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III 海水を含んだ油吸着材の微生物分解処理技術に関する調査研究
 
 油吸着材を海で使用する場合、吸着回収の対象である流出油とともに若干の海水を吸収することが想定される。この場合、使用後の油吸着材には塩分が含まれることになり、微生物分解処理の際の障害となることが懸念される。
 そこで、油吸着材の使用時に取り込まれる塩分量、微生物分解処理時における塩分濃度および生成する堆肥における塩分濃度を評価するため、実験と試算を行った。
 
 海水とほぼ同じ濃度の食塩水を用い、杉樹皮製油吸着材がどの程度の塩分を取り込むかの実験を行った。3.2%の食塩水を海水に見立て、5枚のマット型の杉樹皮製油吸着材をその水面に投入し、48時間ほど静置した(写真−III.1.1)。5枚のマットのうち、3枚は製品版の「杉の油取り」((株)ぶんご有機肥料社製)、2枚は食塩水の吸収が多めになるように縫製の粗い試作版の杉樹皮製油吸着マットとした。
 
写真−III.1.1 食塩水吸収実験の様子
 
(投入前)
 
 
 実験の結果を表−III.1.1に示す。
 
表−III.1.1 杉樹皮製油吸着材の食塩水吸着量
サンプルNo. A
開始前(g)
B
開始後(g)
A-B
海水吸収量(g)
(A-B)x3.2%
塩分量(g)
1 204.6 224.3 19.7 0.6
2 208.4 226.8 18.4 0.6
3 211.5 227.2 15.7 0.5
4(試作版) 213.2 260.5 47.3 1.5
5(試作版) 221.2 248 26.8 0.8
 
マット内の平均塩分量 0.8g
マット内の平均塩分濃度 0.4%
同上
(油吸着後)※1
0.2%
生成堆肥の推定塩分濃度※2 0.004%
※1 吸着材と同重量の油を吸着すると仮定。濃度は付加分。
※2 油:堆肥を1:100で投入、総重量が半減と仮定。濃度は付加分。
 
 食塩水(海水)を取り込んだ杉樹皮製油吸着材による微生物分解環境への塩分負荷は、最も塩分濃度が高くなると考えられる吸着マット本体内部の0.4%以下であると想定される。また、II章での実験と同濃度となるように、油:バーク堆肥が1: 100となるように投入および分解処理を行う場合には、分解の最終段階でパイル総重量が半減すると仮定した場合にこの段階で0.004%の塩分濃度が付加されると考えられる。
 
 
 文献によると、堆肥における塩分濃度については、土の中に溶け込む塩分は0.25%までが良く、1.5%ともなると濃すぎて植物の根を傷めるので0.5%になるまで希釈することが勧められている。(「有機質肥料のつくり方使い方」農山漁村文化協会編)
 III-1の実験により明らかになったように、杉樹皮製油吸着材を海上で使用する際に取り込む塩分によって、生成する堆肥中の塩分濃度は上昇すると考えられるが、その推定量は0.004%程度であり、このことによる植物生育への影響はほとんど無視できるレベルにあると考えてよい。
 よって、海で使用した杉樹皮製油吸着材を堆肥原料に用いる際の「塩分」については大きな懸念材料とはならないと考えられる。







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