または更新検査の日までに「バラスト水性能基準」を満足すること
(2)2009年以前に建造され, かつ, バラスト水を積載することのできるタンク容量が1,500m3未満, または, 5,000m3を超える船舶:2016年までは「バラスト水交換基準」または「バラスト水性能基準」のいずれかを満足し, 2016年以降の中間検査または更新検査の日までに「バラスト水性能基準」を満足すること。
(3)2009年以降に建造され, かつ, バラスト水を積載することのできるタンク容量が5,000m3を超えない船舶:「バラスト水性能基準」を満足すること
(4)2009年以降2012年以前に建造され, かつ, バラスト水を積載することのできるタンク容量が5,000m3を超える船舶:2016年までは「バラスト水交換基準」または「バラスト水性能基準」のいずれかを満足し, 2016年以降の中間検査または更新検査の日までに「バラスト水性能基準」を満足すること。
(5)2012年以降に建造され, かつ, バラスト水を積載することのできるタンク容量が5,000m3を超える船舶:「バラスト水性能基準」を満足すること
 
(2)バラスト水管理計画とバラスト水管理記録簿の作成・保持義務
 具体的なバラスト水管理の計画を記載した文書(「バラスト水管理計画」)で主管庁の承認を受けたものと, バラスト水の排出作業等を記録する文書(「バラスト水管理記録簿」)を作成し, 船内に保持しなければならない。
 
(3)検査
 総トン数400トン以上の船舶は, その構造, 設備等について旗国の検査を受けなければならない。なお, 検査に合格した船舶に対して, 締約国は, 国際バラスト水管理証書を発給する。
 
(4)寄港国での監督
 船舶は, 締約国の港等において証書, バラスト水管理記録簿の確認及びIMOの定めるガイドラインに従ったサンプリングが行われる。
 
4. その他
 
(1)沈殿物受入施設
 締約国は, バラスト水タンクの清掃又はタンクの修理作業を行う港等において, 沈殿物を陸揚げするための受入施設をできるだけ整備する。
 
(2)モニタリング
 締約国は, 管轄区域内のバラスト水管理の実行及び影響をモニタリングするよう努力する。
 
(3)基準の見直し
 IMOは, 技術の進展を踏まえて少なくともバラスト水性能基準の効力が生じる3年前までには基準の見直しを実施する。







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