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5. CNGとFONGプロジェクトの実現の見込み
 採算の取れる輸送手段がないために開発されていなかった随伴ガスを商品化するために、CNG輸送やフィールドでの液化技術を利用するプロジェクトの実現可能性は、市況、プロジェクトの経済性、この種のプロジェクトに独特のハードルを克服する能力に左右される。
 
5.1 市況
 本報告書の最初の章で、ガス需要の展望について論じた。需要は非常に強気である。しかし、歴史的にガスの市場価格は変動が激しい。次に示すように1980年代半ば以降のLNG年間平均価格は100万Btuあたり3.00ドルから5.25ドルの間で動いており、ヨーロッパのパイプライン・ガス価格は1.80ドルから4.15ドルの間を上下している。過去数年間にガス価格は比較的高値を維持しているが、これらの過去のパターンを見れば、ガス価格には今後も大きな上下があると考えられる。
 
石油・ガス価格の推移
出典:BP
 
 しかしながら、ガス価格が今後も強含みで推移すると考えるに足る兆侯がいくつかある。ガス需要は増加しており、需要が増えれば結果的に価格が上昇することになる。有名エネルギー・リサーチ会社であるCambridge Energy Research Associatesは、ガス価格は2010年まで100万Btuあたり5.00ドル以上を維持すると予測している。先物取引市場もガス価格が高値で推移するという予測を支持している。先物取引価格は、その市場における投資家の期待を反映しており、2003年9月末現在、先物取引市場でのガス価格は2009年まで100万Btuあたり4.00ドル代半ばから、後半で取引されている。
 
 4.50〜5.00ドルのガス価格帯は、特に、随伴ガスが100万Btuあたり0.10〜0.50ドルで購入できるならば、これまで開発されていなかったオフショア・ガスを商品化する限界プロジェクトの全てではなくとも、ほとんどにおいて投資を正当化するのに十分な価格帯であることは確実である。この価格レベルならば、プロジェクトの開発、実施のコストを吸収する余裕が十分生まれる。
 
ヘンリー・ハブ天然ガス価格とNymex先物取引価格
(拡大画面:34KB)
出典:ウォールストリート・ジャーナル
 
5.2 プロジェクトの経済性
 CNG輸送もしくはFONGを利用するプロジエクトで、詳細な正式のフィージビリティ・スタディが実施される段階に達しているものは皆無である。しかし、複数の独立コンサルタントによりCNG輸送プロジェクトの潜在的な経済的実行可能性の分析が実施されている。
 
 CNG、LNG及びパイプライン輸送の経済性に関する研究が、Fluor Corporationにより実施され、2002年12月2日号のOil and Gas Journal誌で発表された。同記事によれば、日量4億cf(約1133万m3)のガスを生産するフィールドでは、ガスの井口価格は100万Btuあたり0.80ドル、市場価格は100万Btuあたり4.00ドルとなると仮定しでいる。この仮定と、同研究の著者自身が単純な分析と認めているものに基づいて、輸送システムヘの資本投資の回収期間が最も短いのはCNG輸送であるという結論を出している。
 
 別の輸送オプションの分析で、Zeus Developmentは輸送オプシヨンとしてのCNGは市場までの距離が300〜1,500海里(約560〜2,800km)で、0.3〜3兆cf(約85〜850億m3)のオフショア・ガス田では、LNGやパイプラインより競争力があると結論している。市場への距離及び埋蔵量が上昇するに従い、競争上の優位は下降し、市場からの距離2,000海里(約3,700km)で、一日のガス生産量が8億cf(約2,300万m3)になった時点でLNGがCNGよりも有利となる。
 
ガス輸送オプション比較
($ 単位:100万ドル)
  航路の距離(km)
輸送オプション 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000
CNG  
売上 433 433 433 433 433 433
運転コスト 94 133 176 215 253 290
純益 340 300 258 219 181 143
資本投資 191 191 191 191 191 191
回収(年) 0.6 0.6 0.7 0.9 1.1 1.3
 
パイプライン  
売上 433 433 433 433 433 433
運転コスト 38 50 63 76 88 101
純益 395 383 370 358 345 332
資本投資 487 739 991 1,242 1,494 1,746
回収(年) 1.2 1.9 2.7 3.5 4.3 5.3
 
LNG  
売上 388 388 388 388 388 388
運転コスト 97 111 126 140 155 169
純益 291 277 262 248 233 219
資本投資 868 868 868 868 868 868
回収(年) 3.0 3.1 3.3 3.5 3.7 4.0
出典: J. Wagner and S. Cone, "Analysis says Gas FPSO Feasible, CNG Possibly Economic Export Option," 0&GJ, December 2, 2002
 
