日本財団 図書館


1 閉鎖海または半閉鎖海の定義については国連海洋法条約第122条を参照。この定義に合致する東アジアの海は(北から南へ順に)オホーツク海、日本海(韓国呼称は東海)、黄海、東シナ海、南シナ海、タイ湾、スールー海、セレベス海、テイモール及びアラフラ海、及びアンダマン海。尚、UNCLOS第123条により、沿岸国は協力してこれらの海の管理を行なう。
2 著者は「東アジアの国々では、領海の線引きや領有権に関する紛争が絶えない」という2002年11月の財団法人シップ・アンド・オーシャン財団(SOF)の海洋政策研究所主催の会議の主張に全く同感である。ナショナリズムの高まりと共に、司法権を巡る争いはさらに解決が困難になりつつある。しかも、地域の強国は第三海軍力 潜水艦艦隊を増強するなど、より広範な海域において主権を行使して、海洋資源に対する影響力を確保しようとしている。Institute for Ocean Policy, Proceedings of International Conference on Geo Future Project: Protect the Ocean, Tokyo, November 8 & 9, 2002, p. 92.
3 前の脚注で述べた会議では、排他的経済水域(EEZ)を「領域化」する各国の傾向が指摘されている(Ibid., p. 116.)。西太平洋の大きな領域がEEZとして囲み込まれることを考慮すると、海における協力をさらに難しくする一因である。
4 この会議に提出された別の論文では、「東アジアの海における環境管理を目的としたパートナーシップの構築」として、総合的な海洋環境管理に関する「ボトムアップ」的なアプローチについて議論が行なわれている。
5 こうした対策の多くが海事問題に関するものであった。Desmond Ball, "Maritime Cooperation, CSCAP and The ARF" in Sam Bateman and Stephen Bates (eds), The Seas Unite: Maritime Cooperation in the Asia Pacific Region, Canberra Papers on Strategy and Defence No 118, Strategic and Defence Studies Centre, Australian National University, Spring 1996, pp. 10-14.を参照。
6 Tim Campbell, Madhavi Chavali and Kelley Reese (eds), Meeting the Homeland Security Challenge-Maritime and other Critical Dimensions, Report of Inter-agency Meeting held at The Royal Sonesta Hotel, Cambridge MA, March 25-26 2002, p. 54.に基づく。
7 2002年12月に開催されたIMO International Conference on Maritime Securityにて合意された。AISはブロードキャスト型の「自動応答システム」であり、自船の識別信号、現在位置、進路、速度等々の情報を、他の船舶、航空機、及び所轄の陸上機関に対して送信できる。
8 AISを作動させると、船に搭載された保安警報システムが機能して、船の旗国の海事監督庁が指定した所轄陸上機関に対して保安警報が送信される。保安警報により、船の識別情報、現在位置、船の保安状況が危機に瀕しているのか、あるいは既に占拠されているかなどが分かるようになっている。この間、船上ではアラームは鳴らない仕組みになっている。船の保安警報システムは、艦橋を含む少なくとも2箇所から作動できる必要がある。“Security: alert! Comprehensive measures set to enter force in 2004”, IMO News, No.1, 2003, p. 10.
9 海賊行為に対抗する目的から、日本の海上保安大学校はアジア諸国からの留学生を受け入れている。こうした活動は、多国間教育訓練の良例である。共同ニュースオンライン2001年4月25日。http://home.kyodo.co.jp
10 Sam Bateman and R.M. Sunardi, "The Way Ahead", Bateman and Bates, The Seas Unite, pp. 279-280.
11 11 1998年5月29日にIMOが採択した決議MSC 73(69)。
12 Parry Oei, "Review of Recent Significant Technologies and Initiatives Implemented to Enhance Navigational Safety and Protect the Marine Environment in the Straits of Singapore and Malacca", Andrew Forbes (ed),The Strategic Importance of Seaborne Trade and Shipping, Papers in Australian Maritime Affairs No. 10, Canberra. RAN Sea Power Centre, 2003, p. 142.
13 IMO Newsroom, "First phase of East Asia's Marine Electronic Highway takes off", http://www.imo.org/Newsroom, 24 March 2001.
14 Chris Rahman, "Naval Cooperation and Coalition Building in Southeast Asia and the Southwest Pacific: Status and Prospect", Working Paper No.7, Canberra, RAN Sea Power Centre and Centre for Maritime Policy, October 2001, p. 30.
15 Ibid.
16 Ibid., p.39.
17 APEC事務局のウェブサイトから入手可能。http://www.apecsec.org.sg. APEC経済圏における総合海洋管理協定の詳細はウェブサイトから入手可能。http://www.apec-oceans.org/
19 Desmond Ball and Sam Bateman, "An Australian Perspective on Maritime CSBMs in the Asia-Pacific Region" in Andrew Mack (ed), A Peaceful Ocean? Maritime Security in the Pacific in the Post-Cold War Era, St.Leonards, Allen & Unwin,1993, pp.158-185. Also, Captain Russ Swinnerton RAN and Desmond Ball, "A Regional Regime for Maritime Surveillance, Safety and Information Exchanges", Maritime Studies, No.78, September/October 1994, pp.1-15.
20 欧州連合及び欧州連合委員会が提供する海洋協力については、Henrik Ringbom (ed), Competing Norms in the Law of Marine Environmental Protection, London, Kluwer Law International, 1997の複数の論文に取り上げられている。特に、Jacques de Dieu, "EU Policies Concerning Ships Safety and Pollution Prevention Versus International Rule-Making", pp.141-163, and Andre Nollkamper, "The External Competence of the Community With Regard to the Law of Marine Environmental Protection: The Frail Legal Support for Grand Ambitions", pp.165-186.を参照。
21 南太平洋における海洋統治及び海洋協力に関する政治的枠組みはPacific Islands Forum(South Pacific Forumから改名)によって与えられている。同フォーラムは1971年に設立され、現在15の独立国から構成されている。南太平洋における地域的な海洋管理については以下の文献を参照。John Morrison, "Relationships between Australia and the South West Pacific" in Martin Tsamenyi, Sam Bateman and Jon Delaney (eds), Coastal and Maritime Zone Planning and Management-Transnational and Legal Considerations, Wollongong Papers in Maritime Policy No.2, Centre for Maritime Policy, University of Wollongong, 1995, pp.75-98.
22 Proceedings of International Conference on Geo Future Project, pp.110-111.
23 地域における沿岸警備隊の開発・発展については、Sam Bateman, "Coast Guards: New Forces for Regional Order and Security", Asia Pacific Issues: Analysis from the East-West Center No.65, Honolulu, East-West Center, January 2003を参照。
 
