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3・7 ブラウン管
3・7・1 CRT
 レーダーの表示器での表示は現在のところ大抵ブラウン管によっている。ブラウン管はまた、陰極線管あるいはCathode Ray Tubeの頭文字をとってCRTとも呼ばれている。このCRTの構造は図3・12(a)のとおりで、外側のガラス管は、先の方(右側)にいくに従って開いた構造となっている。管面は方形のものと丸型のものがあり、前者はTVなどで使用されているが、レーダーでは、ほとんど丸型のものが使われている。この丸型の管面の径をインチで表したものがCRTの型名によく使われ、何型のCRTという。例えば大型の船舶用レーダーには16型(16インチ型)や12型が、また、小型のレーダーでは7型が使われている、などである。
 管の内部を左側からみていくと、Kはカソード(陰極)で、内部のヒーターで加熱されて熱電子を放出する。カソードのすぐ近くにはGと記したグリッド(格子)があって、このグリッドに加えられる負の電圧の高さによって、ここを通過できる電子の数が変化する。負の電圧が高くなると、ここを電子が全く通り抜けられなくなり、これによってCRTの映像面の明るさを制御できる。P1とP2はGを通り抜けた電子の流れを集束して、管面のところへ細く絞る役目をする。光線を集束するにはレンズを使用するが、この場合の流れ(電子ビームという)を集束するのであるから電子レンズと呼ばれ、その原理は図3・12の(b)に示すように、P1とP2にかける電圧によって、等電位面を凸レンズのような形にして、電子の向きを変える作用をさせている。このように電界の効果を使った電子レンズを用いたものを静電形の集束というが、このほか、磁界の作用で電子ビームを集束する方法もあり、これを電磁形の集束という。この場合は、図3・12の(d)に示すように、第2グリットより先の電子レンズを構成する部分の管の外側に適当な集束コイルを取り付け、このコイルに直流を流して軸方向の磁界を作り、これによって電子流を集束して、ちょうど蛍光面のところで集点を結ばせるようにする。
 
図3・12 ブラウン管の構造
 
 このように、電子ビームの集束をすると、電子ビームは管面の中心に細いビームとして当たるようになるが、CRTはこの電子ビームを使って管面全体に図形を描かねばならないので、この電子ビームを上下左右に曲げる機能が必要であり、これを偏向という。
 
 レーダーの場合には電磁偏向のCRTが使用されることが多い。電磁偏向の場合は、CRTの管の外部に電磁コイル(偏向コイル)を巻き、それに適当な電流を流して、管の一部に磁界を作ってやると、マグネトロンのところで述べたフレミングの左手の法則によって電子ビームを曲げることができる。上下と左右への偏向には二組の偏向コイルが必要であるが、レーダーのPPI像を作るためには一組だけの偏向コイルを使って、そのコイルをレーダーの空中線の回転に同期して回転させ、コイルには、のこぎり波の電流を流すようにすれば、この一回の三角波電流によって、電子ビームは管面の中心から外周に向かって偏向し、同時にその偏向の向きは、コイルの回転とともに管面を一周するように変化して、所要のPPI像が作られる。
 電子ビームが管面に当たっても、何も見えないので、そこには蛍光体が膜状に塗布してある。CRT面における輝点の明るさは、蛍光面に当たる電子流の単位面積当たりの電子の数が多く、かつ、その速度が速いほど明るくなる。この電子流を制御するには、カソードと第1グリッドの相対的な電位差を変えることによってできる。すなわち、第1グリッドの電位をカソードに対して負にするほど電子流は減少して輝度は暗くなり、逆に電位差を小さくするほど電子流は多くなって明るくなる。
 電子の速度を変える場合には、一般に第2グリッドの正電位を変えることによって制御し、電圧が高くなるほど電子の走行速度は早くなって、輝度は明るくなる。したがって、第2グリッドに探知時間だけ正にゲート電圧を印加して速度を速め、さらに第1グリッドに受信信号が加わるようにしておくと、信号がきたときには第1グリッドとカソード間の電位差が小さくなり、蛍光面に適当な明るさの輝度が現れる。
 