5.3 CNG輸送を導入するためのハードル
 CNG輸送を利用したガスの商品化には、少なくとも1990年代の半ばから関心が集まり始めていた。報道で取り上げられ、関心が集まったにもかかわらず、机上の案の段階を超えたCNG輸送プロジェクトは存在しない。実質的進展が見られない理由の一つは、ガス価格について不安感が消えないことである。企業はガス価格の現在の水準は例外的な上昇ではないと確信する必要があり、これには時間がかかる。しかし、もうひとつの理由は、CNG輸送コンセプトが多くの問題を抱えていることである。CNG輸送はペイロードに対する重量比が著しく大きいという欠点、CNG輸送プロジェクトを実施するためには巨額の資本投資が必要である点、また、米国建造要件のためメキシコ湾市場が他の市場から隔離されていること、パイプライン関係者が市場での地位を守ろうとすること、そして技術的にも、運転の点でも未知の部分が多く、システムが必要に応じて性能を発揮するかどうかに不安感があること等の問題が挙げられる。
 
 体積重量比の問題―CNG船の格納システムは非常に重い。Williams社の設計では、それぞれのCoselleユニットの重量は475tであり、4億3,000万cf(約1,218万m3)のガス輸送能力を有するCoselle船の格納システムだけでも68,400tになる。EnerSea V800CNG船は7〜8億cf(約2,000〜3,000万m3)を輸送する能力があるが、軽荷重量が87,900t13となる。これに比べて、30億cf(約8,500万m3)のガスの輸送能力を有するLNG船は、軽荷重量が34,000tである。この二つを比べた場合、輸送ガスの体積に対する重量の比率の差は莫大なものがある。37,000m3積みのLNG船一隻で大型CNG Coselle船7隻分の体積のガスを輸送することが可能である。
 
 しかしながら、CNGの体積重量比という不利な点は強調されすぎている可能性もある。本当の問題は、体積重量比の差がどの程度プロジェクトの経済性の収支に反映されるかである。これは輸送システムの提供に関連した全てのコストと、プロジェクトから得られる収入を考慮する必要がある。
 
 プロジェクト・コスト―CNG輸送システムを構築するプロジェクトには巨額の投資が必要である。先に示したように、CoselleCNG船は1億1,000万ドルから1億2,000万ドルかかると予想されている。加えて、積み込み及び荷揚げシステムのコストが上乗せされる。さらに、重要な点は、1隻だけを建造するプロジェクトは不可能だという点である。生産された随伴ガスを受け入れるために油田の生産ユニットに常にCNG船が接続されている必要がある。第2船が到着して初めて、第1船は生産ユニットから切り離され、ガスを陸に輸送することができるのである14。航路の距離とフィールドのガス生産率によって、3隻、場合によっては4隻の輸送船を必要とするプロジェクトもあり得る。2隻の建造を伴う「基本的」CNGプロジェクトの資本投資額でも3〜4億ドルとなる。プロジェクト・コスト総額を考えた場合、この数字は楽観的すぎるかもしれない。Newfoundland Ocean Industries Association(NOIA)のために作成された報告書は、カナダ東部の沖合いからニューイングランドヘのCNG輸送の経済性を分析して、CNG船7隻からなるシステムを導入するためには約10億ドルの資本投資が必要だと見ている。
 
 米国建造要件―ジョーンズ・アクトにより市場が隔離されていることから、CNG船利用の柔軟性は限定される。米国建造でないため内航資格のないCNG船はメキシコ湾における輸送に使用することはできない。しかし、CNG船の長所のひとつは、耐用期間内にあちこちの市場に船舶を移動して活用することができる能力である。日本または韓国で建造されたCNG船は数年間西アフリカで運航した後に、2、3年の間東南アジアに移され、さらに2、3年カナダ東部に展開されることが可能である。しかし、当該船はCNG輸送の主要ターゲットのひとつであるメキシコ湾の超大水深油ガス田では使用することができない。
 
 これはCNG船投資にとって大きな障害となる。CNG船に投資する船主は世界中の市場で利用できることを期待するであろう。しかし、米国建造でない限り、メキシコ湾市場はオフ・リミットであり、プロジェクトの経済性を考える際に、重要な収入源となる可能性のある海域で利用できないことを前提にしなければならない。CNG船を米国建造すれば、メキシコ湾を含むすべての随伴ガス市場で輸送に携わることができるが、米国建造船のコストはアジアで建造された同様の船舶の数倍となり、船舶がその耐用期間の大部分を内航保護を受けたメキシコ湾で運航することを前提にする必要がある。
 
