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Session 1-3
マラッカ・シンガポール海峡における海上保安の向上
Robert C Beckman
シンガポール国立大学法学部教授
 
概要
 
 マラッカ・シンガポール海峡は輸入貿易ルートにおける重要な要衝である。国際社会は、マラッカ・シンガポール海峡の通航権を行使する船舶の安全確保に多大な関心を抱いている。船舶に対する海賊行為や武装強盗は、長年にわたり海峡の安全を脅かし、現在でも深刻な問題となっている。米同時多発テロ以降、海上テロの脅威により、海峡の安全がより重要な問題となっている。
 マラッカ・シンガポール海峡における海上保安への脅威に対処する上で最も重要な国際条約は、1988年の海洋航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約(以下、SUA条約)、およびその議定書である。このSUA条約および議定書を周辺諸国が批准すれば、海上テロに対処する有効な手段となるだろう。国際海事機関(以下、IMO)の法律委員会は現在、SUA条約および議定書の修正を検討中である。修正案は、条約を更新して海上テロの脅威に対処することが意図されている。修正案が完成し、新しい議定書として正式に採択されれば、この地域のすべての国が新議定書の当事国になるべきである。
 米同時多発テロが契機となり、IMOは海上安全の項目に、新たに海上保安の概念を盛り込むこととなった。1974年の海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)に対する2002年の修正が2004年7月1日に発効する。これにより、船舶および港への海上テロ行為に対する保安が格段に向上するだろう。これらの修正は、マラッカ・シンガポール海峡を航行する船舶への海賊行為や武装強盗に対応する助けとなるはずである。海賊やテロリストが船をハイジャックすることは困難になるだろう。
 世界の海上保安網における最大の弱点は、例えばマラッカ・シンガポール海峡のように、主要な国際航路が一カ所で狭まっている地点である。マラッカ・シンガポール海峡の海上保安を向上させるには、主要な海峡利用国と海峡沿岸国が協力して、共同で義務を負担するのが最良の方法である。すなわち、海峡沿岸国が主要な利用国から支援を受けることにより、国際航路に沿って外国船舶が領海内を通航する際に航海の安全を保障する義務を、より効果的に果たすことが可能になる。1982年国連海洋法条約に基づく特別な通航制度の主要な受益者として、主要利用国がより多く負担するのが妥当である。問題の解決に向けて双方が現実的なアプローチをとれば、海峡沿岸国の主権を損うことなく、マラッカ・シンガポール海峡の海上保安を向上できるだろう。
 
マラッカ・シンガポール海峡における海上保安の向上
Robert C Beckman
現職 シンガポール国立大学教授、副学部長
学歴 米国Harvard大学法学部修了(法学修士) 米国Wisconsin大学修了(法学博士)
シンガポール国立大学において25年に渡り海洋法などについて教鞭をとる。国際法、海洋法、海洋環境法の専門家で、シンンガポール海洋港湾庁顧問、シンガポール船主協会法律委員会委員を務め、また海洋法、環境法、海洋汚染に関する様々な地域ワークショップやセミナーにおいて議長、世話人、または講師として活躍している。特に海賊問題と海洋安全保障について注目しており、最近では2003年Manilaで開かれた海洋安全保障に関するCSCAP会議、また2001年Bangkokで開かれたSEAPOL主催の東アジアと東南アジアのオーシャンガバナンスと持続可能な開発に関する地域間会議においてそれぞれ論文を発表している。
 
はじめに
 本論文は4つの部分で構成される。第一に、マラッカ・シンガポール海峡の海上保安に関する問題について考察し、海峡を航行する船舶に対する海賊行為や武装強盗、及び海上テロに関する簡潔な分析を行う。第二に、1988年海洋航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約(以下、SUA条約)を綿密に調査し、この条約が海峡における海上テロ対策として有効な手段となり得るかについて議論する。第三に、2001年9月11日の米同時多発テロを契機とした国際海事機関(以下、IMO)の対応について概論する。IMOでは海上保安の強化を図るため、1974年海上における人命の安全のための国際条約(以下、SOLAS条約)に修正を加えた。また、この措置がマラッカ・シンガポール海峡の安全に及ぼす影響についても考察する。第四に、海上テロの脅威は、沿岸諸国と利用国が協力して、マラッカ・シンガポール海峡の保安強化に取り組む絶好のチャンスを提供するものであり、このような協力体制は、1982年国連海洋法条約(以下、海洋法条約)第43条に基づき、沿岸三国の領域主権と整合性を持たせた方法で実現が可能であることを説明する。
 
