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はしがき
 本報告書は、平成15年度 日本財団の助成金により、造船技術開発協議機構(日本造船研究協会)重要課題選定方針検討委員会(将来ビジョン検討委員会)において、「最近の造船産業構造の変化の現状及び変化に対応した造船技術の共同研究と開発の仕組み及びそのあり方等」について、以下の委員会において検討し、内容を取りまとめたものである。
 
重要課題選定方針検討委員会委員名簿
〔将来ビジョン検討委員会〕 (順不同、敬称略)
委員長 影本 浩 東京大学
委員   飯島正明 住友重機械マリンエンジニアリング株式会社
 〃   川尻勝己 株式会社 川崎造船
 〃   主藤英樹 株式会社 アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド
 〃   末岡英利 三菱重工業株式会社
 〃   田中良和 株式会社 商船三井
 〃   西村勝好 三井造船株式会社
 〃   平原隆美 日本郵船株式会社
 〃   松本光一郎 ユニバーサル造船株式会社
 
オブザーバー 嶋田武夫 研究委員長、日本郵船株式会社
 
事務局 佐々木博通 社団法人 日本造船研究協会
  〃   横山 勲 社団法人 日本造船研究協会
  〃   足達宏之 社団法人 日本造船研究協会
  〃   村上好男 社団法人 日本造船研究協会
  〃   海部雅之 社団法人 日本造船研究協会
 
掲載データ表一覧
表題
第1章 表1-1 2002年における世界の船種別竣工量(1000G/T以上商船と漁船) 4
表1-2 各国竣工量の船種別シェア 4
表1-3 世界の新造船竣工量の推移と予測 5
第2章 表2-1 船舶建造量と我が国舶用工業生産輸出入の50年間の推移 11
表2-2 日本の造船業(1万トン以上)のハーフィンダール指数の推移 12
表2-3 80年を100としたときの日本の受注船価(単価)の推移
($、Won、円での比較)
12
表2-4 日本の舶用工業のハーフィンダール指数の推移 13
表2-5 代表的舶用製品の価格指数の推移
(日本の円単価を$とウォンに換算した額の指数80年=100)
13
表2-6 円、Wonの対ドル為替レートと船価、舶用機械単価の比較
(日本の単価を$とWonに換算し、価格競争力を考察)
14
表2-7 世界の主要舶用機関製造国のハーフィンダール指数(2002年) 15
表2-8 世界の主要造船国100年の推移(進水量とシェア) 20
表2-9 船舶関係研究者数の推移(大手7社) 21
表2-10 研究費の推移(大手7社) 21
表2-11 産業別のR&D比(研究費/売上高)の推移 22
表2-12 R&D比(上表)の産業内相対比率の推移 22
表2-13 1960年〜2004年までの日本の人口実績値と推計値
(2000年までの実績値と2040年までの予測値)
23
表2-14 主要造船国の造船部門従業員数(含社外工)日本 24
表2-15 主要造船国の造船部門従業員数(含社外工)造工加盟社 韓国 24
第4章 表4-1 世界の海運貨物量の推移 38
表4-2 船舶による日本の貿易額の推移(日米、日中、日韓) 39
表4-3 航空機による日本の貿易額の推移(日米、日中、日韓) 40
表4-4 船舶と航空機による日米・日中・日韓の貿易額の推移 41
表4-5 日本の船舶と航空機による貿易額の推移 42
表4-6 船種別内航船船腹量 43
表4-7 輸送機関別輸送量の推移 43
表4-8 輸送貨物ton-km当りのエネルギー消費量と二酸化炭素排出量 44
表4-9 SR研究分野別投資額の推移(研究費総額) 34
表4-10 SR研究課題分野別投資割合の推移(研究費総額の比) 34
表4-11 代表的な燃料と燃焼時の二酸化炭素排出(生成)量 44
第5章 表5-1 世界のNOx規制の動向 49
第6章 表6-1 SR研究35年間の研究対象別推移 61
表6-2 SR研究の分類と金額(71年〜04年) 61
表6-3 1971(S46)〜2004年度(H16)事業予算推移
〔SR番号の付いた事業費総額、予算ベース〕
62
表6-4 造研の共同研究テーマ 65
 
通称:「SR“来し方/行く末”検討委員会」
平成16年3月31日
1. はじめに
 日本造船研究協会研究委員会は、SR研究を取巻く最近の状況の変化を踏まえて、今後の造船技術の共同研究と開発のあり方に関して抜本的な議論を進めるために、平成15年4月の第78回研究委員会において、「SR研究ビジョン検討委員会」を新たに組織して、平成16年3月31日までに回答を求めることを決議した。課題は「最近の造船産業構造の変化に対応した造船技術の共同研究と開発の仕組み及びそのあり方」について最近の状況の変化を踏まえて検討をするものである。
 「最近の状況の変化」とは、具体的には主として次の通りである。
(1)わが国の造船大手造船部門の分離独立、他社との統合など
(2)わが国の中手造船の躍進
(3)韓国造船業が発展する中で日本はトップの座を確保すべきなのか
(4)中国造船業の急速な台頭
(5)わが国造船産業の研究開発資源の縮小
 平成15年6月に纏められた「造船産業競争戦略会議」の報告書によれば、今後の研究開発戦略は、個別または少数企業による各々の製品の差別化に注力する中で、競争的研究資金制度の拡充などによる支援を充実すると共に、市場実績の無い新技術の商品化に対する支援スキームの創設を提言している。他方、国と業界全体で取組むべき研究開発課題としては、「LCVを取り入れた外航船の実現」と「生産技術の高度化、人材育成・技能伝承」の2テーマをあげている。
 
