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3. 先進事例の調査 −東アジア地域における統合沿岸域管理−
3-1 PEMSEAの沿革および主要活動
 東アジア海域環境管理パートナーシップ(PEMSEA: Regional Program on Building Partnerships in Environmental Management for the Seas of East Asia)は、地球環境ファシリティ(GEF: Global Environmental Facility)、国連開発計画(UNDP: United Nations Development Program)、国際海事機関(IMO: International Maritime Organization)の支援をうけながら、東アジアの海洋環境管理協力の構築を行う地域プログラムである。1994年から活動を続けているPEMSEAの主な活動内容は以下のとおりである。
(1)第1期(1994‐1998)
1993.11 中国アモイ、東アジア海域での海洋汚染防止および管理のための地域プログラム(Regional Programme for the Prevention and Management of Marine Pollution in the East Asian Seas)実施の発足会議、参加国11カ国(Brunei, Cambodia, 中国, 北朝鮮, 韓国, Indonesia, Malaysia, Philippines, Singapore, Thailand, Vietnam)
1994.1〜1998.12 GEF資金支援、UNDP事業実施、IMOプログラム組織管理の形で実行、IMOがPhilippineのマニラでプログラム管理事務所設置
1994.6 マニラで第1回プログラム調整委員会(Programme Steering Committee, PSC)が10カ国の参加で開催
1994 デモンストレーションサイトとしてPhilippinesのBatangas、中国のアモイ、マラッカ海峡を指定運営
1995 日本がオブサーバとして参加
(2)第2期(1999.10.1〜)
1999.10 東アジア海域での環境管理パートナーシップ(Regional Programme for Partnerships in Environmental Management for the Seas of East Asia, PEMSEA)にプログラム名を変わって推進
2000.7 中国ボハイ海環境管理事業発足
2001.5 韓国ソウルで自治体地域内ネットワーク(Regional Network of Local Governments, RNLG)結成および第1回会議開催
2001.7 第1回地域専門家対話会議開催
2002.1 日本正式参加(参加国12カ国に増加)
2002.3 韓国プサンで第8回PSC開催
2002.9 中国アモイで第2回RNLG会議開催
2003.12 マレーシアのプトラジャヤで、東アジア海洋会議、海洋持続可能な開発に関する閣僚級会合、第3回RNLG会議開催
 
3-2 PEMSEAの対象海域
 PEMSEAの対象海域は、2003年現在、以下のとおりである。
 
表3-1 PEMSEAの対象海域
海域 流域情報
面積(千km2 人口(百万人)
ボハイ海(Bohai Sea) 1,400 445
黄海(Yellow Sea) 502 230
東シナ海 1,820 510
南シナ海および周辺海 2,525 268
6,247 1,453
 
3-3 PEMSEAの主要プログラムの内容
 PEMSEAの主要プログラムは以下のとおりである。
(1)ICMデモンストレーションサイトおよびパラレルサイト管理(National ICM Demonstration/Parallel site)
(2)域内小海域および汚染地区環境管理(Sub-regional Seas/Pollution Hotspots Environment Management)
(3)管理能力開発のための教育・訓練実施(Capacity Building)
(4)地域ネットワークおよび域内協力体の運営(Regional Network and Task Force)
(5)環境部門投資の奨励活動(Environmental Investment)
(6)科学研究遂行(Scientific Research)
(7)統合情報管理システム開発(Integrated Information Management System, IIMS)
(8)市民社会の参加支援(Civil Society Participation)
(9)国家沿岸政策の策定支援(National Coastal Policy)
(10)地域共同管理システム結成(Regional Mechanism)
 
3-4 PEMSEAの主な成果
(1)6箇所のICMデモンストレーションサイト、2箇所のパラレルサイトが実行中。第1期のBatangas、アモイで成功裏に運営達成
(2)ホットスポット管理区域としてボハイ海、マニラ湾、タイ湾、マラッカ海峡管理
(3)地域訓練、サイト訓練、見学会などを通じて地域の管理能力開発推進
(4)自治体地域内ネットワーク構成および実行(2001〜2002年の2回にわたってフォーラムを開催、県レベル11、市レベル36、区レベル21の計68の自治体が参加)
(5)域内協力の一環として地域非常設支援チーム(Regional Task Force)の運営
(6)民間−政府協力を土台にした域内環境投資の促進
(7)海洋沿岸政策に対する専門家対話システム(Senior Experts Dialogue)の構築
(8)域内情報統合管理のためIIMS(統合情報管理システム)の開発・運営
(9)サイト管理への市民団体の積極的な参加実施
(10)東アジア海域のための持続可能な開発戦略策定および国家計画ガイドラインの提示
 
3-5 管理サイト
 統合沿岸域管理と海洋政策策定のため、デモンストレーションサイトとパラレルサイトが運営されている。デモンストレーションサイトは、PEMSEAの資金、技術や人的支援を受けて現地事務所が設置され運営されるサイトである。一方、パラレルサイトは、資金や人的支援は行わず、自国の管理体制を維持しながら、運営面でPEMSEAからの協力を得て運営する方式である。
 
表3-2 PEMSEA管理サイト
サイト種類 サイト名
第1期パイロット段階(1994〜1998)のデモンストレーションサイト ・フィリピン Batangas湾
・中国 アモイ(廈門)
・マラッカ海峡
ICM デモンストレーションサイト ・カンボジア Sihanoukville市
・北朝鮮 南浦市
・インドネシア Bali
・マレーシア Klang
・タイ Chonburi
・ベトナム Danang
域内小海域および汚染地区
デモンストレーションサイト
・中国 ボハイ海
・フィリピン マニラ湾
ICM パラレルサイト ・フィリピン Bataan
・韓国 Shihwa湖
・インドネシア Sukabumi
 