討論概要
セッション3: 管理のシステム
環境管理システム
3-1 マラッカ・シンガポール海峡における海上交通管理システムとしてMEH、東アジア海域の環境管理計画PEMSEA、それから紛争予防の基本である海洋情報網の構築について、三つの具体的な管理システムの現状と問題点が報告された。
 
3-2 海洋環境を持続可能なかたちで維持するためには、科学的な調査、監視が必要であり、人間の活動が海洋環境にどのような影響を与えるのかをしっかりとアセスメントしなければならない。それによって初めて海洋のセキュリティが高まる。PEMSEAとしては地域レベルでの海洋環境監視をどのように考えているのか。
 
3-3 途上国間でのデータの共有は難しい面がある。効果的にプロジェクトが進められた例はない。PEMSEAではそのことを念頭に置いて情報管理システムの開発を進めている。
 具体的には、各デモンストレーションサイトで長期的な環境方針を策定し、それを情報管理システムに入れ込んでいる。データは公開され、サイトごとで共有されている。ローカルレベルではその情報共有がより容易になった。それから、インターネットによるデータベース化も実行している。各サイトのインターネットホームページに情報を入れることにより、サイトごとに簡単に共有ができることになる。
 アモイ(Xiamen)でのモニタリングは15年間ぐらい行われている。管理レジームを通じて水質がどれぐらい改善されたかが分かる。少なくとも悪化、劣化はしていない。フィリピンにおいてもこのような水質のモニタリングを継続している。的確な科学的なデータを政治家に渡している。
 
3-4 地球環境ファシリティの資金でGMAのプロセスを進めようとしている。私自身、この事務局も務め、環境状態についてのグローバルなモニタリングとアセスメントのシステムを構築し、それによってデータを収集し評価するための方策について研究している。ここでは、GESAMPグループの専門家が大きな役割を果たすことができると思っている。GESAMPでは新しいプールメカニズムを作り上げようとしている。数百名程度の科学者の名前をプールし、そこから専門家を選ぶことになる。90%が欧米の科学者であるが、東アジアの海域についてはChua先生が大変重要なキーパーソンである。この地域で一つのグループを作って、これをGESAMPのプールに統合化していくことができると思う。
 
新しい安全保障の概念とモニタリング機能
3-5 Bateman教授からMaritime Domain Awarenessの重要性が述べられた。Maritime Domain Awarenessを環境生態系モニタリングシステムとしても活用できるだろうか。
 
3-6 Maritime Domain Awarenessは環境やセキュリティを網羅する。海上テロなど法秩序を脅かすような脅威だけでなく環境上の脅威も対象として取り込むことができる。しかし、データベースも同じにできるかといえば、ちょっと違うと思う。少なくともリンケージはできると思うが。
 
航行の問題とモニタリング機能
3-7 テロや海賊のリスクを考えると、マラッカやシンガポール海峡は脆弱である。そのため、ロンボクを通ることも必要である。大きなタンカーの場合は水深の関係からマラッカ海峡は通れないのでロンボクに回る。しかし、ロンボクは航行支援装置も水路情報も不完全である。
 ISPSコードについてIMOではどう取り組んでいるのだろうか。
 