1. マラッカ・シンガポール海峡における海上保安
 東南アジアの海上を航行する船舶に対する海賊行為や武装強盗は、近年、非常に深刻な問題となっている。特に、インドネシア沿岸のマラッカ海峡を含むインドネシア海域では深刻な打撃を受けている。マラッカ・シンガポール海峡はインド洋と南シナ海の間を海上輸送する上で非常に重要なルートである。この海域における海賊行為は東南アジア通航上の安全を根底から揺るがしている。
 国際海事局(以下、IMB)が発表した2002年の統計によると、2002年にインドネシアで発生した海賊行為は103件と、世界で最も多かった。これは同年の世界の発生件数の4分の1以上を占める。マラッカ海峡で16件、シンガポール海峡で5件が報告されている。マラッカ・シンガポール海峡で発生した海賊行為の大部分はインドネシア側で発生していることから、インドネシア主権水域における海賊行為の割合は、実質上世界の約3分の1となり、世界で最も危険な水域となっている。2003年上半期も同様の傾向が続き、IMBの報告によるとインドネシアで64件、マラッカ海峡で15件の計79件となっている。マラッカ海峡での海賊行為の大部分がインドネシア領海内で発生したと仮定すれば、インドネシアは引き続き世界の3分の1を占めることになる。
 2002年1月1日から2003年6月30日までのIMBによる報告では、上記以外の憂慮すべき傾向が認められる。
 第一に、インドネシアで発生した海賊行為のうち、海賊が銃やナイフなどの武器で武装していたケースがほとんどであった。2002年に世界で発生した海賊事件のうち68件は、銃で武装した集団によるものであった。うち11件はインドネシア、12件はマラッカ海峡、4件はマレーシアで発生した。ナイフによる武装が136件、うち49件がインドネシアであった。2002年、インドネシアで発生した海賊行為のうち、上記以外の14件は他の武器で武装していたことが報告された。2003年も数値的に同様で、世界の発生件数のうち55件は銃による武装であったが、そのうち19件がインドネシア、9件がマラッカ海峡であった。また、世界の発生件数のうち80件はナイフによる武装で、うち25件がインドネシア、2件がマラッカ海峡で発生したことが報告された。
 第二に、インドネシアで発生した海賊行為で、乗組員が人質行為や脅迫行為を受けたり、死傷するケースが多かった。例えば、2002年に脅迫行為を受けた乗組員は世界で191名であったが、うちインドネシアで77名、マラッカ海峡で33名が船上から攻撃を受けたことが報告されている。これは世界全体の57%を占める。2003年上半期に脅迫行為を受けた乗組員193名のうち、インドネシアで69名、マラッカ海峡で6名が船上から攻撃を受けている。
 第三に、インドネシア及びマラッカ海峡で発生する海賊行為では、船舶、特にはしけをハイジャックするケースが激増している。2002年には計25件、うち7件はインドネシア、9件はマラッカ海峡で発生している。2003年上半期では9件、うち4件はインドネシア、2件はマラッカ海峡である。
 プラス要素を挙げるとすれば1つある。マレーシアの領海及びマレーシア側のマラッカ海峡の担当当局が24時間体制で巡視したのが功を奏し、マラッカ海峡とマレーシアにおける海賊行為の発生件数は2002年に減少した。
 一方マイナス要素としては、最近のIMBプレスリリースにおいて、海峡周辺で今後増加する可能性があるのは、政治的意図を持った海賊行為を示唆していることである。IMB海賊センターが2003年9月2日に発行したプレスリリースによると、漁船や高速艇に乗り込んだ重装備の武装集団が、マラッカ海峡を航行する小型オイルタンカーを標的にしていたと述べている。IMBは2003年7月下旬に、マラッカ海峡のスマトラ沿岸沖で一週間に乗っ取り未遂事件が3件あったと報告した。海賊はLPGタンカー、ガスタンカー、及びオイルタンカーに対し自動火器を発砲した1
 2001年9月11日の米同時多発テロ以来、マラッカ海峡において海賊とテロリストが結託するのではないかという懸念が高まっている。たとえ結託しなくとも、マラッカ海峡の狭い地点で通航権を行使しているタンカーを海賊が乗っ取るのが容易であれば、テロリストが乗っ取るのも容易であるというのが大方の認識である。
 日本、中国、及び韓国は、石油の80%以上をペルシャ湾岸地域から輸入しており、この石油の大部分はマラッカ、シンガポール海峡を経由してタンカーで輸送される。さらに、世界の液化天然ガス(LNG)の3分の2がマラッカ海峡を通過していることが報告されている。
 テロリストが燃料を満載した航空機で世界貿易センタービルと国防総省に突入したのと同様に、大量の化学物質あるいは引火性のある石油を積載したタンカーをハイジャックしてテロ攻撃に用いる可能性を懸念するアナリストがいる2。このような攻撃が実際にマラッカ海峡をはじめ、その他の国際間の海上輸送に重要な航路で発生した場合、貿易ルートが寸断され、世界経済に壊滅的打撃をもたらす可能性がある。
 
