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 ここでも、関与の程度は明らかになっていない。ExxonMobile社がVotransコンセプトに興味を示しているという噂もあるが、確認はできなかった。
 
 ヒューストンを本拠とする船舶設計事務所であるAlan C. McClure Associates社がVotransの設計を手がけている。Stolt社の子会社であるParagon Engineering社が工程の経済性研究(process economics)を支援している。EnerSea社はニューファンドランド・メモリアル大学のセント・ジョン校と大型CNG試験施設を建設するためのパートナーシップを結んだ。EnerSea社は、Cran & StenningがCoselleシステム向けに開発し、特許を取得している液体注入によるガス荷役技術の実施許可を取得しているようである。
 
 2003年5月に、ABSはVotrans設計に概念の承認(class approval in principle)を与えた。
 
 Votrans船の推定建造コストは発表されていない。しかしながら開発者はLNG輸送によるガス価格は1mcf10あたり3.5ドルであるのに対し、Votransシステムを使えば米国市場に1mcfあたり3ドル未満でガスを販売することができると主張している。Votransシステムはアラスカまたはメキシコ湾の大水深ガスをパイプラインよりも安価に米国市場に輸送することができるとも言われている。
 
 Votransコンセプトは発明者(Bishop、White、Pemberton)の名前で米国特許庁に特許が出願されている。申請番号004773は2002年4月25日に申請された。当方が知る限りにおいて特許はまだ交付されていない。EnerSea社によれば、同社の格納システムは複数の国際特許を保有しているという。国際特許の中には、Hyndai社またはK Line社と合同で保有されているものがある可能性がある。
 
 EnerSea社はプロジェクトにゴーサインが出て、建造を発注してから28〜29ヶ月で輸送サービスを開始するというスケジュールを設定している。ガスの販売、購入契約が締結された時点でプロジェクトはスタートする。プロジェクトに着手する前に、EnerSea社は6〜9ヶ月のフロント・エンド・エンジニアリングと設計研究、プロジェクト資金調達の詰めを行うこととしている。
 
 しかしながら、Williams Energy社のプロジェクトと同様に、EnerSea社のCNG建造、導入計画はマスコミの関心は集めているものの、確実な進行という点では今ひとつである。同プロジェクトが実際にEnerSea社が主張しているような支持を取り付けているかどうかは明らかではない。
 
EnerSeaのCNGサービス開始スケジュール
出典:EnerSea
 
3.3 Knutsen OAS(PNGコンセプト)
 ノルウェーの海運会社であるKnutsen OAS社はシャトル・タンカー及びプロダクト/ケミカル・タンカー市場の両方に強力な足場を築いている。24隻の保有船のうち11隻がシャトル・タンカー、12隻がケミカル・タンカー及びプロダクト/ケミカル・タンカーであり、1隻がFSO船である。同社は常に自社船隊を増強する資本再投資プログラムを実施しており、過去10年間に10億ドルを投じて20隻を建造している。
 
 事業拡張戦略の一環としてKnutsen社は圧縮ガス輸送市場に注目しており、加圧天然ガス(Pressurized Natural Gas: PNG)輸送船設計の開発を行っている。同社の設計コンセプトは、(1)870本のシリンダーを垂直に並べ、1億2,000万cf(約340万m3)を輸送する小型PNG船、(2)2,672本のシリンダーを搭載し、7億cf(約2,000万m3)を輸送する標準型PNG船、(3)3,900本のシリンダーを搭載し、10億6,000万cf(約3,000万m3)を輸送する大型PNG船の3本立てとなっている。
 
Knutsen PNG 船設計コンセプト
  小型PNG船 標準型PNG船 大型PNG船
LOA 182m 276m 325m
Beam 29m 54m 59m
Depth 16m 29m 29m
Design draft 8.5m 13.5m 15m
Ballast draft 7.3m 11m 11.6m
Deadweight 3,500t 20,000t 30,000t
シリンダー数 870本 2,672本 3,900本
積載ガス体積 1億2,000万cf 7億cf 10億6,000万cf
航行速度 18kt 15.5kt 18kt
出典:DNV
 
