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I 調査研究の概要
 
 
 杉樹皮製油吸着材の開発研究は、平成9年度のナホトカ号事故を契機に着手された大分県産業科学技術センターでの基礎研究をベースに、海上災害防止センターの指導・共同研究のもと、平成10年度に日本財団調査研究事業として本格的に開始され、平成12年度に実用化に成功し、これまでに特許3件の出願などを経て製造・販売が開始された。油吸着材の実製品は、ぶんご有機肥料株式会社(大分県竹田市)によって製造され、「杉の油取り(すぎのゆとり)」の品名で全国的に販売されている(写真−I.1.1〜3)。
 
写真−I.1.1 杉樹皮製油吸着材「杉の油取り(ゆとり)」
マット型(左)とオイルフェンス型(右)
 
写真−I.1.2 原料の杉の樹皮
(自然乾燥、粉砕後)
 
写真−I.1.3 油吸着材の製造工程
(縫製)
 
 杉樹皮製油吸着材の特徴は、廃棄物である杉の木の皮を原料とする100%天然素材の油吸着材という点であり、かつ従来品並みの吸油性能、価格を実現した点にある。その、製造、使用、処分という製品の生涯における環境負荷はいずれも石油原料製品に比較して小さいと考えられる。例えば、製造時に使用するエネルギーは、工程が自然乾燥・粗粉砕・縫製とシンプルで熱処理を伴わないために小さくて済む。使用時には、全量回収が原則の油吸着材を万一、回収し損ねた場合であっても吸着材自体が生分解性のため環境に与える影響は小さくて済む。処分時には、焼却の際のダイオキシン類発生は基準よりはるかに小さく(800℃焼却時で0.00049TEQ以下。基準は10TEQ以下)、また発生熱量も石油製品より小さくて済む。
 一方、せっかく生分解性を持ちながら焼却処分では十分に特徴が活かされていないという声も多く、さらに環境負荷の小さい処分方法、すなわち微生物活動によって油吸着材を吸着した油ごと分解処理する技術の開発が求められていた。
 
 そこで、平成13年度までの日本財団調査研究事業をもとに、14年度に海上災害防止センター委託事業「杉樹皮製油吸着材の有効利用及び微生物分解処理技術に関する調査研究」(日本財団補助事業)が開始され、使用後の油吸着材と吸着した油とを、微生物活動によって分解処理する技術の開発が本格的に着手されるに至った。いわばこの一連の研究開発も第二段階へとステップを進めたことになる。この基礎的な調査研究により本着想の有効性と実用化可能性が確認された。
 
 本年度は、「杉樹皮製油吸着材を製造する→海上油濁対応に使用する→使用後の杉樹皮製油吸着材を回収して微生物分解処理する→生成した堆肥を販売する(土壌に還元する)」という物質循環およびビジネスモデルの実現に向けた中途段階のフェーズとして、中規模フィールドにおける微生物分解処理実験を中心に、本着想に基づく研究開発を行った。あわせて、サンプル配布およびアンケート方式による実海域での油回収性能の評価を行った。
 
 
 以下の項目について調査研究を行った。
 
・微生物分解処理技術の中規模フィールド実験
・海水を含んだ油の微生物分解処理技術に関する調査研究
・実海域における油回収性能及び微生物分解処理技術の調査
・研究成果の普及
 
 II章以降に順次、内容を報告することとする。







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