II. 1988年SUA条約及び議定書
 マラッカ・シンガポール海峡において海上保安を強化することは、領海における船舶に対する管轄権を規律する国際海洋法上の諸原則のため、特に困難である。マラッカ・シンガポール海峡を航行する船舶に対する攻撃は、ほとんどの場合、国際法で定義されている「海賊行為」に当てはまらない。公海または排他的経済水域を航行する船舶に対する攻撃については「海賊行為」と位置付けられ、あらゆる国に対して海賊船を拿捕して海賊を逮捕する権利が与えられている。ただし、海賊行為に関するこの規則は、いかなる国の領海においても適用されない。マラッカ海峡の南側半分はマレーシアとインドネシアの領海に属し、シンガポール海峡はシンガポールとインドネシアの領海に属する。通過通航権を行使する船舶がインドネシア領海内のマラッカ海峡で攻撃を受けた場合、攻撃者はインドネシア国内法を侵害したことになり、その船がインドネシア領海内に存在していれば、インドネシアはその攻撃者を逮捕する権利を持つ。同様に、インドネシア領海内のマラッカ海峡でテロ行為に関わった場合、インドネシアはそのテロリストに対し警察権限を行使する権利を持つ。ただし、このような状況下においても、海峡沿岸国が明示に許可しまたは同意しない限り、他のいかなる国も警察権限を行使することはできない。こうした管轄権の規則は、マラッカ・シンガポール海峡における海上航行安全に対するテロ行為を防止する上で、重大な妨げとなる場合がある。
 マラッカ・シンガポール海峡における船舶や石油施設に対する攻撃に有用な2つの世界的な条約がある。1988年SUA条約3及びその議定書4である。SUA条約及び議定書は1988年3月10日にローマで採択され、1992年3月1日に発効した。IMOが条約及び議定書の事務局及び寄託者の役割を果たしている。
 1988年SUA条約及び議定書は、1970年12月16日にハーグで採択された航空機の不法な奪取の防止に関する条約5(以下、1970年ハイジャック防止条約)で初めて設けられた制度を踏襲している。1970年ハイジャック防止条約のこの制度は、一般に「テロ防止条約6」と称される他の複数の条約においても踏襲されてきている。これらの条約のすべてにおいて、当該条約の締約国間で「普遍的管轄権」が設定されている。
 1988年SUA条約は、国際海上航行の安全を脅かす以下の行為について適用される:
*いかなる威嚇手段による船舶の奪取または管理する行為
*船舶内の人に対する暴力行為
*船舶の破壊もしくは船舶またはその積荷に損害を与える行為
*船舶または積荷を破壊する恐れがある装置若しくは物質を船舶に置く行為
*海洋航行に関する施設の破壊またはその著しい妨害行為
*虚偽と知っている情報を提供する行為
*上記の行為に関連して人に傷害を与え又は殺害する行為
 1988年SUA条約議定書では、人工の島及び資源の探査、開発利用または他の経済上の目的ため海底に恒久的に設置・建設された施設や構築物をさすと定義される「固定プラットフォーム」に関連する施設での違反行為に適用される。
 自国の領域で犯罪が生じた場合に、自国法上の犯罪とするよう定める義務を負う。加えて、すべての締約国は、容疑者が「自国領域内に存在する」場合、犯罪と何の関係を持たない場合でさえ、当該犯罪に対して管轄権を設定しなければならない。
 また、締約国は、容疑者が自国領域に入った場合、これらの違反者を管理下に置き、管轄権を持つ他の締約国へ引き渡すか、あるいは自国の当局に引き渡して法廷で起訴するといった義務を負う。これを、一般的に「引渡しか訴追か」の義務という。自国内に入った違反者を逮捕するという締約国の義務は、違反行為を行った場所とは無関係に適用される。
 海峡の沿岸三国及び周辺諸国が仮に1988年SUA条約及び議定書の締約国であった場合、国際海上航行の安全を脅かす行為をした者は、ひとたび条約の締約国の領内に入れば逮捕、起訴されるだろう。締約国間でこれらの者が国際犯罪者と認められれば、事実上、潜伏できる場所は皆無となる。
 2003年8月30日現在、1988年SUA条約の加盟国は92か国、1988年SUA議定書の加盟国は84か国である。意外にも、東南アジアが船舶に対する海賊行為や武装強盗が最も多発している地域でありながら、SUA条約及び議定書に加盟している国はベトナムのみである。マラッカ・シンガポール海峡の沿岸三国が2003年のASEAN地域フォーラムの勧告に従い、1988年SUA条約及び議定書に批准することが望まれる。7
 
