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IV-2 実海域で使用した杉樹皮製油吸着材の微生物分解処理実験
 
 先のモニター調査(IV-1)において回収された使用後の杉樹皮製油吸着材を、活性なバーク堆肥原料中に埋め込み、微生物により分解処理する実験を行った。本技術が実用化に至った場合、こうした処理方法が想定されるため、実フィールドにおいて十分に実験を行う必要があるものと考えられる。
 
1 実験の方法
 写真−IV.2.1に示すとおり、海上での油流出に使用された製品版「杉の油取り」マット(45cmx45cm)4枚を、バーク堆肥パイル(高さ約60cm)の上に並べ(No.1, 2, 4, 5: 写真両脇)、比較対照として、同様に海上での油流出に使用されたポリプロピレン製油吸着材(60cmx60cm)1枚を同じ条件で並べ(No.3: 写真中央)、その上からバーク堆肥を十分にかぶせて微生物分解処理を行った(写真−IV.2.2)。杉樹皮製油吸着材(No.1, 2, 4, 5)およびポリプロピレン製油吸着材(No.3)の供試体には、同種の油(一枚あたり数十〜数百g程度の軽質油と思われる)が吸着されていた。
 なお、各供試体には後で原位置が特定できるように、生分解性でない材質の数字ラベルを結び付けた。
 
写真−IV.2.1 
杉樹皮製油吸着材(No.1, 2, 4, 5)とポリプロピレン製油吸着材(No.3)
 
写真−IV.2.2 
油吸着材(No.1〜5)を埋め込んだバーク堆肥パイル
 
2 実験の結果
 2ヶ月後、バーク堆肥パイルを掘り返し、油吸着材(No.1〜5)を設置した場所を観察した(写真−IV.2.3〜5)。
 杉樹皮製油吸着材(No.1, 2, 4, 5)は全くマットの原型を留めておらず、生分解性を持たない数字ラベルと、マット内に混入してあったパーライト粒の存在によって、そこが吸着マットの原位置であると判別される状態であった。当初に感じられた油の臭気および手指への感覚については、感じられなくなっていた。
 一方、ポリプロピレン製油吸着材(No.3)は当初より若干、柔軟性を増した以外は特に変化が無く、油の付着による黒い部分が目視により容易に観察される状態であった。生分解性を有しない材質であり、当然の結果ではあるが、油吸着材自体もマットの形状を堅固に保持していることが確認された。
 
写真−IV.2.3 
2ヵ月後の油吸着材(No.1〜5)の様子
 
写真−IV.2.4 
左:杉樹皮製油吸着材(No.1, 2)、右:ポリプロピレン製油吸着材(No.3)
 
写真−IV.2.5 
左:ポリプロピレン製油吸着材(No.3)、右:杉樹皮製油吸着材(No.4, 5)
 
3 まとめ
 同じ条件で同時に行った実験において、杉樹皮製、ポリプロピレン製の2種類の使用後の油吸着材について微生物分解処理を行う、という興味深い実験であったが、予測どおりポリプロピレン製のものについては全く分解された様子は観察されなかった。一方、杉樹皮製のものについてはこれまでの実験と同様に、良好な生分解性が確認されるという至極当然の結果が得られた。
 とはいえ、並べて実験を行うことで、改めて生分解性の油吸着マットとそうでない材質のものの相違が一層明確になり、本調査研究の目的および意義を再確認させられる機会となった。
 なお、実海域で使用した油吸着材の十分な数量を確保できなかったため、あくまで時間的な経過を目視などにより観察するにとどまり、II章の実験で行ったような油分濃度の経時変化など定量的なデータを採取するには至っていない。この点については今後も調査研究を行っていく予定である。
 
(補足)
 実事故におけるフィールド調査については、一定規模の油濁事故として直近の事例であるコープ・ベンチャー号事故(鹿児島県志布志湾、H14年7月)において、実際の海面において杉樹皮製油吸着材の油回収性能と挙動を観察している(平成14年度海上災害防止センター「自己攪拌型分散剤の効果的な使用方法及び散布装置に関する調査報告書III」第VII章を参照のこと)。







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