3-8 ISPSコードは、セキュリティに関して国際的な新たな体制をIMOが打ち立てたという意味で画期的なものである。警報装置、船舶自動識別装置なども含め、2004年の7月1日を実施の目標としてやっている。世界の海事当局や海運業界は対応のために懸命である。AIS装置も買わなければいけないし適合証書も取得しなければならない。
 Marine Electronic Highwayプロジェクトの中で海上武装強盗や海賊についての情報を取り扱うべきである。船舶を登録し航行情報を入手するようになると、透明なシステムになると私は思う。何が起こっているのか分かる。それにより海賊や武装強盗対策の一助になり、安全保障のためにも役立つ。MEHは安全ということに関しても前向きなインパクトを与えるものだという認識を持つべきだと思う。
 
3-9 モニタリングシステムに関する政府間協力の強い動きがあると受け取った。NGOにつては触れられなかったが、アジア地域においては国家のリーダーシップのほうが望ましいのだろうか。NGOの実行力を確保するための活動余地はまだあると思うか。
 
3-10 NGOの関与は国によって異なる。フィリピンではNGOが大きな役割を果たしている。プログラムの開発から戦略づくり、行動、そして、実際の活動にもNGOは参加している。タイでも盛んであり、ベトナムでもある程度見られる。
 
3-11 コスト削減のために今あるものを活用することも考えられる。地域海難救助調整センターはコーストガードや海軍などと緊密な関係を持っている。このような地球規模の枠組みを使うこともできるのではないだろうか。
 
3-12 何も新しいシステムをつくることから始める必要はない。決定するのは地域である。地域が決定すれば、IMOの小委員会などで検討できる。システムの統合も重要である。
 MEHでは3段階を考えている。まず、シンガポール、インドネシア、マレーシアにデータセンターを作り、中央のコンピュータシステムに集積する。それと並行して航行管理センターを導入する。データはいろいろな目的のために使うことができる。航行管理だけではなく環境モニタリングとしても使うことができる。
 
モニタリングと経済安全保障
3-13 環境の関心を経済的なインセンティブにどう変えていくか。安全保障の場合はどうか。ここには様々な問題がある。システムを構築するときに、そのデータが同時にセキュリティのためのデータにも使えるという問題があるとすれば、沿岸国はデータの取り方等についてかなり制約を加えるということも出てくるであろう。セキュリティに係わるようなデータであれば、データの使用目的がナビゲーションであると言っても沿岸国はなかなか出してくれないだろうし、また、通航中の船舶にそういうデータを取ることを認めるとは限らない。IMOがやれば国際社会に共通する利益のためにそうしたデータ収集が行われているということが担保されるかもしれない。ただ、そのデータを使う側がどう使うかというのは、全く別の話だろう。そうすると何らかの形でそのデータを加工して、使用目的を限定できるようなデータに変換するとか、何かそういうことをしないと、沿岸国はデータを取ることに賛成してくれないのではないだろうか。
 
3-14 経済的なインセンティブについて触れてみたいと思う。汚染を取り上げて考えてみた場合、自治体などやサブ・リージョナルなところがデータを集め国内管轄の中で情報を提供するならば問題はないと思う。経済的な便益を得ることもできるだろう。
 ただ、インドネシア、シンガポール、マレーシアという国単位で情報を集めるとなると国家安全保障という観点が当然出てきてしまう。今の段階ではすべての国がすべてのデータを収集することは非常に難しい。例えば、こういうデータを国際機関が集めたとしても、プロジェクトの文書の中にきちんと各国の署名つきでデータをシェアしなければいけないと書いてあっても、実際にはなかなかできない。セキュリティという観点から見た場合には既存のあり方を超え、もっと先を見る必要があると思う。信頼醸成が必要になるが、時間がかかる。しかし、どこかで何らかの形でやらなければいけない。信頼醸成ができれば可能性は開けてくると思う。
 90年代にブルネイから衛星情報をもらおうとしたことがあった。警察当局やいろいろなセキュリティ関連機関との調整に2カ月も掛かったが、結局、拒否された。同じ衛星情報をバンコクから得ることができた。ブルネイの官僚達は衛星情報が機密解除になっていることを知らなかった。安全保障との関係で得ることが非常に難しい情報が、実は環境保護に関して大変役に立つといったことが多い。
 
3-15 ボトムアップのかたちでの信頼醸成をすることが必要だと考えている。排他的経済水域における水路学的な調査と科学調査、それに軍事調査に関する問題がある。水路調査は航行の安全に対してもメリットをもたらすが、水路学的な調査は科学調査の一部であると考え沿岸国は同意を求める。軍事的調査に係わる意見の相違も大きい。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION