日本財団 図書館


4 「21世紀の国土のグランドデザイン」(抜粋)
1998年3月閣議決定
 
第2部 分野別施策の基本方針
第1章第4節 国土の保全と管理に関する施策
第4節 海洋・沿岸域の保全と利用
 
 「地球環境への意識の高まりと国連海洋法条約上の我が国の権利と責務を踏まえ, 海洋・沿岸域を人類共有の財産として, また望ましい姿で子孫に引き継ぐべき貴重な国土空間として認識し, 適正に保全するとともに多面的に利用していくことが基本である。
 
 我が国の海洋・沿岸域では, それぞれの新しい国土軸に対応する黒潮, 親潮, 対馬海流に沿う地域と, 西日本国土軸に対する三大湾・瀬戸内海等が連なる地域に大きく分けられる。このような地域の特性をいかし, 以下の施策を行い, 望ましい国土構造の形成に寄与していく。
 
1 海と人との多様なかかわりの構築
 我が国の沿岸域は, 厳しい自然条件の下に置かれているとともに, 人口, 資産の集積が進んでいる。このため, 高潮, 津波, 波浪等による自然災害や全国的に顕在化している海岸侵食に対応し, 国民の生命や財産を守り, 質の高い安全な沿岸域を形成していくため, 地震・津波防災対策の早急な実施, 面的防護方式による耐久性の高い整備等の海岸保全施設の整備及び津波・高潮等の観測・情報伝達体制の高度化を推進する。
 
 また, 陸・海水系の相互作用の下にある沿岸域では, 自然の持つ循環, 復元性, 多様性が劣化し, 海岸侵食, 富栄養化や赤潮, 多様な生物の産卵・生育に重要な場の減少等の問題が生じている。このため, 沿岸域の特性を踏まえ, 陸域の取組と併せた自然と調和した土砂管理, 水質, 底質の改善及び干潟, 藻場, 砂浜等の浅場とその連続性の質的・量的な回復や自然の浄化能力の修復を広域的, 総合的に進め, 人間と自然が良好にかかわる美しく健全な沿岸域環境の復元・創造を図る。
 
 さらに, 臨海部・海岸を多様な機能をもつ空間として整備し, 良好な景観の形成, パブリックアクセスの確保, 海の魅力をいかしたウォーターフロントの整備を図る。また, 海に由来する自然, 生活, 文化等にふれあう健康, 保養, 学習等のための交流, 海洋をテーマとした研究・技術交流, 漁業等の海洋関連産業の連携・交流, イベントの開催, 海上交通網を活用した広域観光ルートの形成等「海流連携」とも言うべき海を通じた連携・交流を推進する。なお, 海洋性レクリエーション利用者の組織化や利用ルールの策定, 規制と併せたプレジャーボートの保管場所の確保とその広域的ネットワークの形成を進める。
 
2 沿岸域圏の総合的な計画と管理の推進
 沿岸域の安全の確保, 多面的な利用, 良好な環境の形成及び魅力ある自立的な地域の形成を図るため, 沿岸域圏を自然の系として適切にとらえ, 地方公共団体が主体となり, 沿岸域圏の総合的な管理計画を策定し, 各種事業, 施策, 利用等を総合的, 計画的に推進する「沿岸域圏管理」に取組む。そのため, 国は, 計画策定指針を明らかにし, 国の諸事業の活用, 民間や非営利組織等の活力の誘導等により地方公共団体を支援する。なお, 沿岸域圏が複数の地方公共団体の区域にまたがる場合には, 関係地方公共団体が連携し, 特に必要がある場合には, 国を合めた広域的な連携により, 計画の策定, 推進を図る。
 なかでも, より良好な環境を形成するためには, 広域的な視野から沿岸域をとらえ, 長期的な目標を掲げ, 段階的な計画により環境の復元, 創造等を行うことが必要である。あわせて, 多様な主体による個別の事業と計画との整合を図るとともに, 管理者間の連携の取組を計画で位置付け, その総合的な推進を図る。
 
3 国際海洋秩序の確立と技術開発
 排他的経済水域内の水産資源について適切な権利の行使と義務の履行のため, 漁獲可能量制度により再生産資源の特性を生かした資源管理を一層進める。あわせて, 開発による影響の緩和も含めた藻場等の良好な漁場環境の保全と回復, 資源管理型漁業, 栽培漁業等の展開, 調査研究の充実により, 資源の持続的かつ高度な利用を進める。また, 21世紀のフロンティアである海の活用を進めるため, 新たな船舶, 浮体等による空間利用, 水産資源の基礎生産力の向上とその高度利用等の技術開発及び実用化を進めるとともに, 大陸棚の石油, 天然ガス, 深海底の鉱物資源, 潮汐, 波浪の海洋エネルギー等の調査, 開発を推進する。さらに, 海洋環境を保護・保全するとともに, 地球温暖化, 気候変動等の地球規模の諸現象の解明とその正確な予測並びに海洋・沿岸域における事故等への的確な対応のため, 国際機関等とも協力しつつ, 海洋に関する観測, 調査, 研究開発, 情報整備等を進める。なお, 海洋における資源開発・管理や調査・研究等を実施する際には, 国際的な協力体制の確立も必要である。
 
