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III-5 分散剤による防除シミュレーション
1 計算条件
 分散剤による防除シミュレーションの計算条件を設定するに当たり、マリブライト軽質原油の油種と流出油量として100kl、500kl及び1,000klの3種、気象条件として風速0m/s及び5m/sの2種の条件をそれぞれ組み合わせて、自己撹拌型油分散剤(S-7)による分散防除シミュレーションの予備計算を行った。
 
(1)油層厚(流出から24時間後の値、拡散シミュレーションの結果から求めた。)
1)0.2mm(100kl流出時)
2)1.0mm(500kl流出時)
3)2.0mm(1,000kl流出時)
(2)遭遇油量(20knot飛行時、散布幅11m)
1)20×1,852×11×0.0002÷60=1.358m3/min
2)20×1,852×11×0.001÷60=6.791m3/min
3)20×1,852×11×0.002÷60=13.58m3/min
(3)S-7の必要散布量(S-7散布率2%時、ノズル1個あたり7.25l/min)
1)1.358×0.02=0.02716m3/min=27l/min(ノズル約4個分)
2)6.791×0.02=0.13582m3/min=136l/min(ノズル約19個分)
3)13.581×0.02=0.27162m3/min=272l/min(ノズル約38個分)
(4)平均的な油膜の拡散直径(拡散幅の2倍)(24時間後から72時間後まで)
1)2.36km
2)2.94km
3)3.33km
(5)散布速度を20knotとした時に、1回の油膜の横断に要する時間
1)2.36÷0.617=3.82min
2)2.94÷0.617=4.77min
3)3.33÷0.617=5.40min
(6)散布速度を20knotとした時に、1回の油膜の横断で散布するS-7の量
1)27×3.82=103l ≒ 100l
2)136×4.77=649l > 400l
3)272×5.40=1,467l > 400l
 
 以上から、100kl流出時は、1回の油膜の横断で散布するS-7の量を100lとし、これを4回(油膜を2往復)繰り返し、合計400lの散布になるように設定した。500kl、1,000kl流出の時は、1回の油膜の横断で散布するS-7の量をタンク全量である400lとした。
 また、S-7必要散布量は、100kl流出の時に最大で27(l/min)、500kl流出の時に136(l/min)、1,000kl流出の時に272(l/min)になるように設定した。
 なお、拡散シミュレーションと同様に流出形態は瞬間流出とし、水温及び気温は各15℃に設定した。その他の条件も拡散シミュレーションと同様に設定した。
 散布時間が5分未満になる場合があるため、計算時間間隔を1分とした。
 
 予備計算結果から次のことが分かった。
(1)分散剤を散布した方が拡散幅や拡散面積の値が小さくなる。
(2)予備計算では分散剤の散布を油流出時から24時間後に開始しているが、供試原油の風化状況より、本計算では油流出時から3時間後に開始することとした。
(3)風速条件のうち風速10m/sはBeaufort風力階級によると階級5疾風(Fresh breeze)とされ、海上においては「波の中位のもので一層はっきりして長くなる。白波が沢山現れる。しぶきを生ずることもある。」と解説されており、海面の油は水中に引き込まれたりしぶきと一緒に吹き飛ばされ、自然分散の領域に入ることから、分散防除作業は必要ないと考えられる。このため、風速条件を0m/s及び5m/sの2ケースに限定した。
(4)回転翼航空機は1機とし、散布速度を20knotとした。
(5)分散防除作業は昼間に実施し、夜間(17時〜7時)は行わないこととした。
(6)回転翼航空機の分散剤搭載量は400lとし、400lを散布する毎に分散剤積込み時間として30分のインターバルを取ることとした。
(7)分散剤400lの散布回数は次のとおりである。
流出油量
100kl: 5回
500kl: 9回
1,000kl: 9回
 その他の計算条件事項については、上述の予備計算と同じである。
 
