5. 舶用機器市場:機器別状況
5-1 甲板機械
甲板に設置される機械の種類は比較的少ないが、価格的には船価全体の20%近くを占める重要要素である。中国が輸出する船舶数は年間100隻以上で、甲板機械市場は総額10億ドル規模に達しており、急成長を続けている。
下表から、近年中国内で製造された甲板機器の搭載率が低下傾向にあることがわかる。
表3 中国建造船舶における中国製甲板機械搭載率の推移
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1991〜1994年 |
1996〜1997年 |
1999〜2000年 |
操舵装置 |
80% |
40% |
48% |
係船機械 |
77% |
56% |
46% |
クレーン |
41% |
30% |
14% |
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出所:国際船艇
国産比率低下の理由は、新たなライセンス契約による外国からの技術供与が減少し、直接輸入が増えていることにある。また、中国内で生産される製品でも多くの部品は輸入品であり、中国の輸入部品の市場規模は数100万ドルに上ると見られる。下表のように、中国の甲板機械市場は未だ外国製品にほぼ独占されていることがわかる。
表4 中国市場における海外甲板機械メーカーの技術供与
項目 |
技術供与メーカー |
製造メーカー |
カーゴ・ウィンチ |
Blohm+Voss(ドイツ) |
南京緑州机器廠 (Nanjing Luzhou Marine Machinery Plant) |
クレーン |
Liebnerr(オーストリア)
Hagglund(スウェーデン) |
南京緑州机器廠 (Nanjing Luzhou Marine Machinery Plant) |
クレーン |
Norlift(ノルウェー) |
華南船用机器廠 (South China Marine Machinery Plant) |
甲板機械(電動) |
BLM(フランス) |
武漢船用机器廠 (Wuhan Marine Machinery Plant) |
操舵装置 |
川崎重工業(日本) |
武漢船用机器廠 (Wuhan Marine Machinery Plant) |
甲板機械 |
Hatlapa(ドイツ) |
南京緑州机器廠 (Nanjing Luzhou Marine Machinery Plant) |
甲板機械 (係船装置、クレーン) |
石川島播磨重工業(日本) |
武漢船用机器廠 (Wuhan Marine Machinery Plant) |
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出所:国際船艇
中国甲板機器市場のシェアを見ると、日本企業、韓国企業との提携も行っているが、Ulstein、MacGregor、Hagglund、Hatlapaという欧州メーカーが優勢である。
表5 海外メーカーのシェア
項目 |
企業名 |
市場シェア(%) |
操舵装置 |
Ulstein |
32 |
操舵装置 |
KGW |
8 |
操舵装置 |
Porsgrunn |
7 |
係船機械 |
Ulstein |
20 |
係船機械 |
Hatlapa |
15 |
係船機械 |
KOCKS |
11 |
クレーン |
Hagglund |
23 |
クレーン |
MacGregor |
17 |
クレーン |
NMF |
14 |
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出所:国際船艇
甲板機械市場では、ドイツと北欧企業が強く、特にクレーン分野では Hagglund、MacGregor、NMFの3社で市場の半分以上を占めている。
総体的に見ると、中国企業との提携を行っていないUlsteinが最大手となる。また、Hatlapaは、南京緑州机器廠で甲板機械を現地製造すると同時に、中国市場向けにクレーン、係船装置を輸出している。
一方、日本の甲板機器メーカーはライセンス製造が中心である。日本からの中国向け直接輸出の比率は低く、辻産業と三菱重工業がその大半を占めているが、武漢船用机器廠で現地製造される甲板機械の多くは、川崎重工業と石川島播磨重工業の技術供与を受けている。武漢船用机器廠は中国の操舵装置市場で第2位(27%)、係船機械市場で第1位(25%)のシェアを誇る。
5-2 ディーゼル・エンジン
中国におけるディーゼル主機、補機を合わせた市場規模は、年間35億ドル程度で、舶用機器市場全体の売上高170億ドルの約20%を占める。MAN B&W、Wärtsiläという欧州の2大エンジン・メーカーは中国市場で確固とした地位を築き、中国で建造される大部分の船舶にエンジンを供給している。
現在の市場シェアは、中国国産エンジンが55%、輸入エンジンが45%である。しかし、現地で生産される全ての2ストローク・エンジンはライセンス生産で、主要部品のほとんどは輸入されている。
表6 中国の舶用ディーゼル主機メーカー
メーカー名 |
市場シェア(%) |
滬東重機股[] 有限公司(Hudong Heavy Machinery Co.Ltd.) |
22 |
滬東重機上海造機公司(Shanghai Engine Manufacturing Co.) |