1988年SUA条約及び議定書の修正案
 
 米同時多発テロ以降の海上テロに対応するための構想の1つは、1988年SUA条約及び議定書に修正を加え、新たに議定書草案として提出することであった。IMO法律委員会は2002年から新しい議定書草案の作成を検討している。米国が議長国を務めるIMO法律委員会の連絡グループは、2003年10月のIMO法律委員会の会議において、報告書及び議定書草案を提出した。8
 米国が提出した修正案では、1988年SUA条約第3条に、違反者に関する項目が7項目追加され、うち4項目が船上で行われた行為またはテロを目的とした船舶に対する直接行動に言及していた。これらの追加項目は、米同時多発テロ以降の海上テロの脅威に対応するため、1988年SUA条約及び議定書の条項を更新することを意図したものである。
 この修正案ではまた、締約国の領域主権の及ばない領域を航行する疑わしい船舶への立入及び捜索に関する条項も新たに追加された。これは、国際テロ対策として新たな有効手段を締約国に提供するためである。立入に関する条項は、締約国の領海沖の海洋空間、すなわち排他的経済水域または公海に適用される。この修正案では、疑わしい船舶への立入及び捜索を行うには、旗国の権限が必要であるという原則に基づいている。ここで、問題となる点は、旗国の許可を得るための通知を事前あるいは事後に行うか、また、旗国が48時間以内に立入要求に応じない場合の措置や、旗国の立入権及び捜索権の濫用を防止するための対策が挙げられる。
 船舶への立入に関する条項は、1988年SUA条約及び議定書を新たな水準へ押し上げるので、最も物議をかもすことが予想される。同条約及び議定書は、締約国の船舶への立入権や捜索権について一切規定していない。同条約では、容疑者の逮捕は、その容疑者が任意の国の領土(またはおそらくは領海)に入ったとき初めて可能になる。今回の新提案が採択されれば、テロリストや大量破壊兵器を積載する嫌疑のある船舶が国際水域にある場合でも、当該船舶に対し海軍力を行使できるようになる。権限濫用の歯止めについて合意に達することができれば、立入に関する条項案は海上テロの脅威に対してする非常に有効な手段となるだろう。
 