3-6 PEMSEA運営のICMデモンストレーションおよびICMパラレルサイトの概要
 2003年現在、運営されているサイトの概要は以下のとおりである。
 
表3-3 デモンストレーションサイト
 
サイト名 管理政府 サイトの概要
Sihanoukville, カンボジア Sihanoukville市 ・陸域面積:142km2
・海域面積:3,209km2
・海岸線:74km
・2000.5 現地管理所設立(第2副市長が所長就任)
・2000.11 発足ワークショップ開催
・2001.7‐9 地域専門家による調査活動実施
・環境プロファイル、海洋戦略、市民啓発・広告会、情報管理教育、事例調査および実行計画策定中
・サイト概要:Sihanoukvilleには国の唯一の国際海港が位置しており、その開発が進んでいる。また、伝統的な観光や漁業の重要な産業として盛んでいる。しかし、近年の開発による流域環境悪化、水産資源の激減、生活下水および工業廃水などで沿岸環境が脅かされている。このような問題を踏まえ、持続的な開発を実現するため統合管理を試みている。
・事業担当者:Mr. Prak Sihara、第2副市長 SihanoukVille
南浦、北朝鮮 国際機構協力局 ・陸域面積:869km2
・海域面積:92km2
・海岸線:20km
・2001.1 発足ワークショップ開催
・環境プロファイル、市民啓発・広告会、IIMS教育完了
・サイト概要:南浦は、大同江の河口に位置する北朝鮮第2の都市であり最大の港である。この地域は1986年防潮提が設置され川の塩害を防ぐと同時に、接岸機能を果たしている。この付近は古くから造船や工業が盛んで来た。しかし、防潮提の設置によって水と土地の確保は果たされたが、航海の問題や水質の悪化など様々な問題が登場し、統合的な取り組みの必要性が表れている。
・事業担当者:Mr. Kim JaeWon、国際機構協力局副局長
Bali, インドネシア Bali州 ・陸域面積:2,065km2
・海域面積:3,350km2
・海岸線:219km
・行政空域:1市、4摂政区
・2001.1 PMO設立(PMO所長はBali洲環境影響管理庁長)
・環境プロファイル、海洋戦略、市民啓発・広告会、IIMS教育完了
・サイト概要:Bali島は世界的な観光地であり、特有な文化や自然環境を持つ重要な場所でもある。観光産業は地域のGDPの31%を占め、大きな役割を果たしている。しかし、観光開発に伴って発生している諸問題、すなわち珊瑚礁・マングローブ森・ウミガメ生息地の破壊、海水面上昇、油類による河川汚染、海砂の採取、船舶による汚染脅威などの問題に対応するため統合沿岸域管理を導入している。行政機関だけではなく、観光業者、施設所有者、NGO、その他利害関係者の参加を基に実施している。
・事業担当者:Ir. Ni Wayan Sudji
Klang, マレーシア Selangor州 ・陸域面積:1,480km2
・海域面積:612km2
・海岸線:102km
・範囲:2区、3海里海域
・2001.10.中央調整委員会(National Coordinating Committee)設置
・Selangor水資源管理庁に現地事務所設置
・市民啓発・広告会、IIMS教育、初期危険評価実施完了
・サイト概要:Klang港はマレーシア最大の港であり、国内の海運貿易の37%を占めている。しかし、大規模な港湾開発と工業団地の開発によりマングローブをはじめとした生態系や地域漁業への悪影響が深刻になったため統合管理に乗り出した経緯がある。管理の目的としては、環境問題に対応する仕組みの確立、沿岸開発事業へ有効な利害関係者の参加、各種海洋開発の統合計画策定、埋立対策、廃水処理の改善、侵食・堆積対策などが設定された。
・事業担当者:Haji Rahmat Mohd. Sharif
Chonburi, タイ Chonburi州 ・陸域面積:129km2
・海域面積:205km2
・海岸線:28km
・4つの市区域
・2000.5 発足ワークショップ開催
・2000.12 現地事務所設置
・市民啓発・広告会、IIMS教育完了、環境プロファイル、海洋戦略
・サイト概要:Chonburi地域は、大きく漁村地域、輸出産業団地と国際港湾区域に分けて開発が進んでいる。近年抱えている問題として、海洋生態系の生息地破壊、漁業資源の乱獲、赤潮、海水の無計画な利用、海水汚染などがあげられる。
・事業担当者:Ms. Apiradee Sujarae
Danang, ベトナム Danang市
人民政府
・陸域面積:206km2
・海域面積:169km2
・海岸線:92km
・2000.6 現地事務所設置
・環境プロファイル、海洋戦略、市民啓発・広告会、IIMS教育完了、初期危険評価
・サイト概要:Danangは、ベトナム第3の港が存在しており、漁業、観光が主な産業として盛んである。特に観光は、全国観光収入の15%を占めるほど重要な役割を果たしている。しかし、沖合で行われている油積み換えによる危険性、船舶からの油投棄、浚渫物の海洋投棄、固形廃棄物問題などで、市は2000年から統合管理に取り組んでいる。
・事業担当者:Dr. Nong Thi Ngoc Minh







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