 カラーブラウン管(カラーCRT)は、原色信号(赤・緑・青)によって制御された電子ビームを発射する三本の電子銃と、色選別を行うためのシャドウマスクと、赤・緑・青に発光する蛍光体を規則正しく塗り分けてある蛍光面とで構成されている。代表的な例を図3・13に示す。電子銃は図3・14、図3・15に示すように、三本の電子銃がデルタ形に配置されたものが多く使われている。シャドウマスクは、電子銃の配置と対応して、図3・13に示すような長方形か、あるいは3・14に示すような丸形の微細な小穴の設けられた薄い金属板で、蛍光面から約10mm離し、蛍光面と平行に取り付けられている。この穴はTV用では0.6mmのピッチで、コンピュータ用などの高精細度の分解能のものでは約0.3mmのピッチであけられ、穴径は、約0.2〜0.3mmとなっている。
 正しい色を再現するためには、電子ビームを正確に蛍光体に当てる必要がある。このため、蛍光体のドットの直径とビームの直径とに差をもたせ、組み立て誤差や地磁気等の外部からの影響を除去する工夫がなされている。
 蛍光面への蛍光体の塗り方は、シャドウマスクに対応して、ドット構成とストライプ構成とがある。TV用でドット構成(デルタ型)の場合は、各色は図3・14のように配列されて一つの組みとなっていて、各ドットは直径が0.3〜0.4mmで、ピッチは0.6〜0.7mmの間隔で塗られている。ストライプ構成の場合の蛍光体は、図3・15のように横方向におよそ0.2mm間隔の幅で塗られている。最近のものは各蛍光体を黒色物質で囲んで外光による反射を減少させ、コントラストの向上を図っている。
 三本の電子銃からの赤・緑・青の各原色信号に制御された電子ビームの流れは、3・7・1項で述べた一本の電子銃の動作と同じである。電子銃から放射された電子ビームは各電極(電子レンズ)を通過し、赤・緑・青の各電子ビームをシャドウマスクの穴の一点に集束させて交差させ、蛍光面に当てて発光させる。シャドウマスクは、赤の電子ビームは赤の蛍光体のみに当たるように、また緑・青の電子ビームもそれぞれ緑・青の蛍光体のみに当てて発光させるように色選別を行っている。
 シャドウマスクの穴に対応して、赤・緑・青の三色のドットが一つの組となるように塗布された蛍光面の上を、赤・緑・青の各電子ビームのバランスを取りながら蛍光面全体を発光させると、各発光色が混じり合って白色に光って見える。これに対し、赤・緑・青の三本の電子銃から放射する電子ビームの量を変化させると、捜査線上の各点の蛍光のバランスが変化して希望の色を発光させることができる。
 カラーCRTの組立上のわずかな誤差や、地磁気等の外部磁界の影響によって電子ビームの軌道がずれると、ビームが蛍光体に正しく当たらなくなり、色むらや色ずれが発生する。この三色の画像の色ずれがないように重ね合わせることをコンバージェンスといっている。各電子銃は画面の中央で集束するようになっているが、この中央でのバラツキの補正は、CRTのネックの外側から磁石によって静集束補正を行う。一方、画面の周辺では、偏向することによって集束がずれてくるが、これはネックの外側にコイルを置いて偏向に同期した補正電流を流し、動集束を行う。
 これに対してインライン方式では、偏向ヨークの改良によって動集束調整を大幅に減少させ、あるいはなくしてしまうことも可能となってきた。このほかには、三本の電子銃のビームが、それぞれの蛍光体に当たらないで他の色の蛍光体に当たって発光させることがあり、これをミスランデングといっているが、この補正もネックの外側に磁石を置いて補正をしている。この磁石のことをピュリテイ磁石(色純化磁石)と呼んでいる。
 偏向コイルによって電子ビームを偏向させると、蛍光面の周辺に行くほど偏向の揺れが大きくなって、四隅で最大となり、ラスターに糸巻き形のひずみが発生する。このひずみは偏向回路に縦と横のひずみ補正回路を付加して補正している。赤・緑・青の発光バランスを調整して忠実な色画像や白黒画像を出すためには、白バランス調整回路を設けて三本の電子ビームの量を調整し、画面の明るいときでも暗いときでも、赤・緑・青の発光のバランスが取れるようにしている。このほかには、トリニトロン形といって一本の電子銃で三本の電子ビームを作り、シャドウマスクの位置には縦方向に切れ目のないスリット状のアパーチャグリルを置き、これに対する蛍光面も、赤・緑・青の螢光塗料を縦スリット状に塗り分け、このスリット穴に電子ビームを通してそれぞれの蛍光体を発光させるようにしたものがある。
 地磁気の影響による、色ずれや色むらを防止するには、CRTの前面の周囲に消磁コイルを置いてシャドウマスクの消磁を行っている。
 
図3・13 一般的なカラーブラウン管(例)
 
図3・14 デルタ形電子銃
 
図3・15 一般的なカラーブラウン管(例)







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