詳細は下記のアドレスを参照
 
2000年2月「21世紀の国土のグランドデザイン」推進連絡会議決定
 
1 前文
 我が国の沿岸域においては, 高潮, 津波等の自然災害から国民の生命・財産を守り, 産業, 生活, 文化, 交通等の振興・連携を促進する空間整備を図るという課題に加え, 最近における地球環境への意識の高まりの中, 海岸侵食の進行, 干潟, 藻場等の著しい減少など自然の持つ循環, 復元性, 多様性の劣化への対応が今日的課題となっている。このため, 質の高い安全な沿岸域の形成, 多様な機能をもつ空間としての臨海部・海岸の整備といった視点とともに, 自然と調和した土砂管理, 水質・底質の改善, 干潟, 藻場等の浅場の質的・量的な回復等により, 美しく健全な沿岸域環境の復元・創造を図る観点から, 自然的社会的経済的要請を総合的に調整・管理することが重要である。
 新しい全国総合開発計画である「21世紀の国土のグランドデザイン(平成10年3月31日閣議決定)」においては, 沿岸域の安全の確保, 多面的な利用, 良好な環境の形成及び魅力ある自立的な地域の形成を図る観点から, 沿岸域圏を自然の系として適切にとらえ, 地方公共団体が主体となり, 沿岸域圏における各種事業, 施策等を総合的かつ計画的に推進するための沿岸域圏の総合的な管理計画を策定・推進することについて定められている。
 この指針は, 「地域の選択と責任に基づく主体的な地域づくりを重視して, 多様な主体の参加と相互の連携によって国土づくりを進める」とした「21世紀の国土のグランドデザイン」の基本的な考え方に立って, 沿岸域圏の総合的な管理に主体的に取り組む地方公共団体や様々な民間主体が計画を策定・推進する際の基本的な方向を示すものである。今後, これをガイドラインとして, 各地域における創意工夫を生かしつつ沿岸域圏の総合的な管理が推進されることにより, 沿岸域において安全で多様な機能をもつ質の高い空間が形成されるとともに, 美しく健全な沿岸域環境の復元・創造が図られ, もって「21世紀の国土のグランドデザイン」で提唱された「庭園の島」としての美しい国土の創造と世界に誇り得る魅力ある国土の形成が進むことを期待する。
 
2 定義
 この指針において, 次に掲げる用語の定義は, それぞれに定めるところによるものであること。
 
(1)「沿岸域」とは, 海岸線を挟む陸域及び海域の総体をいう。
 
(2)「沿岸域圏」とは, 沿岸域のうち, 自然の系として, 地形, 水, 土砂等に関し相互に影響を及ぼす範囲を適切にとらえ, 一体的に管理すべき圏域であって, 4及び5に従い沿岸域圏総合管理計画に定められた圏域をいう。
 
(3)「沿岸域圏総合管理計画」とは, 沿岸域圏の保全及び利用に係る各種事業, 施策等の総合的かつ計画的な推進に関する計画で, 4及び5に従い定められたものをいう。
 
3 沿岸域の総合的な管理の必要性及びその理念
 沿岸域の総合的な管理は, 沿岸域の特性を踏まえ, 次に定める沿岸域の総合的な管理の必要性及び基本理念に基づき行われるものであること。
 
(1)沿岸域の総合的な管理の必要性
 沿岸域は, 水圏, 地圏及び気圏の交わる空間であり, 自然の微妙なバランスの下, 優れた景観や多様で豊かな生態系が形成されるなど環境上貴重な資源である一方, 産業利用, 交通・物流利用, 観光・レクレーション利用等さまざまな利用の要請が輻輳し, 多様な関係者間の調整を要するなどの特性を有していること。
 このような特性を有する沿岸域において, 安全で多様な機能をもつ質の高い空間の形成や, 美しく健全な沿岸域環境の復元・創造を推進するに当たっては, 単一の事業若しくは施策のみによる場合または単一の地方公共団体のみによる場合には, 次に揚げる必要性を十分に踏まえた対応をすることが困難であり, 沿岸域における総合的な調整, 管理が必要であること。
 
(1)持続性の確保
 沿岸域は, 多様な機能(生物の生育・生息, 水質浄化, 大気浄化, 国土保全, 景観, やすらぎ等)や多様な資源(水産物, 鉱物・エネルギー, 水資源, 産業空間, リフレッシュ空間, 景観, 歴史文化等)を有している。この恵沢を広く国民が享受し, かつ, 美しく健全な沿岸域環境の復元・創造により現状又はそれ以上に優れた状態で次世代に継承することが必要であること。
 
