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III-4 スキマーによる回収防除シミュレーション
1 計算条件と計算ケース
 スキマーによる回収防除シミュレーションの計算条件を設定するに当たり、マリブライト軽質原油、カフジ重質原油及びC重油の3油種と気象条件、風速0m/s、5m/s及び10m/sの3種の条件をそれぞれ組み合わせ、流出油量100klとして防除シミュレーションの予備計算を行った。
 計算項目は拡散幅、拡散面積、回収油量及び海上の残存油量の4項目である。
 予備計算の結果から次のことが分かった。
 
(1)カフジ重質原油とC重油の拡散幅及び拡散面積はほぼ同じ値を示した。
(2)回収油量及び海上の残存油量は、ややカフジ原油が多く回収される傾向を示すが、ほぼ同じ回収油量であることが分かった。
(3)気象条件が風速10m/sでの計算は可能であるが、現実的にはBeaufort風力階級5〜6で波高は2〜3mとなるため、回収防除作業が困難なことが予想される。
 
 以上の予備計算結果から、スキマーによる回収防除シミュレーションの計算ケースを表III-4.1に示す。
 なお、油の回収手段は、フォイレックスTDS-250を搭載した船舶1隻による回収とし、掃海速度は1ノット、夜間(17〜7時)の作業は行わないこととした。
 
表III-4.1 スキマーによる回収防除の計算ケース
流出油種類 流出油量 気象条件 回収作業回数(1日目〜3日目)
マリブライト 100kl 風速0m/s 風速 0m/s:15回、7回、6回
風速 5m/s:10回、5回、4回
風速5m/s
カフジ 風速0m/s
風速5m/s
マリブライト 500kl 風速0m/s 風速 0m/s:12回、4回、3回
風速 5m/s:11回、4回、3回
風速5m/s
カフジ 風速0m/s
風速5m/s
マリブライト 1000kl 風速0m/s 風速 0m/s:12回、4回、3回
風速 5m/s:11回、4回、3回
風速5m/s
カフジ 風速0m/s
風速5m/s
 
2 計算結果
(1)拡散幅(km)
 拡散幅の計算方法は、拡散シミュレーションでの拡散幅の計算方法と同じである。スキマーによる回収防除を行った場合と行わなかった場合の散布幅の大きさを比較した図を図III-4.1a〜f〜図III-4.2a〜fに示す。
(2)拡散面積(km2
 拡散面積の計算方法は、拡散シミュレーションでの拡散面積の計算方法と同じである。
 スキマーによる回収防除を行った場合と行わなかった場合の拡散面積を比較した図を図III-4.3a〜f〜図III-4.4a〜fに示す。
(3)回収油量(kl)
 スキマーによる油回収方法の模式図を図III-4.5に示す。
 スキマーを搭載した船舶1隻がA地点からB地点の間を掃海速度1knotで回収作業を行った時、作業時間を60分と仮定すると、計算時間の間隔を5分としているため、12ステップでB地点へ到達する。
 ここで、油膜をA地点からB地点まで縦断する回収作業の単位を1回と数え、5分間で船舶が移動し回収を行う単位を1ステップと数えることにする。
 
図III-4.5 スキマーによる油回収方法の模式図
 
 1ステップ毎(5分毎)の油回収量と、回収作業開始後の総油回収量についての結果を、図III-4.6a〜f〜図III-4.7a〜fに示す。
 なお、油回収量は、回収した油量である。
(4)海上の残存油量(kl)
 スキマーによる回収防除を行った場合と行わなかった場合の海上の残存油量を比較した図を図III-4.8a〜f〜図III-4.9a〜fに示す。
 
3 スキマーによる回収防除シミュレーションのまとめ
 流出事故は2003年11月1日午前8時に発生し、スキマーによる油回収防除作業は事故発生から72時間中の日中の明るい時間帯と設定した。
 72時間中における油回収時間は下記に示すように28時間30分である。
 なお、( )内数字は事故発生からの経過時間を、また、末尾の時間は作業時間を示す。
初日 午前8時30分(0.5時間)〜午後5時(9時間)、8時間30分
2日 午前7時(23時間)〜午後5時(33時間)、10時間
3日 午前7時(47時間)〜午後5時(57時間)、10時間
 
 上述したように、防除作業を72時間と設定したが、3日目終了の午後5時、事故発生から57時間経過後は夜間のため防除作業は中止となっている。
 このことから、防除作業は3日午後5時で終了となった。
 油回収防除シミュレーションの結果をまとめると次のとおりである。
(1)流出油量と油回収量
 油回収量は、2油種とも流出油量が多いほど、油回収量が多い。
 57時間後の総油回収油量を流出油量と比較すると、マリブライト原油では1,000klの油回収量を100%とすると100klでは24.9%、500klでは63.9%の油回収率となる。同じようにカフジ原油では100klでは19.1%、500klでは59.1%となり、流出油量が多いほど油回収率が高い。
 このことは流出油量が多いほど油層厚が厚く、油回収効率が高くなることが要因となっている。
(2)経過時間−油回収量
 経過時間と油回収量の関係を見ると、2油種及び流出油量とも初日の油回収量が最も多く、次に2日目と経過時間が長くなるほど、油回収量は大きく減少する傾向を示した。
(3)風速と油回収量
 風速の有無(0m/sと5m/s)によるマリブライト原油の油回収量は、風速0m/sが高く、3日目の最終油回収量を比較すると、風速0m/sを100%とすると100klでは70.0%、500klでは84.4%、1,000klでは91.3%と風速5m/sが低い油回収率となった。
 これは、風速0m/sでは拡散面積が小さくかつ油層厚さが厚く、スキマーの油遭遇率が高いことが要因として挙げられる。
 カフジ原油も初日及び2日目の油回収量はマリブライト原油と同じ傾向を示し、風速0m/sの油回収量が多く、風速5m/sが低い結果となっている。
 しかし、3日目の油回収量は、風速5m/sの方が高い油回収量となっている。
 この高くなった原因は分からないが、画面の拡散面積上をスキマーを操作する者の技術により油回収量の多寡が左右されるが、量が多すぎることもあり、次年度の課題とした。
(4)油種と油回収量
 油種と油回収量の関係で見ると、流出油量及び風速の有無ともマリブライト原油よりカフジ原油の方が油回収量が高い結果が得られた。
 これは、軽質原油よりも重質原油の方が粘度が高いことにより、流出油の拡散面積が小さく、かつ油層厚さが厚く、スキマーの油遭遇率が高いことが理由として挙げられる。
(5)まとめ
 油回収量の多寡となる要因を挙げると
・風速0m/sでは拡散面積が小さく、かつ油層厚さが厚く、スキマーの油遭遇率が高いこと。
・平水中と波浪中(風速の有無による波の発達)では油回収効率が平水中の方が高いこと。
・流出油の粘度が高いほど、拡散面積が小さく、油層厚さが厚いこと。
・本シミュレーションによる油回収作業の出動回数が風速0m/sの方が作業回数が高いこと。これは一般的に油回収は風下側から風上側へと操船しながら行うことによる。







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