12 |
大連船用柴油機廠(Dalian Marine Diesel Works) |
11 |
鎮江船動化紆機械有限責任公司(Zhenjiang Marine Diesel Works) |
8 |
その他国産ディーゼル・エンジン |
2 |
国産ディーゼル・エンジン計 |
55 |
輸入ディーゼル・エンジン計 |
45 |
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出所:国際船艇
「国際船艇」誌の調査では、2001年度に中国に輸入された外国製エンジンのうち、MAN B&W製が92機で61%、Wärtsilä製が30%、その他Caterpillar、Mak、MTU(中・高速エンジン)の合計が9%であった。この結果は、世界的なディーゼル・エンジンのシェアとほぼ一致する。
表7 中国における輸入ディーゼル主機のブランド別市場シェア
ブランド名 |
市場シェア(%) |
MAN B&W |
61 |
Sulzer |
17 |
Wärtsilä |
13 |
その他 |
9 |
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中国造船業界は、2002〜2003年にかけて、大型バルカー、タンカー、コンテナ船を中心にかつてないレベルの新造船を受注しており、高出力低速ディーゼル・エンジンを中心にエンジンの需要も急増してくると思われる。エンジン製造技術が十分に発達していない中国では、欧州エンジン・メーカーのさらなる躍進が予想される。
5-3 舶用補機
主機のサポート、船内環境整備、船員・乗客へのサービス提供等の幅広い機能を含めた補助機械には、ボイラー、空気圧縮機、換気用ファン、空調・冷蔵設備、造水装置、油水分離機、汚水処理装置、焼却炉、防錆・防汚装置等がある。これらの補機は新造船コストの5%を占め、中国の補機市場規模は年間約5億ドルと見積もられている。
輸入製品もあるが、中国の新造船に搭載される補機は、欧州、米国、日本のメーカーからの技術供与を受けて国内で製造されたものが多く、その品質は近年大幅に改善している。しかし、中国の新技術導入、技術革新の速度は欧州に比べて遅く、今後新たなIMO(国際海事機関)規制に対応しきれなくなる可能性もある。
表8 中国における補機関連技術提携の状況
項目 |
提携企業 |
中国メーカー |
原油洗浄機 |
エクセノヤマミズ(日本) |
華南船舶機械廠(Huanan Marine Machinery Plant) |
汚水処理装置 |
Hamworthy(英国) |
緑洲機器廠(Luzhou Machine Plant) |
焼却炉 |
Teamtec(ノルウェー) |
緑洲機器廠(Luzhou Machine Plant) |
造水装置 |
Atlas(デンマーク) |
緑洲機器廠(Luzhou Machine Plant) |
ボイラー (強制循環型) |
Clayton(米国) |
九江船用機器廠(Jiujiang Ship Machinery Plant) |
ボイラー (油燃焼式垂直管型) |
Aalborg(デンマーク) |
九江船用機器廠(Jiujiang Ship Machinery Plant) 大連造船廠(Dalian Shipyard) 青島鍋炉廠(Quingdao
Boiler Works) 沙洲鍋炉廠(Shazhou Boiler Works) |
ボイラー・バーナー |
Hamworthy(英国) |
江西航海儀器廠(Jiangxi Navigation Instrument Plant) |
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出所:世界船艇
輸入製品では、Alfa Laval(デンマーク)、Hamworthy(英国)、Sperre(ノルウェー)、Aalborg(デンマーク)、ダイキン工業(日本)等の欧州、日本の主要ブランドが、輸入補機の約20%を占めている。その内、造水装置、油水分離機ではAlfa Laval、ボイラーではAalborgが、それぞれ独占的な地位を占めている。
5-4 舶用ボイラー
輸入ボイラーを搭載する中国で建造された船舶22隻を対象とした調査では、13機がAalborg、5機が大阪ボイラー製作所、2機がドイツ製(HarmsとGEKA)、2機がノルウェー製というシェア構成であった。
表9 中国における輸入ボイラーのシェア
メーカー名 |
市場シェア(%) |
Aalborg(デンマーク) |
59 |
大阪ボイラー製作所(日本) |
18 |
Harms(ドイツ) |
9 |
GEKA(ドイツ) |
5 |
ノルウェーのメーカー(企業名不明) |
9 |
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Aalborg製品は、直接輸入に加え、青島Aalborg鍋炉公司、沙洲鍋炉公司等の中国パートナーとの提携による現地生産も行っている。しかし、現地生産品の場合でも、現地パートナー企業では本体とバーナーのみを製造し、高度技術を要する部品、高付加価値部品は、デンマーク本社、または日本のオルボルグ・インダストリーズから直接輸入している。
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