 Knutsen社の設計は、垂直に立てて並べた42インチ口径(約107cm)、長さ7mの鋼製シリンダーを連結した格納システムで、常温で250気圧に加圧したガスを輸送することとしている。Knutsen社によれば、シリンダーはオフショア・パイプライン基準に合わせて建設される既存のパイプライン技術を利用している。同プロジェクトについて具体的な数字は公表されていないが、長さ7m、42インチ口径、管壁厚さ20mmのシリンダーの重量は約3.6tと概算される。標準型PNG船設計では、2,672本のシリンダーが搭載されるため、システムの自重で9,600tとなる。管壁厚さ25mmのパイプを使用した場合、格納システムの自重は12,000tとなる。
 
 Knutsen社はドイツのパイプ・メーカーであるEuropipe社と協力し、管壁を薄くすることによりパイプ重量を軽くし、格納システムの軽量化を図っている。報道によれば、Europipe社が提案しているパイプは、格納システムの重量を40%減らすことができる。しかし特殊なパイプを使うことにより、コスト上昇は免れない。特殊金属を使って格納システムの重量を最小限に抑えようとすれば、特殊金属の利用によりコストが上昇する。これはすべてのCNG設計コンセプトに共通するジレンマである。
 
Knutsen 標準型PNG船設計レイアウト
出典 Det Norske Veritas
 
 Knutsen社の設計は、他のCNG設計と比べて技術的に単純なシステムのように見える。同設計は格納システムに標準型高強度鋼管を使用している。しかし、鋼管を使用する他の設計と同様に、格納システムは非常に重いものとなる。同設計はモジュラー型ではないため、格納システムの取り付けには相当の溶接、フィッティング作業を船上で行う必要がある。
 
 Knutsen社はDNVに設計の構造強度分析の実施を依頼している。DNVは耐航性分析と船体波浪過重分析、船殻の3D分析、標準型及び大型PNG船の確率的疲労分析を実施した。Knutsen社はDNVから設計の概念の承認を受けたとされているが、確認は取れていない。
 
 Knutsen PNG船の建造コストについて、数字は公表されていない。しかし、Knutsen社は2,500〜3,000海里(約4,500〜5,400km)までの距離では、LNG輸送よりもPNG輸送が経済的だと考えている。Knutsen社のPNGプロジェクト担当者は、「目的地でガスを購入するコストを考慮すれば、少量のガスを長距離輸送する場合に競争力を持ち得ると確信している」と述べたとされている。PNG船自体はLNG船よりも「少しばかり高価」なものとなるが、PNGシステムは上流における貯蔵及び液化施設、下流における貯蔵、再ガス化施設を必要としない。プロジェクト担当者はまた、「複数の石油会社、ガス会社と詳細なスペックについて話し合いを行っており、本コンセプトが実現可能かどうかを判断するために全体システムのコストを検討している」と述べた。
 
PNG船格納システム
出典:DNV
 
 Knutsen社はPNG設計を推し進める上でWilliams Energy社と何らかの形で関係を築いている。協力の程度は明らかではないが、Coselleシステム用にCran & Stenningが特許を取得している液体利用による荷役技術の特許実施許可が含まれていると考えられる。先述の通り、Williams Energy社はCoselle設計の特許権を購入している。
 
 2003年の半ばに、Knutsenプロジェクト担当者は2004年初頭にPNG船の建造を発注することを暫定的に計画していることを示唆した。しかし、Knutsen社がこの種の船を投機的に建造するとは考えにくい。顧客との間でガス輸送契約が締結されて初めて建造契約を発注すると考える方が妥当であろう。
 
3.4 Trans Ocean Gas(CPV11
Trans Ocean Gas社はCNG船に搭載する格納システム向けの複合素材技術利用の開発と商用化を目的として2001年に創設されたカナダの株式非公開会社である。同社はニューファンドランド州のSt.John'sを拠点としている。
 
