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3.7 バラスト水交換中に発生するバラストホールドのスラミングに関する研究
 
3.7.1 本分科会での研究対象
 
 バルクキャリアのバラストホールドにおいて, バラスト水が張水されている状態でスロッシングによると思われる構造崩壊事故の発生が報告されている。洋上でバラスト水を張水あるいは排水する過程において, バラストホールドが満載されていない状況が発生するため, スロッシングの発生が懸念される。
 そこで, 本分科会では, 基本的にはバルクキャリアのバラストホールドを対象として, 船体の縦揺れおよび横揺れに伴って発生するスロッシングに関する諸問題について検討した。具体的には, 船級協会規則によるスロッシング圧の計算および線形/非線形解析実施によるスロッシング現象の解明を行った。また, 横揺れに起因するスロッシングに関しては, 非線形構造応答解析を実施し, 構造崩壊が生じるか否かについて調べた。最後に, さまざまなパラメータがスロッシング特性に及ぼす影響を整理して纏めた。
 
 
(1)解析対象
 
 船級規則を適用した計算, 固有モード重畳法による線形過渡応答解析, Marker-and-Cell Methodを適用した非線形過渡応答解析を実施したが, ここでは非線形解析の結果を紹介する。
 この解析法はタンク内の液体の流れを支配する基礎方程式を差分近似して解く方法であり, 三次元タンクに対して6自由度の任意運動を与えた際のタンク内液体の動揺を計算できる。また, タンク天井と液面との衝突を模擬することも可能であり, 衝突に際して発生する衝撃圧も計算できる。ここでは, 船体の縦揺れ運動に起因するスロッシングを対象としているので, 二次元矩形タンクのスロッシング問題として解いている。
 
(2)不規則浪中でのスロッシング応答解析
 
 不規則波中での縦揺れによるスロッシング解析を実施するに当り, 不規則波を正弦波の線形重ね合わせで表現できると仮定し, 波スペクトルから生成した。波スペクトルとして, 有義波高(h1/3)と平均波周期()で海象を表現するISSC波スペクトルを使用した。この方法で数値的に生成された不規則波時系列を高速フーリエ変換(FFT)を用いて解析し, ISSC波スペクトルと比較した結果を, 図3.8に示す。図より, よい精度で不規則波が再現できていることが分かる。
 
図3.8 解析に用いた波スペクトルとISSC波スペクトルの比較
 
 船体縦揺れによるタンクの運動は, タンクの幾何学的中心回りの回転運動だけであるとし, 垂線間長215mのパナマックスバルクキャリアおよびタンカーのホールドを対象として不規則波中におけるスロッシングの解析を, 船速13.5knotとして実施した。バラスト水の排水速度は一定とし, 4時間で満水状態から空倉状態になるものとした。海象条件は, 有義波高5m, 平均波周期を11秒, 8.5秒および6秒とした。
 バルクキャリアのタンクの場合について, それぞれの平均波周期の場合のタンク内水位の時刻歴変化を, 図3.9に示す。いずれの波周期の場合も, スロッシングが激しくなるのは, タンク内の平均水位が5m以下の場合となっている。
 平均波周期が11秒で最も水位変動が大きくなる時刻13,500〜13,700秒の間にタンク底から0.4mの位置におけるタンク壁に作用する圧力の時刻歴を, 図3.10に示す。作用圧力は小さく, 船体縦揺れによって発生するスロッシングは, タンク壁の構造破壊を引き起こすような重大なものではないと言える。
 タンク長さが長いタンカーの場合にも, 基本的に同じ特性が見られた。ただし, バルクキャリアの場合と較べると, より高い水位に所でもスロッシングが発生したが, この場合も構造破壊が発生するような激しいものではなかった。
 
図3.10 タンク壁に作用するスロッシング衝撃圧の時刻歴変化
 
図3.9 タンク内水位の時刻歴変化
タンク内水位の時刻歴(L=25.6m, h1/3=5m, =11sec.)
 
タンク内水位の時刻歴(L=25.6m, h1/3=5m, =8.5sec.)
 







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