 日本造船研究協会のSR研究については、昭和26年の運輸大臣諮問第二号「現在のわが国における造船技術の向上を阻んでいる隘路とその対策如何」に対する造船技術審議会の答申が出され、その中で「個々の官設研究機関や民間研究設備では実施し難い共通的試験研究等を実施する民間共同研究機構を設けるべきこと」が指摘された結果、昭和28年5月には公益法人として社団法人日本造船研究協会の設立が認可されて、その後、わが国の造船業躍進の基礎となる共同研究の成果を拡大し続けた事はよく知られている通りである
 その後、日本の産業経済の復興と発展に支えられて、順調に拡大発展を続けてきたわが国の造船業であったが、昭和53年には、一転大不況に襲われた。日本造船研究協会も資金の枯渇、共同研究の継続が危ぶまれる事態となり、急遽「運営対策懇談会」(座長:黒川正典研究委員長)を組織して「日本造船研究協会 現下の造船界の事態に対処するための方策」を纏めた。
 その結論は、
 「この苦境を克服し、更に世界の第三勢力の激しい追い上げに堪えるためには、技術力こそその大きな原動力となるものであって、近年各社の技術力開発体制が充実されたとはいえ、
 (1)広範なデータ収集を行うなど1社のみでは実施が困難な研究
 (2)共同の場で実施することによりその成果が説得力を強める研究
 (3)多額の経費を必要とし、或いは解明に長期間を要する研究
 などは共同研究が必要であり、本会以外に実施する場はないといっても過言ではない」というものであった。
 同時に行った造船大手7社に対して行ったアンケート調査の結果からも多数の新課題の提案があり、SRの必要性は当時の事態においてもいささかも薄れるものではなく、その存続を図る必要があることについて関係各方面に理解と協力を要請すると結論付けている。
 この「黒川レポート」の提言により、一般管理費の30%削減など協会内部の合理化に加えて関係先の理解と支援を得て基金と助成金の増額を懇請し、更には研究課題の厳選、少数社を主体とする共同研究の開始、海洋構造物に関する研究の実施などの対応で再建が図られた。平成に入ると、従来の造船工学の基礎である流体力学、構造力学、建造工作法などの基礎的、基盤的研究テーマに加えて、大きく変貌を遂げた海運の「実海域」における運航状況に応じたテーマやISMコード関連の船舶運航を取り巻く新しい分野の研究と理解が造船産業にとっても重要な課題となり、これらの共同研究に課題の範囲を拡大した。
 
 更には韓国の躍進が確実になった平成7年には、SRの更なる差別化技術開発を促進する為に「SRビジョン21」が策定された。その結論に基づき、従来の基礎的基盤的研究テーマのSR200シリーズに加えて、シーズ発掘型のSR500シリーズとトップアップ製品開発型のSR800シリーズを加えて3ラインとしてテーマ募集及び研究開発を実施してきたところであるが、前述の産業構造の変化に伴い三度目の抜本的な再検討を余儀なくされているのである。本報告書は、日本造船研究協会のおよそ半世紀にわたる歴史の中で、その中核事業のSR研究が如何なる実績と評価を受けて来たかについて振り返り、今後、既に先進国となった日本の造船業が、躍進を果たした韓国と萌芽期を過ぎて発展期に入ったと見られる中国の造船業に対して、非価格競争力を含めた国際競争力を維持し続けるために必要な技術研究と開発の仕組みに関しての提言をまとめたものである。
 
 目下、中国を牽引車とするアジア経済の発展は目を見張るべきものがあり、この実需によって海運・造船は絶好調である。1997年のアジア通貨危機に端を発した韓国の経済は、IMFの巨額な金融支援と財閥の解体、分離などの構造改革、企業集約、合併などの荒療治による合理化で急速に立ち直り、造船業も競争力が強化された。今やLNGはじめ超大型コンテナ船など韓国で造れない船はなくなった。他方、世界一の海運会社COSCOを抱える中国は、国策による造船業振興のために大規模な投資と人材教育を実施中である。最近のクラークソンのWorld Shipyard Monitorによれば、韓国の手持ち工事量はCGTベースでは韓国:36.6%、日本:29.8%、中国:12.4%であって、しかも超大型コンテナ船のような高付加価値船の大半は韓国に奪われ、中国もポストパナマックス受注に成功するなど日本の苦戦は紛れも無い事実となりつつある。
・・・表1-1〜表1-2参照
 このような背景のもとで纏められた「造船産業競争戦略会議」は、2010年におけるわが国の建造量目標をタンカー、バルカーなどの一般商船で1,000万総トン、世界の3分の1のシェアー確保をうたっているが、他方で「70年代前半に大量建造された船の更新需要に支えられて90年代にじりじりと拡大を続けた需要は2006年頃までに一巡し、2010年前後には現状比16〜17%減の2千5百万総トン程度まで落ち込む公算が大きい」と言う有力なレポート(東京三菱銀行等)も発表されている。このシナリオが意味することは、2010年前後の需給ギャップは約30%、即ち約1千万総トンで丁度わが国の建造量に匹敵し、このシナリオ通りに推移すれば、バルカーを中心に建造を続けて技術開発能力と体力の衰えたわが国の造船業を不況が直撃することになる。
・・・表1-3参照
 
 好況は短く、不況は長いことは、海運・造船のここ100年の歴史が証明している。それが2010年前後かどうかはさておいたとしても、やがて不況は必ず来る。その時に備えて受注絶好調の今こそ技術研究開発の灯は消してはならない事は、誰も反対する者はいないであろう。このままでは共同研究の具体的な仕組みは視界から全く消えて無くなるのではないかとの危惧が残る現在、日本の海事産業の共同研究開発が、新たな関係者の付託に応えて、来るべき「2010問題」の防波堤となって欲しいという願いを込めて本報告書を纏めた。関係各位のご理解と限りなきご支援ご協力を期待したい。







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