 同社のCNGコンセプトの主眼はガスの貯蔵、輸送に強化繊維プラスチック(FRP)圧力容器を使う点にある。開発者によれば、FRPシリンダーの長所は、重量がスチール製シリンダーの6分の1から3分の1程度であり、また腐食しにくいため積み込み前にガス調整や処理を必要としない点である。基本的に、格納シリンダーは天然ガスを燃料とする公共バスの屋根の上に設置されているガス貯蔵タンクのような、他の天然ガス貯蔵利用で使用されているFRP圧力容器を大型にしたものである。
 
 Trans Ocean設計で検討されている圧力容器は、長さ40ft(約12m)で、44インチ口径(約112cm)、設計圧力は250気圧である。40×40×10ft(約12×12×3m)のカセットに18個の圧力容器を設置する。圧力容器は6個ずつ3等分され、垂直に立てて置かれる。各カセットは約170万cf(48,000m3)のガスを常温で貯蔵可能であり、満載時に標準型カセットの重量は約200tとなる。ライナーのエンド・キャップに埋め込まれたステンレス・スチール製のポート・ボスによりFRP圧力容器を配管マニフォルド・システムに溶接する。
 
圧力容器カセット
出典:TOG
 
 船舶設計としてはコンテナ船型の船体が考えられている。開発者は船体の新造と既存コンテナ船の改造を検討している。カセットの大きさは標準的コンテナ船設計にあわせて設定されており、カセット1個の幅はコンテナ5個の幅と一致する。コンテナを横に11個から12個並べられるように設計されたコンテナ船ならば、カセット2個を積み込んだ上、配管へのアクセスを確保する余裕ができる。
 
Trans Ocean Gasの複合素材圧力容器船
出典:Trans Ocean Gas
 
 TOG社によれば、CPVコンセプトは特許を取得しており、Trans Ocean Gas社が排他的権利を保有している。この特許が具体的に何をカバーするのかは明らかではない。配管マニフォルド・システムで使用されるステンレス・スチールのポート・ボスはGeneral Dynamicsが設計し、特許を保有している。
 
 Trans Ocean Gas社は、基本設計概念の仮承認(provisional approval in principle)を受ける目的でABSに設計審査を発注している。この審査を実施するためのABSとの合意は2003年3月に署名され、第一段階は約8週間、さらに第二段階に約4ヶ月が費やされることになっていた。このスケジュールに従えば、2003年内に基本設計の暫定承認が出ることが期待されているが、本報告書作成時点では確認できていない。
 
 TOG社は大量のガスをカナダ大西洋岸のオフショア・ガス田からニューイングランド市場へと輸送するルートを主要市場として照準を定めている。Trans Ocean社はこのルートで必要なCNG輸送システム能力を提供するために、17億cf(約4,800万m3)の積載能力を有するCNG船が5隻必要になると考えている。この他に可能性のある市場としては、トリニダド及びベネズエラからフロリダ南部へのルート、メキシコ湾大水深ガス田からルイジアナヘのルート、西アフリカから東海岸、ペルーからカリフォルニア南部、アラスカ州バルデズからワシントン州へのルートが考えられている。
 
 Trans Ocean社は、General Dynamics社がパートナーとなっており、カナダ大西洋岸のCNG市場への足がかりを得るためにニューファンドランド州政府と協力していると主張している。
 
 Trans Oceanプロジェクトは前述の3プロジェクトよりも進行度が低いように見える。しかし、複合素材のパイプを使用するという概念により、他のほとんどのプロジェクトの問題点である重量の問題は解決される。コンテナ船を改造した船体を利用するというアイデアもプロジェクト立ち上げの初期コストを下げるのに有効である。
 

10 天然ガス 1mcf(=1,000cf、約28m3)の発熱量がほぼ100万BTUである。
11 CPV: Composite Pressure Vessel 複合素材加圧容器







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