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(3)フィールドでの油分分解実験
イ. 実験の方法
 約10m3(約5t)の堆肥原料をコンクリート基礎上に盛り、その中にC重油、A重油、植物油をそれぞれ800gずつ吸着させた油吸着材(製品版「杉の油取り」45×45cmマット型、乾燥自重約200g)を埋め込んだサンプルセットを2組ほど設置した(図−II.1.4)。1組は1ヶ月経過時、もう1組は5ヶ月経過時において観察を行った。
 
図−II.1.4 実験の概念図
 
ロ. 実験の結果
 設置後1ヶ月を経過した段階で、被覆堆肥を取り除き観察を行った。写真−II.1.1〜2に示すとおり、C重油吸着サンプル(中央)は原型をとどめておらず、混入してあるパーライト(黒曜石発泡体)の存在によって、そこが油吸着材の原位置であったことがわかる状態であった。また、C重油を吸着していた部分は未吸着部分に比べて、吸着材を構成する杉樹皮繊維の堆肥化が速く進行しているように感じられた。
 C重油吸着サンプルに比べて、A重油吸着サンプル(左)は分解の進行が遅く、油吸着材の外側を構成するコットン不織布が一部原形をとどめていた。また、植物油吸着サンプル(右)はさらに進行が遅く、かなりの部分でコットン不織布が原型を保っている様子が観察された。
 また、A重油や植物油吸着サンプルが油の性状を指の感覚や臭気などで感知できたのに対し、C重油吸着サンプルは感知できないレベルであった。あわせて、サンプルを水中に投入して観察したが、油の浮上は認められなかった。
 
写真−II.1.1 1ヶ月経過時
(被覆堆肥を除去した状態)
 
写真−II.1.2 1ヶ月経過時
(C重油吸着の部分)
 
 5ヶ月経過時においては、写真−II.1.3に示すとおり、C重油吸着サンプル(中央)およびA重油吸着サンプル(左)は原型をとどめず、分解が進行していた。植物油吸着サンプル(右)は、油吸着材の外側を構成するコットン不織布が一部原形をとどめているものの、1ヶ月経過時の状態に比べると格段に分解が進行していた。
 また、堆肥内部の温度の推移を図−II.1.5に示す(2箇所の平均値)。設置から1週間後にかけては酸素供給が十分な状態で、通常のバーク堆肥発酵時の温度とされる70℃に近い高温を保っているが、実験の性質上、攪拌が不可能なため徐々に温度は低下し、活発な好気発酵を示す熱の発生が低下しているものと推測される。一般的なバーク堆肥製造過程でも、本実験と同様に攪拌直後は温度が上がり、その後に徐々に低下する現象が見られることが報告されており、十分な攪拌すなわち酸素供給が活発な好気発酵活動に重要な要素であると考えられる。
 
写真−II.1.3 5ヶ月経過時のサンプル
(被覆堆肥を除去した状態)
 
図−II.1.5 堆肥内温度の推移
 
 このほか、志布志湾コープ・ベンチャー号重油流出事故での実験で使用し、C重油を吸着した油吸着材を以上と同様に分解処理実験を行った。3ヶ月経過時の状況を写真−II.1.4に示す。これまでの実験同様、C重油の痕跡は目視や触感、臭気感知では認められないレベルであった。また、分解したサンプルを用いて植物の生育(芝、二十日大根)を試みたところ、阻害は認められず、通常の堆肥同様に生育した(写真−II.1.5)。
 
写真−II.1.4 
志布志湾事故で回収した油を吸着させたサンプル
(3ヶ月経過時、手前:マット型、
奥:万国旗型)
 
写真−II.1.5 
事故で回収した油・油吸着材の分解で生成した堆肥で生育した芝
 
(4)まとめ
 昨年度(平成14年度)までの実験および調査研究により得られた知見は以下のとおりである。
(A)小規模フィールド実験において、C重油を吸着させた杉樹皮製油吸着材は、堆肥原料に埋設させ1〜数ヶ月経過すると残留油分が知覚できない程度となる。
(B)中型好気発酵処理装置による堆肥原料・C重油の分解実験では、2〜数週間経過時における残留油分測定値は開始時の数分の1程度である。
(C)小型好気発酵処理装置による堆肥原料・C重油の分解実験では、油分が減少する結果が安定して得られていない。
 
 一方、課題として挙げられたのは以下の2点である。
(D)サンプル採取時における油分濃度のバラつきの検証(誤差評価)
(E)油分解処理工程を安定させ、データの再現性を得るための規模の拡大
 
 これらを踏まえて、今年度の実験計画が立てられた。
 特に、(D)は今後の調査研究遂行における大きな問題であり、今年度は次(II-2)に述べる「誤差評価のための実験」にて検討を行った。







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