III. SOLAS条約による海上の安全を高めるための特別措置
 米同時多発テロを契機に、IMOは海上における暴力行為や犯罪行為に対応するためにSOLAS条約の全面的な見直しに着手した。2001年11月の第22回総会において、2002年12月に海上保安に関する外交会議を開催し、船舶と港の安全を高める規定を新規に採択することで合意した。海上安全委員会及び他のIMO関連機関は、この会議の準備に1年以上を要した。
 会議は2002年12月9日から13日まで開催され、海上保安の強化策及び国際航路を通航する船舶に対するテロ行為抑制策を含む11の項目を採択した。海上保安に関する新しい条項は、2002年12月、1974年海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS)の附属書に対する修正条項として、IMOにより採択された。第V章及び第XI章が修正され、新たに海上の保安を高めるための特別措置と題する第XI-2章が追加された。第XI-2章では、船舶と港湾施設の国際保安コードについても言及している。ISPSコードには、政府、港湾施設及び船舶会社に強制的に義務付けている保安関連要件と、強制ではないが強制扱いの保安要件に適合させる方法についても列挙している。このISPSコードは、IMOの会議で異議申し立てがない限り、2004年1月1日より発効する。9
 SOLAS条約の第V章航行の安全に、船舶自動識別装置(AIS)の設置時期に関する項目が追加された。旅客船及びタンカー以外の船舶で総トン数300トン以上50,000トン未満の船舶には、AISの搭載を義務付けている。搭載の時期については、2004年7月1日以降の最初の安全設備検査、または2004年12月31日のいずれか早い時期と規定している。AISを搭載した船舶は、航行情報の保護を規定している国際協定、国際法規、もしくは国際基準で定められている場合を除き、常にAISの作動を維持しなければならない。
 現行のSOLAS条約第11条海上の安全性を高めるための特別措置は、第XI-1章に変更された。第XI-1章第3規則で、船舶の識別番号を、船体または船楼の視認できる場所に、旅客船については空中から視認できる水平面上に、恒久的に標示するように変更された。また、船体の内部にも識別番号を標示することが義務付けられている。
 新しく追加された第XI-1章第5規則では、履歴記録(CSR)を供え置くことを義務付けている。CSRとは船舶の履歴記録を提供するもので、船名、航行を許可している旗国の名称、船舶が当該国に登録された日付、船舶識別番号、船籍港、登録された船舶所有者の名称及び登録された住所などの情報を含んでいなければならない。記載事項の変更はすべてCSRに記録し、変更履歴とともに更新された最新の情報を提供する必要がある。
 第XI-2章第5規則では、すべての船舶に船舶保安警報システムの設置を義務付けている。設置時期については、大部分の船舶で2004年まで、それ以外の船舶で2006年までとしている。船舶保安警報システムを作動する際に、船舶及び船舶の位置、さらには船舶の保安が脅威にさらされているか、あるいは危険な状態にあるかを示すことができる船舶、陸上間の保安警報を、主管庁により指定された当該機関に発信しなければならない。また、同システムは、船舶上で警報を発してはならないこと、船橋及び少なくともその他の1つ以上の場所から作動できる能力を持っていることなどが規定されている。
 ISPSコードに関する措置は主に船舶及び港湾の保安に関連している。ISPSコードに従って、船舶会社は会社保安職員(Company Security Officer)を、管理する各船舶には船舶保安職員(Ship Security Officer)を任命しなければならない。会社保安職員は、船舶保安評価が適切に実施され、船舶保安計画が準備されて承認のために提出され、その後、ISPSコードA部が各船舶に備え置かれることを確認する責任がある。SOLAS条約の第11-2条及びISPSコードA部の要件に適合することを示す国際船舶保安証がその船舶に付与される。船舶が締結政府の港内にいるか、またはそこへ向かっている場合、締約政府は第XI-2章第9規則の規定に従って、その船舶に関してさまざまな監督と適合措置を実施する権利を有する。
 港湾の保安上、締約国は、同国の領域内にある、国際航行に従事する船舶に提供する各港湾施設について、港湾施設保安評価を完了していなければならない。港湾施設保安評価とは、基本的に、港湾施設の保安上あらゆる側面から見て、脆弱性の高い部分、すなわちテロの攻撃対象になりやすい部分を判定するリスク分析である。
 上記の措置はマラッカ・シンガポール海峡における海上テロ対策となるものであり、船舶に対する海賊行為や武装強盗にも3つの点で有効である。第一に、船舶の保安に関する条項は、移動中の船舶に対する攻撃の抑制になる。第二に、港湾の保安に関する条項は、港内にいる船舶及び停泊中の船舶への攻撃の抑制策となる。第三に、船舶の識別番号及び履歴記録に関する条項は、船をハイジャックした後その船を再登録するのが非常に困難になる。
 2002年SOLAS条約の修正条項の欠点は、マラッカ・シンガポール海峡といった、主要な国際航路が一カ所で狭まっている地点に関して、海上保安を強化するための特別措置が規定されていない点である。このような地点は恐らくセキュリティ網の弱点である。したがって、海峡沿岸国はマラッカ・シンガポール海峡の海上保安の強化をはかるため、主要な利用国と協力することが必要であろう。







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