2 計算結果
(1) 拡散幅(km)
 分散防除作業を行った場合と行わなかった場合の拡散幅を比較した図を図III-5.1a〜f〜図III-5.2a〜fに示す。
 拡散幅は両油種とも風速0m/s及び5m/sとも分散防除作業を行った方が狭くなり、無対策時が幅の広い結果となった。
 また、風速5m/sの方が風速0m/sより拡散幅が狭くなる結果となった。
(2)拡散面積(km2
 分散防除作業を行った場合と行わなかった場合の拡散面積を比較した図を図III-5.3a〜f〜図III-5.4a〜fに示す。
(3)分散量(kl)
 分散剤の散布方法の模式図を図III-5.5に示す。
 分散剤を搭載した回転翼航空機1機がA地点からB地点までの間を散布速度20knotで散布作業を行った時、作業時間を3分と仮定すると、計算時間の間隔を1分としているため、3ステップでB地点へ到達する。
 ここで、油膜をA地点からB地点まで縦断する散布作業の単位を1縦断と数え、1分間で回転翼航空機が移動し散布を行う単位を1ステップと数えることとする。
 散布条件の検討で行ったように、100kl流出のケースでは、1縦断で100lのS-7を散布するため、400lのS-7を散布し終わるまでに4縦断を要する。
 一方、500klと1,000klの流出のケースでは、1縦断する間に400lのS-7を散布する。どのケースも、400lの散布が終了した時点で、30分間の分散剤積込み時間を置くよう設定した。
 
図III-5.5 分散剤の散布方法の模式図
 
 1ステップ毎(1分毎)の分散量を、スキマーによる回収防除の計算ケースと比較するため、5分間の積算値にした分散量と、散布作業開始後の総分散量についての結果を、図III-5.6a〜f〜図III-5.7a〜fに示す。
 拡散シミュレーションの結果、重質原油であるカフジ原油の12時間後の動粘度は風速5m/sでは約1万cSt、風速10m/sでは約3万cStに達することが分かったが(図III-3.12bc参照)、一方でS-7は高粘度油及びムース化油(油中水)に対しては分散性能が低下し、シミュレータ上でも1万cStまでの動粘度の油に対して分散効果が発揮されるよう設定されていることから、流出時から2、3日経過後のカフジ原油に対してはS-7による分散防除作業は不可能となるため、分散防除作業の計算を第1日目で終了させた。
 また、軽質原油であるマリブライト原油の分散防除作業についても、カフジ原油と同条件で比較するために、分散防除作業の計算を第1日目で終了させた。
 このため、マリブライト原油に対する2日目以降の分散防除作業の計算を次年度のシミュレーション実施項目に追加することを計画している。
 
3 まとめ
 流出事故は2003年11月1日午前8時に発生し、分散剤による油防除作業は事故発生から3時間後に開始し、初日の日没時間午後5時までの6時間とした。
 なお、分散剤による防除作業を6時間と設定したのは、前述したように準備計算結果からカフジ原油の12時間後の動粘度が風速5m/sで約1万cSt、風速10m/sでは約3万cStに達することが分かった。
 そこで分散剤による防除作業は、2油種を比較検討することから、上述した初日の6時間でシミュレーション計算を終了とした。
 また、流出油量に対する分散剤の散布回数(III-5、2、(3)参照)は流出油量100klで5回、500kl及び1,000klで9回の散布回数とした。
 分散剤防除シミュレーションの結果をまとめると次のとおりである。
(1)流出油量と油分散の効果
 流出油量と油分散の効果は、2油種とも流出油量が少ない方が油分散の効果が高い結果となった。これは、拡散面積が小さいことから油分散剤の散布面積との比が流出油量が小さいほど大きくなることが要因として挙げられる。
(2)動粘度と油分散の効果
 各流出油量とも粘度が高いカフジ原油が数%分散効果が高い結果となった。
 これは粘度の高いカフジ原油の拡散面積がマリブライト原油の拡散面積より若干小さく、(1)項で述べたように散布面積との比が大きいことが要因として挙げられる。
(3)風速の有無と油分散の効果
 風速(0m/s、5m/s)の有無と油分散の効果は2油種とも風速ありが風速なしより数%高い結果が得られた。これは、波浪による分散の効果が高いことが要因として挙げられる。
(4)風速10m/sではBeaufort階級で疾風となり、「白波の多く発生や水しぶきが生じる」とあり、この海象状態では流出油の自然分散の範囲となることから、風速10m/sの油防除作業は行わないこととした。







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