 これは、今までほとんど認識されていない大きなジレンマである。ジョーンズ・アクトの存在によりCNG輸送市場は本質的にメキシコ湾と、それ以外の海域という2つの地域に2分されることになる。この2つの市場が統合されていれば、随伴ガス輸送の開発条件として十分な埋蔵量が提供され、CNG輸送システムを立ち上げるための投資をひきつけられるかもしれない。しかし、分割されたままでは魅力のある投資対象とは考えにくい。
 
 パイプラインとの競争―オフショア・ガス・パイプライン会社がCNG船が自らの市場の地位を脅かすのを黙って見過ごすとは考えられない。マーケット・ポジションを守り、CNG輸送が導入されるのを防ごうとするであろう。これらの会社もパイプライン敷設に巨額を投資しており、フル稼働状態を継続させたいと考えるのは当然である。彼らはまた、既存の投資を活用することのできる新たなガス源を発見したいと考えている。パイプライン会社は小規模なガス田に小型のCNG輸送プロジェクトが参入しようとしても関心を示さないだろうが、自分たちの将来の事業基盤を脅かしかねない大規模なプロジェクトに参入しようとするCNGオプションを見過ごすことはないだろう。しかし、CNG輸送システム立ち上げには隙間市場の参入だけでは不十分であり、CNG開発者は、パイプライン会社が確保しておきたいと考えている大規模なガス輸送市場の少なくとも一部を獲得しようとするであろう。
 
 メキシコ湾における石油シャトル・タンカー・サービスの開発についても、パイプライン会社がパイプラインのマーケット・シェアを維持しようとすることが大きな障害となっている。パイプライン会社は接続料金を極端に値引きすることができる。利用されていなかったり、部分的にしか使われていない既存のパイプラインを使用することで発生するコスト増はごくわずかだからである。メキシコ湾の大水深油田の場合、浅水域の既存のパイプライン網に接続した場合とシャトル・タンカーによる積み出しとのどちらが経済的かを判断する上で、パイプラインの接続料金が大きな要素となる。メキシコ湾でシャトル・タンカーの利用が進まない大きな理由の一つは、パイプライン会社が顧客をパイプライン輸送にひきつけるために接続料金を値引きすることによって、一方的な競争の場を作り上げることができる点である。CNG輸送サービスを導入しようとする企業も同様の状況に置かれる可能性がある。
 
 技術的/運転上の未知数―CNG輸送システムを導入する前に解決する必要のある技術的、またオペレーション上の問題点は多数ある。ガス圧、温度、重量、船の揺れを考慮した場合の格納システムのstress/strain問題がこれに含まれる。また、腐食、水和物の生成、スラッグの問題もある。またガスの荷役に関連したダイナミクスもまだ十分に理解されていない。しかし、一般的に、これらの技術的問題点は克服できないものではない。結局のところ、CNGシステムは基本的にガスの加圧、貯蔵、荷役をおこなうシステムでしかない。
 
 オペレーション上の問題の解決の方が重要であろう。たとえば、ガス生産船からCNG船へどのようにガスを移すか、生産ユニットからのガスを受け取るCNG船が確実に停泊できるようにするためにはどの程度の重複をシステムに組み込むべきか、生産ユニット、FSO、そして石油の出荷に使用されるシャトル・タンカーとCNG船の安全等を考慮した位置関係、といった問題である。
 
 しかし、最も重要な問題は運用上の支障がなくかつ、世間一般の理解を得ることができるような、高圧ガスを取り扱うための安全基準を満たすことであろう。ABSもDNVもCNG船向け安全基準を定めた規則を発表している。これらの規則は、格納システム、荷役システム、船舶のアレンジメントと防火を扱っている。しかし米国でのLNG受け入れ基地建設に反対しているようなグループから、大きな反対の声があがることは間違いない。これらのグループに、CNG輸送システムは本質的に安全だということを納得させるためには、相当な努力が必要である。
 

13 EnerSeaによる数字
14 CNG船を常にFPSOに横付けする必要をなくす方法も提案されている。CNG船が輸送中はガスを再圧入する、またはFSO船をガス貯蔵に使うというものである。しかし、最初の方法はコストのかかる再注入井の開発が必要となり、第2の方法は本質的に輸送船の複製である特注の貯蔵ユニットの建造が必要となる。







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