(2)多様な利用と保全の調和
 沿岸域では多様な経済社会活動が営まれ, 利用が輻輳しているとともに, 保全に関する様々な要請があり, 関係者間の調整が必要であること。このため, 沿岸域の良好な環境の形成, 安全の確保, 多面的な利用, 魅力ある自立的な地域の形成などの様々な要請の調和を図る観点から, 公平性, 効率性及び効果的な利用と保全を確保するよう多様な関係者間の調整及び既存の各種計画等との間の調整を十分に図ることが必要であること。
 
(3)相互影響性への配慮
 沿岸域の水環境, 土砂環境, 生物環境等は, 広域にわたり相互に影響しやすく, 水質保全, 土砂管理, 生態系の保全, 海洋汚染防止等広域的な対応を求められている。このように相互に影響を及ぼし合うことから発生する問題に対して, 河川流域, 湾域, 外海等の広域的な影響範囲を視野に入れ, 適正な調整を図るための広域的かつ総合的な管理が必要であること。
 
(2)沿岸域の総合的な管理に関する基本理念
 沿岸域の総合的な管理は, 地球環境への意識の高まりと国連海洋法条約上の我が国の権利と責務を踏まえ, 沿岸域を人類共有の財産である貴重な国土空間として認識し, その多様な機能及び資源を適正に保全するとともに多面的に利用していくため, 次に掲げる事項を旨として行われるものであること。
ア 美しく安全で生き生きした姿の沿岸域を復元・創造して子孫に引き継ぐこと。
イ 良好な環境の形成, 安全の確保及び多面的な利用の調和を図ること。
ウ 多様な関係者の参画により魅力ある自立的な地域を形成すること。
 
4 沿岸域圏総合管理計画のあり方
 沿岸域の総合的な管理は, 3(2)に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり, 効果的かつ効率的に実施する観点から, 行政区分にかかわらず, 自然の系として, 地形, 水, 土砂等に関し相互に影響を及ぼす範囲を適切にとらえた沿岸域圏に区分した地域を設定して, 総合的かつ計画的に実施されることが必要であること。
 沿岸域圏総合管理計画(以下「総合管理計画」という。)は, 沿岸域圏ごとに, 地域の特性に応じた固有の課題について地方公共団体が中心となって自主的かつ長期的に取り組むため, 沿岸域圏に関わる多様な関係者の合意を得て策定されるマスタープラン(沿岸域圏の将来像を見据えた長期構想で, 関係者が個別具体の事業・施策の企画・推進に当たり踏まえるべき基本方針をいう。)であり, 以下に揚げる沿岸域圏の設定の基本的な考え方, 及び総合管理計画を策定するに当たっての視点に基づき, 策定されるものであること。
 
(1)沿岸域圏の設定の基本的な考え方
 
 沿岸域圏の設定は, 沿岸域について, 自然の系として, 地形, 水, 土砂等に関し相互に影響を及ぼす範囲を適切にとらえ, 一体的に管理すべき範囲として, 地域の特性(行政界, 社会経済活動による利用の実態等)を配慮しつつ, 海岸線方向及び陸域・海域方向に区分した圏域を明示して行うものとし, 各沿岸域圏ごとに総合管理計画が策定されるものであること。
 
(2)総合管理計画を策定するに当たっての視点
 
(1)参加と連携の視点
 行政機関, 民間企業, 漁業者, 住民, NPO等当該沿岸域圏に関わる多様な関係者の参加と連携による十分な調整を図り, 公平性, 効率性等が確保された計画とすることが必要であること。
 
(2)広域的な視点
 相互影響性を有する沿岸域圏を一体として管理するため, 広域的な視点から策定された計画とすることが必要であること。特に, 総合的な水質保全, 土砂管理等の課題に対しては, 閉鎖性内湾・内海や漂砂系等を視野に入れた取組みに加え, 河川の影響が明らかな場合においては, 河川流域を視野に入れた取組みを含むことが必要であること。
 
(3)長期的な視点
 沿岸域圏の持続性の確保を図るため, 沿岸域圏のあり方の将来像の設定や将来への影響の予測等を踏まえた長期的な視点から策定された計画とすることが必要であること。なお, ここでいう長期とは, 自然の系としての循環, 他の長期計画の期間等を勘案し, かつ, 「21世紀の国土のグランドデザイン」の考え方に従い, 概ね50年先の将来を見据えたものであることが望ましい。
 
(4)一貫的な視点
 総合管理計画の実効性を継続的に担保するため, 沿岸域圏の環境の復元・創造に向けた事業, 施策等の実施状況について, 長期にわたり, 定期的に又は必要に応じて点検・調査するとともに, その結果を分析して必要な見直しを行うなど総合管理計画に定められた事業, 施策等について一貫的な視点からの取組みを含む計画とすることが必要であること。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION